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第九章
100.彼の笑顔
しおりを挟む目を閉じていたら、颯斗さんの笑顔が浮かび上がってきた。
手を繋ぎたいと言ったら、
暖かい眼差しで『いいよ、ほら』って手を差し出してくれて。
お皿を割ったら、
『大丈夫? 怪我してない?』って心配してくれて。
熱を出したら、
夜が明けるまで額のタオルを交換し続けてくれて。
傷付いている事を察してくれた日は、
足湯をしてくれて『心だけは寄り添わせて』って。
悪夢にうなされた日は、
『頼れる肩がすぐ隣にあるのに、どうして使わないの?』って。
結婚式が近付いて不安になっていた時は、
『辛い時は傍にいるから、サヤはいつも通りでいればいい。いつでも受け止める準備は出来てるから』って、私が他の家に嫁ぐ事さえ知らないクセに心配なんかして。
たった一ヶ月間だけの恋愛だったのに、一日一日が濃厚で両手で抱えきれないくらいの幸せを与えてくれた。
やっぱり……。
颯斗さんが好き。
どうしようもないくらい。
自分でも参っちゃうくらい。
心震わせるくらい。
全部全部、好きなの。
お金も職もないし、顔は全然カッコよくもない。
でも、バカみたいに心配性で。
優しくて。
暖かくて。
気持ちに寄り添ってくれたり、わがままを受け止めてくれた。
結婚する相手が瞬さんじゃなくて颯斗さんだったらなって、何度思った事か……。
でも…。
ごめんなさい。
私は今から他の人のものになる。
颯斗さんがどんなに好きでも、最後は繋がる事が出来なかったよ。
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