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第九章
91.悲痛な叫び
しおりを挟むサヤ……。
会いたい。
もし、また会う事が出来たら両手いっぱい抱きしめたい。
願い通りもう少し恋人らしくしてやっていたら。
昨晩好きだと伝えていたら。
今より少しは何かが変わっていたかな。
俺は震えた指先で再び手紙を取った。
もうこの時点で理性が崩壊しそうなほど心が追い詰められている。
文章を一つ一つ確認してみたけど、そこに結婚という文字は書かれていない。
きっと、結婚する事を俺に知られたくなかったのだろう。
だから、この家に来た時に情報源のテレビを捨てたに違いない。
俺は彼女と暮らした一ヶ月間を思い描きながら手紙を読み返しているうちに、ある一文に目が止まった。
それは……。
【 籠の中の鳥 】
そのキーワードが引っかかった瞬間、以前彼女が言ってた言葉を思い出した。
『サヤは幼少期から意思の挟まれない生活を強いられてきました』
サヤは、きっと窪田が好きで結婚する訳じゃない。
毎日のように想いを伝え続けられていたからこそ断定できる。
この結婚に本人の意思は挟まれていない。
しきりに言っていた時間がないという意味は、結婚式の日が迫っていたから。
本当に窪田が好きなら俺と恋人契約なんてしなかったはず。
どうして今まで気付かなかったんだろう。
サヤは何度も何度も傷の話題に触れて、思い出してもらおうと思ってヒントを出していたのに。
時間がないという意味をもっと追求しておけば良かった。
俺は手紙を眺めているうちに、先ほどテレビに映し出されていた表情がパッと思い浮かんだ。
その瞬間、サヤの悲痛な叫びが届いた。
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