85 / 121
第八章
84.彼女からのお願い
しおりを挟む就寝支度を終えてから、俺達はいつも通り一つの布団に入った。
サヤのぬくもりと香りが隣から届く。
数時間後に指輪を渡す事で目一杯になっているせいか、目を閉じてもなかなか眠りにつけない。
「颯斗さん、まだ起きてますか?」
サヤも同じく眠れなかったようで、背中越しに話しかけてきた。
「うん、起きてるよ」
「お願いがあります」
「どうした?」
「手を握りしめてくれませんか?」
「ん、いいよ」
俺は玄関方向に向けていた身体を反転させて、布団から出ているサヤの左手を握りしめた。
すると、サヤの右手が俺の手の甲に触れる。
「この傷……、痛かったですか?」
「うん。でも、もう痛くないよ」
「そう……ですか……。サヤはこうしてるだけでも幸せです」
「うん、俺も幸せ」
そう言った瞬間、震える振動が指先から伝わった。
無言が続いた8秒後、彼女は再び口を開いた。
「実はもう一つお願いがあります」
「うん、何?」
「『サヤが好きだよ』って言ってくれませんか」
一瞬戸惑った。
気持ちを伝えるのは、夜が明けて、予約している指輪を取りに行って、スーパーで買い物をして、豪華な料理をふるまって、ケーキを食べてからにしようと、細かい段取りを決めていたから。
「ごめん、それは言えない」
「えっ……」
「特別な言葉は簡単に口にするものじゃないと思っているから」
「……わかりました」
予想通り、背中から暗い声。
日付をまたいで契約満了日になったから、きっと気が焦っているのかもしれない。
明日のこの時間はもう気持ちが一つに繋がっている。
そう確信出来るくらい、一ヶ月間という時間をかけて育んできた関係に自信があった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
好きな人がいるならちゃんと言ってよ
しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
極上の彼女と最愛の彼 Vol.2~Special episode~
葉月 まい
恋愛
『極上の彼女と最愛の彼』
ハッピーエンドのちょっと先😊
結ばれた瞳子と大河
そしてアートプラネッツのメンバーのその後…
•• ⊰❉⊱……登場人物……⊰❉⊱••
冴島(間宮) 瞳子(26歳)… 「オフィス フォーシーズンズ」イベントMC
冴島 大河(30歳)… デジタルコンテンツ制作会社 「アートプラネッツ」代表取締役
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる