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第六章

63.厳しい姑

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  化粧室の洗面台で手を洗っていると、彼の母親が化粧室にやってきて、隣に立ち小さなポーチを開けて口紅を塗り直し始めた。



「沙耶香さん。あと二週間で同居ですね。お荷物の準備はなされてるかしら?」

「はい……」


「洋服と化粧品くらいでいいのよ。余計な物は持って来ないでちょうだいね。ゴミを増やしたくないから」

「……」



  私は彼女が苦手だ。


姑は二面性を持つ女。
今日も可愛げのない嫁とレッテルを貼るかのように、深い闇に葬っていく。

  生まれた頃から将来が決まっているのなら、人懐こくて聞き分けの良い嫁をプログラミングしてくれれば良かったのに…と思う。


ちなみに私の家族は彼女の本性を知らない。



  沙耶香が手を洗い終えてハンカチで手を拭いてると、瞬の母親はカッと目を見開き鬼の形相で沙耶香の手首を掴み上げた。



「何、この見窄らしい手。マニキュアどころかお手入れさえ……」

「えっ……」


「品位の欠片もない。爪は女性の心の中と同じ。せめてネイルサロンくらい行きなさいよ。みっともない」



  アルバイトや慣れない家事や炊事。
毎日手を駆使しているせいか、指はささくれや傷だらけだし爪は乾燥してカサカサしている。



「……すみません」

「黒崎家では一体どういう教育をなされてきたか知らないけど、あなた達の結婚は各メディアに取り上げられるから、それまでに綺麗にしておきなさい。いいわね」


「わかりました、お義母様……」



  瞬の母親は返事を聞き取ると、目をつりあげてカツカツとヒールを鳴らしながら化粧室を出て行った。

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