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第五章
55.繋いだ手
しおりを挟む「ちょっと川辺を歩こうか」
颯斗がリュックを持って川沿いの道の先を進むと、沙耶香は小走りで後を追う。
横につくと鼻頭を赤く染めながら言った。
「あっ……あのっ、一つお願いが」
「ん、何?」
「手を繋いでくれませんか? ……一万円で」
「こら! すぐに金で吊るなって。この前無駄遣いするなって言ったばかりだろ」
「颯斗さんったら冗談を間に受けないで下さいよ。小さな照れ隠しです」
「サヤならやりかねないなと……」
「もう……。実はまだ男性と手を繋いだ経験がないので、繋いでみたいなと思って……」
沙耶香は照れくさそうにそう言う。
あまりにもしおらしい態度を目の当たりにすると、颯斗は頭を縦に振る。
「いいよ、ほら」
暖かい眼差しで手を差し出すと、沙耶香は口元を緩めながら手を絡めた。
恥ずかしさのあまり頬はみるみるうちに赤く染まっていく。
颯斗は未だにウブな様子を見た途端、鼓動が突然目を覚ましたかのように早くなる。
「指……ほっせぇな。何号?」
「5号です。それ以上は個人情報に当たりますから言えませんよ。バストのサイズとか無理ですから……」
「ちょっと待った! まだあの時の事を根に持ってるだろ……」
「あ~っ! またサヤの胸見ました? 恥ずかしいからそんなに見ないで下さい」
「見てないし……。ってか、個人情報に厳しくない? スマホ持ってるのに電話番号すら教えてくれないし」
「そっ、それも個人情報ですから」
「まぁ契約だから仕方ないけど……。手を繋いだ交換条件が一つある」
「……何ですか。何度も言いますが個人情報は……」
「どうして笑わないの?」
言いかけている言葉をかき消した瞬間、彼女の指の力がスっと抜けた。
聞いちゃいけない質問だったかなと思って顔を見ると、今までに見た事がないくらい寂しそうな目をしている。
「それは、籠の中の鳥だからです」
「それってどう言う意味?」
「サヤは幼少期から意思の挟まれない生活を強いられてきました。驚くかもしれませんが、友達と遊んだ事がありません」
「えっ……」
「四年前まで敷かれたレール以外知りませんでした。それが理由です」
「サヤ、それなら……」
「それ以上は個人情報に当たりますから」
彼女は言葉を重ねた後、固く口を閉ざした。
深刻な様子からして、一般人には信じ難いような事情でも抱えているのではないかと思った瞬間でもあった。
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