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第五章

48.自信

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彼の名前は田所 瞬たどころ しゅん

年齢は二十七歳。
田所ホールディングスのご子息で次男。
窪田という芸名で俳優業をしている。
イケメン俳優としてドラマや舞台と活躍しているが、性格は言うまでもない。
彼は半年前から私の婚約者に。



  田所ホールディングスは、全国チェーン店展開の先陣を切った外食チェーン企業を運営している。
  日本国民なら知らない者はいないほどのトップ企業だ。



  彼とは事業提携目的の政略結婚をする。
だから、嫌とも言えぬまま今日という日を迎えた。


  私の人生に事業目的なんて関係ないと言いたいところだけど、残念ながら両親や祖父母も同じように生きてきた。
  幼少期からマニュアル通りに育てられてきたし、二十歳で結婚するものだと言い聞かされている。


  恋という感情を芽生えさせるのを阻止するかのように幼稚園の頃から女子校に入学させられて、シンプルに育て上げられた挙げ句に行き着いた先は事業拡大の小道具だ。





「じゃ、今日の用事が終わったからもう帰るわ」

「これから『会席料理 みなも』でランチが予約されていますが」


「あ~、 俺はパス。これから彼女とデートなんだよねぇ。あんたの友達でも誘って行ってくれば?」

「また彼女ですか。何人目の彼女かわかりませんが了解しました。その代わり、ご両親には虚偽報告して下さいね。小さな揉め事を起こしたくないですから」


「はいはい、わかってますよ。じゃーね、ロボットちゃん」



  瞬はロビーの自動ドアを出てから軽く手を振ってそう言うと、ロータリーに停車しているベンツに乗り込んだ。

  沙耶香はホテルの自動ドアを出た所で一人になると、左サイドから小走りで右京と左京がやってきた。
  ホテルを離れていくベンツを寂しい瞳で見つめたままポツリと呟く。



「この先、生きていく意味がわからなくなる。今があまりにも幸せだから、これ以上の幸せを得られる自信がないの……」

左京「お嬢様……」

右京「……」



  右京と左京は沙耶香の切実な想いが届くと、お互い目配せをした。



  その一方で、ガラス越しのロビーから沙耶香達三人を見つめていたスーツの男は、スマートフォンの録画停止ボタンを押して胸ポケットにしまってからサッと席を立った。

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