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第五章
44.計算ミス
しおりを挟むサヤが俺の元に現れてから五日後。
今日は居酒屋バイトで決済方法を教えた。
この店はオーナーの拘りで現金のみのテーブル決済を行っている。
その方法は、手書きの会計票を会計時に電卓で計算してからお客様のテーブルに持っていく。
基本、従業員は両手皿で現金を受け取る。
《 Hand to Hand》はこの店の社訓だ。
お客様から頂戴する大切なお金だからこそ、サヤを横に立たせて手本を見せた。
難しい事なんて何一つない。
縁があって店を訪れたお客様と次回へ繋げる最後のコミュニケーションだ。
「簡単だからサヤにも出来ます」という逞しい言葉を信じて会計に行かせたのだが……。
「ぼったくりかー! この店はぁ!」
二人で来店している五十代くらいの男性サラリーマンが突然サヤに向かって怒声を上げた。
騒然とした様子に店内客や従業員の目線は問題のテーブルへと吸い込まれていく。
何事かと思ってオーナーと二人で顔を見合わせてからお冠になっている客の元へ向かった。
「お客様、どうされましたか?」
オーナーが低姿勢でそう聞くと、客は会計票を手でヒラヒラとさせた。
「二時間普通に飯食って、ビール四杯に焼酎二杯にハイボール一杯にワイングラス二杯。たったこれだけしか注文してないのに、何で会計が10万円もするんだよっ!」
客がテーブルに投げ捨てた伝票を手に取ってざっと目で計算すると、会計票の金額が一桁増えていた。
伝票の計算をしたのはサヤ。
客はカンカンに怒っているが、サヤは何故か冷静な目つきで客の顔を見ている。
オーナー「お客様、大変申し訳ございませんでした。こちらの計算ミスでございます。只今、再計算させて頂きます」
颯斗「大変申し訳ございませんでした」
俺とオーナーは同時に頭を下げた。
だが、おへその位置まで頭を下げつつも、もう一つの声が聞こえてこない。
俺はサヤの方を向くと、彼女は正面を向いたまま。
謝ろうとするどころか無反応を貫いている。
「サヤ、お客様に頭を下げて」
小声でそう言った。
しかし、頭を下げなかったので上から無理やり手で頭を押さえた。
本当は強制的な事は好まないが、時と場合による。
客「ちっ、間違えてるんじゃねぇよ」
颯斗「伝票をお預かりします。少々お待ちください」
オーナー「ご迷惑をおかけしたお詫びとして、次回から使用できる10パーセント割引券をお渡し致します。ご迷惑をおかけして大変申し訳ございませんでした」
と言ってオーナーが割引券を渡すと、客はフンと鼻を荒く鳴らして不機嫌にそっぽを向いた。
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