33 / 121
第四章
32.ウブな彼女
しおりを挟むそれから、1時間後。
俺とサヤは一つのちゃぶ台を挟んで、今後の話し合いを始めた。
「トイレは玄関の左側。風呂は部屋にないから夕方に銭湯に行く。洗濯機は玄関扉を出てすぐ横」
「お風呂は家にないんですか? 洗濯はクリーニング業者に渡さなくていいんですか?」
「新しいもの尽くしでごめんな。この家に来たからには少しづつ生活に慣れていってね」
「はっ、はい。実は……あっあの……颯斗さんにお話が……」
サヤはそう言うと頬をピンクに染めて俯き、指先同士をモソモソと擦り始めた。
俺は異様な空気を察した瞬間、テレビ廃棄事件と天蓋付きベッド持ち込み事件という二つの前例が念頭にある為、再び何かしでかすつもりではないかと思って疑いの眼差しを向けた。
「ん、どした?」
「契約関係という事を一旦忘れて、サヤを本物の彼女として扱って欲しいです」
しおらしい態度でそう言う彼女。
昨日バイト先で300万円を突き出してきた人と同一人物とは思えないくらいウブだ。
それまでは何を言い出すのかと思って顔に力を入れて待ち構えていたが、想定外の変化球に思わずむせた。
「んっ、ゴホッゴホッ。た……例えば……?」
「優しい言葉をかけてくれたり……。可愛いよって言ってくれたり……。手を繋いだり……。サヤも目一杯恋を楽しみたいので……」
少しホッとした。
昨日はマフィアじゃないかと思ったりもしたけど、今は至って普通の女の子。
恥じらいながらも言いたい事を積極的に伝えてくるなんて、男心がくすぐられていく一方。
「いいけど……。同棲生活なんて大丈夫なの? どう見ても交際経験なさそうだけど」
「あっ、ありますよ……。男性と交際した経験くらい」
「じゃあ、何人の男と交際したか言ってごらん」
颯斗がそう質問すると、沙耶香は動揺した目で指折り始めた。
「えっと……全国平均の交際人数って何人くらいだったかな」
「(ひとりごと聞こえてるんだけど)……」
「じゅっ、十四人くらいですかね……」
「(何故盛るんだ…)おでこのキスで気絶するヤツが嘘をつくな。素直にゼロと言え。……あっ、そろそろ16時だから銭湯行かないと」
「えっ、こんな時間から銭湯に? まだ外は明るいのに」
「居酒屋バイトが19時からで銭湯に行くにはこの時間じゃないと間に合わなくてね。あっ、そうだ。持ち物を忘れずにね」
「はっ、はい」
二人はちゃぶ台から立ち上がると、それぞれ出かける支度を始めた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる