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第二十四章
182.学校一のモテ男
しおりを挟む今日は卒業式だけでも精神的なダメージを負っていたのに。
蓮が集合写真を撮った後に中庭から姿を消した上に、約束していた教室に行った後にあちこち探し回ったけどなかなか見つからないし。
教室でようやく会えたと思ったら、勝手にお別れの言葉なんて始めてるし。
精神的にも肉体的にも、かなり憔悴していたのに……。
そんな私に気持ちを焦らせないでよ。
バカ……。
すると、蓮は両手で口元を覆って泣く梓の手を引き寄せて力強く抱きしめた。
ガバッ……
「…………っ」
「長げーよ。お前の心が迷子だった時間が」
その言葉を聞いた時は既に蓮の腕の中。
身近で感じる彼の香り……。
「おかえり。長い寄り道はしたけど、ちゃんと俺んとこに帰って来たんだな」
「蓮……」
「お前は自分の悪い所を克服出来たんだな。気持ちを伝えない所がお前の欠点だった」
私の気持ちを受け止めてくれた喜びと、彼が抱きしめてくれた喜び。
耳元で優しく囁かれているうちに強張っていた身体の力が一気に抜けた。
「3年前みたいにまた顔が好きって言われたらどうしようかと思った。一緒に過ごした3年間で俺は全てを賭けてたし、お前にも俺の全てを好きになって欲しかった。……それと、ごめんな。今さらだけど浮気をしてお前の事を苦しめてしまって」
梓は無言で首を横に振る。
「お前が好きな気持ちには変わりないのに、お前から『好き』と一度も言ってもらえなかったから、先に俺の心が迷子になっていたかもしれない」
「……」
「本気で恋愛してた分、不安で悩んでた。酒は記憶を奪うからホントに怖いな」
「ひょっとして、蓮の悩みってその事だったの?」
「他の人から見るとちっぽけな悩みかもしれないけど、俺にはそのちっぽけな悩みが辛かった」
人の心の中は覗けない。
自分では気付かないほど小さな問題だったとしても、相手には頭を悩ませてしまうほど大きな問題だったりもする。
でも、記憶がなくても浮気をした事実は変わらない。
浮気を許すかどうかは人それぞれの問題だ。
私も彼も完璧な人間ではない。
時には間違いを犯し、相手を傷付けてしまう事がこれから先も無いとは言いきれない。
だけど、ロクに話も聞かずに相手を一方的に責め続けるだけでは、いつまで経っても前には進めない。
「もう、バカなんだから……」
「ごめん……」
梓は軽く上半身を離すと、蓮の胸を拳でトントンと交互に叩いた。
「クリスマスの日、蓮に傷付ける事を言っちゃったのは悪かったけど、どうして無視をしたのよ……。あの時は本当に辛かった」
「奏が押してダメなら引いてみろって、アドバイスをくれたから」
「毎日離れなかったクセに、いきなり引かれたからどうしたらいいか分からなくなっちゃったよ」
「……だけど、お前は戻って来てくれただろ」
「悔しいけど、本当だね」
蓮は学校一のモテ男。
一歩街を歩けば女子の視線をひとり占め。
電車に乗れば、注目の的。
黄色い声は彼にとってのBGM。
バレンタインの日は、下駄箱の扉を開けると雪崩のようにチョコが降ってくる。
ファンが多いお陰で彼女の私はいつも妬まれ役に。
だけど、蓋を開ければビックリするほど恋愛下手。
だから、いつも恋多き男の奏に恋愛相談をしていた。
そんな彼は人のアドバイスをバカ正直に聞いちゃうくらい不器用な人。
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