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第二十四章
178.誰もいない教室
しおりを挟む『約束があるから』と言って、母には先に帰ってもらった。
紬と最後のお別れをした後、蓮と約束している教室へ向かう。
毎日当たり前のように駆け上っていた階段を、3年間の数々の思いを巡らせながらゆっくりと一段一段踏みしめて教室の扉を開けて中に入ると……。
開いている窓から春風がびゅうっと勢いよく身体を包み込んだ。
教室内は、先程まで涙に包まれていたとは思えないほど閑散としている。
勿論、そこに蓮の姿はない。
黒板に書かれているクラスメイトのメッセージは、いつしか隙間がなくなるほど埋め尽くされていた。
蓮を待っている間、紬と一緒に書いたメッセージの自分の部分だけを消して新たにメッセージを書いた。
チョークを置いてブレザーに付着したチョークの粉をパッパと払い落とす。
それから先程まで座っていた自分の席に座り、黒板に書かれているメッセージを一つ一つ目で追った。
しかし、メッセージを全て読み終えから暫く待っていても、蓮は来る気配がない。
机にうつ伏せになったり。
深いため息をついて頬杖をついたり。
席を立って教室の隅々まで見回ったり。
扉に手をついて廊下を眺めたり。
壁時計の針は進む一方。
過ぎゆく時間と戦っているのは、蓮に会えるかどうかという不安。
時たま紬の様子が気になったけど、人の気配すら感じられない校舎に孤独を感じた。
もしかして、私との約束を忘れたのかな。
違うよね。
自分から会おうって言ってきたのに忘れる訳ないか。
梓は挫けそうになった心を立て直していたが、暫く待ち続けても蓮が教室に現れる様子はない。
壁時計の時が刻まれていくのをただ眺めているだけ。
ーーもう、かれこれ30分以上が経過。
梓は何もせぬまま教室で待つより、自分で探した方が早いかもしれないと思い、教室を出て校舎内を探し回る事にした。
ひょっとしたら告白スペースにいるのかな。
イケメンコンテスト優勝者の蓮が卒業しちゃうから、在校生のファンに捕まってるのかもしれない。
時間的にも告白スペースには大和達はいないだろうから、行ってみようかな。
梓は蓮が告白スペースにいる事を信じて向かってみたが、蓮どころか生徒は誰一人いない。
まさか、告白の定番の体育館裏?
蓮は告白スペースの次に体育館裏にもよく呼び出されてたっけ。
梓は再び蓮を探し求めて体育館裏へ向かってみたが、一部の卒業生や在校生は残ってはいたが、やはり蓮の姿はない。
……あぁ、わかった。
ひょっとしたら理科室前かも。
あそこも人通りが少ないから生徒達には隠れた人気スポットだし、私自身も蓮の病気が嘘だと判明した時に連れ出した事があった。
と思って理科室前を見に行ってみたが、またもや蓮の姿はない。
梓は空振りが続くあまりに意気消沈してガクッと肩を落とした。
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