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第二十四章
175.見過ごしていたアドバイス
しおりを挟む「……あのね。私は今まで散々お節介をしてきたけど……。梓の事が大好きだから最後のお節介を言ってもいいかな」
「そんな、お節介だなんて。私はいつも感謝してたのに。……でも、言いたい事があるなら遠慮なく言ってね」
「……ん、じゃあ遠慮なく言わせてもらうね」
「うん」
紬がかしこまった様子で目を合わせてきた瞬間、胸がドキッとした。
紬は控えめな性格だけど、場合によりけりな時も。
「少し前に私達に『自分の悪い所』を質問してきたよね」
「あ、うん……」
「蓮くんとは視点は違うかもしれないけど、私の視点がヒントになるかもしれないから言わせてもらうね」
「うん、お願い」
梓は長々と考えていた答えが見つからなかった分、少し緊張気味にゴクリと息を飲んだ。
「梓の悪い所は、自分の気持ちを伝えない所だよ」
「え……」
「この3年間、助け舟があったにも拘わらず、梓は誰にも救いの手を求めなかった。大和くん、奏くん、高梨先生、蓮くん、……そして私に迷惑かけるのが嫌で度重なる苦難も心の中で解決してた。……だから、ずっと苦しかったんじゃないかな」
「……」
「辛い時は頼っていいんだよ。迷惑をかけるなんて思っちゃダメ。梓が自分の殻に閉じこもったままだと、私達は解決してあげられないんだよ」
「だって、何度もしつこく嫌がらせが続いたから、せめて自分以外の人には嫌な思い出を作らせたくなくて……」
「伝える事は迷惑な事じゃない。涙を流して自己解決するより、手を重ね合わせて協力する方が人は何十倍も強くなれるんだよ。……それは、今日まで身を以て実感したはずだよ。みんなが梓を見守ってくれてたからね」
梓は溢れんばかりの想いを受け取ると涙が浮かび上がった。
紬はブレザーのポケットからハンカチを出して梓の涙をそっと拭く。
3年間親友でいてくれた紬には何もかもお見通しだった。
嬉しい時も……
楽しい時も……
悲しい時も……
辛い時も……
苦しい時も……
紬から指摘されて振り返ってみたら、以前高梨先生にも奏にも言われていた。
そう……。
私はみんなからのアドバイスを気付かぬうちに見過ごしていた。
高梨先生は、嫌がらせを受けている事を相談せずにやり過ごそうとしている私にこう言った。
『黙ってるだけじゃ思いが伝わらないよ。口にしたら気持ちが楽になる事もある。相手に伝えなきゃいけない話を怠わったり、気を遣い過ぎて一人で塞ぎ込んだり。そこが梓の悪い所だよ』
奏と大和は、嫌がらせの事実を知って誰にも相談しない私に痺れを切らしてこう告げた。
奏『お前は辛いとか、悲しいとか、自分の気持ちを伝えていかないから、俺らは気付かないんだよ。自分の気持ちを言わないのはお前の悪い所』
大和『辛い気持ちを仕舞い込んでたら、いつまで経っても人に伝わらないよ。ちゃんと自分の口から言わなきゃダメだろ』
それだけじゃない。
思い返せば、蓮はいつも私の気持ちを知りたがっていた。
『付き合ってた時、俺のどんな所が好きだった?』
『どうしてそんなに俺とやり直したいの?』
『……お前の悪い所、まだ見つからないの?』
蓮はいつも私からのボールを受け止める準備をしていてくれたのに、私は……。
『蓮が私を想っていても、私は蓮の事なんてこれっぽっちも思ってないんだから……』
残念ながら傷つける言葉しか言ってない。
ケンカしては仲直りの繰り返しで平行線な関係に行き詰まりを感じていたけど、それは自分自身に原因がある事にようやく気付いた。
度重なる試練が待ち受けていても心に平和をもたらせてくれたのはいつも蓮だったのに……。
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