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第二十三章
170.耳を疑うような現実
しおりを挟むーー卒業式前日の昼過ぎ。
蓮は学校から帰宅して私服に着替えていると、ベッドに投げ捨てていたスマホのバイブが鳴った。
すかさずスマホを手に取って画面を見ると、表示されている発信者は大和。
早速通話ボタンを押して耳に当てる。
「おぅ、大和。……何?」
『何じゃねーよ。お前、いつまでグズグズしてんだよ。明日で卒業だよ?』
「なんで怒ってるの? 話の趣旨を先に言って」
『いつまで梓を放ったらかすつもり?』
大和は皮肉っぽくそう語る。
しかし、奇しくも先程まで話していた紬ちゃんと同じく梓の話題に。
「いま考えてるよ」
『真実を知りもしないくせによく呑気な口を叩けるな。本人に口止めされてるけど、明日以降梓に会えなくなるかもしれないから、今から話す事を耳をかっぽじって聞けよ』
「相変わらずお前は大袈裟だな……」
大和は心配性だからいつも通りオーバーに話しているだけだと思った。
しかし、耳を傾けてみるとスマホの小さなスピーカーの向こうから伝えてきたのは、耳を疑うような真実。
次々と明かされていく梓の過去に衝撃を受けた。
「…………ウソ……だろ。あいつの身は無事だったんだろうな。俺、あいつからその話を聞いてない」
大和から聞かされたのは、バレンタインの翌日に俺への腹いせで梓が男に襲われかかった事。
ショックのあまり目の前が真っ暗になった。
『梓なら大丈夫。未遂で済んだから。襲ったやつらには二度と手を出さないように釘を打っておいたし。……でも、梓はお前は受験シーズン中だし傷付けたくないからこの件はお前に話すなって』
「俺、あいつの事を本当に何も知らないんだな……」
『くだらないケンカなんか止めて守ってやれよ。お前はまだ梓が好きなんだろ? 変なプライドなんて無意味だから捨てちまえよ』
「…………」
『俺は自由恋愛を繰り返してきたけど、こんな俺ですらお前らが羨ましいと思ってた。その理由はなぁ、常にお前らの心と心が通じ合っていたから。俺の中でお前らの恋愛は最強だった。
……でも、今のお前は何? 構えてるだけでちっとも動こうとしない。その間にも梓は嫌がらせと戦ってんのにさ。しかも、嫌がらせの根本的な原因は一体誰だよ。
何もしないお前を見てるとイライラしてくる。あいつの想いを放ったらかしにして何とも思わねぇの? いい加減目を覚ませよ。今のお前なんてちっとも羨ましくないからな!』
「……」
『梓の嫌がらせと比べたらお前の悩みなんてちっぽけなんだよ! お前の想像以上にあいつは傷付いてるからな。少しは考えてやれ! いいな!』
ブツッ……プーップーップーップーッ……
大和は感情的になって言いたい事を伝え終えると、一方的に電話を切った。
「何だよ、あいつ……」
卒業式の予行練習後。
紬ちゃんから本人から明かされる事のない梓の事情を教えてもらった。
それだけでもショックを受けたのに、大和から梓が精神的且つ身体的な被害に遭った事を聞いた瞬間、尋常じゃないほどパニックに陥った。
ーー梓と別れてから半年後。
俺は少しでも関係改善がしたくて、体育館へ向かう彼女を見かけてホイホイついて行くと、高梨と付き合っているという事が判明した。
俺が浮気の事で気を揉んでいるうちに、彼女は他の男のモノになっていた。
二人の関係を知った瞬間、ショックだった。
あいつなら、きっといつかやり直してくれると思っていたから。
自分はフラれる意識が薄かったせいか、少し甘く考えていたのかもしれない。
それから時を重ねて高梨と別れた梓の気持ちは、再び俺の方へ……。
ーーでも、いつしか欲深くなっていた。
本当は喉から手が出るほど欲しくてたまらないのに、好きな気持ちが膨らんでいくほど自分の拘りが強くなっていく。
こんな気持ちになったのは生まれて初めてだから、正直戸惑っていた。
しかも、嫌がらせから守りきれてない上に、俺自身があいつを信じてやらずに自分の想いばかりを押し付けてしまい、最終的に傷付けてしまった。
それに気付かせてくれたのは、紬ちゃんと大和。
恋路を見守ってくれていたこの二人が真実を知らせてくれたお陰で、同じところで足踏みしていた俺はようやく目を覚ました。
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