Re.start ~学校一イケメンの元彼が死に物狂いで復縁を迫ってきます~

風音

文字の大きさ
上 下
152 / 184
第二十一章

152.大事な事を忘れてしまった私

しおりを挟む



  梓は身体を大和に支えてもらいながら、教室の近くまで送ってもらった。
  先ほどまでガタガタ震えていた足元も、大和のお陰で落ち着きを取り戻して、別れる頃には普通に歩けるくらいまで回復していた。

  後方扉に手を添えて教室内を覗くと、そこには一人きりで帰り支度をしている蓮の姿が。



  そっか。
  蓮は今日日直だった。
  だからさっきは教室に居なかったんだね。
  ちゃんと黒板に日直の名前が書いてあるのに、どうして忘れてたんだろう。
  バカだね……。



  蓮は自分以外誰もいない教室から人の気配を感じ取ると、後方扉の横に立っている梓に気付いた。
  泣き腫らしたような赤い目に気が止まる。



「梓、暗い顔してるけど……。何かあったの?」

「ううん……。何もないよ」



  相変わらず優しい蓮。
  いつもと違う雰囲気だけで気にしてくれる。

  しかし、優しい声が届いた瞬間、安堵したせいか膝がガクッとして倒れそうになった。
  すると、蓮はすかさず駆け寄って両腕をガッシリ掴む。



「……大丈夫?」

「あっ……、うん。大丈夫」



  心配する彼の声。
  軽くまぶたを伏せて覗き込んでるいつもと変わらない優しい瞳。
  そして、ふんわり漂う甘い香り。
  もう涙は枯れきったと思ってたけど、残念ながらまだ残ってたみたい。



  蓮の顔を見て安心した梓は、再びポロリと涙が溢れ落ちた。
  すると、蓮は近くの椅子を引き出して梓を座らせる。



  私がまだ蓮の彼女だった頃。
  嫌がらせを受けて悔し泣きしていると、蓮は優しく抱きしめてくれた。
  それだけで魔法がかかってしまったかのように、不思議と落ち着きを取り戻せていた。

  だけど、泣いていても抱きしめてくれないこの距離感が、今の私達の関係。
  彼は友達としてそっと見守るだけ。
  だから、胸がキューッと締め付けられる。



「あれ……、ねぇな」



  蓮はスラックスの両ポケットをガサゴソと探り、ポケットからハンカチが見つからないと、次はロッカーへ向かった。
  そして、ロッカーからあるものを取り出して梓の前にスッと差し出す。



「ごめん、今ハンカチとか持ってないから」



  蓮は体操着をハンカチ代わりにして、泣いている梓の頬に涙を染み込ませるように、ポンポンと拭き取った。



「辛い事、あったんだな。顔に書いてあるよ……」

「……」



  梓は蓮から体操着を受け取ると、体操着に顔を埋めた。



  蓮の香りがたっぷり染み込んだ体操着。
  香りを吸い込むと、まるで蓮の胸の中に飛び込んだ時のように心地が良くて安心してしまったのか全身の力がスッと抜けた。

  今日は蓮と交際していた時以上に辛い出来事があったのに、こんなに小さな事で安心してしまう自分がバカみたい。
  蓮の香りは好きという気持ちに更に拍車をかけた。


  蓮は一旦席を立って自分の席の脇にかけてあるリュックを手に取ると、梓が座っている向かいの席の椅子にまたいで座り、リュックの中から棒付き飴を取り出して梓の前に突き出した。



「コレあげる。お前はこのレモン味の飴が前から好きだったでしょ」



  蓮は微笑みながら顔を傾けて、まるでこの飴を食べて元気を出してと言わんばかりに手渡す。



「ははっ……。小さい子じゃないのにな……。でも、ありがとう」



  本当は私好みの味じゃない。
  蓮がくれた飴だからこそ好きだった。
  いつも喜んで食べていたから、蓮はその味が好きだとカン違いしていたのだろう。

  だけど、飴の事を覚えててくれたんだ。
  でも、どうして今でも持ち歩いてるの?
  私を忘れようとしてたんじゃないの?
  大学に入学したら、私を忘れて新生活をスタートさせるんじゃないの?


  もう……、無理。
  強がっていてもリアルに迫ってくる期日。
  蓮が優しくしてくれる分、離れられなくなる。

  私……、やっぱり蓮じゃなきゃダメ。
  卒業を機にお別れなんて出来ない。
  この先もずっとずっと蓮の彼女でいたいよ……。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

夕陽を映すあなたの瞳

葉月 まい
恋愛
恋愛に興味のないサバサバ女の 心 バリバリの商社マンで優等生タイプの 昴 そんな二人が、 高校の同窓会の幹事をすることに… 意思疎通は上手くいくのか? ちゃんと幹事は出来るのか? まさか、恋に発展なんて… しないですよね?…あれ? 思わぬ二人の恋の行方は?? *✻:::✻*✻:::✻* *✻:::✻*✻:::✻* *✻:::✻*✻:::✻ 高校の同窓会の幹事をすることになった 心と昴。 8年ぶりに再会し、準備を進めるうちに いつしか二人は距離を縮めていく…。 高校時代は 決して交わることのなかった二人。 ぎこちなく、でも少しずつ お互いを想い始め… ☆*:.。. 登場人物 .。.:*☆ 久住 心 (26歳)… 水族館の飼育員 Kuzumi Kokoro 伊吹 昴 (26歳)… 海外を飛び回る商社マン Ibuki Subaru

消えた記憶

詩織
恋愛
交通事故で一部の記憶がなくなった彩芽。大事な旦那さんの記憶が全くない。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚

日下奈緒
恋愛
仕事の契約を打ち切られ、年末をあと1か月残して就職活動に入ったつむぎ。ある日街で車に轢かれそうになるところを助けて貰ったのだが、突然週末婚を持ち出され……

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

処理中です...