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第二十一章
151.感謝の気持ち
しおりを挟む胸の中で散々泣き腫らした後、気持ちが落ち着くと徐々に理性を取り戻していった。
「胸を貸してくれてありがとう。お陰で少し落ち着いたよ」
梓は右手で涙を拭って大和の胸にそっと左手を添えて離れた。
だが、大和の瞳はまだ心配している。
「どうして一人であいつらの所に行ったの?」
「別のクラスの男子が蓮からの伝言で体育館の用具室に来るようにって言ってて……。確認の為に一旦教室内を見たんだけど蓮は居なかったから、本当に頼んだんだと思い込んじゃって……」
「アホか。蓮が他の男に要件を伝える訳ねぇだろ」
「そうだよね。さっきは蓮の名前に過剰反応してた。……でも、どうして私が用具室に居る事を知ったの?」
「今朝、廊下でお前と激しくぶつかっただろ」
「うん」
「実はお前が暗い顔をして何処かへ走り去った後、後ろから紬が泣きながらお前を追いかけて来たんだ」
「……うん、知ってる」
「紬を引き止めて話を聞いたら、お前の心が壊れそうだから気にしてやってって」
「紬が大和にそんな事を……」
「……そ。で、さっき体育館へ向かってるお前を見かけて何か様子がおかしいと思って後をつけて行ったらこのザマだ。用具室の扉で聞き耳を立てていたら、ちょうど目線の先に消火栓があったから、お前を救出するならコレだと思ってね」
「そうだったんだ。大和が来てくれたから何もされずに済んだよ」
危機から救ってくれたのは大和だけじゃない。
紬が今朝から様子がおかしい私を心配してくれていたから、今という結果に繋がっている。
「有り難く思えよ。でも、胸を貸すのは今回限りだからな」
「そんなのわかってるよ」
「いつになるかわかんないけど……、紬専用になるかもしれないし」
「えっ?! いま何て?」
「今朝、紬が泣いてる姿を見たら守ってあげたくなると言うか……、何と言うか……」
「冗談じゃなくて?」
「あのさぁ、どうして俺がこんな時に冗談を言わなきゃいけないの?」
「……だよね」
「昨日あいつから貰ったチョコ、平和な味がしたんだよね。甘くて、優しくて、頼りなくて……。そのチョコがやけに紬っぽくてさ。作ってる姿を想像したら、なんか心が暖かくなるというか……。ま、まぁ……、まだ気持ちとかよくわかんないから、はっきりするまで見守ってて」
「あ……、うん。わかった」
頭をぐしゃぐしゃ掻きむしりながら照れ臭そうに紬の話をする大和は、先程の用具室の扉の向こう側で迫力満点で仁王立ちしていた姿とはまるで別人のよう。
なぁんだ。
結構かわいい所あるじゃん。
でも、助けに来てくれた時は本当に格好良かったよ。
私も紬と上手くいくように心から願ってるからね。
「大和。一つだけお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
「何?」
「用具室の件だけど……。蓮には言わないで欲しいの」
「どうして? お前は蓮のせいで奴らにハメられたんだろ」
「蓮は悪くない。ただ、周りの人達が騒ぎを起こしただけ。それに今は受験シーズン中だし、私の事で傷つけたくないから。お願い……」
梓は顔の前で両手を合わせてお願いをすると、大和は蓮を思いやる気持ちが届いた。
「お前がそこまで言うなら……」
受験生の私達にとって今は最も大事な時期。
自分のせいで蓮に余計な心配はかけたくなかった。
「大和……」
「何?」
「心配してくれてありがとう。助けに来てくれてありがとね。感謝してる」
梓は気持ちを素直に伝えると、大和のほっこりとした笑顔が戻った。
救ってくれたのが大和で本当に良かった。
今は言葉以上に感謝している。
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