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第二十章
141.消えたチョコ
しおりを挟む手の施しようがない状況に追い込まれた蓮は、イライラした様子で梓の腕を掴んだ。
「あ~っ! もー、お前は本っっ当にしょーがねぇな。ほら、行くぞ」
「……へっ?」
「柊くんっ!」
「斎藤さん、こいつが身勝手な事をしてマジでごめん。話はまた今度ね。じゃあ、これで……」
「待って、柊くん……」
蓮は額の前で申し訳なさそうにごめんと片手を立ててそう言い残すと、梓の手をグイグイ引っ張ってその場から立ち去った。
告白スペースから建物の裏へと周ると、蓮は半分呆れ返りながらも吹き出すように笑った。
「あはは、すげー……。お前があんなに勝気な態度で突っかかるなんて、今まで見た事ねぇよ」
蓮は中庭のベンチに腰を下ろして、背負っていたリュックを足元へ下ろす。
梓も続いて座り、鞄を脇に置いた。
「蓮と付き合い始めてからプール一杯分くらいの涙を流したけど、私だって泣いてばかりじゃない」
「お前、ビックリするくらい強くなったな。でも、やる事は極端だよ。チョコを盗んだり、人の告白を邪魔したり……」
「ごめん……」
「でも、『頭がおかしくなきゃ蓮とは付き合えない』なんて、俺が異常者みたいじゃん」
そう言って、苦笑いをする蓮。
ようやく蓮と二人きりなったと実感して不安な心は安堵へと導かれる。
「ねぇ、貰ったチョコはどうするの?」
「んー、受験中に腹壊したらシャレにならないからなぁ……。貰ったチョコは半分おまえにやるよ」
「一人で全部食べないの?」
「さすがにあの量はムリだって」
「受け取った手紙は全部読むの?」
「一生懸命書いてくれたからちゃんと読んであげないと。……ひょっとしたら、『チョコと一緒に私を食べて』とか書いてあるかもしれないし」
「それはない!」
「タダでくれると言うなら……」
「蓮っ!!」
一昨年、去年は触れなかったこの話題。
蓮が沢山チョコを貰っているのは知っていたけど、チョコや手紙の行方は追求しなかった。
でも、今は無性に身の周りの事が気になって仕方ない。
すると、蓮は横目を向けて照れ臭そうに口を尖らせて言った。
「ねぇ、お前の……は?」
「……え?」
「お前のチョコだよ。勿体ぶらないで早くちょうだい。仕方ないから受け取ってやる」
「あっ、そうだった! 人のチョコを奪うのに必死で本来の目的をすっかり忘れてた」
「……あのなぁ」
人の恋路を邪魔するのに精一杯だったから、自分のチョコの存在をすっかり忘れていた。
脇に置いた鞄を膝の上に乗せて鞄の中をガサゴソ漁ってみたけど、家から持ってきたはずのチョコは何故か見当たらない。
「あれ……。ない、ない! 蓮に渡すはずのチョコが鞄の中に入ってないっ!」
「えっ……、ない……?」
昨晩、チョコを忘れないようにと鞄の中に入れたし、今朝も入ってるかどうかちゃんと確認してきたのに……。
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