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第十六章
113.ストレートしか投げられない球
しおりを挟む蓮の家に居れば確実に会える。
さすがの蓮も二人きりなら話くらいはしてくれるよね。
前回蓮の家にお邪魔したのは、『具合が悪い』と言って、先生とのデート中にLINEメッセージが入った時。
いま振り返ってみると笑っちゃう。
蓮の病気が悪化したと思い込んで先生とのデートをすっぽかして、蓮の家に行ったら『一緒に昼飯食おう』と引き止められて、見た目はピンピンしてておかしいなとは思いつつも、一緒に勉強して、お茶して……。
実際は病気でもないのに、私の勘違いを悪用して家に呼び寄せるなんて最悪。
でも……。
『行くな……』
『お前は自分の意思でここに来たんだろ。高梨と一緒にいても、俺の事を考える隙があったって事だよな。……もしそれが正解なら、あいつんトコに行くな』
『いまお前の気持ちが揺れてんのに、行かせるつもりなんてないから』
いつも全力で向き合っていた。
高梨先生と交際していても関係ない。
私の気持ちがどの位置にあるかを慎重に見極めながら、一歩一歩駒を進めていた。
球はストレートしか投げない。
でも、そんな不器用なところが大好きだから……。
私には赤いリップは似合わなかった。
早く大人になりたかったけど、まだまだ子供だから等身大の恋が似合ってるのかもしれない。
ガチャ……
いざ蓮の部屋の扉を開けると、身体は一瞬にして蓮の香りに包まれた。
最近冷たくされていたせいか、香りだけでも蓮を感じて涙が出そうになった。
部屋の中に入ると、迷う事なく学習机の前へ。
先日、蓮は私を忘れると言った。
だから今の気持ちレベルが知りたい。
蓮が大事にしていた鍵付きの引き出しの中に、今でも私との思い出の形跡が残っているかが気になった。
前回引き出しを開けた時は、私との思い出を大切に保管していたから、今でも想いが残っているのであれば中身はそのままのはず。
机の上に置いてある筒形のケースから引き出しの鍵を取り出して解錠する。
引き出しの中は蓮の心の中と同じ。
心の奥底では私の事を忘れていないと信じて……。
思い出がきれいさっぱりに整理されていたらどうしようと、不安な気持ちに押しつぶされながら恐る恐る引き出しを開けた。
ガシャッ……
すると、引き出しの中身は以前開けた時と変わらず綺麗に整理されたまま。
現状維持を目の当たりにすると、少し希望の光が見えた。
部屋の隅に置いていた自分のカバンに手を伸ばして、蓮の為に購入していた純白色の合格祈願のお守りを取り出した。
お守りは手渡しするつもりだった。
でも、もし受け取ってもらえなかったら買った意味がなくなるから、2段目の引き出しにしまっておこう。
そうすれば、少しでもお守りの効果が発揮するかもしれない。
次にいつ引き出しを開けるか分からない。
ひょっとしたら、私との思い出を整理する為にどこかのタイミングで開けるかもしれない。
梓は小さな期待を胸に、カバンの中から取り出したメモ帳に今の気持ちを書き綴った。
「よし、出来た」
書き終えたメモをビリッと切り離すと、お守りの横に添え、引き出しを閉じて鍵を閉めた。
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