98 / 184
第十四章
98.クリスマスイブ
しおりを挟む今日は終業式。
それと同時にクリスマスイブがやって来た。
私達受験生に休みはないけど、通学というストレスからは解放される。
イケメントリオとのクリスマスパーティは、いよいよ明日。
紬は朝からパーティの話題で持ちきりに。
今はホームルームの時間。
後方席から蓮の方へ目線を流すと、机に寝そべっていた。
その様子を見た時は、単に遊び疲れてるかと思った。
去年の今頃、蓮が一度目の浮気をして関係がもつれ始めたっけ。
しかも、浮気の理由を何度問い詰めても『覚えていない』の一点張りだったから余計に腹が立っていた。
夜空を彩るイルミネーションに囲まれ、恋人達が街中を行き交うクリスマスイブの今日。
夕方から高梨先生とデートの約束をしている。
先日、先生にプレゼントしてもらった黒いワンピースを着て、高級イタリアンでディナーデート。
平日という事もあっていつもみたいに遠出は出来なかったので、自宅から7駅先の高級デパートやオフィスビルが並ぶ大人の街にやって来た。
学校関係者に見つかる可能性は低いと思うけど、県内という事もあって久しぶりに人に見つかってしまうかもしれないという緊張感に包まれた。
部屋の中央に置かれている、グランドピアノの自動演奏が迎えてくれるクリスマス仕様のイタリアンレストランの店内。
真っ暗闇の外を映し出している窓際の席で、間接照明と赤いテーブルクロスの上に置かれたクリスタルガラスのキャンドルだけが互いの顔を映し出している。
高梨は手元のワインリストを開いてから聞いた。
「梓は何飲む?」
「コ……コーラで」
慣れない高級店のせいか、普段の調子を取り戻せずむず痒いような気分になった。
それから店員を呼び、飲み物を注文。
先生の前には赤のグラスワイン、私の目の前にはコーラが運ばれてきた。
ピアノ演奏が流れる物静かな店内。
シックでお洒落な内装。
フォーマルな装いの客層が目立つ。
「先生、高そうに見えるお店だけど……」
「ははっ。店でも『先生』って呼ぶの? 僕達、交際してから5ヶ月も経つよ」
「ごめんね、遼くん。あは、まだ呼び慣れないかも」
「今日みたいに特別な日は美味しいものを食べさせてあげたいから、お金ね心配しないで」
男性は蓮しか知らなかった分、大人のデートが不慣れでちょっと恥ずかしい。
真っ赤なリップは少し背伸びをした証拠。
前菜がテーブルに運ばれて食事を進めると先生は言った。
「梓の思春期は終わったの?」
「もう! 子供扱いしないで。そんなのとっくに終わってる」
先生はワイングラスを片手に冗談交じりで私を子供扱いする。
今日の装いは一人前の大人だけど、先生の中ではまだまだ子供なのかな。
「じゃあ、質問」
「なぁに?」
「梓は相談とか悩み事とか……。年頃だから、言い難い事や心に留めている事とかあるんじゃないかな」
高梨は紬からの忠告が身に沁みていて、反省を機に梓から本音を引き出そうとしていた。
しかし、自分の知らない間にそんなやりとりがされていた事すら知らない梓はフッと笑う。
「担任っぽい質問だね。なぁんか個人面談みたい」
「梓は普段から友達の話だったり家族の話だったり、身の上話をしないタイプだから知りたいなと思って」
「そうだっけ? うーん……勉強以外では特に思い浮かばないかな」
「……そっか」
単にパッと思い浮かぶ悩みが見つからなかった。
最近は、蓮の病気騒動が最大の悩みだったけど、それは先日解決したばかり。
しかも、わざわざ伝えるような話じゃないから敢えて言わなかった。
でも、先生はその後から口数が減った。
それが何故だかわからないけど、寂しそうな瞳をしたまま窓の向こうの景色を静かに眺めていた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる