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第七章
39.スリルとリスク
しおりを挟む高速道路を下りてから、隣県のショッピングモールへ向かった。
肩を並べながらブティックの前を通ると先生はにこりと微笑みながら言った。
「好きな服を買ってあげるよ。気になるお店があったら言ってね」
「えっ! いいよ……。無駄遣いになっちゃう」
「遠慮しないで。梓にはいつも可愛くいて欲しいから」
先生は年が離れているせいか、私にはめっきり甘い。
未だに子供扱いするし、恋人と言うよりたまに親目線に感じる時がある。
去年担任だったから、余計にそう思うのかもしれないけど。
デートにかかる費用は全て先生持ち。
悪いと思いつつも、お小遣い一本で頑張っている学生にとっては心強い。
梓と高梨の二人が会話を楽しみながらあてもなくブラブラ歩いていると……。
「あれぇ、高梨先生?」
背後から若い女性の声が先生を呼び止めた。
思わぬアクシデントに私達の足が止まる。
一瞬にして背筋が凍った。
関係がバレないように車で一時間もかけて遠方まで出向いたにも拘わらず、知り合いに目撃されてしまったのだから。
先生は顔を真っ青にしたまま後方へと振り返り、私は胸をドキドキさせながらパーカーのフードを深くかぶって顔を隠した。
すると、相手を確認したばかりの先生は『大丈夫だよ』と言ったように、腕をチョンチョンと突いて合図を送る。
一人でショッピングを楽しんでいた女性は、駆け足で高梨の前へ。
「あ~っ! やっぱり高梨先生じゃん。久しぶり~!」
「横田。久しぶりだね。元気にしてた?」
「元気元気。先生が転勤した以来だから、2年ぶりくらい?」
「そうだなぁ。横田はあの後志望していた大学に進学したの?」
私は振り向く事は出来なかったけど、話の下りからすると彼女は転勤前の教え子のよう。
同じ学校の生徒じゃないと知った途端、少しだけ緊張が解けた。
「そ、無事に第一希望の青南大学に合格~! 先生の指導のお陰だよ。……それよりさ、隣にいる子は先生の彼女?」
「……いや、僕の妹だよ」
私に興味を湧かせる彼女に、先生は冷静にフォローする。
「本当は教え子なんじゃないの~?」
「違うよ。今日は実家に遊びに来たついでに妹とショッピングに来ててね。……ね、僕ら似てるでしょ?」
先生はそう言うと、彼女に敢えて顔を見せるように手で私の頭を寄せた。
勿論、先生とは似ていない。
先生は彼女の目を掻い潜る為にわざとそう言った。
すると、彼女は口をへの字にする。
「なぁ~んだ。教師と生徒の恋愛だったら面白かったのに~」
先生は最後まで平静を装っていた。
それは嘘か本当か見分けがつかないほど。
だから、怖いとか不安とか、感情がかき乱れる程には至らなかった。
彼女と話し終えてその場から離れると、先生は目を見合わせてクスリと笑った。
スリルとリスク。
この危険な駆け引きも、二人の親密度をより一層高めていた。
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