Re.start ~学校一イケメンの元彼が死に物狂いで復縁を迫ってきます~

風音

文字の大きさ
上 下
31 / 184
第六章

30.いかないで

しおりを挟む



  今朝、自宅から拉致されて蓮の家に連れてこられた私は今、何故か彼の部屋で数学を勉強中。

  テスト前でもないのに蓮に数学を教えてもらうなんて思いもしなかった。
  だけど、ちゃんと理解していて教え方が上手だからとてもわかりやすい。
  高梨先生が出来を褒めてたのも納得するほど。


  方程式を書き綴る筆圧からは容体が伝わってこない。
  実は弱ってるところを見せたくなくて元気に振舞ってるのかな。
  でも、病気が気になるから意を決して聞いた。



「体調……、大丈夫なの?」

「えっ、体調?  あぁ、昨日よりは良くなったよ(おとといクラブで飲んだ酒が昨日まで残ってた事に気付いていたのかな?  二日酔いに気付くなんてすげぇ)」


「……」



  昨日よりって事は、やっぱりどこか悪いんだ。
  少し驚いたような表情で返事をしていたから、秘密を指摘されて焦ったのかもしれない。

  私の想像以上に重い病気だったらどうしよう。
  蓮に残された時間はあとどれくらいなの?



  梓は蓮の容体が悪化して、救急車で搬送されて、病院のベッドで横たわる姿を思い浮かべながら、数学のワークをこなしていく。
  だが、付き合っていた頃の思い出や病気の事で頭がいっぱいになると、気持ちが不安定になって目に涙が浮かんだ。

  蓮はそんな梓の異変に気付いて顔を覗き込んだ。



「大丈夫?  体調悪い?」

「ううん……」



  梓は小声で首を横に振る。



  蓮……。
  自分の体調が良くないのに、私を心配をしてる。
  私が蓮をフったから不治の病にかかっちゃったのかな。

  蓮に残された時間。
  元カノの私は、交際以外に何をしてあげられるのだろうか……。
  せめて楽しい思い出だけは残してあげたい。


  蓮がこの世を去ってしまうかもしれないという不安と恐怖に駆られた梓は、突然ペンを置いてスッと席を立った蓮に涙ぐみながら呟いた。



「いかないで……」



  これが元カノとしての精一杯の気持ちだった。
  今は大切な友達だし、私には先生がいるから変に期待をもたすような言動は避けなきゃいけないけど、蓮の力になる事だけはこれからも伝え続けていきたい。



「……え(トイレに行こうと思って席を立ったんだけど)」

「お願いだから、まだ逝かないで……」



  蓮は、俯きざまに涙ぐませながら数学のワークを開いたままペンをギュッと握りしめている梓を目の当たりにした瞬間、異変に気付いた。



  梓の様子がおかしいけど、どうしたんだろう。
  トイレに行こうと思って立っただけなのに、泣きそうな顔で行かないでと言われても……。
  もしかして、ワークの問題が解けるかどうか不安なのかなぁ。
  聞きたい事が沢山あるから引き止めたのかもしれない。

  でも、こっちもさっきからトイレを我慢してたのに。



「まだ、(トイレに)行ったらダメ?」

「うん、まだダメ……(逝くにはまだ若すぎる)」

「わかった(仕方ない。じゃあ今のページが終わってから行くか)」



  蓮をこの世から失う苦しみに耐えきれず、本人を目の前にして取り乱してしまった。
  『逝かないで』なんて、まだ病気について触れてないのにストレート過ぎたかな。

  でも、「ダメ」って言ったら「わかった」って……。
  病気に気付いたのがバレたかな。
  もしかしたら、そのせいで余計な負担をかけてしまったかもしれない。


  しかし、一度泣いたら抑えていた気持ちが少し落ち着いてきたのでワークの続きを始めた。
  頭を抱えながら真剣に問題を解いてると、蓮はモジモジしながら横からちょっかいを出した。



「ねぇー」

「ん?  あー、この問題わかんない」


「おい!」

「何よ。一生懸命この問題を解いてるでしょ。ったく、うるさいなぁ……」


「……そろそろ、トイレに行ってもいいかな」



  さっきはワークを解くのに不安そうにしていたからトイレを我慢して見守っていたけど、膀胱がもう限界。
  今は集中力が上がってるみたいだから、タイミングを見計らってもう一度声をかけた。

  それなのに、あいつは……。



「え?  どうして私にそんな事を聞くの?  小学生じゃないんだから、トイレくらい勝手に行けばいいじゃない。いい年してバカじゃないの?」

「お前……」



  俺の気持ちを粗末にする。
  お前が「行かないで」と言うから、限界までトイレを我慢してたのに。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚

日下奈緒
恋愛
仕事の契約を打ち切られ、年末をあと1か月残して就職活動に入ったつむぎ。ある日街で車に轢かれそうになるところを助けて貰ったのだが、突然週末婚を持ち出され……

忘れられたら苦労しない

菅井群青
恋愛
結婚を考えていた彼氏に突然振られ、二年間引きずる女と同じく過去の恋に囚われている男が出会う。 似ている、私たち…… でもそれは全然違った……私なんかより彼の方が心を囚われたままだ。 別れた恋人を忘れられない女と、運命によって引き裂かれ突然亡くなった彼女の思い出の中で生きる男の物語 「……まだいいよ──会えたら……」 「え?」 あなたには忘れらない人が、いますか?──

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

処理中です...