9 / 23
9.落とし物
しおりを挟む「脈なしから一緒に暮らしているうちに名前を聞きたくなるくらい興味が湧いた。……つまり、恋愛レベル0から1に発展。ということは、1から2になる可能性もある。レベル0が無関心で、1が興味ありで、2は気になる人で、3は好きな人。これ、ステップ踏んでいけばワンチャンあるんじゃない?」
ーー翌朝。
通学路で降谷くんとの妄想を繰り広げ、ひとりごとを呟いてムフフと声を漏らしていると……。
「おーはよ! なにひとりごと言ってるの?」
りんかが朝一番の元気な声で後ろから肩を抱いてきた。
その衝撃で体がトンッと前に揺れる。
「あ、りんか。おはよ~」
「ご機嫌じゃない。……さては、なんかいいことあったな」
「ううん、何でもない!!」
本当は喋ってしまいたいくらいのビックニュースが立て続けだったけど、降谷くんとの秘密は守らないとね。
んふふっ、りんかが降谷くんとの同居の件を知ったらびっくりするだろうなぁ~。
「……なに笑ってんの?」
「ん~っ、なんでもないっっ!」
「こぉ~らあぁ~、教えろぉぉ~。親友の私には教えないってのかぁ~!!」
「なんでもないってばぁ!」
私たちがふざけ合いながら学校に向かっていると、後ろからキャーという叫び声を聞き取った。
二人同時に振り返ると、そこには降谷くんが複数人の女子に囲まれながら歩いてくる。
すると、りんかはそれを見ながら言った。
「降谷さ、相変わらずだよね。女子の黄色い声がGPSだもん」
「あの子たちはみんな彼女希望なんだろうなぁ。競争率高すぎ」
「去年はクラスの女子全員からバレンタインチョコを貰ったらしいよ」
「私はうちの学校に通ってる女子の2/3って聞いたけど」
「……ってかさぁ、降谷は顔もそうだけどオーラもレベチだよね。犬も振り返るくらいイケメンってどーゆーことよ!」
「あははっ、確かに先日犬が振り返ってたよね! メス犬だったのかなぁ。尻尾振ってたし」
私たちは「そうそう」と言い、お互い顔を見合わせながらケタケタと笑っていると……。
「みつき」
降谷くんのことばかりを考えているせいか幻聴が聞こえてきた。
しかも、呼び捨て。
お陰で少しいい気分に。
「あぁ~あ、一度でいいから降谷くんに”みつき”って呼び捨てにしてもらいたいなぁ。『みつき、もっと顔を見せて』とか、『みつき、かわいいよ』とか、『みつき、もっとこっちにおいでよ』とかさぁ」
「降谷がそんなこと言うわけ…………。ね……、ねぇねぇ」
「『みつき、その瞳は最高に輝いてるね』とか、『みつき、目を閉じてごらん』とか。きゃああああっっ!!」
「み……、みつきったらぁ。ちょっとぉ……」
「なによぉ~、いまいいところだったのに」
りんかが少し強めに腕で小突いてきたので、夢気分から冷めて彼女と同じく背後に目を向けると、そこには……。
「みつき……」
ななな、なんと!!
降谷くんが真後ろに立って私の名前を呼んでいる。
私は今までの呟きが全部聞かれたと思って顔が真っ青に。
「ふっっ……、降谷くんっ!!」
「で、お前が目を閉じた後はどうなるの?」
「あっ、そ……それは……そのぅ……」
しどろもどろに返答すると、降谷くんは手に持っていたビニールバッグを私に突き出した。
「ま、俺は興味ないけどね。……これ、落とし物」
「えっ! 落とし物って……」
そう聞き返すと、彼は私の耳元に近づいて囁く。
「家に忘れていくんじゃねーよ、ばーか」
それだけ言うと、少し早めに足を前に進ませて私たちの元から離れて行った。
ほんの僅かに吹きかかった息にドキドキと心臓が暴れ出す。
うっとりと幸せの余韻に浸ると、りんかは降谷くんの方を見ながら再び腕で小突いた。
「ねぇねぇ。降谷さぁ、いまみつきのことを呼び捨てにしてなかった?」
「あ、あっ……、えーーっと……。体操着に名前書いてあるからかな」
「降谷をあんなに間近で見たのは初めてだけど、マジ最高。女なら誰でも惚れるわ」
「でしょでしょ~~!! さいっこうよねぇ!! 顔もスタイルも完璧! それなのにゴキ……」
「ゴキ?」
「ううんっ、なんでもない!!」
……おっといけない。ゴキブリ嫌いなことをうっかり喋ってしまうところだった。
これは私たちだけの秘密なのにね。
同居してるだけで秘密が増えてくなんて幸せ~!!
ーーそれから10分後。
教室に到着すると、スカートからスマホを取り出して降谷くんにLINEを送った。
『さっきは体操着ありがとう。でも、人目に触れるところで渡さなくても電話をしてくれれば取りに行ったのに』
『自分から電話をかけたくない』
『どうして?』
『俺がみつきを呼び出してるようで、なんか無理』
なによ、なによ、なによ~~っ。かわいい~!!
学校でも家でも気軽に話しかけられると困るって言ってたのは降谷くんなのに。
人前で私に声をかけた時はどんな気持ちだったのかな。
ドキドキしちゃったのかな。
周りに女子がいっぱいいたのに、私のことだけを考えてたなんて幸せ過ぎる~~!!
しかも、またみつきって呼び捨てにしてくれたぁ!
ーーところがそれから数時間後。
幸せ絶頂期に入っていた私だが、彼の隠された現実と直面してしまい、浮ついていた気分がどん底へと追いやられていく。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
契約妻ですが極甘御曹司の執愛に溺れそうです
冬野まゆ
恋愛
経営難に陥った実家の酒造を救うため、最悪の縁談を受けてしまったOLの千春。そんな彼女を助けてくれたのは、密かに思いを寄せていた大企業の御曹司・涼弥だった。結婚に関する面倒事を避けたい彼から、援助と引き換えの契約結婚を提案された千春は、藁にも縋る思いでそれを了承する。しかし旧知の仲とはいえ、本来なら結ばれるはずのない雲の上の人。たとえ愛されなくても彼の良き妻になろうと決意する千春だったが……「可愛い千春。もっと俺のことだけ考えて」いざ始まった新婚生活は至れり尽くせりの溺愛の日々で!? 拗らせ両片思い夫婦の、じれじれすれ違いラブ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる