43 / 50
42.自分勝手な彼女
しおりを挟む――場所は、本棟の四階の階段の踊り場。
私は赤城さんに本人に呼び出されてここに来た。彼女と二人きりで話すのは木原くんの件で忠告を受けたあの日以来。
相変わらず彼女の瞳の奥は冷たいまま。だから、足首がぞわぞわと震え出す。
「矢島さんってさ、どんな目的で朝陽に近づいたの?」
私はてっきり木原くんの話題かと思っていた分、思わぬ変化球に驚かされた。
「目的というか……。加茂井くんは赤城さんと別れてから壊れちゃいそうだったから支えてあげたいなと思っていて。私の幸せは加茂井くんが幸せになってくれることだし……」
本当は赤城さんの浮気現場を見てから加茂井くんの気持ちを守る為に近づいたけど、そこまで言う必要がないと思った。
「ふぅん。それだけ?」
「それだけって……。赤城さんは知らないと思いますが、加茂井くんは別れてからすごく落ち込んでましたよ。口では言わなかったけど、常に赤城さんを意識してて辛そうだったのに、『それだけ』で片付けるなんて。加茂井くんは別れてからも赤城さんに想いを寄せていたのに……」
赤城さんと別れてからの2ヶ月間、加茂井くんが苦しんでいるところを間近で見てきたから偽彼女を演じていることを忘れて本音を漏らしてしまった。
それが自分に不利な方向に仕向けていたことさえ気がつかないまま。
「へぇ~……。矢島さんは朝陽と付き合ってるのに、朝陽は私のことが忘れられないんだぁ~」
「……っ」
「そっかそっかぁ。じゃあ、結果オーライかも。また朝陽とやり直したいと思ってたところだったから」
「えっ……」
「それに、矢島さんは朝陽が幸せになることを願ってるのよね?」
「そ、それは……」
「じゃあ、私が朝陽にやり直したいと言っても問題ないってことね」
彼女は腕を組んだままそう言って私の口を塞ぐと、キュッと口角を上げた。
その眼差しは、私達の偽恋人関係に気づいているかのよう。
そして私は、口を開く度に底なし沼にはまっていく。
「どうして今さらやり直したいなんて言うんですか? だって、赤城さんは木原くんと……」
「別れたの。理由は朝陽が忘れられないから」
「そんなの自分勝手じゃないですか……。木原くんと付き合って、やっぱり加茂井くんが好きだからといって別れるなんて。加茂井くんの気持ちは一体どう考えているんですか?」
「朝陽のことをどう考えてるかって? そりゃ、傷つけた分大切にしていきたいと思ってる。だから復縁しようとしてるんじゃない。それに、私達が築いてきた1年はそんな簡単に崩れるものじゃないの。だから、矢島さんの方から朝陽を突き放してくれない? そうすれば私達は元通りの幸せに戻るから」
「急すぎませんか? だって、加茂井くんは赤城さんを忘れる為に心の整理を……」
「矢島さんが本当に彼の幸せを願っていたらこれくらい出来るわよね」
「そんな……」
「じゃあ、よろしくね」
彼女はそう言うと、肩にかかっている長い髪を指で払ってから非常階段を降りていった。
赤城さんは私達の関係が簡単に切れると思っている。それに加えて自分達は復縁しようと目論んでいる。
最初のうちは加茂井くんの幸せを願っていたから二人の恋を応援してたけど、いまは応援出来ない。
その理由は、加茂井くんの隣で偽恋人を演じているうちに自分の気持ちを突き通したくなったから。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
1度っきりの人生〜終わらない過去〜
黄隼
恋愛
何回でも人生は繰り広げられると思っていた・・・
ある日、病気にかかってしまった女の子。その子は一生治らない病気にかかってしまう。
友人関係も壊れてしまい…。
オレ様黒王子のフクザツな恋愛事情 〜80億分の1のキセキ〜
風音
恋愛
高校三年生の結菜は父の離職によって母と兄と3人の家計を支える事になった矢先アルバイトがクビになってしまう。叔母の紹介で家政婦バイトが決まったが、その家は同じクラスの日向の家だと知る。彼は俳優業をしながら妹と2人暮らしで学校には変装して通っていた。結菜が同じクラスの杏にパシられてる事を知ってる日向は、自分の気持ちを隠して変わろうとしない結菜の一本結びの髪をバッサリ切り落として変わるきっかけを与える。
※こちらの作品は、エブリスタ、野いちご、ベリーズカフェ、魔法のiらんど、ノベマ!、小説家になろうにも掲載してます。
想い出は珈琲の薫りとともに
玻璃美月
恋愛
第7回ほっこり・じんわり大賞 奨励賞をいただきました。応援くださり、ありがとうございました。
――珈琲が織りなす、家族の物語
バリスタとして働く桝田亜夜[ますだあや・25歳]は、短期留学していたローマのバルで、途方に暮れている二人の日本人男性に出会った。
ほんの少し手助けするつもりが、彼らから思いがけない頼み事をされる。それは、上司の婚約者になること。
亜夜は断りきれず、その上司だという穂積薫[ほづみかおる・33歳]に引き合わされると、数日間だけ薫の婚約者のふりをすることになった。それが終わりを迎えたとき、二人の間には情熱の火が灯っていた。
旅先の思い出として終わるはずだった関係は、二人を思いも寄らぬ運命の渦に巻き込んでいた。
イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜
和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`)
https://twitter.com/tobari_kaoru
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに……
なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。
なぜ、私だけにこんなに執着するのか。
私は間も無く死んでしまう。
どうか、私のことは忘れて……。
だから私は、あえて言うの。
バイバイって。
死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。
<登場人物>
矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望
悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司
山田:清に仕えるスーパー執事
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
通学電車の恋~女子高生の私とアラサーのお兄さん~
高崎 恵
恋愛
通学途中で会うサラリーマンに恋をした高校生の千尋。彼に告白するが、未成年であることを理由に断られてしまう。しかし諦めきれない千尋は20歳になる3年後のバレンタインの日に会いたいと伝え、その日が来るのをずっと待っていた。
果たしてサラリーマンのお兄さんは約束の日に、彼女の所に来てくれるのだろうか。
彼女の終電まで残り7分。あと7分で彼が現れなければこの長かった恋にお別れをしなくちゃいけない。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
『最後の日記』BIRTHDAY~君の声~
OURSKY
恋愛
本当の最後の日記を読んだ時、あなたに届く暗号のメッセージ…
七夕、すれ違う二人の奇跡の約束…現在過去未来が繋がり気付いた不思議な声や日記の切ない秘密とは?
読み進むごとにプロローグや題名、さり気ない言葉の本当の意味に気付く、
〈誰も知らないある歌と、様々な奇跡の出会いから生まれた『明日(あす)への希望』の物語〉
○…春香(はるか)視点、■…悠希(はるき)視点
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる