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36.聞く耳持たず

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 ――放課後。
 私は終礼後に帰宅準備をしていた加茂井くんを引き止めて屋上に呼び出した。
 今回彼に伝えようと思っていたのは、ここ数ヶ月間気を揉んでいたこと。


「なに? 話って。そんなにかしこまっちゃってさ」

「実は、これから話すのは木原くんのことです」

「その話なら無理。帰るわ……」


 彼は急に目の色を変えると、背中を向けて歩き出した。
 ”木原くん”というキーワードを瞬時に反応してしまうくらい関係に亀裂が入っている。
 でも、いま自分に出来ることと言ったら、誤解し続けている彼に真実を知らせることだと思っていた。


「どうしてですか? 凄く大事な話です。まずは話を聞いてくれませんか?」

「お前も他の奴と一緒。どうせあいつと仲直りしろって言うんだろ」

「はい。もちろんです」

「無理。あいつに沙理を取られたことを知ってんだろ。これがどれだけ俺にとって辛いことだったのか……」
「実は先日、元カノの新堂さんの所に会いに行ってきたんです」


 私は背中に向けてそう言うと、彼は眉をひそめたまま振り返った。


「ちょっ……、どうしてお前がミキのことを」

「ごめんなさい。少し前に木原くんから彼女のことを聞いて、その情報を頼りにミキさんに会いに行ってきました」

「ちょっと待って。ミキに会いに行ったって正気なの? しかも、俺の知らない間に勝手な真似を……」

「真実が知りたかったからです。朝陽くんと木原くんが本当に仲が悪くなった原因を……」
「余計なことすんじゃねーよ!!」


 彼は話を遮断するように怒り口調でそう言うと、不機嫌な足を前に進めた。
 でも、私は諦めなかった。今日中に二人の関係を解決させたいと思っていたから肘を引いて彼の足を引き止めた。


「待って下さい! 私の話を聞いてくれませんか? 朝陽くんは少し誤解してます」

「はぁ? 誤解? ミキに話を聞いたならわかるだろ。俺がどれだけ惨めな思いをしてきたか」

「でも、木原くんと話し合ってません。だから、お互いずっと誤解したままなんです」

「あいつと話し合うかどうかは自分で決めから首を突っ込まないでくれる? 他のことならいいけど、矢島が俺達の元カノのところに行くなんてちょっとやり過ぎだろ」

「心配なんです! 朝陽くんの心が」

「それが余計なお世話だって言ってんの」

「朝陽くん……」


 私は彼に話を聞いてもらおうと思って、精一杯の気持ちを伝え続けた。
 でも、彼は手をスッと解くと、そのまま屋上扉の方に向かって行ってしまった。
 結局聞く耳持たずのまま、今日という日をまたいでいくことに。

 加茂井くんが木原くんのことをここまで嫌悪してるなんて思わなかった。
 最初は、新堂さんの話を素直に聞いて木原くんと仲直り出来ればいいなと思っていたけど、話を聞く以前の問題に直面してしまうなんて……。

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