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13.欲深い自分

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「加茂井くんってさ、赤城さんと付き合ってなかったっけ? この前一緒にいるところを見たばかりだけど」

「もしかして、矢島さんが横取りしようとしてるんじゃない?」

「うわぁ~っ! 大人しい顔してやるぅ~っ!! さっすが、ヘッドホン矢島」


 ――私が考えていたより世間は甘くない。
 そう思い知らされたのは、再び湧き出した雑音だった。

 今朝加茂井くんと喋りながら登校したせいか、私達の噂はあっという間に広まっていく。
 加茂井くんと赤城さんの交際は誰もが知っていた。しかも、二人は自分達が別れたことを誰にも伝えていない様子だし、赤城さんと木原くんは行動を共にしている訳でもない。
 つまり、私と一緒に歩いていたことによって加茂井くんのイメージダウンに繋がっている。



 2~3時間目の間の休憩時間、私は赤城さんの友達に体育館前に呼び出された。
 3人は私の正面に立って腕を組んだまま問い詰めてくる。


「矢島さんってさぁ~、加茂井くんのことが好きなの? 最近よく一緒にいるみたいだけど」

「一方的に想いを寄せるのは勝手だけど、沙理がいるから少しは遠慮したら?」

「浮気するなら隠れてしなよ~」

「あはは、言える~!!」

「きゃはははは!! のどか、それまずいって~」

「……」


 私は彼女達に何と答えたらいいかわからずに黙り続けた。
 それが半分正解で半分不正解だと伝えても、誰が理解してくれるだろうか。
 もし赤城さんが彼女達に加茂井くんと別れたと伝えていれば、また違う展開が訪れていたのかな。これで私が余計なことを言ったら、赤城さんにも火の粉が降りかかってしまう。
 だから、このまま黙り続けることにした。

 それから3分くらい口を閉ざしていると、彼女達は無言を貫く私に再び詰め寄る。


「黙ってないでなにか言いなよ」

「人の男を横取りしていいと思ってんの?」

「沙理になんの恨みがあるか知らないけど、黙って身を引きな」


 無反応だったことが気に食わなかったのだろうか。口調は段々強くなっていく。
 しかし、休み時間が終わるまでこの状態を耐え抜こうと思って歯をぐっと食いしばっていると……。


「そこでなにしてんの?」


 背後から男子の声が聞こえてきたので振り返ると、そこには渦中の加茂井くんの姿が。
 彼はポケットに手を入れたままひょこひょこと歩いて私の横で足を止めると、3人組のうちの1人が彼に詰め寄った。


「加茂井くん、矢島さんにそそのかされてない?」

「……そそのかされてるってなに?」

「沙理がいるのに、矢島さんと仲良くするなんてまずいよ」

「どうして?」

「『どうして?』って……。付き合ってる彼女がいるのに別の女と仲良くするのはまずいでしょ。もしかして、本当に矢島さんと浮気してるの?」

「浮気なんてしてないよ。だって、俺いまコイツと付き合ってるから」


 彼はそう言うと、左手で私の肩を抱いた。
 すると、3人組はまん丸い目で互いの顔を見つめ合う。
 横で聞いていた私自身も恋人関係を公にしていいものかと戸惑っている。


「だって、加茂井くんは沙理と付き合ってるんじゃ……」

「とっくに別れたよ」

「私達は聞いてない!」

「あいつが言いたくないんじゃないの?」

「もしそうだとしても、こんなに早く矢島さんと付き合うなんておかしくない?」

「どうして? 恋愛なんて急に燃え上がるときもあれば、急に冷めるときだってあるでしょ? それと同じ原理。まだなにか聞きたいことある?」


 加茂井くんは淡々とした表情で対応をしていると、彼女達は再びお互いの顔を見合った。


「市花……、何か聞きたいことある?」

「ないよ。のどかは?」

「ない。……もう、行こ」


 彼女達は不確かな情報に終止符を打つかのように退散していくと、私は緊張がほぐれたせいか身体の力が抜けて膝からストンと座り込んだ。
 すると、彼は反応して私の腕を引いて立たせた。


「大丈夫?」

「……いいんですか? 赤城さんの友達に私と付き合ってるなんて言って」

「いまさらビビってんの?」

「いえ。私が心配しているのは、加茂井くんが他の人から責められることです」

「俺、なにも悪いことしてないよ。だから責められる理由がない。沙理とはちゃんと別れてるし、原因も俺じゃない。それに、堂々としていた方が沙理への復讐にもなるから」

「加茂井くん……」

「だから、お前も誰からなにを言われても堂々としてて」


 加茂井くんが一点張りの姿勢を崩さないから、私の気持ちだけが置いてけぼりに。
 私に気がないことがわかっていても、赤城さんのことが念頭にあるとわかっていても、走り出した恋はもう止まらない。

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