14 / 50
13.欲深い自分
しおりを挟む「加茂井くんってさ、赤城さんと付き合ってなかったっけ? この前一緒にいるところを見たばかりだけど」
「もしかして、矢島さんが横取りしようとしてるんじゃない?」
「うわぁ~っ! 大人しい顔してやるぅ~っ!! さっすが、ヘッドホン矢島」
――私が考えていたより世間は甘くない。
そう思い知らされたのは、再び湧き出した雑音だった。
今朝加茂井くんと喋りながら登校したせいか、私達の噂はあっという間に広まっていく。
加茂井くんと赤城さんの交際は誰もが知っていた。しかも、二人は自分達が別れたことを誰にも伝えていない様子だし、赤城さんと木原くんは行動を共にしている訳でもない。
つまり、私と一緒に歩いていたことによって加茂井くんのイメージダウンに繋がっている。
2~3時間目の間の休憩時間、私は赤城さんの友達に体育館前に呼び出された。
3人は私の正面に立って腕を組んだまま問い詰めてくる。
「矢島さんってさぁ~、加茂井くんのことが好きなの? 最近よく一緒にいるみたいだけど」
「一方的に想いを寄せるのは勝手だけど、沙理がいるから少しは遠慮したら?」
「浮気するなら隠れてしなよ~」
「あはは、言える~!!」
「きゃはははは!! のどか、それまずいって~」
「……」
私は彼女達に何と答えたらいいかわからずに黙り続けた。
それが半分正解で半分不正解だと伝えても、誰が理解してくれるだろうか。
もし赤城さんが彼女達に加茂井くんと別れたと伝えていれば、また違う展開が訪れていたのかな。これで私が余計なことを言ったら、赤城さんにも火の粉が降りかかってしまう。
だから、このまま黙り続けることにした。
それから3分くらい口を閉ざしていると、彼女達は無言を貫く私に再び詰め寄る。
「黙ってないでなにか言いなよ」
「人の男を横取りしていいと思ってんの?」
「沙理になんの恨みがあるか知らないけど、黙って身を引きな」
無反応だったことが気に食わなかったのだろうか。口調は段々強くなっていく。
しかし、休み時間が終わるまでこの状態を耐え抜こうと思って歯をぐっと食いしばっていると……。
「そこでなにしてんの?」
背後から男子の声が聞こえてきたので振り返ると、そこには渦中の加茂井くんの姿が。
彼はポケットに手を入れたままひょこひょこと歩いて私の横で足を止めると、3人組のうちの1人が彼に詰め寄った。
「加茂井くん、矢島さんにそそのかされてない?」
「……そそのかされてるってなに?」
「沙理がいるのに、矢島さんと仲良くするなんてまずいよ」
「どうして?」
「『どうして?』って……。付き合ってる彼女がいるのに別の女と仲良くするのはまずいでしょ。もしかして、本当に矢島さんと浮気してるの?」
「浮気なんてしてないよ。だって、俺いまコイツと付き合ってるから」
彼はそう言うと、左手で私の肩を抱いた。
すると、3人組はまん丸い目で互いの顔を見つめ合う。
横で聞いていた私自身も恋人関係を公にしていいものかと戸惑っている。
「だって、加茂井くんは沙理と付き合ってるんじゃ……」
「とっくに別れたよ」
「私達は聞いてない!」
「あいつが言いたくないんじゃないの?」
「もしそうだとしても、こんなに早く矢島さんと付き合うなんておかしくない?」
「どうして? 恋愛なんて急に燃え上がるときもあれば、急に冷めるときだってあるでしょ? それと同じ原理。まだなにか聞きたいことある?」
加茂井くんは淡々とした表情で対応をしていると、彼女達は再びお互いの顔を見合った。
「市花……、何か聞きたいことある?」
「ないよ。のどかは?」
「ない。……もう、行こ」
彼女達は不確かな情報に終止符を打つかのように退散していくと、私は緊張がほぐれたせいか身体の力が抜けて膝からストンと座り込んだ。
すると、彼は反応して私の腕を引いて立たせた。
「大丈夫?」
「……いいんですか? 赤城さんの友達に私と付き合ってるなんて言って」
「いまさらビビってんの?」
「いえ。私が心配しているのは、加茂井くんが他の人から責められることです」
「俺、なにも悪いことしてないよ。だから責められる理由がない。沙理とはちゃんと別れてるし、原因も俺じゃない。それに、堂々としていた方が沙理への復讐にもなるから」
「加茂井くん……」
「だから、お前も誰からなにを言われても堂々としてて」
加茂井くんが一点張りの姿勢を崩さないから、私の気持ちだけが置いてけぼりに。
私に気がないことがわかっていても、赤城さんのことが念頭にあるとわかっていても、走り出した恋はもう止まらない。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
1度っきりの人生〜終わらない過去〜
黄隼
恋愛
何回でも人生は繰り広げられると思っていた・・・
ある日、病気にかかってしまった女の子。その子は一生治らない病気にかかってしまう。
友人関係も壊れてしまい…。
オレ様黒王子のフクザツな恋愛事情 〜80億分の1のキセキ〜
風音
恋愛
高校三年生の結菜は父の離職によって母と兄と3人の家計を支える事になった矢先アルバイトがクビになってしまう。叔母の紹介で家政婦バイトが決まったが、その家は同じクラスの日向の家だと知る。彼は俳優業をしながら妹と2人暮らしで学校には変装して通っていた。結菜が同じクラスの杏にパシられてる事を知ってる日向は、自分の気持ちを隠して変わろうとしない結菜の一本結びの髪をバッサリ切り落として変わるきっかけを与える。
※こちらの作品は、エブリスタ、野いちご、ベリーズカフェ、魔法のiらんど、ノベマ!、小説家になろうにも掲載してます。
想い出は珈琲の薫りとともに
玻璃美月
恋愛
第7回ほっこり・じんわり大賞 奨励賞をいただきました。応援くださり、ありがとうございました。
――珈琲が織りなす、家族の物語
バリスタとして働く桝田亜夜[ますだあや・25歳]は、短期留学していたローマのバルで、途方に暮れている二人の日本人男性に出会った。
ほんの少し手助けするつもりが、彼らから思いがけない頼み事をされる。それは、上司の婚約者になること。
亜夜は断りきれず、その上司だという穂積薫[ほづみかおる・33歳]に引き合わされると、数日間だけ薫の婚約者のふりをすることになった。それが終わりを迎えたとき、二人の間には情熱の火が灯っていた。
旅先の思い出として終わるはずだった関係は、二人を思いも寄らぬ運命の渦に巻き込んでいた。
イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜
和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`)
https://twitter.com/tobari_kaoru
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに……
なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。
なぜ、私だけにこんなに執着するのか。
私は間も無く死んでしまう。
どうか、私のことは忘れて……。
だから私は、あえて言うの。
バイバイって。
死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。
<登場人物>
矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望
悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司
山田:清に仕えるスーパー執事
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
通学電車の恋~女子高生の私とアラサーのお兄さん~
高崎 恵
恋愛
通学途中で会うサラリーマンに恋をした高校生の千尋。彼に告白するが、未成年であることを理由に断られてしまう。しかし諦めきれない千尋は20歳になる3年後のバレンタインの日に会いたいと伝え、その日が来るのをずっと待っていた。
果たしてサラリーマンのお兄さんは約束の日に、彼女の所に来てくれるのだろうか。
彼女の終電まで残り7分。あと7分で彼が現れなければこの長かった恋にお別れをしなくちゃいけない。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
『最後の日記』BIRTHDAY~君の声~
OURSKY
恋愛
本当の最後の日記を読んだ時、あなたに届く暗号のメッセージ…
七夕、すれ違う二人の奇跡の約束…現在過去未来が繋がり気付いた不思議な声や日記の切ない秘密とは?
読み進むごとにプロローグや題名、さり気ない言葉の本当の意味に気付く、
〈誰も知らないある歌と、様々な奇跡の出会いから生まれた『明日(あす)への希望』の物語〉
○…春香(はるか)視点、■…悠希(はるき)視点
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる