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第三章 根津家を支える者たち

第38話 タコマンボウの店長、”岩ちゃん”登場!

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 「ユリー、ユリーじゃない!全く、サーマレントに戻ってこないから...心配したんだから!!」

 エメリアが扉の向こう側から声を張り上げた。

 そんなエメリアに対して、ユリーは穏やかな微笑みを浮かべた後...。

 「大丈夫、元気にしているわ。あなたも元気そうじゃない?子供は何人になったの?それにしても驚いたわ。三代目と知り合いだったなんて...。エメリア、あなたやバロンたちと話したい事が山のようにあるけど、それは...今ではないわ」

 エメリアに話しかけた後、ユリーは俺とカーシャに視線を向け 「おかえりなさいませ、三代目。この姿では初めましてですね」と妖艶な笑顔で微笑んだ。

「そちらの方は?」とユリーが尋ねてきたので、カーシャを紹介した。するとカーシャも深々とお辞儀をし、「カーシャと申します。アーレント家三代目当主の娘、サイモンの長女でございます」と丁寧に自己紹介をした。

 ユリーは”ユリーさん”と俺に呼ばれるのを拒み、ユリーの姿の時は”ユリー”と呼び捨てにして欲しいと頼んだきた。

 その後、どこからともなくエリーが現れ、「お姉ちゃん!!」と地球側に飛び込んで来そうな勢いで扉に駆け寄って来た。こりゃいかんとバロンや”飲みつぶ”のメンバーが必死になってエリーを止めた。

 場はエリーの出現により賑わしくなり、先程までの暗い雰囲気がウソのように無くなった。

 そんな中、ユリーはダイスに向かって「私を覚えていらっしゃるかしら、ダイス様?まあ、その話はまた今度にしましょう。現時点ではどうやってもそちらへは戻れないようです。いくら三代目の力を持ってしても無理なものは無理のようです。我々も定期的に調査をしておりますが...。原因は不明です」と語った。

 さらに、ユリーは静かに、しかも有無を言わせぬ物腰でサーマレント側の面々に向かって語りかけた。

 「話したいことはたくさんありますが、三代目に今後の精肉店の方針をゆっくり伝えたいと思います。皆さん、今日はこれで解散とさせて頂きます」

 「ちょっとお姉ちゃん!!せっかく会えたのに、どうし、もぐもぐもぐ...」

 解散と聞き文句を言おうとしたエリーの口を、バロンが素早く塞いだ。さらに、ユリーに向かって静かに問いかけた。「それは友三様の悩みを解消したということか?」

 数秒間、二人の視線が交差する。無言のまま、心の奥底で何かを語り合っているかのようであった。そして...エリーは深くゆっくりと頷いた。

 「その通りよ。バロン。友三様、ひいては三代目の悩みを、我々友三様を追随してきた者たちが大方解消したわ。うまく軌道に乗せれば、"根津精肉店"のみならず、この”柳ケ瀬風雅商店街”をも立て直すことが可能な方法を...」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 その後、やかましいエリーをサイアスが厳しく叱りつけた様だ。”場の空気をわきまえろ”と。どうやら2人は付き合っている様だ...。

 さて、そんな情報はひとまず置いといて、今、俺たち三人は、あれこれしているうちに夜の8時を迎えた。サーマレント組とは別れを告げ、”臨時休業”と乱暴に書かれた紙が窓に貼られた”タコマンボウ”の中にいる。

 「お店を抑えてあります」とユリーに言われてついてきたのは、なんと”タコマンボウ”であった。少し拍子抜けしてしまった。こういう時は、料亭の座敷でひっそりと内密な話し合いをするものだと思っていたのに...まさかの”タコマンボウ”。ま、まあ別にかまわないけどね...。

 だが、一人だけ異様にハイテンションな少女が”タコマンボウ”の店内をきょろきょろと見回していた。地下室を出てからというもの、カーシャは全く落ち着きがない。

 夜の商店街の街並みや歩行者の服装を見て、彼女の興奮は収まることを知らなかった。カーシャは楽しそうに「ここは大都市じゃないですか!太郎様はやっぱりすごいです!!」と、尊敬のまなざしで俺を見つめてきた。

 それに、綺麗で可愛らしいカーシャに商店街の連中も慌てふためき、「ど、どうしたんだい異人さんを連れて...⁉」とこれまた大騒ぎ。色んな意味で”タコマンボウ”。まで連れてくるのに一苦労だった。

 この、感情のコントロールができずに興奮しまくる少女については、別の時に語るとしよう。機会があったらだけどね...。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ”タコマンボウ”の席に座っていると、いつもオーバーオールを着た体格のいい店長、”岩ちゃん”笑顔でおしぼりを持ってきてくれた。気さくで優しく、彼が笑うと顔全体がクシャっとなり、お花畑のような笑顔になる。

 「店長、臨時休業って窓に貼ってあるけど大丈夫?」とおしぼりを受け取りながら尋ねると、岩ちゃんはにっこりと笑って答えた。

 「もちろんさ!今日は超めでたい日だ!何と言っても、俺たちの地元の魚を持って来てくれたんだ!もう二度と味わえないと思っていたあの味が、また楽しめるんだ!こんなに素晴らしい日はないぜ!」

 そう言いながら、岩ちゃんは左手の小指からシルバーリングを勢いよく引き抜いた。

 すると、岩ちゃんの体は瞬く間に拡大し、元の身長と横幅を遥かに超えていった。さらに額には鋭い角が現れた。おいおい、岩ちゃん、一体どういうこと?

 「あら、あなたは獣人さんだったのですね。サイ族の方でしょうか⁉ちょ、ちょっとお待ち下さい⁉も、もしかして、あなた様はあの ”葡萄酒が、お好きでしょう?の”伝説のメンバー、サイ族の”バランさん”ではないでしょうか?」

 カーシャは、目の前の光景に驚愕し、口をパクパクさせながら岩ちゃんを見つめた。

 な、何なの?何が起こったの?

 「そうだけど、よく分かったね?そんなに俺って有名なのかい?」と岩ちゃんはまんざらでもない表情でカーシャを見つめ返した。

 すると、カーシャは興奮したような様子で、「有名も何も、あなたは伝説の存在ですよ!”飲みつぶの”前身のチームに所属し、別世界に旅立った偉大なる盾使い”サーマレントの防波堤”との異名を持つお方です!! ”バランとエメリア、二人の愛の大全集”の第10巻に、あなたのことが詳細に描かれています!!」と、興奮冷めやらぬ口調で岩ちゃんに応えた。

 「ちょ、ちょっとカーシャ落ちついて!」と、カーシャの興奮を冷まそうとすると、気を良くした岩ちゃんが「はいよ!クリームソーダ―だ!サーマレントじゃ味わえない激ウマな飲み物、”まいるぅ~”だぞ!」と言って、カーシャの前にクリームソーダ―出してくれた。

 太い手の中に可愛らしいクリームソーダ―...。なんとなくシュールだな...。

 クリームソーダ―を口に含んだカーシャは目ん玉を大きく見開き、「う、うわ~ぁぁぁぁぁ!何ですかこれは!めちゃくちゃ甘い!そして見た目も美しい緑と白のコントラスト!信じられません!すごく美味しいです!」と感嘆の声を上げた。

 「そうだろう、そうだろう!!美味しいよな~やめられないよな~!!旨さに、まいるぅ~!」

 何だか二人とも息が合いそうだな。でも、自分が獣人さんの店に入り浸っていたとは思いもしなかたっなぁ...。
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