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第一章 根津精肉店復活祭と会長からのお願い。

第6話 異世界名物 オークとの戦い

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 何がなの?もう少し論理的に話して欲しい。根拠は?憶測やノリだけでしゃべっちゃダメだって?
 俺、武術とか習ったことは勿論ないし。何がなんだろう?

 オークっての小説とかじゃ、人間とは異なる生き物で、亜人なんて言われていたと思う。

 身長は3mほどあり、でっぷりと肥えた巨体を持つイメージだ。その姿は、豚のような顔と人間の四肢を組み合わせたもので、手には大きな斧を握りしめていたような...。

 オークは必ずと言っていいほど、異世界ものの小説に登場する。時には仲間となり、敵にもなる。そして、その肉が貴重な食材として扱われたりもする。何はともあれその存在は、異世界の物語に欠かせない存在であることは確かだ。

 親父ほど詳しくないけど。

 「はぁ?俺がオークを倒す?される方だよ!」

 少し慌てふためきながら、エリーの顔を見上げるように言った。

 小中と卓球部に所属し、高校では水泳部、大学はミステリーサークルという訳分からない経歴を持つ俺にとって、オークとの戦闘なんて無理としか言いようがない。

 ガテン系の社長をしている誠也ならチェンソーや長柄ハンマーで、一矢報いることが出来るかもしれないけど...。俺には無理だ―!!

 そんな俺の狼狽ぶりを、エリーはなぜか微笑ましそうに見つめている。

 どういう事?

 「ふふふ。友三さんが言っていたことを思い出したの。友三さんも初めてここ、サーマレントに来た時、自分が地球にいる時よりも強くなった事や、魔法が使えるようになった事に、最初は気がつかなかったみたい」

 俺の慌てた態度がおかしかったようで、笑いながら教えてくれた。

 エリー、笑い事じゃないって。ん?友三さんもここにきて強くなった?ここってサーマレントっていう場所なの?

 「そう、ここはサーマレント。友三さんも、最初に壊れた冷蔵庫からこちらにやってきた時に、ゴブリンキングに襲われたんだって。そして、あまりの大きさや俊敏さ、さらには獰猛ドウモウさに死を覚悟したって言っていたよ。お酒が入ると良く話してくれた。懐かしいな...。でも、攻撃を受けても全然痛くなかったし、お返しにパンチを一撃、腹に食らわしてやったら倒せてしまったわい。わははははは。って笑っていたよ」

 エリーや周りの仲間たちに、友三爺さんは笑いながら話していたらしい。

 一撃って...。ゴブリンキングが弱かっただけじゃないのかな。そう思った俺は「ゴブリンキングって強いの?」とエリーに聞いてみた。

 すると、今までのにこやかに笑っていたエリーが突然慌てたような表情をして、「すごーく強いよ!それも一人で倒す何てまず無理。一撃何て神業だよ!友三さんがいない今、サーマレント内でゴブリンキングを倒せるのは、討伐隊くらいかな?でも無事にとはいかないと思う...もちろんタロウは別としてね」と、すごく早口で教えてくれた。

 首も左右にブルンブルン振っている。慌てた姿も可愛い。

 よく聞いてみると、ゴブリンキングは体長4m位あり、美味しく頂いたオークよりもさらに、1mほど大きいらしい。体重も1.5倍ほどあるらしいし。
 
 それにその能力もけた違いらしい。500kgぐらいの岩なら簡単に投げ飛ばせ、更に俊敏性も高い。そして何よりも、他のゴブリンを支配する頭脳も合わせ持つらしい。

 すげーな、友三爺さん。そんな恐ろしいゴブリンキングをワンパンかよ。漫画かよ。そしてさりげなく最初っからキングを倒すなよ。

 でも、それが本当なら、俺にも魔物を倒すだけの身体能力や魔法が身についたってことかな?でも何の実感もないけどな。

 「じゃあ今度、少しこちらの世界に慣れたら、オークでも狩りに行こうかな?なんちゃって。ははははは」

 エリーに笑いながら伝えた。

 「うん。今度と言わずに、今から狩りに行こう。ほら、オークの方からこっちに向かって来ているもの。よかったね。3頭いっぺんに狩れるよ。肉が大量に手に入るよ」

 はあ?何可愛い顔でさらりと言っているの?今から、しかも、オークの方からこっちに向かって来ているって、涼しい顔で言っていない?

 か弱そうに見える女性と非力なサラリーマンが襲われたら、俺は瞬殺され、それこそエリーはお持ち帰りされちゃうんじゃないの?

 何でそんなに冷静でいられるの、エリー?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 そういえば何となく危険な気配を感じていた。何この感覚?第六感?そして急に戦闘?展開が速くない?

 本当に俺は、強くなっているの?戦える力があるの?

 「タロウはこっちの世界に来て魔力を大量に体内に吸いこんだから、魔法が使えるようになったのよ。だから、魔物の気配を何となく感じ取れるの。あと、魔力で身体強化もされたはず。オークぐらい平気よ。なにしろ、友三さんのお孫さんだもん!」

 サーマレントに降り立った時の、全身の毛穴から吸い込んだあれね。あれは魔力だったのね。

 吸いこんだ記憶はあるけれど、だからと言って身体強化された実感もないし、魔法も使える気が、さっぱりしないんだけど...。

 そんなことを思っているうちに、オークがすごい雄叫びを上げながら俺達に迫ってきた。仲間を食われて怒っているのかな?

 小説とか漫画に描かれている豚の様な顔をして、俺よりも1m程でかく、筋骨隆々の緑の化け物3頭が、よだれを垂らしながら襲ってきた。おいおい、デカいのは縦だけじゃなくて、横にもデカいじゃないか?巨大な丸い大玉が凄い勢いで迫ってくるようだ。

  更には手には斧を持ち、目が血走っている。こわ!!それに、3m以上ある巨体とは思えない俊敏さだ。

 こんな生き物と戦うの?無理だってと泣きたい。でも...。エリーの言葉を信じるしかない。友三爺さんのように俺も強くなっていることを信じて戦うしかないな。だけど、武器を持っていないじゃん...。こんな状況で戦うの?

 「エリー、俺...武器を持っていないけど?」と、エリーに聞くと、「今のタロウなら、オークに武器なんていらないよ」と、腕の目の前に自身のか細い腕を突き出して笑顔で言ってきた。

 要するにパンチで殴り倒せという事ね...。一応やってみるけど、本当に倒せるのかしら?倒される未来しか見えないんだけど...。

 もうやるしかないなと覚悟を決めた。1頭のオークに照準を絞り、カウンター気味に渾身の右ストレートをオークの左頬部に食い込こませた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 すると、俺のパンチをまともに喰らったオークは、なんと、5mほど先の大木までを吹き飛んだ。

 しかも、オークの動きがゆっくりに見えた。そしてオークを殴った腕も痛くない。一頭300kgぐらいはありそうなオークを殴ったのに...。

 どんだけ俺は強くなることができたんだ?

 やばい自分の力に惚れてしまう。ぼーと自分の力に酔いしれていると、俺の後ろの方から残り2頭のオークが、叫び声をあげながら襲いかかってきた。

 「ほらタロウ、ぼーとしていちゃ危ないよ。エアーカッター!!」

 エリーは、"エアーカッター"という言葉を発したように聞こえた。魔法?魔法なの?何はともあれ、目の前の残り2匹のオークを胴体から真っ二つに切り落とされ、生命を終わらせたようだ...。

 強よ!エリー!!瞬殺じゃんか?それともオークが弱いのか?もう感覚がおかしくなる。
 
 エアーカッターって日本でいう、"かまいたち"みたいなものかな。見えない何かがオークに向かって行ったのは分かったけど、いきなりあの巨大なオークが真っ二つになるなんて...。

 オークも何が起こったか分からな間に死んだんだろうな。まあ、ある意味苦しんで死ぬことを思えばよかったのかもしれない。

 「太郎、お疲れ様。3頭分のオーク肉が手に入ってよかったね!表面の皮をはがして、血抜きをしておくといいよ!」

 エリーはさらりと言った。

 「皮切り包丁を、持っていないのなら貸すよ?」と、また訳の分からない事を言ってきた。

 何?皮をはがす?血抜き?こっちでは、当たり前なのかな?俺は3流のサラリーマンですよ。もちろん皮切り包丁は持っていません。

 「解体や血抜き、皮のはがし方など、やったことがないから分からない」

 俺が屍になったオークを見て、呆然としていると.エリーが教えてくれた。

 美しく可愛らしいハリウッド女優顔負けのエルフが、皮切り包丁を手に持ち、血まみれになりつつも、笑顔で肉をさばいている姿は、何とも言えない恐怖感をカモし出していいる。

 手慣れた様子で鼻歌を歌いながら、あっという間にオーク肉の血抜きと、解体作業を終わらせた。

 「タロウ、とオーク肉に向かって唱えてみて」

 エリーが言ってきたので、教えられるがままに、肉の塊に向かって言ってみた。

 「アイテムボックス!」

 ブーンという音とともに、どこかに消えてしまった。

 おい、どこに消えた、俺のお肉ちゃん~!!!
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