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第七章 |老舗酒蔵の次男、麹で覚醒する

老舗酒蔵の次男、麹で覚醒する 其ノ弐拾参

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幸民の家に戻ると、「きっちゃん!おかえり!」と真っ先に夏が駆け寄ってきた。

「においが近づいてきていたから、そろそろかなと思ってた!体調わるい?大丈夫?」

そういってぎゅうっと着物の裾を掴む。

「突然申し訳なかったな。なんの問題もない。そちらは……」

「おおおお!おいおいおいおい!鮨じゃん!なんで鮨食ってんの?」

喜兵寿の言葉をさえぎるように、直が大声で叫ぶ。見れば膳の上に色とりどりの寿司が並んでいた。

「松の鮨とは馴染みでな。屋台を横付けして握ってもらった。つるがいる手前、おいそれとは食べに行けないからな」

幸民がお猪口を傾けながら、にやりと笑う。

「まじかよ!師匠すげえな!鮨屋呼ぶとか富豪じゃん」

「鮨屋なんてこんな庶民の食べ物、大したことはない。まあ、松の鮨は鮨屋の中でも別格だから、家に呼べるやつは他にいないと思うがな」

「ほうほう!さすが師匠!ありがとう!」

直はドヤ顔の幸民の横に座ると、「いっただっきまーす!」と勢いよく食べ始めた。

「うおおおお。ひさしぶりに食う鮨はやっぱうめえなあ!鮪に穴子、これは小肌か?いいね。うまいね。それにしても、ちょっとでかくないか?」

ずっしりと重さのある鮨は、握り飯くらいの大きさがある。いろいろなネタを食べたいのに、これじゃあすぐに腹いっぱいになってしまいそうだ。

「なにいってんだ。昔から鮨はこの大きさだろ。仕事帰りに、ちょちょっと腹を満たして帰る。これが鮨の楽しみ方」

喜兵寿の言葉に、直は「まじか……」と呟いた。そんな牛丼かき込んで帰る、みたいな気軽さで鮨を食べるなんて聞いたこともない。直がびっくりしていると、家の外から「小西さま~、小西さまはいらっしゃいますか~?」と声がした。

「お、頼んでいたものが届いたようだ」

何事かと皆が外の様子をうかがっていると、小西はたくさんの日本酒、そして膳を抱えて戻ってきた。

「下の町では深川八幡前の『伊勢屋』がうまいと聞いておったからな。一度口にしてみたくて頼んでみた。ついでに浮世小路の『百川』の料理も頼んでおいたから、もう間もなく届くだろう」

涼しい顔で料理を並べる小西をみて、喜兵寿は思わず叫んだ。

「伊勢屋に百川って……下の町の高級料亭じゃないですか!」

「ああ、そうなのか?」

「そうですよ!あの店が家まで料理を届けてくれるなんて話、聞いたことありませんよ」

喜兵寿が震えながら言うも、小西は「ならよかった」と薄く笑っただけだった。

「昔馴染みが下の町にいてね。うまい店があるというからお願いしてみたんだ。つるはずっと家にいるのだろう?たまにはうまいものでも食って、息抜きしてほしくてね」

その言葉を聞いた幸民は「ぐぬぬぬぬぬぬぬ」と、噛みつかんばかりの形相で小西を睨みつけた。

「別につるは息など詰まっておらんわ!」

「そうなのか?ならよかった。こんな狭い家に閉じこもらなければならないから、ワシはてっきり」

二人のやりとりを見ながら、直はこっそりと喜兵寿に耳打ちをした。

「にっしー、悪気なくナチュラルにマウント取るタイプだな。こりゃあ犬猿の仲にもなるわけだ」

「お前の言ってることは正直半分くらいわからんが、言いたいことはよくわかるぞ」
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