上 下
104 / 113
第七章 |老舗酒蔵の次男、麹で覚醒する

老舗酒蔵の次男、麹で覚醒する 其ノ拾陸

しおりを挟む

しかし何度やっても結果は同じだった。いままで出たことのない「渋み」が麦汁の中を占拠してくるのだ。

3度目の麦汁に口をつけている際、つるが「ひょっとしたらわたしの麦芽つくりに問題があったのかもしれない……」と呟いた。その表情は暗く、落ち込んでいるのが見てわかる。

まったく見たこともないものを、ひとりで作ったのだ。そりゃあ心配にもなるだろう。直はつるの肩をバンバンと叩くと、「麦芽に問題はない!見ればわかる!」と明るく笑った。

そう、麦芽の作り方自体には問題がないはずなのだ。それはつるの几帳面さが見て取れる仕上がりで、直の指示通りにきちんと管理されているのがわかった。だとしたら、この渋みの原因は一体どこからくるものなのか……

直が考え込んでいると、台所脇のがガタガタと動いた。誰かが外からのぞき込もうとしているのを察し、喜兵寿と幸民、そして小西は身構える。

「誰だ!」

死んだことになっているつるは、慌てて物陰に隠れる。まさか村岡に居場所がバレたのか……いつでも飛び掛かれるよう全員が警戒する中、障子が開いた。

「きっちゃああああああん」

そこにいたのは夏だった。大きな目を見開いて、真っ赤な顔をしている。

「……夏!?なぜここに?」

喜兵寿と直がここにいることは、誰にも言ってないはずだ。

「きっちゃんのにおいがしたから!帰ってきたんだねええええ」

そう言うと、夏はぼろぼろと泣き出す。

「そうだ、夏は喜兵寿の居場所がにおいでわかるんだった!GPSいらず!すげえな」

けらけらと笑う直の横で、喜兵寿は困り顔であたふたとしている。

「なにもそんなに泣くことはなかろう」

「会いたかったあああああ。きっちゃん……つるちゃんが、つるちゃんが……」

「つる」という名前を口にしたとたん、夏の声は悲鳴に代わる。

「わたし、つるちゃんを守れなかった。ごめんなさいいいいい」

そう言って夏は泣き崩れる。

「いや、夏、つるは……」

口を開きかけた喜兵寿の腹を、横から幸民が殴った。

「どこで誰が聞いておるかわからん。迂闊に口にするでない」

「……はい」

するといつの間にか外に出ていた小西が、夏を担いで戻ってきた。

「やめて!わたしには心に決めた人がいるの!」

ぎゃあぎゃあと騒いでいた夏だったが、部屋の中にいるつるの姿を見た瞬間、完全にその動きが止まった。口をあんぐりと開けたまま、目を白黒させている。

「うるさい奴だな。騒ぐと人が集まってくるだろ。死人を見られたら大変だ」

幸民はそういうと、にやりと笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

婚約破棄をなかったことにする、たったひとつの冴えたやり方

杜野秋人
大衆娯楽
社交シーズン終わりの、王宮主催の大夜会。そのさなかに王子がやらかした。 そう、長年の婚約者に対して婚約破棄を突きつけたのだ。 だが、それに対して婚約者である公爵家令嬢は小首を傾げて、そして人差し指をスッと立てた。 「もう一度言ってほしい」というジェスチャーだ。 聞き取れなかったのならばと王子は宣言を繰り返す。だが何度も聞き返され、ついには激高した。 「なんで聞き取れへんのやお前ェ!この距離やぞ!」 ◆単話完結の読み切りショートショートです。読めば分かりますがただのコメディです(笑)。 思いついてしまったからには書かずにおれませんでした。 ◆一応は異世界設定ですが、普段の作者の世界設定とは無縁ということでお願いします(笑)。 ◆この作品は小説家になろう、及びカクヨムで先行公開しています。

親戚のおじさんに犯された!嫌がる私の姿を見ながら胸を揉み・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
親戚のおじさんの家に住み、大学に通うことになった。 「おじさん、卒業するまで、どうぞよろしくお願いします」 「ああ、たっぷりとかわいがってあげるよ・・・」 「・・・?は、はい」 いやらしく私の目を見ながらニヤつく・・・ その夜。

「学校でトイレは1日2回まで」という校則がある女子校の話

赤髪命
大衆娯楽
とある地方の私立女子校、御清水学園には、ある変わった校則があった。 「校内のトイレを使うには、毎朝各個人に2枚ずつ配られるコインを使用しなければならない」 そんな校則の中で生活する少女たちの、おしがまと助け合いの物語

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜肛門編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショートの詰め合わせ♡

処理中です...