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第七章 |老舗酒蔵の次男、麹で覚醒する

老舗酒蔵の次男、麹で覚醒する 其ノ捌

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「幸民先生、いらっしゃいますか」

扉を叩くも、幸民の家は静まり返っていた。「不在か。出直そう」という喜兵寿をよそに、直はしつこく扉を叩き続ける。

「おっちゃーん!いないのかー?」

しばらくすると、中からくぐもった声が聞こえてきた。

「……誰だ」

「なんだよ!いるんじゃん。直だよ、直!無事ホップを持って帰ってきたぜ」

直の言葉に引き戸はガタガタと揺れ、中から驚いた様子の幸民が現れた。

「一体どういうことだ?戻ったなどという知らせは聞いていないが……しかしたしかにそろそろ日数的には戻ってくるであろう頃だなとは思っていたが……」

幸民は小声でブツブツと独り言を続ける。目をきょろきょろと動かし、落ち着かなげに歩き回る。

「いまほっぷといったな。そうか、やはりわたしの仮説は正しかったというわけか。早速だが、ぜひそのほっぷとやらを見せてもらおうか……」

そう言って顔をあげた幸民は、直の背後にいた小西を見つけた。

「……っ!」

目を見開くと、後ろに飛び退る。

「川本幸民。ひさしぶりであるな」

小西が挨拶をすると、幸民はものすごい勢いで扉を閉めた。

「え?どうした?!なんだよ、2人知り合いなのか?」

慌てる直を尻目に、小西は表情を一切変えず、「まあ、古い知り合いだ」と頷いた。そのまま黙りこくる小西に痺れを切らし、直は喜兵寿に耳打ちをする。

「……知り合いにしては仲悪そうすぎだろ!」

「本当にな……どうする?俺が幸民先生を呼びに行こうか」

二人がこそこそと話していると、扉が勢いよく開いた。

「おう、小西じゃねえか!いったい何の用だ!」

酒を注入してきたのであろう。再び姿を現した幸民は「虎モード」になっていた。

「前に言ったよな?!二度と俺の前にその面見せんじゃねえってよぉ!どの面下げてここに来やがった」

「ワシは喧嘩をした覚えなどない。毎回お主が一方的に突っかかってくるだけであろう?」

「はあ?!ふざけんな!」

ガルガルと牙をむく幸民をスルーし、小西は箱の中に入ったホップを差し出した。

「今日も喧嘩をしにここに来たわけではない。ワシも一緒にびいるを造ることになったんだ」

「……これは?」

「ほっぷだ。たまたま清から仕入れたものがワシのところにあってな」

幸民はホップをしばらく見つめ、「入れ」と大きなため息をついた。

「なあなあ、にっしー。おっちゃんとめっちゃ仲悪そうだけど、昔何かあったのか?」

直がこそこそと小西に聞く。

「やつとは蘭学塾の同期でな。学問でも技術でもワシに勝てないことが気に入らなかったのだろう。常にあんな感じだった」

「ええええ。それだけ?!おっちゃんどんだけ負けず嫌いだよ」

直の声に幸民がぎろりと目をむく。

「おい、何か言ったか?」

「別になにも!」
「だったらさっさと入れ。今は余計な騒ぎは起こしたくない」
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