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第七章 |老舗酒蔵の次男、麹で覚醒する

老舗酒蔵の次男、麹で覚醒する 其ノ壱

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「そんなわけがないだろう」

つるは口こそ悪いが、曲がったことは大嫌い。情に脆く、人のために涙を流すような女だ。そんな馬鹿正直な妹が罪を犯すなんて、どう考えても信じられなかった。

「それは何かの間違いだろ。新之亟、夢でも見たんじゃないか?」

喜兵寿は「あはは」と声を出して笑ったが、新之亟は量の手を地についたまま、首を振り続けている。

「……それに捕まったとしても、そんなすぐに打ち首になるわけがないだろう?」

話しながら、自分の声がだんだんと震えていくのがわかった。新之亟に嘘をついている様子はない。肩を震わせながら、時折嗚咽を漏らしているのだ。

「まさか……本当に打ち首に……?」

脳裏に、同心である村岡の狡猾そうな顔がふっと浮かんだ。

「はい。5日程前に捕まり、その翌日には打ち首に……」

新之亟は苦しそうに言葉を吐き出す。

この数週間で一体何があったというのだ。

喜兵寿は頭からさあっと血の気が引いていくのを感じた。体が小刻みに震え出し、そのまま船べりに座り込む。

「おい大丈夫か!喜兵寿!」

ふらつく喜兵寿に、直は急いで駆け寄った。

「……すまない」

喜兵寿の手は氷のように冷たかった。

「にっしー!ちょっと喜兵寿を頼む!」

直はそう叫ぶと、ひらりと船を飛び降りた。

「おい、あんた誰だか知らねえけど、その話本当なのか?!もっと詳しく教えてくれ」

新之亟の話によればこうだった。

5日程前の夕暮れ時。仕事終わりの新之亟が柳やに向かうと、道に人だかりができていた。

「おいおい、なんの騒ぎだい?」

もとより噂好きの新之亟だ。顔を突っ込み、近くにいたおじいに話しかける。

「いやワシもよくわかないんだが、どうやらこの店の娘がなにかしでかしたらしいな。同心を引き連れたお偉いさんが来ているようじゃ」

「は?この店って、ひょっとして柳やのことか?!」

新之亟は慌てて人ごみの中に割って入る。娘というのは、恐らくつるのことだろう。ぎゅうぎゅうと人を押しのけ進むと、真黒な羽織の男たちの背中が見えた。数十人はいるだろう。こんな大人数の同心が一挙にくるなんて……ただ事でない雰囲気に、心臓がバクバクと早くなる。

男たちの足元に、つるがうずくまっているのが見えた。額を地面につけ、必死で「何かの間違いです!」と叫んでいるのが聞こえる。

新之亟は助けに行かねば、と一歩踏み出そうとしたものの、次の瞬間には足が凍り付いて動けなくなってしまった。

刀が。何十本という刀がつるに向けられていたのだ。一歩動けば血が吹き出そうな距離で、つるに向かって冷たい光を放っている。
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