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第六章 | クーデレ豪商の憂鬱と啤酒花
クーデレ豪商の憂鬱と啤酒花 其ノ拾壱
しおりを挟む「今年も無事に光が酒に入ってくれた、か」
喜兵寿の語る祖父の言葉を聞き、直は何かひっかかるものを感じた。ぶっ飛んだ話だが、なんだか最近似たような話を聞いたような気がする。ん~どこでだったっけかなぁ……直は程よく酔いのまわった脳みそをフル回転させる。
「そうだ!酒の神か!」
突然叫んだ直に、喜兵寿と小西は何事かと振り返る。しかし直はそんな2人を気にも留めず、立ち上がるとジャンプをし始めた。
酒の神は降りてくる 降りてくることで酒が醸される
喜兵寿とつるが話していたことを思い出す。
「そうだよ、どこかで聞いた話だと思ったら、酒の神の話に似てるんだよ。降りてくることで酒が醸されるんだとしたら……」
「おい一体どうしたというのだ?気でも触れたか?」
小西は心配そうに喜兵寿に耳打ちをするも、喜兵寿は「おかしいのはいつものことです」と日本酒を煽った。
「さっきにっしーは『酒を飲んでいる人を見ると、その後ろに色が見える』と言っていた。酒を飲んでいるやつ限定で見えるってことはつまり……」
直はひときわ高く飛ぶと、「わかった!」と叫んだ。
「にっしーはさ、酵母が見えてるんだよ!」
本来酵母なんて目には見えるものではない。でもこうやってタイムスリップなんておかしなことが起こるぐらいだ、実は世の中に不思議なことなんて溢れているのだろう。
「こうぼ?」
首を傾げる小西に対し、喜兵寿が「あの酵母か!」と表情を変えた。ビール造りに関わる一連の流れを把握している喜兵寿は、とたんに造り手の顔になった。
「酵母は『酒を完成させてくれる生き物』!本当は見えないくらい小さいんだけど、たぶんにっしーにはそれが見えてるんだよ」
直は興奮して話を続ける。
「酒と一緒に酵母も飲み込んでいるから、その人の息からまた出てくる……とかあんのかもしれないな。だから体を通った人間の善悪に応じて色が変わる、とか!えええ、これまじだったらめちゃすげえな!」
「確かにそれはものすごい才ですね。酒造りをするために生まれてきたようなものだ」
二人の言葉に小西は驚いた顔をしていたが、しばらくすると急に目頭を押さえた。
「……っ」
急に声を詰まらせた小西を見て、「にっしーどうした?!」と直が駆け寄る。
「……このような話を信じてもらえるとは思わなかった」
見れば下を向き、ぼろぼろと涙をこぼしている。
「この力を使ってここまで来たといえ、何度も自分の頭はおかしいのではないかと疑ってきた。人には見えぬものが見える、ということは恐ろしいことだ。それを愚直に信じてくれるだけではなく、ここまで褒めたたえてくれるとは……」
冷静沈着、何事にも動じなさそうな小西だが、力のせいで心を砕くことも多かったのだろう。
「ワシの造った酒を褒めてくれ、さらにこのおかしな話すらも受け入れてくれた。お前たちの後ろに見えている色を信じ、打ち明けて本当によかった」
「そっか、にっしーもいろいろ大変だったんだな」
直が背中をぽんぽんっと叩くと、小西は顔をあげ「感謝する」と深々と頭を下げた。
「取り乱してすまなかった。こうぼとやらの話、もう少し詳しく教えてもらえないだろうか」
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