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第五章 | 樽廻船の女船長、商人の町へ行く

樽廻船の女船長、商人の町へ 其ノ弐拾捌

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「それだ!」

あきちゃんの言葉に、喜兵寿がガタリと立ち上がる。

「それだよ!それ!それほっぷだよ!堺に来たはいいものの、こんなにすぐに見つかるとは思ってもみなかったよ。おい!やるな!なお」

喜兵寿に肩を組まれ、なおは満更でもなさそうに笑う。

「おう。まあな!俺はここぞというところで持ってる男だからな。あきちゃんと目が合った瞬間に、この人は何か知ってるんじゃないか!?とビビッときたわけよ」

「おいおい、そりゃあないだろ!いやでもよくやったよ。でかした」

喜びじゃれ合う二人を尻目に、ねねはあきちゃんに話しかける。

「ねえ、堺の町の薬屋ってひょっとして小西屋?」

「なんや、小西の旦那さん知っとるん?せやで、堺筋の『道修町薬種屋仲間』の小西さんな」

あきちゃんの言葉を聞いて、ねねは絶句した。

「道修町薬種屋仲間」とは数十年前に堺商人・小西吉右衛門が薬種屋を開き、そこから多くの薬種商たちによって形成されてきた団体だ。お上からの公認を得ており、堺商人の間でも強い力を持つ。

外の国から運ばれてくる唐薬種の真偽を見分け、価格を定め、国全土に売り捌く元締め的な存在であり、その幹部ともなれば藩の領主に口を聞くことができる程。小西はその団体の頭だった。

そして……

小西屋には常に薄暗い噂がつきまとっていた。堺の町を裏で取り仕切っている、だとか商店から不当な金を巻き上げているだとか……表舞台に顔を出すことはほぼない小西の存在は謎に包まれており、「小西さん」などと気安く呼べる存在では到底なかった。

「こりゃあ、ほっぷも見つかったも同然だな!」

小躍りする二人を見て、ねねは大きくため息をついた。ほっぷは見つかるかもしれないが、それを買うことは容易ではないことは確かだ。

「ねえあきちゃんさん、道修町薬種屋仲間から唐薬種って買えるものなの?」

「さあ、どうなんやろ……ま、大丈夫やない?小西さんやし」

「いやいや、そんな気軽な話じゃないでしょ。だってあの小西屋よ?唐物問屋はただでさえ出入りできる人が限られているというのに、その中でも薬種屋は特に制限が厳しいはずで……」

どう考えたって、呑気すぎる。ねねは事の大変さを伝えるため必死に説明するも、あきちゃんを始め、喜兵寿もなおも「まあなんとかなるって」と一向に取り合おうとしなかった。

「あー!もう知らないからね!!!」

そしてねねの言葉通り、くるみ餅屋を出た足で向かった道修町薬種屋仲間で門前払いをくらうことになるのである。
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