宵どれ月衛の事件帖

Jem

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第12章

ふくごの郷12朝顔の陰で

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 田舎の家は早朝から動き出す。2人が戻った村長宅でも、夜明けと共に女中達が立ち働く気配が感じられた。

 「とんだ“肝試し”だったな。少し朝寝させてもらおうか」

 客の特権で、それくらいは…と、月衛が烈生を振り返る。途端に、熱い腕に抱きすくめられた。荒い吐息が月衛の首筋をくすぐる。

 「烈生!?」

 せっかく直した襟の中に、急くように手が入る。

 「烈生…あっ…人目が」

 もう、朝だというのに。人の気配が、月衛の羞恥心を撫で上げる。

 「君は…あんな顔を見せられて、俺が平気でいられるとでも思っているのか?」

 耳朶を甘噛みされて、月衛がもがく。どの顔のことだか全く月衛は自覚していないが、その羞じらう様は天下一品の阿片だ。

 「ああ、月衛…」

 金色の野獣に首筋を噛まれて、月衛が小さな悲鳴を上げた。

 「烈生…ここでは駄目だ。お願いだから」

 もっと人目につかないところで、と可憐な唇が哀願する。烈生がぐるりと庭を見回し、月衛の手首をむんずと掴んだ。もう片手で慌てて襟を直す月衛を引っ張って、軒に立てかけられた朝顔の棚陰に連れ込む。月衛の両手首を壁に押し付け、鎖骨に舌を這わせた。

 「あっ…あ…」

 切なく忍び泣くような喘ぎが、烈生を昂ぶらせる。昨晩で何度、身を滾らせたことだろう。人の気も知らないで、花など追って。烈生の膝が月衛の両脚を割り、筋肉質な太腿が股間を荒々しく擦る。

 「う…ぁっ…烈生!」

 月衛の涙声に、ハッとした。

 「手首が痛い」

 気がつけば、細い手首は烈生が握りしめた形に赤らんでいた。

 「すまない…」

 手首を解放し、今度は優しく抱きしめて口づける。

 「今日は、いつにも増して激しいな…」

 月衛の手が烈生の裾を割り、膨らんだ褌を撫でた。

 「君が悪い。一晩中、俺を誘惑して」

 烈生が、荒い吐息の隙間から囁いた。

 「心外だな…俺はミステリー研究会の取材に行ったんだが」

 澄ました声とは裏腹に、藍色の宝玉は愛欲に濡れていた。

 「ああ…月衛…」

 毎晩のように身体を求められて3年。月衛の手はすっかり烈生の好みを覚え込んでいる。烈生を愛撫しながら、唇を合わせた。身体の奥が熱を持ってうねり始める。

 ――ほしい。ほしい。

 俺は違う、と頭を振る。烈生から求められれば身体を開くが、将来のある彼を自分が欲するなんて。そんな淫らな、弁えもない欲望など認めたくはなかった。

 「月衛」

 暗赤色の髪が、首筋をくすぐる。おもむろに片脚を持ち上げられ、月衛は壁に背を預けた。

 「今日も…いいか?」

 嗚呼!彼は夜毎に、そう確認するのだ。月衛のふしだらな望みを浮き彫りにするように。

 「…君なら、いつでも構わない」

 羞恥に震える声が、微かに応えた。

 「よく言う…場所を選んだ、その舌で」

 くっと喉奥で笑う声が聞こえた。はしたなく脚を広げたまま、月衛は瞳を逸らした。
 3年抱かれて、毎晩のように乱れ咲き、なお清かなのは月衛の性分なのだろう。烈生は、月衛の羞らいを宥めるように軽く口付ける。が、それもやがて激しく月衛の肌を求め始めた。

 ――ああ…っ、あっ…

 脳髄が恍惚に溶け崩れていく。あられもない声を立てそうになって、きゅ…と己の指をくわえた。

 「ふ…う…っ」

 身体が、待ち望んだ刺激に下腹を震わせる。

 「月衛…月衛!」

 白い肌を滑る、熱い掌。

 ――ああ!烈生!

 紅潮した目尻から涙が零れた。



 潤む視界の中に、涼やかな朝顔の花が揺れている。

 「ぅ…く…っ!月衛!」

 烈生の呻き声。抱きしめられると同時に、烈生が弾けたのだと気づいた。

 ――ああ…愛している…烈生…。

 烈生には禁じておいて何を言うかと、僅かに残った理性がせせら笑った。
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