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束縛型ヤンデレ・芝里タイチと、豪放磊落彼氏・蒼井ユウゴの場合
②-2
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「よう、ノブ! よく来たな」
「お邪魔するぞ、蒼井さん。……めけとノコは?」
「嬢ちゃんたちはまだ帰ってねえぞ。学校の友達と遊ぶ……ふりして、街で情報収集だそうだ」
チアキとケイが勉強会をしていた同日、放課後。学校から少し離れた住宅地にある安アパート――蒼井ユウゴの自室に、ノブユキは、寮に外泊許可を得た上でやってきていた。
「そうか……、なら、話はめけたちが帰ってからにしよう。……と言っても、これと言って進展はないんだけどな」
「ウチの学校に、強い闇の魔法使いの気配がある……だったか? 俺もそれとはなしに探っちゃいるが、さっぱりわからねえんだよなぁ……」
「うん、俺もだ。やはり、妖精でないと探知は難しいのかもしれないな。めけたちが学校に入れればあるいは……」
「妖精姿じゃ目立っちまうし、かといって、ウチは男子校だもんなぁ。……めけ嬢ちゃんなら、男装すりゃ入学できる気もするけどよ」
「でも、記憶操作はノコがいないと難しいんだろう? そもそも綺羅星女学院での調査も終わってないし……俺達の感覚をもっと研ぎ澄ませるしかないのかな」
今日、ノブユキがここにやってきたのは、魔法少女としての活動のためだった。彼のパートナー妖精であるめけ、そしてユウゴのパートナー妖精のノコは、現在ユウゴの家に居候している。皆で今後の方針について相談すべく、集まることにしたのだ。
――そもそも、妖精たちがこの世界にやってきたのは、彼女らが過ごしていた国……光の女神が治める国が、闇の神の手下に襲撃されたせいだった。
本来、この世界に封印されていた闇の神は、眷属である悪魔を生み出すことも使役することもできないほど弱まっているはずだった。それなのに、突然現れた悪魔たちが光の国を襲い、国を守る強い力を持った妖精を宝石の姿に変えてしまうと、そのまま奪い去ってしまったのである。
なんとか逃げ延びたのはめけとノコの二人だけ。光の女神も酷い傷を負い、治療のために姿を隠すことになった。その間に、奪われた仲間を取り戻し、緩んでしまった闇の神の封印を再度施すためにと、彼女たちはやってきたのである。
闇の神を封じるには、彼女たちの力だけでは足りなかった。しかし、この世界の人間の心の力と合わせれば、妖精の魔法は何倍もの力を発揮できる。そのために彼女らはノブユキやユウゴと契約し、自分たちの力を貸し与え、共に戦うパートナーとなったのだ。
現在、めけとノコの二人は、人間のフリをして綺羅星女学院という女子高に通っている。その学校から妖精の気配――闇の神により力を宝石にされて奪われ、魂と体だけになってしまった仲間の気配を感じたからだ。
彼女たちの目的は、力を奪われた仲間を保護して、闇の神に奪われた力を取り返すこと。そうして全ての宝石を、仲間を取り戻して、皆で闇の神を再封印するのだ。
「……はやく、見つかるといいな。トパーズの妖精さんと、エメラルドの妖精さん」
「ああ。つっても……本人が見つかっても、力が取り戻せねえんじゃどうしようもねえけどな」
「ヤンデリオ……闇の魔法使いたちの力は、やっぱり、めけの仲間から奪った『宝石の力』なのか……?」
「その可能性が高え、って、嬢ちゃんたちは言ってたな。俺の彼氏もあの妙ちきりんな衣装にオレンジの宝石のブローチをつけてやがったし、それに、チャイナ服の魔法使いも赤い石のピアスをしてやがった。ありゃ、行方知れずのノコの兄貴とやらの力かもしれねえ」
「……だとすると、疑問がある。ジェラシィ……以前遊園地で会ったあいつはどうなんだ? 宝石にされた妖精は、トパーズとエメラルドの二人だけ。それと、元々体と力を切り離してたルビーの宝石が盗まれたんだろう。あいつの服には、紫の宝石がついていたけど……」
「闇の神も、宝石から悪魔を作れるって話だぜ。ひょっとしたら妖精がいねえ……最初っから闇の神の手下になるよう作られた力なのかもな」
「……そうか」
先日の、闇の魔法使いジェラシィとの共闘を思い出し、ノブユキはわずかに表情を曇らせた。
彼らは闇の魔法使い側の事情をほとんど知らないが、それでも、ユウゴの恋人の一件や、対となる光の魔法使いである自分たちの存在から、闇の魔法使いの正体もこの世界の人間なのではないかと推測していたからだ。
もしも、あの善良そうな青年が、闇の力に操られて魔法使いをさせられているのならば、それはヒーローとして放っておくわけにもいかないだろう。
「なんでぇ、あのボウズが気になんのか?」
「んなっ、違う!! 俺は八雲一筋だ!! ……あっ、い、今の言葉は八雲には内緒にしてくれよ!?」
「わーってるって、そういう意味で言ったんじゃあねえよ。おまえさん、ほんとにチアキのこと好きだよなぁ……」
魔法少女として戦うようになり、仲間に隠し事をしたくはないと、ノブユキは自身の恋慕について赤裸々に語っていた。チアキの前ではクールぶって隠しているだけなのだ。
彼のベタ惚れっぷりに呆れつつ、ユウゴは続ける。
「俺も、あの闇の魔法使いのボウズのことは気になってたんだよ。軽く話してみたんだが、俺から見ても妙っつーか……ウチの彼氏がおかしくなっちまったときと似たような、ゾワッとする感じがしたんだよな……」
「……俺も。少し話してみて、彼は、悪い人間ではないように感じたんだ。俺のストーカーを名乗っていたが、それももしかしたら勘違いというか……言葉の綾なのかもしれないし。もし、良い人なのに闇の神に利用されているなら、俺は彼を助けたい」
「相変わらずのヒーロー気質だねえ。立派だが、あんまりこっちの活動にかまけてばっかじゃあ、チアキに愛想つかされちまうぞ~?」
「なッ……!? そ、それはっ、その!! 俺だって、最近せっかく八雲と仲良くなれたのに、一緒に過ごせる時間が減っているのは嫌なんだ!! だが……闇の魔法使いを、そして闇の神をなんとかしないことには……アイツの身にも危険が及ぶかもしれないし……!」
まさか件の『彼』ことジェラシィがチアキだとは思いもせず、二人は、会話を続けていく。
「おまえはまだ学生なんだぜ、ノブ? もう少しプライベートも大事にしたって良いだろうよ。頼りねえかもしれないが、俺だっているんだからよう」
「蒼井さんは頼れる仲間だ! だが、俺には……魔法少女になった責任が……」
「ったく真面目だねえ。んな寂しそうなカオするぐれえなら、いっそ、チアキの奴も仲間に誘っちまえばいいじゃねえか。守るにしても、側にいたほうが都合いいんじゃねえのか?」
「……俺も、そう思って声をかけたんだが……断られてしまった。アイツが戦いを望まない以上、巻き込むのは良くないだろう?」
「そりゃまた……意外だな。アイツ、おまえさんにえらい懐いてるじゃねえか。おまえの頼みを断るとこが想像つかねえぞ」
ノブユキと同じく美化委員であり、花壇の世話なども自主的に行っているチアキは、用務員であるユウゴともそれなりに親交がある。
ユウゴから見た彼は極度の人見知りという印象で、そんなチアキが、唯一ノブユキにだけは素直に心を開いている風に見えていたのだ。まさかノブユキ以外はどうでもいいと思っているヤンデレ野郎だとは想像もしていない。
「そもそも、八雲は闇の魔法使いに接触されていた――多分、ジャネープの素体として狙われたのだと思う。もしかしたら俺が助けに入る前に、余程、怖い目にあったのもしれない。最近、あまり体調が優れないようだし……」
まさか彼がとっくの昔にこの戦いに巻き込まれてしまっているとは知らず、ノブユキは、チアキを案じて表情を曇らせた。
「ヤンデリオの連中に、チアキがおまえさんの弱みだとバレちまったのは痛ぇよな。俺もできる限り気を配っとくが……そのへんは、学年違うとはいえ生徒のおまえのほうが目が届くか?」
「ああ、わかってる。魔法少女として……先輩として……一人の男として。八雲のことは、俺が必ず守ってみせる」
「その意気だぜ。……っと、そろそろ嬢ちゃんたちも帰ってきたか?」
ノブユキが決意を新たにしていると、玄関のドアが開き、二人の少女が現れた。めけとノコだ。
「ただいま、ユウゴさん、ノブくん。遅れてごめんね」
「只今戻ったのである。早速だが調査報告をさせてもらうぞ?」
そうして帰ってきた彼女らが言うには――どうやら、力を奪われ行方不明になっていた彼女らの仲間、トパーズとエメラルドの妖精に繋がる手がかりが綺羅星女学院での調査で見つかったらしい。
二人は小動物に姿を変え、学院の生徒の元に保護されていた。なんとか身元を保護することはできそうだが、妖精としての姿に戻るには、やはり闇の神に奪われた力を取り戻さないことにはどうにもならないらしい。
「妖精さんたちが無事で良かった。はやく、力を取り戻してあげたいところだな……」
「そのためにはヤンデリオの連中の拠点くらいは知りてえが、今んとこ、奴らの素性すらわからねえからなぁ……。ったく、嫌になっちまうぜ。唯一の手がかりなウチの彼氏のことは、未だに思い出す気配もねえしよ」
「やっぱり、向こうはこちらを侮っているのかな? ノブくんの正体は知られているはずなのに、攻撃されてないのは不幸中の幸いなのか……それともなにかの作戦なのかな」
「あのロクデナシの闇の神のことだ、我らに妨害されたとて痛手ではないと侮っている可能性が高いのである。事実、情報戦では負けておるのだしな」
ジャネープ相手に敗北こそしていないものの、実際、光の魔法使い側はやや劣勢に立たされていた。闇の神の狙いは自身の完全復活。そのために妖精たちの力を奪い、ジャネープを暴れさせることで人々の心の闇……欲望エネルギーを増幅させているからだ。
いくらジャネープがノブユキらに倒され、浄化されているとしても、暴れている間に溜まってしまった欲望エネルギーは確実に闇の神に力を与えているはず。少しでも早く浄化し、動きを止めねばならないため、彼らの行動は無駄ではないものの、後手に回っているのは事実だった。
どうにも表情が暗くなってしまう四人だったが――どんよりとした空気を打ち消すように、ノブユキは言う。
「……だが、だからといって諦めるわけにはいかないだろう。俺たちには世界の平和が……大切な人たちの安全がかかってるんだ。奴らの好きにはさせない。絶対に闇の神を止めて、ヤンデリオの人たちも、もし操られて利用されているなら……この手で助け出してみせるだけだ」
いつもどおりの、淡々としてぶっきらぼうにも見えるが、優しさを感じさせる彼らしい言葉。ヒーロー然としたその様子に、自然と、仲間たちの顔にも笑顔が戻る。
「……ったく、簡単に言いやがる! だが、ノブの言うとおりだな。俺たちゃ正義のヒーロー様だ、人様の彼氏に洗脳なんぞしてくれやがったクソ野郎どもに負けてたまるかってんだ!!」
「そう、だよね。暗い顔してる時間はないよ! 今、ボクたちにできることを考えよう。闇の神様が油断しているなら、そこに付け入る隙はきっとあるはず……!」
「うむ。綺羅星女学院での調査は済んだのだ、であれば……そろそろノブユキたちの学校にも、私とめけが調査に向かう頃合いかもしれぬな。なに、私が人形のフリでもして荷物に潜めば、めけを男子生徒に誤認させるくらいは可能であろう! この私に任せるが良い!!」
こうして、活気を取り戻した四人は、闇の神打倒に向けての作戦会議を続けていった。自分たちの信念が悪を貫くのだと――そんな、無謀な理想を心から信じて。
「お邪魔するぞ、蒼井さん。……めけとノコは?」
「嬢ちゃんたちはまだ帰ってねえぞ。学校の友達と遊ぶ……ふりして、街で情報収集だそうだ」
チアキとケイが勉強会をしていた同日、放課後。学校から少し離れた住宅地にある安アパート――蒼井ユウゴの自室に、ノブユキは、寮に外泊許可を得た上でやってきていた。
「そうか……、なら、話はめけたちが帰ってからにしよう。……と言っても、これと言って進展はないんだけどな」
「ウチの学校に、強い闇の魔法使いの気配がある……だったか? 俺もそれとはなしに探っちゃいるが、さっぱりわからねえんだよなぁ……」
「うん、俺もだ。やはり、妖精でないと探知は難しいのかもしれないな。めけたちが学校に入れればあるいは……」
「妖精姿じゃ目立っちまうし、かといって、ウチは男子校だもんなぁ。……めけ嬢ちゃんなら、男装すりゃ入学できる気もするけどよ」
「でも、記憶操作はノコがいないと難しいんだろう? そもそも綺羅星女学院での調査も終わってないし……俺達の感覚をもっと研ぎ澄ませるしかないのかな」
今日、ノブユキがここにやってきたのは、魔法少女としての活動のためだった。彼のパートナー妖精であるめけ、そしてユウゴのパートナー妖精のノコは、現在ユウゴの家に居候している。皆で今後の方針について相談すべく、集まることにしたのだ。
――そもそも、妖精たちがこの世界にやってきたのは、彼女らが過ごしていた国……光の女神が治める国が、闇の神の手下に襲撃されたせいだった。
本来、この世界に封印されていた闇の神は、眷属である悪魔を生み出すことも使役することもできないほど弱まっているはずだった。それなのに、突然現れた悪魔たちが光の国を襲い、国を守る強い力を持った妖精を宝石の姿に変えてしまうと、そのまま奪い去ってしまったのである。
なんとか逃げ延びたのはめけとノコの二人だけ。光の女神も酷い傷を負い、治療のために姿を隠すことになった。その間に、奪われた仲間を取り戻し、緩んでしまった闇の神の封印を再度施すためにと、彼女たちはやってきたのである。
闇の神を封じるには、彼女たちの力だけでは足りなかった。しかし、この世界の人間の心の力と合わせれば、妖精の魔法は何倍もの力を発揮できる。そのために彼女らはノブユキやユウゴと契約し、自分たちの力を貸し与え、共に戦うパートナーとなったのだ。
現在、めけとノコの二人は、人間のフリをして綺羅星女学院という女子高に通っている。その学校から妖精の気配――闇の神により力を宝石にされて奪われ、魂と体だけになってしまった仲間の気配を感じたからだ。
彼女たちの目的は、力を奪われた仲間を保護して、闇の神に奪われた力を取り返すこと。そうして全ての宝石を、仲間を取り戻して、皆で闇の神を再封印するのだ。
「……はやく、見つかるといいな。トパーズの妖精さんと、エメラルドの妖精さん」
「ああ。つっても……本人が見つかっても、力が取り戻せねえんじゃどうしようもねえけどな」
「ヤンデリオ……闇の魔法使いたちの力は、やっぱり、めけの仲間から奪った『宝石の力』なのか……?」
「その可能性が高え、って、嬢ちゃんたちは言ってたな。俺の彼氏もあの妙ちきりんな衣装にオレンジの宝石のブローチをつけてやがったし、それに、チャイナ服の魔法使いも赤い石のピアスをしてやがった。ありゃ、行方知れずのノコの兄貴とやらの力かもしれねえ」
「……だとすると、疑問がある。ジェラシィ……以前遊園地で会ったあいつはどうなんだ? 宝石にされた妖精は、トパーズとエメラルドの二人だけ。それと、元々体と力を切り離してたルビーの宝石が盗まれたんだろう。あいつの服には、紫の宝石がついていたけど……」
「闇の神も、宝石から悪魔を作れるって話だぜ。ひょっとしたら妖精がいねえ……最初っから闇の神の手下になるよう作られた力なのかもな」
「……そうか」
先日の、闇の魔法使いジェラシィとの共闘を思い出し、ノブユキはわずかに表情を曇らせた。
彼らは闇の魔法使い側の事情をほとんど知らないが、それでも、ユウゴの恋人の一件や、対となる光の魔法使いである自分たちの存在から、闇の魔法使いの正体もこの世界の人間なのではないかと推測していたからだ。
もしも、あの善良そうな青年が、闇の力に操られて魔法使いをさせられているのならば、それはヒーローとして放っておくわけにもいかないだろう。
「なんでぇ、あのボウズが気になんのか?」
「んなっ、違う!! 俺は八雲一筋だ!! ……あっ、い、今の言葉は八雲には内緒にしてくれよ!?」
「わーってるって、そういう意味で言ったんじゃあねえよ。おまえさん、ほんとにチアキのこと好きだよなぁ……」
魔法少女として戦うようになり、仲間に隠し事をしたくはないと、ノブユキは自身の恋慕について赤裸々に語っていた。チアキの前ではクールぶって隠しているだけなのだ。
彼のベタ惚れっぷりに呆れつつ、ユウゴは続ける。
「俺も、あの闇の魔法使いのボウズのことは気になってたんだよ。軽く話してみたんだが、俺から見ても妙っつーか……ウチの彼氏がおかしくなっちまったときと似たような、ゾワッとする感じがしたんだよな……」
「……俺も。少し話してみて、彼は、悪い人間ではないように感じたんだ。俺のストーカーを名乗っていたが、それももしかしたら勘違いというか……言葉の綾なのかもしれないし。もし、良い人なのに闇の神に利用されているなら、俺は彼を助けたい」
「相変わらずのヒーロー気質だねえ。立派だが、あんまりこっちの活動にかまけてばっかじゃあ、チアキに愛想つかされちまうぞ~?」
「なッ……!? そ、それはっ、その!! 俺だって、最近せっかく八雲と仲良くなれたのに、一緒に過ごせる時間が減っているのは嫌なんだ!! だが……闇の魔法使いを、そして闇の神をなんとかしないことには……アイツの身にも危険が及ぶかもしれないし……!」
まさか件の『彼』ことジェラシィがチアキだとは思いもせず、二人は、会話を続けていく。
「おまえはまだ学生なんだぜ、ノブ? もう少しプライベートも大事にしたって良いだろうよ。頼りねえかもしれないが、俺だっているんだからよう」
「蒼井さんは頼れる仲間だ! だが、俺には……魔法少女になった責任が……」
「ったく真面目だねえ。んな寂しそうなカオするぐれえなら、いっそ、チアキの奴も仲間に誘っちまえばいいじゃねえか。守るにしても、側にいたほうが都合いいんじゃねえのか?」
「……俺も、そう思って声をかけたんだが……断られてしまった。アイツが戦いを望まない以上、巻き込むのは良くないだろう?」
「そりゃまた……意外だな。アイツ、おまえさんにえらい懐いてるじゃねえか。おまえの頼みを断るとこが想像つかねえぞ」
ノブユキと同じく美化委員であり、花壇の世話なども自主的に行っているチアキは、用務員であるユウゴともそれなりに親交がある。
ユウゴから見た彼は極度の人見知りという印象で、そんなチアキが、唯一ノブユキにだけは素直に心を開いている風に見えていたのだ。まさかノブユキ以外はどうでもいいと思っているヤンデレ野郎だとは想像もしていない。
「そもそも、八雲は闇の魔法使いに接触されていた――多分、ジャネープの素体として狙われたのだと思う。もしかしたら俺が助けに入る前に、余程、怖い目にあったのもしれない。最近、あまり体調が優れないようだし……」
まさか彼がとっくの昔にこの戦いに巻き込まれてしまっているとは知らず、ノブユキは、チアキを案じて表情を曇らせた。
「ヤンデリオの連中に、チアキがおまえさんの弱みだとバレちまったのは痛ぇよな。俺もできる限り気を配っとくが……そのへんは、学年違うとはいえ生徒のおまえのほうが目が届くか?」
「ああ、わかってる。魔法少女として……先輩として……一人の男として。八雲のことは、俺が必ず守ってみせる」
「その意気だぜ。……っと、そろそろ嬢ちゃんたちも帰ってきたか?」
ノブユキが決意を新たにしていると、玄関のドアが開き、二人の少女が現れた。めけとノコだ。
「ただいま、ユウゴさん、ノブくん。遅れてごめんね」
「只今戻ったのである。早速だが調査報告をさせてもらうぞ?」
そうして帰ってきた彼女らが言うには――どうやら、力を奪われ行方不明になっていた彼女らの仲間、トパーズとエメラルドの妖精に繋がる手がかりが綺羅星女学院での調査で見つかったらしい。
二人は小動物に姿を変え、学院の生徒の元に保護されていた。なんとか身元を保護することはできそうだが、妖精としての姿に戻るには、やはり闇の神に奪われた力を取り戻さないことにはどうにもならないらしい。
「妖精さんたちが無事で良かった。はやく、力を取り戻してあげたいところだな……」
「そのためにはヤンデリオの連中の拠点くらいは知りてえが、今んとこ、奴らの素性すらわからねえからなぁ……。ったく、嫌になっちまうぜ。唯一の手がかりなウチの彼氏のことは、未だに思い出す気配もねえしよ」
「やっぱり、向こうはこちらを侮っているのかな? ノブくんの正体は知られているはずなのに、攻撃されてないのは不幸中の幸いなのか……それともなにかの作戦なのかな」
「あのロクデナシの闇の神のことだ、我らに妨害されたとて痛手ではないと侮っている可能性が高いのである。事実、情報戦では負けておるのだしな」
ジャネープ相手に敗北こそしていないものの、実際、光の魔法使い側はやや劣勢に立たされていた。闇の神の狙いは自身の完全復活。そのために妖精たちの力を奪い、ジャネープを暴れさせることで人々の心の闇……欲望エネルギーを増幅させているからだ。
いくらジャネープがノブユキらに倒され、浄化されているとしても、暴れている間に溜まってしまった欲望エネルギーは確実に闇の神に力を与えているはず。少しでも早く浄化し、動きを止めねばならないため、彼らの行動は無駄ではないものの、後手に回っているのは事実だった。
どうにも表情が暗くなってしまう四人だったが――どんよりとした空気を打ち消すように、ノブユキは言う。
「……だが、だからといって諦めるわけにはいかないだろう。俺たちには世界の平和が……大切な人たちの安全がかかってるんだ。奴らの好きにはさせない。絶対に闇の神を止めて、ヤンデリオの人たちも、もし操られて利用されているなら……この手で助け出してみせるだけだ」
いつもどおりの、淡々としてぶっきらぼうにも見えるが、優しさを感じさせる彼らしい言葉。ヒーロー然としたその様子に、自然と、仲間たちの顔にも笑顔が戻る。
「……ったく、簡単に言いやがる! だが、ノブの言うとおりだな。俺たちゃ正義のヒーロー様だ、人様の彼氏に洗脳なんぞしてくれやがったクソ野郎どもに負けてたまるかってんだ!!」
「そう、だよね。暗い顔してる時間はないよ! 今、ボクたちにできることを考えよう。闇の神様が油断しているなら、そこに付け入る隙はきっとあるはず……!」
「うむ。綺羅星女学院での調査は済んだのだ、であれば……そろそろノブユキたちの学校にも、私とめけが調査に向かう頃合いかもしれぬな。なに、私が人形のフリでもして荷物に潜めば、めけを男子生徒に誤認させるくらいは可能であろう! この私に任せるが良い!!」
こうして、活気を取り戻した四人は、闇の神打倒に向けての作戦会議を続けていった。自分たちの信念が悪を貫くのだと――そんな、無謀な理想を心から信じて。
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