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第021話 気掛かり
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前日よりも多少マシになったものの、鈍い痛みは未だに彼の体に巣食っている。そんな鈍痛を和らげるため、シュウは全身の筋肉を軽く解しながら伸ばした。
そして、そんな何気ない時間を過ごしていた彼はふとあることを思い出す。
「そういやアイツらはどうしてんだろ?」
彼の脳裏に浮かんだのは拠点で留守番をしている配下たちの姿。思わぬアクシデントに遭遇してしまったため今の今まで忘れていたが、拠点に残してきた配下たち──特に一部の問題児たちのことを思い出したのだ。
何事も管理を怠ると碌なことにならない。面倒事を嫌うからこそ、シュウはトラブルの種となりそうな者たちの様子を確認することにした。
「まあ、カフカがいるから大丈夫だと思うけど……」
カフカ──それは彼の配下でワイズに次ぐ知恵者であるウィズダム・クレストという鳥型の魔物ことだ。
渋い銀灰色の羽毛と美しい純白の冠羽を持ち、性格は温厚で面倒見もよい。シュウはこの配下をワイズや軍曹と並んで頼りにしていた。
「ユキたちも大丈夫だとして……問題は猫どもだな」
特殊個体であるユキを筆頭とする狼姉弟についても彼に心配はなかった。名付けと餌付けをして以来、彼女たちはシュウのことを完全にボスと認め忠誠を尽くしているからだ。
彼の言う問題とは残る山猫たち──彼を悩ませていたのはクリープ・リンクスの三匹であった。
この三匹は兄二匹、妹一匹の兄妹で、名前は上から順にコバン、カブリ、クルミである。毛色は三匹とも褐色に斑点という迷彩柄で、違いは雄の二匹が妹より少し体が大きいというくらいだ。
グレート・ベアに親を殺されて飢え死にしそうだった所を、狩りの途中で偶然に見つけたのが彼らとの出会いである。
成長すれば高い隠密能力を持つ魔物になるということで保護したのだが、この時はまだこの三匹が問題児となることにシュウは全く気付いていないかった。
変化が訪れたのは十分な食事を睡眠を取ってから──元気を取り戻した途端、三匹による大運動会が始まったのだ。
良く言えば天真爛漫、悪く言えば自己中のアホ──それが猫たちに対するシュウの認識であった。
(俺の前じゃそれなりに大人しくするようになったけど、ちょっと目を離すと何やらかすかわかったもんじゃねえからな……)
考えれば考えるほど悪い想像が湧いてくるため、シュウは一度考えることを止めて取り合えずカフカに連絡を取ってみることにした。
「カフカ、聞こえるか?」
「おお、ボスですか。どうかされましたか?」
久しぶりの念話に少し驚いた反応を見せたカフカであったが、すぐに主の意図を汲んで用件を問う。
「ああいや、別に大したことじゃないだけど、ちょっとそっちの状況が気になってな。様子はどうだ? 猫どもはちゃんと言うことを聞いているか?」
「ああ、そのことですか。ボスの懸念はもっともですが、心配には及びません。ユキたちが思いのほかうまく躾けてくれたので随分と行儀よくしていますよ。今では本当の姉弟のように見えるほどです」
「ほう、そんな感じになってるのか……そりゃ予想外だ」
それは彼にとって嬉しい誤算であった。最悪、拠点がゴミ屋敷になるかと思っていた彼にとってはまさかの結果である。
「狼の順位制がうまく噛み合ったのだと思います。猫たちもまだ小さい子供でしたので抵抗なく新しい環境に順応できたのでしょう」
(種族は違えど心が通じ合うこともあるんだな。まあ、考えてみりゃ俺の仲間は人外だらけ……今更か)
「お前がいるから大丈夫とは思っていたけど、それを聞いて更に安心した。こっちもいろいろとあったけど、おおむね良好ってとこだ。そんなわけで予定通りしばらく村に留まることになるから、そっちのことは引き続きよろしく頼むな」
「お任せ下さい」
「おう、そんじゃまたな」
カフカとの念話を終えたシュウは安堵の息を吐く。
(とりあえず憂いの一つが減ったのは喜ぶべきか。うん、まあこれで本来の目的に集中できるな。あと気になること言えばリカージョンの件についてだけど、こればっかりは成り行き任せるしかねえ)
大きな流れには下手に逆らわない方がいい──そう考えるシュウは、今の自分にできることをするために村の各施設へ足を運ぶことにした。
そして、そんな何気ない時間を過ごしていた彼はふとあることを思い出す。
「そういやアイツらはどうしてんだろ?」
彼の脳裏に浮かんだのは拠点で留守番をしている配下たちの姿。思わぬアクシデントに遭遇してしまったため今の今まで忘れていたが、拠点に残してきた配下たち──特に一部の問題児たちのことを思い出したのだ。
何事も管理を怠ると碌なことにならない。面倒事を嫌うからこそ、シュウはトラブルの種となりそうな者たちの様子を確認することにした。
「まあ、カフカがいるから大丈夫だと思うけど……」
カフカ──それは彼の配下でワイズに次ぐ知恵者であるウィズダム・クレストという鳥型の魔物ことだ。
渋い銀灰色の羽毛と美しい純白の冠羽を持ち、性格は温厚で面倒見もよい。シュウはこの配下をワイズや軍曹と並んで頼りにしていた。
「ユキたちも大丈夫だとして……問題は猫どもだな」
特殊個体であるユキを筆頭とする狼姉弟についても彼に心配はなかった。名付けと餌付けをして以来、彼女たちはシュウのことを完全にボスと認め忠誠を尽くしているからだ。
彼の言う問題とは残る山猫たち──彼を悩ませていたのはクリープ・リンクスの三匹であった。
この三匹は兄二匹、妹一匹の兄妹で、名前は上から順にコバン、カブリ、クルミである。毛色は三匹とも褐色に斑点という迷彩柄で、違いは雄の二匹が妹より少し体が大きいというくらいだ。
グレート・ベアに親を殺されて飢え死にしそうだった所を、狩りの途中で偶然に見つけたのが彼らとの出会いである。
成長すれば高い隠密能力を持つ魔物になるということで保護したのだが、この時はまだこの三匹が問題児となることにシュウは全く気付いていないかった。
変化が訪れたのは十分な食事を睡眠を取ってから──元気を取り戻した途端、三匹による大運動会が始まったのだ。
良く言えば天真爛漫、悪く言えば自己中のアホ──それが猫たちに対するシュウの認識であった。
(俺の前じゃそれなりに大人しくするようになったけど、ちょっと目を離すと何やらかすかわかったもんじゃねえからな……)
考えれば考えるほど悪い想像が湧いてくるため、シュウは一度考えることを止めて取り合えずカフカに連絡を取ってみることにした。
「カフカ、聞こえるか?」
「おお、ボスですか。どうかされましたか?」
久しぶりの念話に少し驚いた反応を見せたカフカであったが、すぐに主の意図を汲んで用件を問う。
「ああいや、別に大したことじゃないだけど、ちょっとそっちの状況が気になってな。様子はどうだ? 猫どもはちゃんと言うことを聞いているか?」
「ああ、そのことですか。ボスの懸念はもっともですが、心配には及びません。ユキたちが思いのほかうまく躾けてくれたので随分と行儀よくしていますよ。今では本当の姉弟のように見えるほどです」
「ほう、そんな感じになってるのか……そりゃ予想外だ」
それは彼にとって嬉しい誤算であった。最悪、拠点がゴミ屋敷になるかと思っていた彼にとってはまさかの結果である。
「狼の順位制がうまく噛み合ったのだと思います。猫たちもまだ小さい子供でしたので抵抗なく新しい環境に順応できたのでしょう」
(種族は違えど心が通じ合うこともあるんだな。まあ、考えてみりゃ俺の仲間は人外だらけ……今更か)
「お前がいるから大丈夫とは思っていたけど、それを聞いて更に安心した。こっちもいろいろとあったけど、おおむね良好ってとこだ。そんなわけで予定通りしばらく村に留まることになるから、そっちのことは引き続きよろしく頼むな」
「お任せ下さい」
「おう、そんじゃまたな」
カフカとの念話を終えたシュウは安堵の息を吐く。
(とりあえず憂いの一つが減ったのは喜ぶべきか。うん、まあこれで本来の目的に集中できるな。あと気になること言えばリカージョンの件についてだけど、こればっかりは成り行き任せるしかねえ)
大きな流れには下手に逆らわない方がいい──そう考えるシュウは、今の自分にできることをするために村の各施設へ足を運ぶことにした。
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