青の王国

ウツ。

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第4章 国の発展

訪問

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翌日、ロゼは身支度を素早く済ませると、集合場所である城門に向かって部屋を出た。仕事の一環とはいえ、久しぶりの城下町にロゼの胸は高鳴っている。
いつも身につけているロケットを握りしめ、ロゼは明るく前を向いた。

城門に着くと既に衛兵たちが四人集まっていた。集合時間にはまだ早いがロゼと同じように10分前行動が基本となっているようだ。
「おはようございます」
ロゼは丁寧に挨拶をした。衛兵たちもそれに応えるように挨拶をし、頭を下げた。
「おはようございます!ロゼさん!」
ひときわ元気があったのは既に見慣れた顔になりつつあるギルだった。
「おはようございます。ギルさん。今日は一段と気合いが入ってるように見えますね」
「そりゃそうですよ!なんせ私の一大仕事ですから!責任をもって王子をお守りします」
「それならアル王子も安心ですね」
キリッと敬礼するギルを見てロゼは軽く微笑んだ。
「おはよう。お、みんな早いな」
その時アル、イザベラ、エドが顔を出した。
「おはようございます」
ロゼたちは揃って頭を下げた。
「みんな揃ってるみたいだし少し早いけど出発しようか。エド、大丈夫かな?」
「はい。訪問する家には9時頃とお伝えしてありますので、多少時間のズレがあっても大丈夫かと」
アルはそれを聞き頷くと、衛兵を二人連れ先頭を歩き出した。その後ろに続くよう衛兵二人に挟まれ、ロゼたちも城を出て行った。

一ヶ月前、ケイ君と会った場所。
ロゼは過去の出来事を思い出しながら通りを進んでいた。確かお父さんと喧嘩したって泣いてたっけ。お父さんは本当はどんな人なんだろう。あんな出来事がなければ、いや、もしあの家がちゃんとご飯を食べられるだけのお金があったならあの時の思い出はいいものなっていたのかもしれない。親父さんもきっと優しい人に違いない。奥さんだってあの時の発言を思い出すと好きで私を捉えたわけではなさそうだった。ケイも両親を嫌っている感じではなかったし、きっと本当はいい家庭なのだろう。
ロゼは嫌な記憶を振り払い、美味しかった野菜スープを思い出した。新鮮な野菜を使った八百屋さんのスープ。あのスープはお城で食べたスープよりもずっと美味しかったと思う。できるならばアルたちにも食べてもらいたいなとロゼは思った。

テント街に入り、賑やかな声が耳に入る。ロゼはその賑やかな声を聞いてどこかあの隣国のお祭りを思い出し、心が弾んだ。
「賑やかですね!なんだかワクワクします!」
ギルも同じように感じたようで嬉しそうに辺りを見渡している。
「あ!あの方はアル王子ではないか?!」
「王子様だ!どこに行かれるんだろう」
すると辺りからアルを見つけて話す声が聞こえてきた。先日の公開宣言でアルの顔は大きく知れ渡ったようで、店の人をはじめ、子供たちもがアルの方を見ては珍しげにその姿を眺めていた。アルはその視線に気づき、軽く手を振った。それを見た大人たちは嬉しそうに軽く会釈をし、子供たちは無邪気に手を振り返した。
「みんな笑顔ですね」
イザベラがアルに嬉しそうにそういった。
「ああ」
アルも微笑みそう頷いた。



   ****************



テント街に入ってしばらくして、目的の家が見えてきた。家の外に設置されたテントの下では親父さんと奥さんが綺麗な野菜や果物を売っている。
そんな仕事熱心な両親より先に駆け寄ってきたのはケイだった。
「お姉ちゃん!」
「ケイ君!久しぶり!」
飛び込んできたケイをロゼは優しく受け止めた。
「ケイ君、おはよう」
アルはしゃがんでケイに挨拶をした。
「おはようございます!王子様」
ケイはどこで覚えたのか、エドがよくするようなかしこまったお辞儀をぎこちなくして見せた。ロゼたちはそれを見て思わず笑った。ケイは「?」といった顔をしていたが、気にはならなかったらしく「お父さんとお母さんを呼んできます」と言って小走りで店先にいる両親に声をかけに行った。
「あ!おはようございます王子様。お早いご到着で」
こちらに気づいた奥さんがまずこちらに頭を下げた。
「準備が早く済んだので少し早くなりました。今お時間とか大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫ですよ。あんた、王子様御一行がお見えだよ」
奥さんは売り込みをしていた親父さんを呼んだ。
「おお!これはこれは。気付くのが遅くなってすみません」
「いや、こちらが早く着いてしまったので気にしないでください。お時間が大丈夫であれば少しお話をしたいのですが大丈夫ですか?」
「もちろんです。どうぞ狭いところですが」
親父さんは店番を奥さんに頼み、アルたちを家の中に招き入れた。アルたちは「失礼します」と言って順に中に入っていった。
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