青の王国

ウツ。

文字の大きさ
上 下
28 / 36
第4章 国の発展

令嬢のお茶会

しおりを挟む
翌朝、ロゼたちは大臣や衛兵たちと一緒にアルたちの出発を見送った。
少し寂しかったが、離れているのは二週間。昨日の夜のことがロゼを元気付けていた。
笑顔で馬車が出て行くのを見送り、ロゼたちはいつもの仕事に戻った。



   ****************



今日のロゼの仕事は令嬢がいる部屋の廊下の窓拭きだった。
並んだ可愛らしい扉の前の大きな窓を見つめる。
そういえば令嬢といえばシャルロットしか会ったことがないが、他にもきっといるのだろう。城が広すぎて会うことが滅多にないが令息もいるに違いない。今朝の見送りに辺りを見渡してみるんだったと少しだけ後悔する。
仕事に取り掛かろうと雑巾を手にした時、廊下の奥から賑やかな話し声が聞こえてきた。
「しゃ、シャルロット…」
噂をすればなんとやらだ。ロゼはわかりやすく顔を歪ませる。あの綺麗なドレスは見間違えようのないシャルロットだ。
しかしいつもと違い、シャルロットは一人ではなかった。他に二人令嬢っぽい少女を連れている。
「あら、ロゼじゃない。ごきげんよう」
「ご、ごきげんよう」
シャルロットは案の定ロゼに突っかかってきた。
「今日はここの窓拭きが仕事なの?大変ねぇ。私たちは今から私の部屋でお茶会なの」
そう言ってシャルロットは何か閃いたようにこう言った。
「そうだわ!あなたお茶会のお菓子と紅茶をお持ちしてくれる?メイド長がお持ちする予定だったのだけれど変わってちょうだい。窓拭きなんかより良い仕事でしょう?」
ロゼは何か裏があると思ったが断る理由もなかったので仕方なく「わかりました」と言って持ってきたばかりの雑巾とバケツを手に今歩いてきたばかりの道を戻っていった。

「シャルロット様が直々にロゼをご指名されたの?すごいじゃない!いつの間にか仲良くなっていたのね!」
厨房にいたメイド長に事を話すと、ロゼとシャルロットの関係を知らないメイド長は嬉しそうにそう言った。何もシャルロットは信用しているメイドにしかお茶出しはお願いしないんだそうだ。それを聞いてなおさら何かあるのではないかと不安が募る。しかし今日はお茶会だと言っていた。他の令嬢もいるはずだ。シャルロットは一体何を考えているのだろう。
ロゼは色々考えながらメイド長に渡されたティーセットとクッキーをカートに乗せ、シャルロットの部屋へ向かった。



   ****************



可愛いらしい大きな扉をノックする。
「ロゼです。紅茶とクッキーをお持ちしました」
「いいわ。入って」
ロゼは扉を開け中に入った。その瞬間、ロゼは自分の部屋との違いを見せつけられた。
大きなお姫様のような豪奢なベッドにタンス。可愛い化粧台。何よりも部屋の広さが違う。ロゼは今の部屋に不満を持っているわけではないが、あまりの違いに圧倒された。
「どうしたの?早く紅茶をお出しして」
シャルロットに言われ、ロゼは我に返った。中央にあるおしゃれなテーブルにはシャルロットを含め3人の令嬢が席についている。一人は編み込みをした金髪が綺麗なおしゃれ好きそうな令嬢。もう一人はどこかまだ垢抜けないような茶髪を二つに結った令嬢だった。シャルロットはロゼを見ながらどこか裏のある笑顔を浮かべている。もしかしたらロゼが部屋にあっけにとられる様子を見たかったのかもしれない。
ロゼは気をとりなおしてクッキーをテーブルに置き、3人分の紅茶をお淹れした。
やるべきことをこなし、部屋を後にしようとしたところでロゼはシャルロットに呼び止められた。
「あなた先日、隣国のお祭りに行ったんですって?また図々しくアル様にでも頼んだのでしょう。ちょっと仲がいいからって調子に乗っちゃって」
ロゼは振り返ってはっきりと言った。
「お誘いは隣国のクロード大臣からいただきました。一ヶ月ほど前、会議の際に色々あったので、そのお詫びにとのことでした。私はそのお誘いを受けさせていただいただけです」
ロゼの返答にシャルロットは少し黙った後、次はこう言った。
「でもそこでエリス様にお会いしたんでしょう?またその青色を理由に色仕掛けでもしたんじゃなくて?」
ロゼは声を張り上げそうになるのを押さえつけ、その質問に返答した。
「エリス王子にはお会いしました。でも私は色仕掛けなんてしていません。私はあなたみたいに地位にこだわってはいませんし、ましては王子に気に入ってもらおうだなんて考えてはいません。縁があるのは嬉しいことですが、この色を利用したいだなんて私は思っていません。嫌味をおっしゃるだけなら私は仕事があるので失礼します」
ロゼは何か言おうとするシャルロットに背を向け、カートを手に歩き出した。
振り向きざま、垢抜けない令嬢がじっとロゼを見つめていたことに気づくことはなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...