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第2章 メイドとして
自分の不甲斐なさ
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「ロゼ、無事でよかったよ。どこも怪我してないな?今縄を切ってやる」
アルはロゼに近づくと、体を縛っていた縄を剣で切り落とした。
「立てるか?」
アルは手を差し伸べたが、ロゼはそれを振り払った。
「一人で立てる」
ロゼはそう呟くとアルと顔も合わせずに部屋を出て行った。
部屋を出ると、イザベラとエドが剣を手に親父さんたちを見張っているのが目にはいった。ケイも奥さんにしがみついて震えている。
「メイド一人に剣士を呼ぶなんてどうかしてるぜ…」
親父さんは剣を前に腰を抜かし、ケイと同じように震えていた。
「それじゃ事情を話してもらおうか。ロゼはそこで待ってて」
部屋の奥から現れたアルはそういうと親父さんたちの前に立った。ロゼは部屋の隅に立つと、顔を伏せたままその状況を冷たく見ていた。
「まず、どうしてロゼを捕らえるようなことをしたのか聞かせてもらおうか?」
親父さんは一瞬黙ると、意を決したように口を開いた。
「ただ金が欲しかったんだ!息子にお腹いっぱいご飯を食べさせてやれるくらいの金が!身代金を払ってくれればそのメイドさんは解放してやるつもりだった!」
アルはそれを聞くと、何かを考え込むように黙り込んだ。
「このテント街では貧富の差が激しいんだ!城の者にはわからないだろうがな、俺たちはその日生きるので精一杯なんだよ!国王はそんな国民なんて見て見ぬ振りなんだ。自分たちさえ美味しいものを食べられて、綺麗に着飾っていられればそれでいいんだよ…くそ!」
親父さんは悔しそうに言い放った。
それを聞いたアルはおもむろに剣を置き、床に跪いた。
「な、何を…」
「俺はこの国の第一王子、アル・スハイル・ゼルファジア。国民の実状が見えていなかったこと、心から謝る」
急に頭を下げたアルに、親父さんたちは驚きで口を開けていた。
「お、お前が国の王子…」
「はい。まさかこんなにも国内で貧富の差があるとは思っていませんでした。目を向けられてなかったこと、俺の失態です」
「じゃ、じゃあ金を…」
「お金は今はお渡しできません。ですが、大臣と話をして、補助金が出せるような政策を考えます。今回のことは罪に問いません。それでどうでしょうか?」
親父さんは黙り込んだ。
「それは本当なんでしょうね?」
不安そうに奥さんが尋ねた。
「約束します」
アルははっきりと頷いた。
「補助金制度を作ってくれるみたいだし、罪にも問わないって。もういいんじゃないのかい?」
奥さんは黙り込んでいる親父さんの肩に手を置いた。親父さんはどこか納得いってない様子だったが渋々頷いた。
「わかりました。メイドを捕らえたこと、申し訳ありませんでした」
親父さん一家は頭を下げた。
「謝罪されるのは俺じゃない。捕らえられた本人であるロゼに」
「ロゼさん、申し訳ありませんでした。息子を助けてくれたのに恩を仇で返すようなことをしてしまって…。お金に目がくらんでしまったこと、本当に情けない…。申し訳ありませんでした」
「お姉ちゃん、ごめんなさい」
親父さんたちに続くようにケイも頭を下げた。
「いえ、大丈夫です。気にしてませんから」
ロゼは力なく笑った。
「それじゃあこれにて帰城する。剣を向けてしまって悪かった。また政策が決まり次第報告させてもらう。エド、イザベラいくぞ。あれ…ロゼは?」
振り返ったアルは先ほどまでいた場所にロゼがいないことに気づく。
「お姉ちゃんなら先に出て行ったよ」
ケイが外を指さして言った。
「アル、行っていいわよ」
「悪い、先に行く」
イザベラの言葉にアルは頷くと、ロゼを追いかけて家を出ていった。
「ロゼ!」
ロゼの後ろ姿はすぐに見つかった。テント街の中を一人でとぼとぼと歩いている。
「ロゼ、どうしたんだよ」
フードの下、ロゼの顔を覗き込んで、アルはぎょっとした。
ロゼは泣いていた。
「私、自分が情けない…。買い物も一人でできないなんて…。アルたちに助けてもらってばっかりで、自分に嫌気がさす」
ロゼはそう言って唇を噛んだ。アルはしばらく黙った後、ぽんぽんとロゼの頭を叩いた。
「ロゼは頑張ってるよ。しかも今回の件はロゼじゃなくても起こっていた事件だっただろうしな。きにすることはない」
「でも私の青い髪がバレちゃったから目についたわけで…」
それを聞いてアルは笑った。
「ロゼ、親父さんたちの話ちゃんと聞いてたか?ロゼの髪色や瞳がどうだとは何も言ってなかったぞ」
「そ、そうだっけ。私イマイチ話入ってこなくて…」
「ずっと自己嫌悪してたのか?」
「うん」
「まあすごく暗い顔してたからな」
アルはそう言ってロゼの頬を掴んで引っ張った。
「?!」
「ははっ!やっぱりロゼは笑ってるほうがいいって」
アルの笑顔にロゼも思わず笑った。
「それにしてもアレッサはまたどうしてロゼを買い出しなんかに行かせたのか…」
ロゼは何気なく呟いたアルの言葉に反応した。
「メイド長が行かせたんじゃないよ!私が自分から行くって言ったの!」
「え?」
アルはアレッサの言っていたことと、ロゼの言っていることが矛盾していることに引っかかった。
「ロゼが行くって言ったのか?」
「うん。メイド長は自分が行かせたって言ってたの?」
「あ、うん」
ロゼは驚いた。多分それはロゼがアルに叱られないように、自分が身を張って怒られたのだということだった。
「うわ…俺アレッサを軽く叱っちゃったよ…謝らないと」
案の定、アルはアレッサを少し叱ったらしかった。
「よし!」
ロゼは唐突に自分の頬を叩いた。
「買い出し、終わらせなくちゃ!遅くなっちゃった」
自分を元気付けると、ロゼはまだだった買い出しを終わらすべく、アルたちとともにテント街を歩き出した。
アルはロゼに近づくと、体を縛っていた縄を剣で切り落とした。
「立てるか?」
アルは手を差し伸べたが、ロゼはそれを振り払った。
「一人で立てる」
ロゼはそう呟くとアルと顔も合わせずに部屋を出て行った。
部屋を出ると、イザベラとエドが剣を手に親父さんたちを見張っているのが目にはいった。ケイも奥さんにしがみついて震えている。
「メイド一人に剣士を呼ぶなんてどうかしてるぜ…」
親父さんは剣を前に腰を抜かし、ケイと同じように震えていた。
「それじゃ事情を話してもらおうか。ロゼはそこで待ってて」
部屋の奥から現れたアルはそういうと親父さんたちの前に立った。ロゼは部屋の隅に立つと、顔を伏せたままその状況を冷たく見ていた。
「まず、どうしてロゼを捕らえるようなことをしたのか聞かせてもらおうか?」
親父さんは一瞬黙ると、意を決したように口を開いた。
「ただ金が欲しかったんだ!息子にお腹いっぱいご飯を食べさせてやれるくらいの金が!身代金を払ってくれればそのメイドさんは解放してやるつもりだった!」
アルはそれを聞くと、何かを考え込むように黙り込んだ。
「このテント街では貧富の差が激しいんだ!城の者にはわからないだろうがな、俺たちはその日生きるので精一杯なんだよ!国王はそんな国民なんて見て見ぬ振りなんだ。自分たちさえ美味しいものを食べられて、綺麗に着飾っていられればそれでいいんだよ…くそ!」
親父さんは悔しそうに言い放った。
それを聞いたアルはおもむろに剣を置き、床に跪いた。
「な、何を…」
「俺はこの国の第一王子、アル・スハイル・ゼルファジア。国民の実状が見えていなかったこと、心から謝る」
急に頭を下げたアルに、親父さんたちは驚きで口を開けていた。
「お、お前が国の王子…」
「はい。まさかこんなにも国内で貧富の差があるとは思っていませんでした。目を向けられてなかったこと、俺の失態です」
「じゃ、じゃあ金を…」
「お金は今はお渡しできません。ですが、大臣と話をして、補助金が出せるような政策を考えます。今回のことは罪に問いません。それでどうでしょうか?」
親父さんは黙り込んだ。
「それは本当なんでしょうね?」
不安そうに奥さんが尋ねた。
「約束します」
アルははっきりと頷いた。
「補助金制度を作ってくれるみたいだし、罪にも問わないって。もういいんじゃないのかい?」
奥さんは黙り込んでいる親父さんの肩に手を置いた。親父さんはどこか納得いってない様子だったが渋々頷いた。
「わかりました。メイドを捕らえたこと、申し訳ありませんでした」
親父さん一家は頭を下げた。
「謝罪されるのは俺じゃない。捕らえられた本人であるロゼに」
「ロゼさん、申し訳ありませんでした。息子を助けてくれたのに恩を仇で返すようなことをしてしまって…。お金に目がくらんでしまったこと、本当に情けない…。申し訳ありませんでした」
「お姉ちゃん、ごめんなさい」
親父さんたちに続くようにケイも頭を下げた。
「いえ、大丈夫です。気にしてませんから」
ロゼは力なく笑った。
「それじゃあこれにて帰城する。剣を向けてしまって悪かった。また政策が決まり次第報告させてもらう。エド、イザベラいくぞ。あれ…ロゼは?」
振り返ったアルは先ほどまでいた場所にロゼがいないことに気づく。
「お姉ちゃんなら先に出て行ったよ」
ケイが外を指さして言った。
「アル、行っていいわよ」
「悪い、先に行く」
イザベラの言葉にアルは頷くと、ロゼを追いかけて家を出ていった。
「ロゼ!」
ロゼの後ろ姿はすぐに見つかった。テント街の中を一人でとぼとぼと歩いている。
「ロゼ、どうしたんだよ」
フードの下、ロゼの顔を覗き込んで、アルはぎょっとした。
ロゼは泣いていた。
「私、自分が情けない…。買い物も一人でできないなんて…。アルたちに助けてもらってばっかりで、自分に嫌気がさす」
ロゼはそう言って唇を噛んだ。アルはしばらく黙った後、ぽんぽんとロゼの頭を叩いた。
「ロゼは頑張ってるよ。しかも今回の件はロゼじゃなくても起こっていた事件だっただろうしな。きにすることはない」
「でも私の青い髪がバレちゃったから目についたわけで…」
それを聞いてアルは笑った。
「ロゼ、親父さんたちの話ちゃんと聞いてたか?ロゼの髪色や瞳がどうだとは何も言ってなかったぞ」
「そ、そうだっけ。私イマイチ話入ってこなくて…」
「ずっと自己嫌悪してたのか?」
「うん」
「まあすごく暗い顔してたからな」
アルはそう言ってロゼの頬を掴んで引っ張った。
「?!」
「ははっ!やっぱりロゼは笑ってるほうがいいって」
アルの笑顔にロゼも思わず笑った。
「それにしてもアレッサはまたどうしてロゼを買い出しなんかに行かせたのか…」
ロゼは何気なく呟いたアルの言葉に反応した。
「メイド長が行かせたんじゃないよ!私が自分から行くって言ったの!」
「え?」
アルはアレッサの言っていたことと、ロゼの言っていることが矛盾していることに引っかかった。
「ロゼが行くって言ったのか?」
「うん。メイド長は自分が行かせたって言ってたの?」
「あ、うん」
ロゼは驚いた。多分それはロゼがアルに叱られないように、自分が身を張って怒られたのだということだった。
「うわ…俺アレッサを軽く叱っちゃったよ…謝らないと」
案の定、アルはアレッサを少し叱ったらしかった。
「よし!」
ロゼは唐突に自分の頬を叩いた。
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