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第2章 メイドとして
大臣の提案
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「うん。合格よロゼ」
「ありがとうございます!」
次の日の早朝、ロゼはメイド長にお茶の淹れ方の最終チェックをしてもらっていた。昨日の練習が実を結び、ロゼは無事お茶出し係に任命された。
「あとは緊張しすぎないことね。そして自分の仕事に自信と誇りを持つこと」
「はい」
ロゼは昨日のアルとの練習を思い出した。あの時あれほど緊張したのだ。その中でも綺麗にお茶を淹れられたのだからきっと大丈夫だろう。しかし油断は禁物だ。お茶をいれる相手は隣国の方々を含め10人ほど。一人に対して成功したからと調子に乗ってはいけない。
ロゼは自分に言い聞かせるように「よし」と呟くと、ティーセットを乗せたカートを手に、会議室へと向かった。
****************
「本日のお飲み物はこの国で取れた茶葉を使用したアールグレイティーでございます」
司会を務めるこの国の大臣の側近がそう述べた後、ロゼは「失礼します」と言って会議室内へ足を踏み入れた。
その瞬間、会議室内に息を呑むような声が上がった。言うまでもない、ロゼの髪と瞳の色を珍しがった驚きの声である。
しかしロゼは気にした素振りは見せなかった。それより気になったのは隣国側の王子が座る席が空いていたことである。何か理由があって欠席しているのだろうか?
ロゼは気にはなったが尋ねることはできないため、その疑問を胸に収め、順に紅茶を淹れていった。
異変が起きたのは隣国の大臣にお茶をお出ししようとした時である。
「君新人のメイドさん?名前は何ていうの?」
「え?あ、ロゼと申します」
隣人の大臣がロゼに話しかけてきたのである。ロゼは何か間違ったことをしてしまったのかと嫌な汗を掻く。紅茶は一滴もこぼしていないし、お出しする位置も間違っていないはずだ。
「ロゼ君か。君は珍しい瞳と髪をお持ちだね」
「あ、ありがとうございます」
大臣はにこやかにそう告げると、ロゼの髪に手を触れた。
場の空気が一気に凍りつく。
ロゼはその行動にゾッとしたが、大臣を相手に避けることもできず、ただじっと我慢していた。
「とても綺麗な色だ。これは気に入った」
大臣は満足そうにロゼを眺めると、とんでもないことを口にした。
「今日は病気で欠席している王子がいるんだが、ロゼ君、その王子の妃になる気はないかい?」
場の空気が違った意味で凍りつくのがわかった。
「病弱でこうして寝込む事も多い王子だが、とても優しい人なんだ。君のその瞳と髪、それを気に入らないものはこの国にいないぞ。どうだ、地位も財産も手に入る。悪い話じゃないだろう?」
大臣はそう言って次はロゼの頬に手を伸ばそうとした。しかしロゼは先ほどとは違い、その手を避けた。
「やめてください」
そしてそうはっきり告げた。
「な…!それが目上の人に対する態度か!妃にしてやると言ってるんだぞ!こんなチャンス二度とないということ、わかっているだろうな?!」
大臣は先ほどの態度とは打って変わり、怒りをあらわにした。
しかしロゼは怯まなかった。
「わかっています。しかし私のこの青い目と髪は飾り物として置かれるものではありません。それを理由に妃になれとおっしゃるのであれば私はお断りします。それに私は地位や財産などに興味はございません」
ロゼがそう言うと、大臣とロゼの間に割って入るようにアルが現れた。
「クロード大臣、私の国のメイドに手を出さないでいただきたい。それにこの場の空気、わかっておられますでしょうか?そちらの国の恥になりますよ。謝られるなら今のうちに」
大臣は辺りを見渡した後、その場の空気に気がついたのか、ロゼを見て「すまなかった。前の発言は撤回する」と言って頭を下げた。
「ロゼ、お茶出しの続きを」
アルはそう言ってロゼにお茶淹れの続きを促した。ロゼは「はい」と言って自国の方々にお茶をお出しして会議室を出て行った。
「ロゼ!かっこよかったじゃない!」
会議室を出るなりロゼはメイド長に抱きしめられた。
「いえ、またアルに助けてもらいました」
ロゼは申し訳なさそうにそう言った。もしアルが割って入ってくれなかったら大臣はまだ何かロゼに言ってきただろう。あの時の大臣はそんな雰囲気だった。地位があるからものを言える、何を言っても許される、そんな感じだ。
対してロゼは今はメイド。本来なら大臣にものを言うなどあってはならないことだった。あの言葉が通ったのはアルがいてこそだ。アルの存在が自分を救ってくれたのだ。
「それにしてもあの大臣は何なのかしらね。許可もなく女の子に触れるなんて」
メイド長はしばらく大臣の愚痴を呟いていた。
****************
その日の夕方、大役を終えたロゼは先に仕事を上がり、部屋でのんびりしていた。
その時、ロゼの部屋を誰かがノックした。
「はい」
ロゼは返事をして扉を開けた。そこに立っていたのはイザベラだった。
「ごめんなさいね、アルじゃなくて。アルは仕事で忙しくて今は席を外せそうにないの。その代わり、私が伝言を預かってきたわ」
「今日のことは気にするな。夜、また話そうな。ですって」
ロゼはそれを聞いて嬉しく思った。今日は自分も話したいことが沢山ある。
「あ、じゃあ私も伝言を…」
「私でよければ伝えておくわよ」
しかしロゼは伝言を言いかけてやめた。
「やっぱりいいです。夜、自分で伝えます」
イザベラは「ロゼらしいわね」と言って微笑んだ。
「その方がアルも喜ぶと思うわ。それじゃ、私も仕事に戻るから」
「お疲れ様です」
ロゼはそう言ってイザベラを見送った。ロゼの心はアル伝言で嬉しさに高鳴っていた。
「ありがとうございます!」
次の日の早朝、ロゼはメイド長にお茶の淹れ方の最終チェックをしてもらっていた。昨日の練習が実を結び、ロゼは無事お茶出し係に任命された。
「あとは緊張しすぎないことね。そして自分の仕事に自信と誇りを持つこと」
「はい」
ロゼは昨日のアルとの練習を思い出した。あの時あれほど緊張したのだ。その中でも綺麗にお茶を淹れられたのだからきっと大丈夫だろう。しかし油断は禁物だ。お茶をいれる相手は隣国の方々を含め10人ほど。一人に対して成功したからと調子に乗ってはいけない。
ロゼは自分に言い聞かせるように「よし」と呟くと、ティーセットを乗せたカートを手に、会議室へと向かった。
****************
「本日のお飲み物はこの国で取れた茶葉を使用したアールグレイティーでございます」
司会を務めるこの国の大臣の側近がそう述べた後、ロゼは「失礼します」と言って会議室内へ足を踏み入れた。
その瞬間、会議室内に息を呑むような声が上がった。言うまでもない、ロゼの髪と瞳の色を珍しがった驚きの声である。
しかしロゼは気にした素振りは見せなかった。それより気になったのは隣国側の王子が座る席が空いていたことである。何か理由があって欠席しているのだろうか?
ロゼは気にはなったが尋ねることはできないため、その疑問を胸に収め、順に紅茶を淹れていった。
異変が起きたのは隣国の大臣にお茶をお出ししようとした時である。
「君新人のメイドさん?名前は何ていうの?」
「え?あ、ロゼと申します」
隣人の大臣がロゼに話しかけてきたのである。ロゼは何か間違ったことをしてしまったのかと嫌な汗を掻く。紅茶は一滴もこぼしていないし、お出しする位置も間違っていないはずだ。
「ロゼ君か。君は珍しい瞳と髪をお持ちだね」
「あ、ありがとうございます」
大臣はにこやかにそう告げると、ロゼの髪に手を触れた。
場の空気が一気に凍りつく。
ロゼはその行動にゾッとしたが、大臣を相手に避けることもできず、ただじっと我慢していた。
「とても綺麗な色だ。これは気に入った」
大臣は満足そうにロゼを眺めると、とんでもないことを口にした。
「今日は病気で欠席している王子がいるんだが、ロゼ君、その王子の妃になる気はないかい?」
場の空気が違った意味で凍りつくのがわかった。
「病弱でこうして寝込む事も多い王子だが、とても優しい人なんだ。君のその瞳と髪、それを気に入らないものはこの国にいないぞ。どうだ、地位も財産も手に入る。悪い話じゃないだろう?」
大臣はそう言って次はロゼの頬に手を伸ばそうとした。しかしロゼは先ほどとは違い、その手を避けた。
「やめてください」
そしてそうはっきり告げた。
「な…!それが目上の人に対する態度か!妃にしてやると言ってるんだぞ!こんなチャンス二度とないということ、わかっているだろうな?!」
大臣は先ほどの態度とは打って変わり、怒りをあらわにした。
しかしロゼは怯まなかった。
「わかっています。しかし私のこの青い目と髪は飾り物として置かれるものではありません。それを理由に妃になれとおっしゃるのであれば私はお断りします。それに私は地位や財産などに興味はございません」
ロゼがそう言うと、大臣とロゼの間に割って入るようにアルが現れた。
「クロード大臣、私の国のメイドに手を出さないでいただきたい。それにこの場の空気、わかっておられますでしょうか?そちらの国の恥になりますよ。謝られるなら今のうちに」
大臣は辺りを見渡した後、その場の空気に気がついたのか、ロゼを見て「すまなかった。前の発言は撤回する」と言って頭を下げた。
「ロゼ、お茶出しの続きを」
アルはそう言ってロゼにお茶淹れの続きを促した。ロゼは「はい」と言って自国の方々にお茶をお出しして会議室を出て行った。
「ロゼ!かっこよかったじゃない!」
会議室を出るなりロゼはメイド長に抱きしめられた。
「いえ、またアルに助けてもらいました」
ロゼは申し訳なさそうにそう言った。もしアルが割って入ってくれなかったら大臣はまだ何かロゼに言ってきただろう。あの時の大臣はそんな雰囲気だった。地位があるからものを言える、何を言っても許される、そんな感じだ。
対してロゼは今はメイド。本来なら大臣にものを言うなどあってはならないことだった。あの言葉が通ったのはアルがいてこそだ。アルの存在が自分を救ってくれたのだ。
「それにしてもあの大臣は何なのかしらね。許可もなく女の子に触れるなんて」
メイド長はしばらく大臣の愚痴を呟いていた。
****************
その日の夕方、大役を終えたロゼは先に仕事を上がり、部屋でのんびりしていた。
その時、ロゼの部屋を誰かがノックした。
「はい」
ロゼは返事をして扉を開けた。そこに立っていたのはイザベラだった。
「ごめんなさいね、アルじゃなくて。アルは仕事で忙しくて今は席を外せそうにないの。その代わり、私が伝言を預かってきたわ」
「今日のことは気にするな。夜、また話そうな。ですって」
ロゼはそれを聞いて嬉しく思った。今日は自分も話したいことが沢山ある。
「あ、じゃあ私も伝言を…」
「私でよければ伝えておくわよ」
しかしロゼは伝言を言いかけてやめた。
「やっぱりいいです。夜、自分で伝えます」
イザベラは「ロゼらしいわね」と言って微笑んだ。
「その方がアルも喜ぶと思うわ。それじゃ、私も仕事に戻るから」
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ロゼはそう言ってイザベラを見送った。ロゼの心はアル伝言で嬉しさに高鳴っていた。
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