青の王国

ウツ。

文字の大きさ
上 下
9 / 36
第2章 メイドとして

しおりを挟む
次の日の朝、ロゼの新しい生活が始まった。

「ロゼさん!そこのスープの中にこの野菜入れてください!」

「ロゼさん、その洗濯干し終わったら次これね」

「ロゼ!次は昼食の準備!」

家で家事を手伝っていたとはいえ、ここはお城。何もかもが勝手が違い、時間も決まっている。ロゼは他のメイドたちやメイド長に指示をもらい、必死に作業をこなしていた。

「ロゼ、お疲れ様。休憩入っていいわよ。賄いも出すからしっかり食べて次の仕事に取り組むのよ」
気がつけばすでに1時過ぎ。朝も早かったロゼのお腹はぺこぺこだった。
「ありがとうございます、メイド長」
ロゼは仕事場を離れると、今日教えてもらった休憩室に足を運んだ。
「はぁ…、お城の仕事ってこんなに忙しいんだ…」
ロゼは息を吐くとそっとテーブルの席に座った。朝から立ちっぱなしで、慣れない足は筋肉痛の一歩手前まできている。
「ロゼさん、これ今日の賄いです」
同じメイドが持ってきてくれた賄いを受け取り、ロゼは朝食をとることにした。今日のメニューは野菜スープに白パン、お肉の炒め物。賄いといえど、中身は王族に出しているのとさして変わらなかった。
「いただきます!」
ロゼは手を合わせそう呟いた。そしてパンをちぎって口に入れようとした時、その手が背後から引っ張られた。
「ん。この白パンうまいよな」
「あ、アル…!?」
背後に立っていたのはあろうことかこの国の第一王子アルだった。しかもその口には今しがたロゼがちぎった白パンが入っている。
「ななななにしてるの?!」
「なにって、ロゼを呼びに来たんだよ」
「じゃなくて!私の白パン!」
「いいじゃんか。毒見だよ、毒見」
アルはそう言ってロゼの横に腰掛けた。ロゼはスープを口に運びながら「何か用事?」と尋ねた。
「いいよ、食べ終わってからで。結構真剣な話だからさ」
アルはそう言ってロゼを見つめた。ロゼとしてはなにやら恥ずかしい気持ちで昼食を食べ進める羽目になった。

「ごちそうさまでした。で、話って何?」
ロゼは昼食を食べ終えると、ずっと横で待っていたアルに声をかけた。
「実は今から例の盗賊たちの刑を決める会議があるんだ。会議って言っても盗賊たちの弁解を聞いて、刑の最終決定を行うものなんだけどね。そこにロゼも同行してもらいたい。メイド長にはもう許可取ってあるから、次の仕事は休んでいいよ」
ロゼは盗賊たちと聞いて一瞬で嫌な記憶が蘇る。できればもう顔を合わせたくないほどだ。しかしロゼは頷いた。
「わかった。同行する」
アルはその返事を聞くと、ロゼを連れ、休憩室を後にした。



   ****************



「これより、罪人の刑最終決定を行う」
大臣の一声で会議は幕を開けた。しかし盗賊たちと向き合うように配置された席の中にロゼはいなかった。ロゼは一人、カーテンで仕切られた小さな個室に座らされていた。

「ロゼがいない状況下で、盗賊たちが何を述べるか聞いててほしい」

アルがそう言って準備した個室だった。ロゼにはアルの考えることがよくわからなかったが、とりあえず言葉に従っておくことにした。
「では罪人の犯した罪を述べる。まず無許可出港、闇取引、人身売買未遂。以上、他何か犯した罪は?罪人答えよ」
しばらく間があった後、盗賊たちはこう答えた。
「いえ、他に犯した罪はありません…!俺たちのやったことはその全てで間違いないです!」
ロゼはその答えを聞いてはらわたが煮えくり返りそうになった。他に犯した罪はない?何を言っているのだ。両親を殺して、家まで燃やしたくせに…!盗賊たちの性根の悪さが際立った。しかし全ての真実を知っているアルは黙っている。ロゼは怒りで震える手を握りしめ、会議の進行を待った。
「では証人、他に述べることは」
「はい。証人、第一王子のアルです。罪人は今それ以外に犯した罪はないとおっしゃいました。しかしそれは事実ではないと定義します」
「では証人の定義を聞きましょう。どうぞ」
「はい。罪人の罪はもう二つあります。それは殺人と放火です」
そのアルの発言に盗賊たちは抗議した。
「はっ?証拠でもあるのかよ?俺たちはそんなことしてないぜ。青髪の女を攫っただけだ」
どうやら盗賊たちは罪が軽くなるよう、会議を進めるつもりのようだった。
「証拠ならございます」
そう告げられた後、アルの足音が個室へ近づいてきた。そして隔てられていたカーテンが上げられる。
「ロゼ、こっちへ」
ロゼはアルに連れられ、盗賊たちと向かい合う位置に立った。
「な、なんでその娘がそこにいる…!やはり城内の差し金だったのか…!」
盗賊たちはロゼを見て急に慌てだした。事件の始終を知る人物が出てくるとは思ってもいなかったのだろう。その様は滑稽だった。
「証人がもう一人。被害を受けた娘です。この者が語ることが事の全てです。ロゼ、言ってやれ」
ロゼはアルを見つめて頷くと、その口を開いた。

「私はこの罪人たちに両親を殺されました。まずは客人だと思って戸を開けたお父さんが、次に私を守る為飛び込んでいったお母さんが刃物で殺害されました。そして私は攫われ、アル王子たちが助けてくださった後、私は家へ戻りました。するとそこは焼け野原になっていて、私の家はありませんでした。それはここにいるアル王子も目撃しています。私の家があるのは森の中。人の行き来もほとんどなく、罪人が犯した他の罪からも、これが罪人たちの仕業だと考えることができると思います。私からは以上です」

ロゼは出来事のすべてを話した。思い出すのは辛かったが、それがこの盗賊たちの罪を肯定できるものになるならと、その思いだけだった。
「では、罪人の先ほどの発言は嘘であったと仮定する。罪人、言うことは」
「…くそ…なんで本人がいるんだよ」
「無いようなので、罪状の中で最も重い殺人罪をもち、処罰は終身刑とする」
大臣がそう告げ、会議は幕を閉じた。
盗賊たちは鎖で繋がれ、衛兵たちに連れられ部屋を出て行った。
「アル、ちょっと行ってくる」
「え?ロゼ、どこ行くんだよ!」
ロゼは駆け足でその盗賊たちを追った。そして衛兵を止めると、ロゼは盗賊たちに言い放った。
「今回の罪、一生背負って生きてください。そして毎日私のお父さんとお母さんにお祈りをしてください。それほどの罪をあなたたちは犯したんですから」
ロゼはそう言うと、盗賊たちに背を向けて走り出した。
「ロゼ!」
アルはそのロゼの後を追い、走り出していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

処理中です...