青の王国

ウツ。

文字の大きさ
上 下
3 / 36
第1章 出会い

過酷な現実

しおりを挟む
「助けてくれて本当にありがとう」
港に着くとロゼはそう言ってアルたちに向かい頭を下げた。
「いいんだよ。俺たちは許可なく出港した船を見つけて取り締まりのために駆けつけたんだからさ。まさか人攫いだとは思わなかったけど…。ところで帰るのはいいけど両親が探しに来てたりしないのか?」
ロゼは俯いた。
「ロゼ…?」
「…ました」
「え?」
「両親は…殺されました」
ロゼの言葉にその場にいた全員が息を飲んだ。
「殺された…?あの盗賊たちにか?!」
「…うん」
アルは拳を握りしめ、やり場のない怒りを露わにした。
「くそ!俺たちがもっと早く盗賊たちの存在に気付いていれば…。衛兵!その盗賊たちは一人残らず城の地下牢へ連れて行け。処罰は最も重いものにしてやる…」
「アルたちは全然悪くないよ!むしろ私のために怒ってくれてありがとう。でもいいの。私ちゃんと一人で生きていくから。両親のことはすごく悔しいよ…。でも、いつまでも泣いていちゃ先に進めないでしょう」
ロゼはアルの拳を優しく握りしめ、笑って見せた。その笑顔には隠しきれない涙が溜まっていた。
「そんなに強がらなくていいのに…。ロゼ、悲しいときは素直に泣いていいんだぜ」
「私は大丈夫。家に帰ってちゃんと両親を弔ってあげなきゃ」
ロゼはアルたちに背を向けて歩き出した。
「ま、待ってくれ。一人で帰らせるのは不安だ。俺たちもついていくよ」
アルは背後にいた女性と青年に目で合図を取り合うと、三人でロゼの後に続いた。



   ****************



「え…」
ロゼは家のあった場所に来て思わず崩れ落ちた。
「ロゼ…君の家はここに…?」
アルたちも呆然と森の中に立ちすくんだ。

ロゼの家があった場所。そこは黒く焦げた木材などが転がる焼け野原になっていた。

「お母さん!お父さん!」
焦げた匂いが立ち込める中に飛び込んで行こうとするロゼをアルが止めた。
「アル!お母さんとお父さんは家の中で殺されたの!遺体だけでも…!」
「ロゼ、この焼け跡では無理だ。きっと遺体の損傷も…。それに探してる途中に木材が倒れてきたら危険だ」
「そんな…」
ロゼは呆然と家があった空間を見つめた。両親の遺体を埋葬してあげることもできないのか…。泣かないと決めていたはずの涙が堪えきれずに頬を伝った。
「これも盗賊たちの仕業か…。ロゼが戻ってこられないように…」

こんなのってあんまりじゃないか…。私たちが何をしたっていうのだ…。

歯をくいしばるロゼの上に、ポツリポツリと雨が降り出した。

その時、ロゼは焼け落ちた家の中に鈍く光るものを見つけた。なんでもいい。形見になればとロゼは駆け寄った。
崩れ落ちた木材の隙間に手を伸ばす。それは簡単に手に取れる位置にあった。
「ロゼ、それは…?」
ロゼに駆け寄ったアルがそっと尋ねた。
「これロケットなの」
ロゼはその少し煤で汚れたロケットを開いてアルに見せた。そこには微笑んで寄り添うロゼたち家族三人の姿が映っていた。
「これがお父さんとお母さん。よかった…これだけでも無事で。大切な宝物だったの」
ロゼはロケットの中の写真を見つめ、涙を流した。

「会いたいよ…お母さん、お父さん」

その声をかき消すように雨は勢いを増していった。



   ****************



「落ち着いたか?」
しばらくして泣き止んだロゼにアルは優しく寄り添った。
「うん…。ごめん、雨の中…」
「いいんだよ」
アルはロゼを立ち上がらせると少し聞き辛そうに尋ねた。
「行く宛、あるのか?」
ロゼは首を横に振った。
アルはそれを見ると背後に立っている二人と目を合わせた。
「じゃあさ…城へ来ないか?」
「え?」
ロゼは驚いたようにアルを見つめた。
「見ず知らずの私がお城へなんて、そんな…!王様に怒られるよ…!いくらお城の剣士だからってそんなわがまま通るはずがない!」
あまりに戸惑うロゼにアルは笑って答えた。
「ここの国は行く宛のなくなった人を放っておくほど酷い国じゃないぜ」
背後に立つ二人も笑って頷いた。

「おいでよロゼ。君の新しい居場所に」

差し出された手をロゼは静かに取った。

雨はいつの間にか上がっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王太子の愚行

よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。 彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。 婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。 さて、男爵令嬢をどうするか。 王太子の判断は?

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

処理中です...