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第1章 出会い
過酷な現実
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「助けてくれて本当にありがとう」
港に着くとロゼはそう言ってアルたちに向かい頭を下げた。
「いいんだよ。俺たちは許可なく出港した船を見つけて取り締まりのために駆けつけたんだからさ。まさか人攫いだとは思わなかったけど…。ところで帰るのはいいけど両親が探しに来てたりしないのか?」
ロゼは俯いた。
「ロゼ…?」
「…ました」
「え?」
「両親は…殺されました」
ロゼの言葉にその場にいた全員が息を飲んだ。
「殺された…?あの盗賊たちにか?!」
「…うん」
アルは拳を握りしめ、やり場のない怒りを露わにした。
「くそ!俺たちがもっと早く盗賊たちの存在に気付いていれば…。衛兵!その盗賊たちは一人残らず城の地下牢へ連れて行け。処罰は最も重いものにしてやる…」
「アルたちは全然悪くないよ!むしろ私のために怒ってくれてありがとう。でもいいの。私ちゃんと一人で生きていくから。両親のことはすごく悔しいよ…。でも、いつまでも泣いていちゃ先に進めないでしょう」
ロゼはアルの拳を優しく握りしめ、笑って見せた。その笑顔には隠しきれない涙が溜まっていた。
「そんなに強がらなくていいのに…。ロゼ、悲しいときは素直に泣いていいんだぜ」
「私は大丈夫。家に帰ってちゃんと両親を弔ってあげなきゃ」
ロゼはアルたちに背を向けて歩き出した。
「ま、待ってくれ。一人で帰らせるのは不安だ。俺たちもついていくよ」
アルは背後にいた女性と青年に目で合図を取り合うと、三人でロゼの後に続いた。
****************
「え…」
ロゼは家のあった場所に来て思わず崩れ落ちた。
「ロゼ…君の家はここに…?」
アルたちも呆然と森の中に立ちすくんだ。
ロゼの家があった場所。そこは黒く焦げた木材などが転がる焼け野原になっていた。
「お母さん!お父さん!」
焦げた匂いが立ち込める中に飛び込んで行こうとするロゼをアルが止めた。
「アル!お母さんとお父さんは家の中で殺されたの!遺体だけでも…!」
「ロゼ、この焼け跡では無理だ。きっと遺体の損傷も…。それに探してる途中に木材が倒れてきたら危険だ」
「そんな…」
ロゼは呆然と家があった空間を見つめた。両親の遺体を埋葬してあげることもできないのか…。泣かないと決めていたはずの涙が堪えきれずに頬を伝った。
「これも盗賊たちの仕業か…。ロゼが戻ってこられないように…」
こんなのってあんまりじゃないか…。私たちが何をしたっていうのだ…。
歯をくいしばるロゼの上に、ポツリポツリと雨が降り出した。
その時、ロゼは焼け落ちた家の中に鈍く光るものを見つけた。なんでもいい。形見になればとロゼは駆け寄った。
崩れ落ちた木材の隙間に手を伸ばす。それは簡単に手に取れる位置にあった。
「ロゼ、それは…?」
ロゼに駆け寄ったアルがそっと尋ねた。
「これロケットなの」
ロゼはその少し煤で汚れたロケットを開いてアルに見せた。そこには微笑んで寄り添うロゼたち家族三人の姿が映っていた。
「これがお父さんとお母さん。よかった…これだけでも無事で。大切な宝物だったの」
ロゼはロケットの中の写真を見つめ、涙を流した。
「会いたいよ…お母さん、お父さん」
その声をかき消すように雨は勢いを増していった。
****************
「落ち着いたか?」
しばらくして泣き止んだロゼにアルは優しく寄り添った。
「うん…。ごめん、雨の中…」
「いいんだよ」
アルはロゼを立ち上がらせると少し聞き辛そうに尋ねた。
「行く宛、あるのか?」
ロゼは首を横に振った。
アルはそれを見ると背後に立っている二人と目を合わせた。
「じゃあさ…城へ来ないか?」
「え?」
ロゼは驚いたようにアルを見つめた。
「見ず知らずの私がお城へなんて、そんな…!王様に怒られるよ…!いくらお城の剣士だからってそんなわがまま通るはずがない!」
あまりに戸惑うロゼにアルは笑って答えた。
「ここの国は行く宛のなくなった人を放っておくほど酷い国じゃないぜ」
背後に立つ二人も笑って頷いた。
「おいでよロゼ。君の新しい居場所に」
差し出された手をロゼは静かに取った。
雨はいつの間にか上がっていた。
港に着くとロゼはそう言ってアルたちに向かい頭を下げた。
「いいんだよ。俺たちは許可なく出港した船を見つけて取り締まりのために駆けつけたんだからさ。まさか人攫いだとは思わなかったけど…。ところで帰るのはいいけど両親が探しに来てたりしないのか?」
ロゼは俯いた。
「ロゼ…?」
「…ました」
「え?」
「両親は…殺されました」
ロゼの言葉にその場にいた全員が息を飲んだ。
「殺された…?あの盗賊たちにか?!」
「…うん」
アルは拳を握りしめ、やり場のない怒りを露わにした。
「くそ!俺たちがもっと早く盗賊たちの存在に気付いていれば…。衛兵!その盗賊たちは一人残らず城の地下牢へ連れて行け。処罰は最も重いものにしてやる…」
「アルたちは全然悪くないよ!むしろ私のために怒ってくれてありがとう。でもいいの。私ちゃんと一人で生きていくから。両親のことはすごく悔しいよ…。でも、いつまでも泣いていちゃ先に進めないでしょう」
ロゼはアルの拳を優しく握りしめ、笑って見せた。その笑顔には隠しきれない涙が溜まっていた。
「そんなに強がらなくていいのに…。ロゼ、悲しいときは素直に泣いていいんだぜ」
「私は大丈夫。家に帰ってちゃんと両親を弔ってあげなきゃ」
ロゼはアルたちに背を向けて歩き出した。
「ま、待ってくれ。一人で帰らせるのは不安だ。俺たちもついていくよ」
アルは背後にいた女性と青年に目で合図を取り合うと、三人でロゼの後に続いた。
****************
「え…」
ロゼは家のあった場所に来て思わず崩れ落ちた。
「ロゼ…君の家はここに…?」
アルたちも呆然と森の中に立ちすくんだ。
ロゼの家があった場所。そこは黒く焦げた木材などが転がる焼け野原になっていた。
「お母さん!お父さん!」
焦げた匂いが立ち込める中に飛び込んで行こうとするロゼをアルが止めた。
「アル!お母さんとお父さんは家の中で殺されたの!遺体だけでも…!」
「ロゼ、この焼け跡では無理だ。きっと遺体の損傷も…。それに探してる途中に木材が倒れてきたら危険だ」
「そんな…」
ロゼは呆然と家があった空間を見つめた。両親の遺体を埋葬してあげることもできないのか…。泣かないと決めていたはずの涙が堪えきれずに頬を伝った。
「これも盗賊たちの仕業か…。ロゼが戻ってこられないように…」
こんなのってあんまりじゃないか…。私たちが何をしたっていうのだ…。
歯をくいしばるロゼの上に、ポツリポツリと雨が降り出した。
その時、ロゼは焼け落ちた家の中に鈍く光るものを見つけた。なんでもいい。形見になればとロゼは駆け寄った。
崩れ落ちた木材の隙間に手を伸ばす。それは簡単に手に取れる位置にあった。
「ロゼ、それは…?」
ロゼに駆け寄ったアルがそっと尋ねた。
「これロケットなの」
ロゼはその少し煤で汚れたロケットを開いてアルに見せた。そこには微笑んで寄り添うロゼたち家族三人の姿が映っていた。
「これがお父さんとお母さん。よかった…これだけでも無事で。大切な宝物だったの」
ロゼはロケットの中の写真を見つめ、涙を流した。
「会いたいよ…お母さん、お父さん」
その声をかき消すように雨は勢いを増していった。
****************
「落ち着いたか?」
しばらくして泣き止んだロゼにアルは優しく寄り添った。
「うん…。ごめん、雨の中…」
「いいんだよ」
アルはロゼを立ち上がらせると少し聞き辛そうに尋ねた。
「行く宛、あるのか?」
ロゼは首を横に振った。
アルはそれを見ると背後に立っている二人と目を合わせた。
「じゃあさ…城へ来ないか?」
「え?」
ロゼは驚いたようにアルを見つめた。
「見ず知らずの私がお城へなんて、そんな…!王様に怒られるよ…!いくらお城の剣士だからってそんなわがまま通るはずがない!」
あまりに戸惑うロゼにアルは笑って答えた。
「ここの国は行く宛のなくなった人を放っておくほど酷い国じゃないぜ」
背後に立つ二人も笑って頷いた。
「おいでよロゼ。君の新しい居場所に」
差し出された手をロゼは静かに取った。
雨はいつの間にか上がっていた。
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