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メイドのお仕事

私はスピカ

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「スピカ!明日までにこれを書いていらっしゃい!」
そう言われメイド長から渡されたのは…作文用紙だった。
「えっと…なんの感想文でしょうか?」
私は苦笑いで尋ねた。
「感想文ではありません!今日のあなたの失態は手に負えないほどです!その作文用紙にきっちり反省文を書いていらっしゃい!後の仕事は今日はいいから。今すぐに!」
お城に響く怒声を浴びせられた後、私は「すみませんでしたぁ…」と小さく呟き、その場をあとにした。
作文用紙を眺めながら廊下を歩く。
四百字原稿とか無理だよ…。そりゃ失敗はいっぱいしたけど、したことないお仕事だったからそもそもどこを反省したらいいのか全くわかんないし…。
「あれ?私今どこに向かってるんだ?」
適当に進めていた足を慌てて止める。そういえば自分の部屋もわからないのだ。
お城内であることは確かだろうが、そもそもお城が広すぎるのだ。広すぎる割には地図一つありゃしない。
どうしたものか…。
私が考え込んでいると対面から見回りをしていると思われる衛兵らしい人物が姿を現した。そこで私は得策を思いつく。
「衛兵さぁん、私今日ちょっと熱があるみたいでぇ、今にも倒れそうなんですぅ。ちょっとお部屋まで支えてくださらないかしらぁ?」
「そうなんですか?!それは大変です…ってスピカ様?!」
私はしんどいアピールをするために駆けつけた衛兵にもたれかかった。言葉遣いも演技力も満点だな。元の世界に戻ったら女優を目指してみることにしよう。
衛兵の青年はあたふたしながらも「じゃあお部屋に向かいますよ」と、方向転換をした。
どこか顔が赤く見えるのは気のせいだろうか。まあ私のすごすぎる演技に惑わされて恋でもしちゃったかな。これは悪いことをした。私と結ばれるのはかっこいい王子様と決まっているのよ。おほほほ。
変な妄想でニヤニヤしていると急に体が浮いた。
「ふぇ?!私ついに空飛んじゃった?!」
「何言ってるんですか。その状態じゃ部屋まで歩いていけないでしょう。失礼だとは思いますがこれで部屋までお運びしますね」
「顔…近いです…」
「しょうがないでしょう。お姫様抱っこですから。視線そらして我慢してください」
そこで私はやっと今の状況を理解した。部屋までの案内をしてもらうつもりがとんでもないことになってしまった。お姫様抱っことはこんなにも恥ずかしいものなのか。
「いや、でも私重いし…」
「幸いスピカ様のお部屋はここからそんなに距離無いですから。それに重くないですよ。むしろ軽すぎるくらいです」
衛兵はニッと笑った。その綺麗な笑顔にキュンとしたのは多分気のせいだろう。
「じゃ、じゃあお願いします…」
「はい。お願いされました」
まだあどけなさの残る衛兵にお姫様抱っこされ、私は自分の部屋への道のりを確認した。

「着きましたよ」
約2分ほどして私の足はやっと地に降ろされた。
「あ、ありがとう…ございました」
しかし自分の部屋へ行くのに2分か…。自分の家だったら階段上がってすぐなのに。
衛兵は「お大事に」と言って、再び巡回へと戻っていった。
私は自分の部屋という大きな扉を開けた。
「こ、これが私の部屋?!」
女王様がいた部屋よりは質素であるが、この部屋も十分豪奢だった。高級そうな机、椅子、ベッド、窓…。高級ホテルとどちらがいいかと問われれば、私は間違いなくこの部屋を選ぶだろう。
先ほどの緊張は何処へやら、私はベッドへダイブした。
「すっごくふかふか!私ここで永眠できるよ!」
次にクローゼット。
「メイド服ばっかり!てか広っ!かくれんぼで二、三人入れちゃうよ!」
そして一番気になるお風呂場。
「綺麗!てか私一人にこんなに広いお風呂?!さすがお城だ!疲れなんてひとっ飛びだよ!」
私は大浴場のようなお風呂に目を惹かれ、反省文の前に疲れを取ってしまうことにした。クローゼットから寝る時用と思われるシンプルなピンクの服とタオルを準備し、私はメイド服を脱ぎ始めた。
足細いな~。くびれもあるし…それに胸も…
「胸?!」
私は鏡に向いていた視線を自分の胸元へ向けた。そこには視線を遮るように二つの膨らみが…
「ある!胸がある!絶壁じゃない!」
私は思わず感動の涙を流した。あぁ、もう私はこの世界で生きて行くよ。
まじまじと自分の体を観察し(明らかに変人である)私はふと思った。
そういえば私はスピカなんだっけ?もしスピカ本人は昔から存在していたとしたら、私はその子の中身になってしまったってこと?入れ替わっちゃったの?中身だけ?
だとしたらこの体はスピカ本人のものである。
「わああああ!スピカさんごめんなさい!身体観察しちゃいましたあああああ!」
私は急いでお風呂に飛び込んだ。

「中身だけ入れ替わってしまったんならスピカさん困るだろうな。就職試験だったし…。あ、でも確かほわほわメイドちゃん…じゃなかった、アマリリスはスピカは料理できる的な感じで語ってたな。何かそういう面を生かして就職決まってたらそれこそ嬉しいんだけど」
ほおっと湯気に混じって息を吐く。
「スピカってどんな子なんだろ。そういえば女王様やアマリリスに冗談を言うなんて珍しいって言われたな。普段から真面目な子なのかな」
自分がスピカとなってしまった以上その答えは見れそうにない。私の疑問はどことなく消えていった。

「あー!反省文とか全く書けない!何反省すればいいの?!私は私なりに精一杯やってたんだから!」
机に向かって約5分。私は早くもギブアップコールを鳴らしていた。
「こうなったら何を書いたらいいか誰かに考えてもらおう!アマリリスとか!」
んん、アマリリスってどこにいるんだろ。部屋はわかんないし、まだ仕事してたら多分鬼メイドが近くにいるだろうしな。
私は一番頼れそうなアマリリスを頼れないことに気づき、断念した。
いる場所もわかって頼れそうな人物は…もう一人いる!
私は作文用紙を手に部屋を出た。

「女王様、ちょっと困っていることがあって」
私は一番最初に見た大きな扉をノックしていた。頼る相手が女王様とは我ながらありえないと思うが優しそうな人として二番目に浮かんだのが女王様だったのだ。それに偉い人を味方にしておくのは大切なことだ。
しかしなぜかいつまでたっても返事が返ってこない。
「もしかして女王様の身に何か?!」
部屋の中で女王様が何者かに襲われて倒れているというシチュエーションが頭をよぎる。
「女王様!」
扉を勢い良く開けた瞬間、


着替え途中の女王様が衛兵を呼んだ。
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