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第6章 怯える日々

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ピピピピ…
いつものアラームで目を覚ました拓人は、その寝起きの悪さに首を回した。そしてモルテが目に入ると、昨日の出来事は夢ではなかったのだと自覚する。この寝起きの悪さもきっと昨日の悪夢のせいだろう。
モルテは椅子に座ったまま器用に寝ている。机の上には昨日買ったタロットカードが散乱していた。
モルテを起こさないようにそっと机に近づき、タロットカードを手に取った。
買わなければよかったのだろうか?
幾度となく浮かんだ疑問が拓人を責め立てる。
大アルカナは21枚。
死神のカードが抜けていた。
横の未だ起きる気配のないモルテを見つめる。
もしかしたらこいつを消せばこのデスゲームから抜け出すことができるかもしれない。
そんな考えが頭をよぎった。
立て掛けられた大鎌を手に取る。その大鎌はあの時の剣のようにしっかりと重みを感じ、拓人の手に収まった。
「こいつは人じゃない…カードなんだ…」
言い聞かせるように呟き、拓人は大鎌を振りかざした。

「お兄ちゃん起きてるのー?」

「…っ!」
心臓が止まるかと思った。
拓人は大鎌を振りかざしたまま冷や汗を流し、息を飲んだ。
「朝ごはん出来てるよー」
優花の声が沈黙の部屋にやけに大きく響く。
「い、今いく!」
拓人はそれだけ告げると大鎌を元の場所に戻し、部屋を後にした。
「もう、お兄ちゃんってば昨日お風呂も入らないで寝ちゃうんだから。ちゃんと入ってから学校行きなよ?」
優花にそう促され、拓人は朝食の席に着いた。

拓人の後ろ姿を見つめ、モルテは呟いた。
「馬鹿なことするなぁ。これはビジュアルだって言ったろ?」
その顔に少しだけ悲しげな面影を落としながら。



**************



「おはよう拓人」
教室に入るなり、友人の海こと三村海に声をかけられた。海は高校に入ってからできた今では一番仲の良い友達だ。いつも笑顔を絶やさない彼を見ていると、自然と胸の奥に詰まった何かが少し和らいでいく気がした。
「おはよう、海」
拓人の席は後方の海の隣だ。そんな奇跡を利用し、拓人たちは授業をうまくサボっている。しかし今日はそうもいかないようだ。
「俺今日放課後に追試あるんだよ…。一学期初っ端から日本史やらかしてさー…。だから…」
「はいはい。教えてでしょ?」
「占って?」
拓人は取り出した日本史の教科書で思わず海の頭を叩いた。
「いてっ!別にいいだろー!」
「テストの結果が占いでわかるわけないだろ。それに、いい結果が出たら勉強しなくなるし、悪い結果が出たらやる気なくすだろ」
海は懇願するような眼差しを向けてくるが、拓人はあえて無視し日本史の教科書を開いた。
「ほら、範囲ここだっただろ?」
嫌々ながら教科書を開く海を呆れたように見…。
「海、それ国語の教科書」
冷静なツッコミを下した。
そして範囲の重要語句を順を追って確認し始めた時、あの恐怖の音が脳内に響いた。
一気に背筋が凍る。海に日本史を教えることはできないかもしれない。
身を固まらせ、世界の変貌を待った。
しかしいくら待ってもフィールドは展開されなかった。それどころか脳内の高音も消えていった。
「どういうことだ…?」
「相手がフィールドを展開させずに離れていったんだろ」
モルテが廊下を見つめて呟いた。
モルテの姿はカード所持者にしか見えず、普段はカードとして持ち運べるんだそうだ。
いつフィールド展開されるかわからないというモルテの助言に従い、拓人はモルテを死神のカードとして学校に連れてきていた。
カードを置いていけばフィールド展開対象にならないのでは?と思ったのだが、そうはならないらしく、そんな命を投げ出すようなやつはただの馬鹿だと笑われた。
「離れたってことは移動してた人だよな?廊下を歩いてた人とか」
「あいにく今は人通り多くていちいち誰かは見極めてられないね」
モルテに言われ廊下を見ると、今の時間は登校ピーク時なのもあって、かなりの生徒が行き来していた。
「とりあえず音が消えたんならこのクラスではないな。クラスにいる限り安全だ。多分な」
「そうだね」
「拓人、誰と話してるの?」
「へ?あ、いや!ちょっと、その…ひ、独り言!」
唐突な海の言葉に拓人はバレバレな言い訳を並べた。
「あ、もしかして見えてはいけないものが見えるとかー?」
海は冗談で言っているのかもしれないが、ほぼ正解である。笑い転げるモルテを横目に、拓人は苦笑いを浮かべるしかなかった。
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