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第3章 偽りの出会い
偽りの出会い
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頭部に巻いてある帯状の白が風になびく。
大通りから路地裏へ入る。別世界になったかのように、視界から人が消える。いや、本当に別世界なのかもしれない。俺が世界から切り離されているだけかもしれない。
路地裏の突き当たりは行き止まりだ。二メートルと少しほどの高さの塀ブロックが大きく立ちはだかっている。普通の人ならここで引き返すだろう。そもそもこんな路地裏に入ってくる人などいないだろうが。
俺は軽く跳躍してその壁を乗り越えた。乗り越えた先には四方を壁に囲まれた小さな空間がある。まるで世界から孤立した異空間であるかのように。あらかたこれは間違っていない。
俺はその壁の一つに寂しくついているドアをそっと開けた。
暗く静かな場所だ。いうなら洞窟の中と似ているかもしれない。少し冷えた空気が俺を包み込む。
「おはよう。エグズィット」
暗闇に女か男かわからない中性的な声が響く。
「よくずっとこんな暗闇にいて外が朝だとわかるな、ルーラー」
目が闇に慣れ、相手の顔が淡く浮かび上がる。
まず目に飛び込んでくるのは鈍く光を放つ大きな鎌。刃はだいたい1メートルはあるだろう。死神がお決まりと言っていいほど持っているあれだ。まあ事実、こいつ…デス・ルーラーは死神と同じような存在だ。
死んだはずの俺を生かしてくれているんだからな。
身長は俺より少し小さい。160センチといったところだろうか。髪は肩より少し長く、服は袴と似ている。
そして最も大きな特徴は、顔の半分に仮面をつけていることだ。仮面は白く、端から見ると骨のように見える。
「わかるさ。お前が顔を見せるのはだいたい朝だからね。それに髪が少しはねている。寝癖かな?」
先ほどの俺の質問に対して、ルーラーは鋭い洞察力で返してきた。
「さすがだな」
微笑を浮かべ、茶化すように褒め言葉を述べる。
まるで友達のようだ。しかしここに存在しているのは友情などではなく、主人と下僕というものだ。俺はルーラーの下僕に過ぎない。手助けとはいえ、俺の仕事はこの世界に溢れる罪に溺れた人々を救うだけだ。ただ救われるか堕とされるかは俺の気分次第だが。
例えば強盗を犯したやつがいたとする。俺が気に入ればそいつの罪をこの特殊な鎖で縛り付け、罪から逃れられる。つまり警察には捕まらずに済むわけだ。逆に気に入らなければ証拠が見つかり、刑務所行きだ。
いつだってこの世界は気まぐれなのだ。
空気が揺らいだ。
持ち前の反射神経と運動神経で向かってくるものを避けようとしたが、それを上回る動きの持ち主が手持ちの大鎌を俺の首元に当てた。
「ははっ。そろそろ殺すってか?」
殺すなら殺せばいい。別に恐怖などない。それを伝えるように笑みを浮かべた。
「いや、殺しはしない。ただ、一つ忠告だ」
ルーラーは笑いながら言の葉を並べる。しかし目は笑っていなかった。
「最近、お前人を救い過ぎてないか?」
…それか。
「そんなことないぜ?ちゃんと一定の人数は守ってる」
俺はそう答えた。はっきり言って、嘘だ。最近確かに俺が救う人数は上昇傾向にある。
なぜか?
人を簡単に見捨てられなくなったのだ。
「私がどれだけお前のことを見てきたと思っているんだ!お前が嘘をついていることぐらい簡単にわかる。なぜだ!なぜそんなに人を救うんだ!」
ルーラーの手に力が加わるのがわかった。その力は柄を通じて首元の刃に加わる。
首に風が通る。包帯が切られたか?!
これはまずい…。嫌だ。あの悪夢を思い出したくない…!
「思い出すのは嫌ときたか。わがままだなお前は」
表情に出てしまったのか、裏を読み取ったのか、ルーラーは意地悪な笑みを浮かべ鎌に力を加え続ける。
「いや…だ」
絶対に思い出したくない…!
鎌の切っ先が首の傷に触れる。
「ああああぁぁぁぁ!!」
痛い熱い怖い辛い寒い暗い悲しい苦しい寂しい死にたくない死にたくない助けて助けてたすけて輔けて援けてタスケて助けてー・・・
「トラウマが他の人の比じゃないな。エグズィット、やめて欲しかったら救う人数を一定数に戻せ。そうすると誓え。そうしないと俺が殺す人数にも支障が出てくるんだよ」
こいつは死神だ。俺はこいつの力を借りて生きている。勝手に死ぬことすら許されないのだ。
「誓う…誓う、か…ら…」
仮面をつけた死神がそっと鎌を離す。
全身の力が抜け、床に倒れかけたところをそうさせた本人が支えてきた。
もう抵抗する気力もない。ただただ涙と首の傷口が疼く痛みだけが思考を塗りつぶしていった。
大通りから路地裏へ入る。別世界になったかのように、視界から人が消える。いや、本当に別世界なのかもしれない。俺が世界から切り離されているだけかもしれない。
路地裏の突き当たりは行き止まりだ。二メートルと少しほどの高さの塀ブロックが大きく立ちはだかっている。普通の人ならここで引き返すだろう。そもそもこんな路地裏に入ってくる人などいないだろうが。
俺は軽く跳躍してその壁を乗り越えた。乗り越えた先には四方を壁に囲まれた小さな空間がある。まるで世界から孤立した異空間であるかのように。あらかたこれは間違っていない。
俺はその壁の一つに寂しくついているドアをそっと開けた。
暗く静かな場所だ。いうなら洞窟の中と似ているかもしれない。少し冷えた空気が俺を包み込む。
「おはよう。エグズィット」
暗闇に女か男かわからない中性的な声が響く。
「よくずっとこんな暗闇にいて外が朝だとわかるな、ルーラー」
目が闇に慣れ、相手の顔が淡く浮かび上がる。
まず目に飛び込んでくるのは鈍く光を放つ大きな鎌。刃はだいたい1メートルはあるだろう。死神がお決まりと言っていいほど持っているあれだ。まあ事実、こいつ…デス・ルーラーは死神と同じような存在だ。
死んだはずの俺を生かしてくれているんだからな。
身長は俺より少し小さい。160センチといったところだろうか。髪は肩より少し長く、服は袴と似ている。
そして最も大きな特徴は、顔の半分に仮面をつけていることだ。仮面は白く、端から見ると骨のように見える。
「わかるさ。お前が顔を見せるのはだいたい朝だからね。それに髪が少しはねている。寝癖かな?」
先ほどの俺の質問に対して、ルーラーは鋭い洞察力で返してきた。
「さすがだな」
微笑を浮かべ、茶化すように褒め言葉を述べる。
まるで友達のようだ。しかしここに存在しているのは友情などではなく、主人と下僕というものだ。俺はルーラーの下僕に過ぎない。手助けとはいえ、俺の仕事はこの世界に溢れる罪に溺れた人々を救うだけだ。ただ救われるか堕とされるかは俺の気分次第だが。
例えば強盗を犯したやつがいたとする。俺が気に入ればそいつの罪をこの特殊な鎖で縛り付け、罪から逃れられる。つまり警察には捕まらずに済むわけだ。逆に気に入らなければ証拠が見つかり、刑務所行きだ。
いつだってこの世界は気まぐれなのだ。
空気が揺らいだ。
持ち前の反射神経と運動神経で向かってくるものを避けようとしたが、それを上回る動きの持ち主が手持ちの大鎌を俺の首元に当てた。
「ははっ。そろそろ殺すってか?」
殺すなら殺せばいい。別に恐怖などない。それを伝えるように笑みを浮かべた。
「いや、殺しはしない。ただ、一つ忠告だ」
ルーラーは笑いながら言の葉を並べる。しかし目は笑っていなかった。
「最近、お前人を救い過ぎてないか?」
…それか。
「そんなことないぜ?ちゃんと一定の人数は守ってる」
俺はそう答えた。はっきり言って、嘘だ。最近確かに俺が救う人数は上昇傾向にある。
なぜか?
人を簡単に見捨てられなくなったのだ。
「私がどれだけお前のことを見てきたと思っているんだ!お前が嘘をついていることぐらい簡単にわかる。なぜだ!なぜそんなに人を救うんだ!」
ルーラーの手に力が加わるのがわかった。その力は柄を通じて首元の刃に加わる。
首に風が通る。包帯が切られたか?!
これはまずい…。嫌だ。あの悪夢を思い出したくない…!
「思い出すのは嫌ときたか。わがままだなお前は」
表情に出てしまったのか、裏を読み取ったのか、ルーラーは意地悪な笑みを浮かべ鎌に力を加え続ける。
「いや…だ」
絶対に思い出したくない…!
鎌の切っ先が首の傷に触れる。
「ああああぁぁぁぁ!!」
痛い熱い怖い辛い寒い暗い悲しい苦しい寂しい死にたくない死にたくない助けて助けてたすけて輔けて援けてタスケて助けてー・・・
「トラウマが他の人の比じゃないな。エグズィット、やめて欲しかったら救う人数を一定数に戻せ。そうすると誓え。そうしないと俺が殺す人数にも支障が出てくるんだよ」
こいつは死神だ。俺はこいつの力を借りて生きている。勝手に死ぬことすら許されないのだ。
「誓う…誓う、か…ら…」
仮面をつけた死神がそっと鎌を離す。
全身の力が抜け、床に倒れかけたところをそうさせた本人が支えてきた。
もう抵抗する気力もない。ただただ涙と首の傷口が疼く痛みだけが思考を塗りつぶしていった。
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