じいちゃんの贈り物

★白狐☆

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じいちゃんの贈り物

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 じいちゃんが亡くなった。


 ずっと店の事を心配していた。妻に先立たれてからは、三人の息子に継いだ店も代替わりし今は孫に店を一軒ずつ任せて、それを見守りながらアドバイスを送る様な事をずっとしていた。


「あまり、きをてらし過ぎないで伝統の味をしっかりと受けついで欲しい。ただ、ちょっとは新メニューを考えろ。お客だって同じものばかりでは飽きるからな、利益を少し考えて見てもいいかもしれん」


 うちは老舗のうどん屋である。長男の息子が居る一号店に行くと、じいちゃんは毎回そんな話をする。


 慎重派で味が変わらない様に毎日一杯はチェックしては、じいちゃんの味を守ってくれている。しかし、教えた味しか作らない為、昔ながらのメニューしか無いのが残念であった。


「新メニューを考えるのはいいが、定番メニューの様なリピーターの多い物をもっと考えてくれ。限定の一度きりの勝負ではいつかは飽きられるだろ」


 次男の息子にはそう言う。新しい物好きで流行りに乗りたいのか、流行りの食材をなんとかうどんに取り入れて使おうとするが、一言で言えば食べられ無いことはないが、次はない様なものばかりだった。


「才能は一番あるのに何でやる気を出さない。利益と採算だけじゃなくもう少しお客にサービスするメニューも出したらどうだ?」


 三男の息子はそれを煙たそうにただ聞くだけである。じいちゃんが言うとおり、才能やセンスは他の二人の孫に無いものがあったが、収支を増やす以外の事はやる気は誰よりも無かった。


 そんな三人の孫にうどん屋を任せているのはたまたまであった。元々、うどん屋はチェーン展開するつもりは無かった。


 どうしても店を出して欲しいと隣町の人間に言われ仕方なく開業。しかし、それを聞いた真反対にある隣町が〝向こうに出すなら此方もお願いしたい〝と言われ三軒に、のれん分けする事になった。


 実はもう一軒出して欲しいと頼まれたが、流石にうどんのクオリティが下がり管理できないと断って今の状態が生まれたのである。


「三人足して割ったらちょうど良いな」


 よくこう呟いていた事を思い出していた。しかし、継いでもらえる人間がいるだけでも恵まれている環境である。もし、もう少し希望が叶うなら、この店が百年先も続いたら良いと言う事くらいである。


 自分の体調が悪くなり始めてからは、特にその気持ちが強くなっていった。初めはあまり気にはしていなかったが、いよいよになる頃には、この先この三人でどうにかなるのかと心配にすらなっていた。


 そこで、じいちゃんは遺書を書く事にした。ちゃんとした遺書を書くつもりであったが、どうにも有効期限が二十年となっており、司法書士にも言われ財産だけでも、ちゃんとした方がいいと助言を貰っていた。


 どうするか考えあぐねていたその時、次男の息子。つまりは孫に子供が出来たと言う吉報が届いたのである。じいちゃんはひい爺ちゃんになったのだった。


「これはもしかすると。天啓かもしれない」


 小躍りする様にして一つの妙案が浮かんだ。早速、取り掛かりハツラツとした気持ちが湧き上がりつつ全ての心配事はこの日のうちに解消したのであった。


 それから、暫くは元気を取り戻したじいちゃんだったが、よる年波には勝てなかったのか、生き甲斐であった仕事場まわりが出来なくなたっていった。


「心配はもうないが毎日が退屈だな。どうせならもっと先の未来も見てみたかった」


 常々そう口走るようになったかと思うと、肩の荷が降りたせいか緊張から解き放たれたせいか、見る見るうちに寝込む様になってしまった。


 そしてそれは突然やって来たのだった。眠ったまま、まるで笑っているかの様に穏やかな顔でじいちゃんは天に召された。そんな表示も相まって、皆悲しさもあったがじいちゃんらしいとも思ったのだった。


 本人の意向に沿い、家族だけの葬儀が行われると家の方に何処でじいの悲報を知ったのか、数名の人がどうしてもお線香だけでもあげたいと家にやってきていた。


 それだけ慕われていたのだから、追い返すのもと言う思いで、家族の終わった後にじいちゃんの友人だと名乗る人達がやってきた。


 じいちゃんの遺骨を引き取って葬儀を取り持っていた長男と、その息子が迎えるとじいちゃんの友人の数人が二人に向かって何か悲しげな面持ちでやって来た。


 皆二人に突然の訪問と感謝を述べ、各々で言いたかった事ややりたかった事を仏壇に話しかけながら、一人一人順番に席を譲りあって話しかけていた。


 滞りなく葬儀が進んでいた。しかし、その中の一人の小太りで汗を拭いながら話す黒縁眼鏡の田中と名乗った男に、順番が回ってきた時のことであった。


「あの、これ供えさせてもらってよろしいでしょうか?」


 見れば一冊の本であった。かなり使い古した様子の伺える本を仏壇の傍に置くと〝確かに渡したで〝と田中の出身地なのか関西弁で小さく仏壇に呟いた。


「あの、すいませんが貴方はどちら様で?田中さんとは初めてですよね?」


 息子ですら知らなかった人物だった。じいちゃんの交友関係が広いこともあったが、関西に友人が居るとは聞いたこともなかった為尋ねてみた。


「一緒に遊んどったんは学生の間まででな。それ以降は連絡だけとっとったんやけど、爺さんになっておうたんは初めてやな。自営業が落ち着いた頃は頻繁にあうてたんやけどな」


「ではどうして父が亡くなった事を?」


「それは、私がだよ。一応同級生だからね。田中と三人で幼馴染だったからね。まぁ私も会ったのは久しぶりだが、頼まれてたからね。もしもの事があったら彼を呼んで欲しいと」


 じいちゃんとよく遊びに行っていた白髪頭の友達の一人がそう言うと、困り顔のまま頭をかき〝突然呼んでごめんね〝と言ってきた。


「別に構いませんよ。しかし、頼まれていたって一体何を頼まれていたんですか?」


「そうそう、最後に会うた時に買ってこの本渡す約束してたんやけど、まさか亡くなると思わんかって。遅なってスンマセンでした」


 そう言うと田中は仏壇に手を合わせた。何やら神妙な面持ちだったが、汗ばんだおじさんを見ていると何故かどうでも良くなった。


「何の本なんですか?料理の本とか」


「全然ちゃうよ。あっコレ渡したって」


 田中は白髪頭の友人に使い古した本を手渡すと〝懐かしいな、こんなの買ったんだね〝と言いながら息子である自分に本を手渡して来た。その後ろで孫も覗き込んだが親子揃って目を丸くした。


「本当に父がこれを欲しがっていたんですか?」


「そやで。俺らの青春やからな三人で回し読みしてたら、いつの間にかどっかいってしもうたんやけど、一昨年くらいに古本屋で偶然見つけてな」


 手渡された本は、プロレス名鑑と書かれた当時のプロレスラーのプロフィールが書かれていたものであった。


 驚くのも無理はなかった。何故ならじいちゃんがプロレスが好きだったと聞いた事がなかったからである。


 絵に描いたように穏やかな人物で揉め事一つなく、競争心すらないのでは無いかと思われる様な人柄だった為である。家族内でも怒った顔など誰も見た事がなかった。しかも。


「そう言えば、コイツが一番好きや言うてたわ」


 田中の指差した先には、どう見ても悪役らしきマスクの男が竹刀片手に、倒れているプロレスラーを踏んでいる写真であった。


 じいちゃんのイメージとは対極にあろう写真に、身内である二人が信じられないでいると白髪頭の友人だけが賛同し、何故か笑いながらその理由を教えてくれた。


「そうそう、何か悪役ヒールレスラーが好きだって言ってたね。悪者も居なきゃつまんないし、何度も倒されても相手に負けん気で向かう根性が好きだとか」


「そうそう、ワシらの世代はマスク姿の正義のレスラーの方が圧倒的にファンも多かったのにな、変なやっちゃで」


 ますます訳が分からなくなっていたが、この人達には自分達の祖父が、間違いなくそう言った趣味があったのだと言う事を信じる他なかった。


「まぁ家族に秘密にするんは別に変な事やないし、誰にでも言いたない事なんかあって当然やからな」


 田中がそう言うが、家族だからこそショックな事であると思っていた。しかし、それを見透かしたかの様に田中は再び口を開いた。


「何や?君らはエロ本の隠し場所も家族に知られたいんか?」


 白髪頭の友人がそれを聞いて止めている田中を言い過ぎだと嗜めていた。が、あまり田中は気にするよ椅子もなく、むしろ〝何で止めんねん〝と怒鳴り散らす始末である。


 言われた事にもショックであったが、マトを得ていた為言い返すこともできず、どうしてじいちゃんがこの人を紹介してくれなかったのか何となく理解ができた。


 基本的に理解し合える気がしない相手である。もし、田中がただの通りすがりの人間であれば避けて素知らぬふりをして乗り切りたかった。が、関わった以上は穏便に済ませたかった。それに一応はじいちゃんに手を合わせてくれているのである。


「知られたくはないですね。嫌ですから」


 田中はその言葉を聞いて、引っかかっるものがあったが言いかけた言葉を飲み込んで、白髪頭の友人に〝ほな帰ろか?〝と聞いていた。いわゆる空気を読んだ形である。


 何かが引っかかっていた。しかし、田中に聞くのは何故か躊躇われる。
 だが今の機を逃しては、もう二度と会う事もなさそうであった為、最後のチャンスかも知れないと思いたった時にはもう長男は声をかけていた。


「あの!父の話を聞かせていただけないでしょうか?もしかすると、父が何故あんな遺言状を書いたのかも分かるかも知れないので」


「遺言状?アイツそんなん書いとったんかいな。まめと言うか、心配性と言うか。で、どんな遺言状なんや?言うてみ」


「はぁ。それが、二ヶ月ほど前に次男の息子に子が産まれまして、親父からすればひ孫って事になりまして」


「それはめでたいなぁ!おめでとうさんって伝えといて。まぁ見知らぬおっさんに言われても、あんまり嬉しい無いかもやけど」


「伝えておきます。実は遺言状の問題はそのひ孫に関係ありまして、父は孫の誰かに遺産を引き渡すか平等に分けると思っていたんですが、その産まれたばかりのひ孫に全部渡すと書かれていました」


「ほぅ?めっちゃおもろいやんかー!やるやるとは聞いとったけど、想像を超えて来たな」


 田中は何故か興奮気味にそう言う。此方からすれば全然面白くも何とも無い状況であったが、どうやら此方とは違い納得はしているようであった。


「あのね。生まれたばかりの赤ちゃんに遺産全部渡すなんて非常識ですよ、そんな事聞いたこともありませんし」


「そうか?その子がちゃんと受け取った物をどうするかは、大体二十年はかかるやろ。まぁそれまでは事実上の棚上げやな、しかもその間に君ら子と孫が店を維持できてるかもわからんし」


「出来ますよ!これまでだって何とか三軒ともうどん屋で生き残って来たんです」


「たまたまやろな。パンデミック、大恐慌を乗り越えて来たならわかるやろ。不測の事態は絶対に起こる、じゃあ最後は何か?それは君らのじいさんもずっと苦しんどった事や」


 じいちゃんが苦しんでいたなんて知らない。なら何故相談してくれなかったのか、それにこんな無神経そうな男にはちゃんと相談していた事に、二人は少し憤りすら覚えていた。


「だったらどうしろって言うんですか、理不尽な事なんて想像したって、その時にならないと分からないじゃないですか」


「だったら今すぐ店畳んだらええやろ。そんな根性でやっていける訳ない。店潰れた後も〝仕方なかった〝って言うんやろ、言い訳探すなドアホ」


 勢いもあり推し黙る。怒りが込み上がって来たが、田中の言葉は暴言ではあったが、言う事には一理あった為そうする他出来なかった。


「アンタらのじいさんはうどん屋を守るんに血眼やったで、まぁそんなとこ見せる男やなかったけど。戦わんもんには勝ちはない言うてな、競争力の強い男やったわ」


「そんなの、全然教えてもらってないし聞いてない。大体、仲良くしろとは言われていても競い合えとは微塵も言われなかった」


「だから、じいさんが亡くなる直前にわしに頼まれたんやろ。ずっと心配しとったわ、三軒残ったのはええけど、三軒からは増えんかったって」


「何でじいちゃんが貴方に頼むんですか、それに増える?何で店を増やさないといけない。飲食店が次々と潰れた時期を乗り越えただけでも凄い事なんですよ!」


「かもな、でも増やしたんはじいちゃんや。君らやない、それに店舗は増やし続けんと逆に生き残りが難しくなる。まぁ一般企業の考え方ではあるがな」


 田中は太々しくタバコに火を付けた。どうやら話が長くなると踏んだか、ただのニコチン切れを起こしたのか、よそ様の縁側の窓を開けて中庭に移った。


「元々君らのじいさんに頼まれたんは、一度でいいから手を合わせに来てくれって事だけや。でもな、こうなる事見越して呼んどる、ホンマ強かなやっちゃで」


「確かに、店は父が孫に託したのは確かですが、増やせとは言われていません。大体暖簾分けして、誰が経営するんですか」


「増えるか見とったんちゃうか?いつ気づくかとか、まぁ自分の死期を感じて手を変えたんやろ。何か手紙には書いとったからな、皆んな仲良く横並びはホンマに良いのか?って。ええ訳ないやろ、ライバルは多い、大手は強い、飲食店は病気のせいで潰れる。最悪の時代やったからな」


 じいちゃんの葛藤を聞き続けていくうちに、本当にそう言っていたのかも知れないと段々と感じていたが、やり方も田中の事も気に入らない事に変わりはなかった。


「あの。じいちゃんが言っていたって言う、皆んな横並びで良いのかってどう言う事ですか?」


 今まで話に耳を傾けていただけだった孫がそう聞くと、田中はタバコを消し頭を掻きながら答えた。


「やり方も教え方も今当たり前に怒らない、争わない、皆んな仲良くを実践してみたんやろ。でもやっぱり野心も競争心も無かったら店は無理やったからやろな、時代に合わせて潰れるんやったら思う様にやって潰した方がマシやろな」


 世間一般のコンプライアンスを守りながら、時代に合わせた職場づくりと言うヤツであろう。ただ、じいちゃんの思った通りにはいかなかったらしい。


「何で自分の財産ひ孫に渡したんか考えてみ。あてにすんなって事やろ、それでも金いるんやったら、死ぬ気でうどん屋で稼げってワシやったら思うね。大体、君らもう店もろてるやろ?甘えすぎやで、これ以上は贅沢っちゅうもんや」


「貴方は僕達がじいちゃんに甘えてると言いたいんですか?」


「まぁ、端的に言うたらそやな。けど、こんなんワシが言わんでもそのうち気がつくんやろうけど、ホンマ孫子には甘いやっちゃで」


 マトを得ているほど不快な真実であった。田中に対しての不信感は増すばかりでもあった。それが本当の事であっても、言わないのが礼儀礼節である。


 そんな事を考えていると、ふと不快感がなくなった瞬間があった。田中の言っている事は彼の本音であったとすれば、彼がわざわざ話して嫌われるメリットなどないのでは無いだろうか?と思い始めたからである。


 相手が本気で本音を話しているのならば、真剣に話を聞くのが筋では無いかと思い始め、湧き出た怒りを抑えながらではあったが続きを聞く事にした。


「結局は僕達の為にやってくれていたんですね。ならじいちゃんの気持ちに応えないと」


「そんなん当たり前やろ。大体なぁ、君らひ孫に財産持ってかれて悔しないんか?普通は〝アホか!〝とか〝しばいたろか!〝とか怒るもんやろ」


「いや、怒ってない事はないですが、そんな事は言いませんよ」


「そか、そこは関西のニュアンスが強すぎたかもな」


 段々と、田中も落ち着いて来ていた。タバコの力か、それとも粗方思った事を吐き出した所為か、見ればただの爺さんにしか見えなくなっていた。


悪役ヒールレスラーが好きや言うとったやろ」


「はい?父の話ですね」


「当たり前やろ。ワシ誰の葬式に来とるねん」


 突然話が戻り、一瞬何のことかと聞き返しそうになる所を堪えて何とか捻り出した一言だったが、田中には少し間抜けに見えたかも知れない。


「大体、敵が好きやったわアイツ。負けてなお立ち上がる根性のある奴が好きなんやろな、たまにヒーローとかでおるけど敵は毎回負けてもすぐ切り返せるし、あっちの方がカッコいい言うてたん思い出したんや」


 話が戻ったのは、田中自身が思い出した事を話したかったかららしい。なんとなくではあったが田中と言う人間が少しわかった気がした。


 自分の周りにいないタイプであり、自分自身が面倒だと避けて通ってきた人でもある。本音でしか話さない人間は、なんて不器用なのだと感じていた。


「まぁ知っとる事はそんぐらいかな。そもそも、子どもの頃以降は時々電話したり手紙来たりマチマチやったしな」


「とりあえず、今日の話は兄弟達にも話してみます。きっとこれから良くなると思いますので」


「好きにしたらええ。三人もおったら誰か気付いてるかも知れんけどな。何でもやってみるもんや、教えられる事だけが全てやないからな」


 実際に次男と三男達に話に行くと、二人とも何となくは察していた様で、言われたままやる真面目すぎる長男だけが全く気づいていなかったのだった。


「そうそう。言い忘れとったけど、もし何かあったら連絡くれたらええ。同業者のよしみやからな」


「田中さんもうどん屋だったんですか」


「正確には和食屋やけどな。メインが違うとったけど良く電話で話はしとったな、関西風と関東風のどっちのうどんが美味いかってな」


「関西出汁って確かに全然違いますよね。ただ、こっちのに慣れてしまうと刺激と言うか何と言うか、物足りなく感じるんですよね」


「まぁ宿命みたいなもんやからな。アベレージでハズレが少ないんが関西圏で、飛び抜けて美味いものとか群を抜いた様な物はやっぱり関東圏の方が多いかもな」


 経験談を交えながらの話は同業者であったが故に、気にすべき箇所や知りたかった事を教わっているようでもあった。


「じゃあ、次連絡した時にどっちが正解やったか確かめようやないか。まぁ失敗しても恨みっこなしやな」


「それは勿論です。連絡またさせて頂きます」


 気がつけば田中の弟子かライバルの様にもなっていた。連絡先を交換して、何かどうでもいい事と仕事に有意義な事があれば連絡する約束を取り付けていた。


 連絡する約束を何となくするより、条件をつけた方が連絡を思い出しやすいとの田中からの入れ知恵もあっての事であった。



 他のじいちゃんの友人達も何故か連絡を取り出した為、公友会状態になっていたが、それが落ちつく頃には誰もいなくなっていた。


 皆、良い歳をした大人である為、あまり騒いでは迷惑になるとおじいさん連中は、同窓会だったかの様にカラオケボックスに流れて行ったのであった。


「さて、とりあえず次男と三男に連絡でも入れるか」


 葬儀が終わり先に食事を外でとって貰っていた二人に、今日の出来事と年齢層の高い変な友人が増えた事を教える為にスマホを取り出した。


ーーーーーー丸二年がたった三回忌当日。


 三回忌には田中も来る予定となっていた。葬儀以降は連絡すら無かったが、あの日話してくれた事を忘れずにうどん屋を続けて行ったおかげか、ただたまたま上手くいっただけかは分からなかったが、何とか今もうどん屋を続けている。


「やっと会えるのか」


「あんまり会いたく無いな」


「まぁそう言わずに、話してみると何となく癖になるみたいな」


 兄弟での話題が一時期田中で塗りつぶされる程の人気かつ不人気ぶりであった。長男は実際に会った張本人である為、何となくソワソワはしていたが楽しみに見えた。


 しかし、会った事のない二人は見知らぬ人物に会う緊張と、話だけ聞いても面倒くさそうな人物像である事から、別の意味で緊張していた。


 玄関のチャイムがなる。家族は揃っている為それ以外の人物がやって来た事を知らせる為のものであった。


「やっと自慢出来る。四号店の話を」


 玄関口まで向かうと、勝手知ったるが如く扉が開き、せっかちを絵に描いたような関西弁で此方に元気よく挨拶をしている声が響く。


 その時、じいちゃんのくれたご縁こそ何よりの贈り物だったのだと、今更になって気がついたのは、気恥ずかしいので心に閉まっておく事にしたのだった。
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