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★白狐☆

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目指すべき場所

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「それにしても、あの場所の修復に何年かかるかな」


「まぁ冒険者達に死人が出なかっただけでもありがたいと思わないと」


 街は活気で賑わっていた。いつもの日常は継続され、平和は今日も無事に遂行されており、あの日の出来事から一週間が経とうとしていた。


 ダイヤホークは破壊と共に恩恵をもたらした事が、誰もが一番驚いた出来事でもある。ダイヤホークの身体は宝石で出来ていた為、解体した後に売り払われた。


 そのお金を元に破壊された箇所の復興を進めつつ、街の整備とダイヤホークに破壊された場所を修繕しているらしい。


 ファンファーレを鳴り響かせながらマーチに合わせて兵達が街の大通りを闊歩する。普段であればこんな田舎町にやって来るような事は無いはずであったが、その中心に馬車キャリッジに乗った貴族らしき女性が手を振っていた。


「おい!あれが噂の姫様か、何でも今回活躍した冒険者達と一緒に戦ったらしいぞ」


「あんなお嬢様がね。ってか何しに来たんだろ?まさか賠償、、、、、、とかないよな」


「俺は求婚したい男が居るとか聞いたけど」


「嘘だぁ、冒険者なんか相手にするかよ。やっぱり無難に同盟むすんで此処を領土にしたいんじゃないのか?」


 様々な憶測の中。パレードの様な行進が続き町の外れにある教会に向かって行った。人々は優雅に進むマーチを興味深げに見送ったのだった。


 教会前にやってくると、ようやくアニスは馬車キャリッジを降り、まるで勉強がひと段落した学生の様に肩を回していた。ドレスの礼装を纏ったアニスを厳正に嗜めようと執事だったが祝いの席でもある為、口紡ぎながら脂汗をかいているのが見てとれた。


「もういいわ。友達に会うのに何で此処までしなきゃいけないのよ、貴方達も帰っていいから」


「そう言う訳には行きませぬ。我々は姫の身を守る事こそが一番の努めにございます」


 肩をすくめる様にしてアニスは教会の中に入った。いまだ青空の見える天井があの日の出来事が現実に起こった出来事なのだと、証拠めいた様にそこにあった。


「いらっしゃいアニス。って言ってもこの通り教会はお休み中だけど」


「あれ?子ども達は?神父さんも」


「子ども達は明後日まで学舎を借りてそっちに預かって貰ってる。オヤジは大工と交渉中、なんせこの辺り一帯直さなきゃならない場所が多いからな」


 屋根の補修はさすがにプロに頼まないと修繕できない為、その他の瓦礫の撤去作業と壁等の補修をシスターリリィはしていたらしい。


「お金無いからね。節約しないと、ダイヤホークのお金の補助はあったけど元々貧乏教会だったから、それに子ども達の為にお金使いたいし」


「お金だったら、このお姫様がどうにでもできますが?」


「かもね、でも友達で居たいから助けはいらないよ。まぁ本当に困ったら相談には乗って」


「わかった。その時は一番に駆けつけるね」


 次は落ち着いて食事でもしながら話そうと、次に会う約束を従者達に聞かれない様に取り付けた二人は、その場で別れるとすぐさまアニスは馬車に戻った。


 街の外れ沿いを進みながら、病院を目指した。昔からある個人の小さな病院は街の規模からは些か小さく思えたが、病院がない町もある為それを考えれば随分と恵まれていた。


 それ程距離が離れていなかった事と、街中の様に誰かに見られている事がない為、立ち止まる事がなかった事も相まって早く病院に着いた。


「、、、、、、、、よし!」


 姫らしからぬ気合いの入れ方で馬車を降りると、教会の時同様に他の者に待っている様に伝えて一人で中に入った。


 外観は大きめの真っ白な木造建築の民家の様に見えたが、中には待合室があり受付もあったがそこには誰も居なかった。呼び鈴を鳴らしてみたが誰もやって来ない為、アニスは奥に向かって声を掛けた。


「あの!此方に太郎様が居られると聞いたんですが!!」


 しかし誰も出て来なかった為、恐る恐る中に入っていく。診察室らしき場所にも誰も居らず、その奥にある処置室と書かれた部屋の扉を開いた。


「、、、、、、、はひぃ?」


「あの、此方に太郎様と言う方が」


「たりゅ?」


「太郎様です」


「あぁ、たりゅうさむ」


 中に居たのはかなりご高齢な白衣を着た医師で、耳が遠いのか何度もアニスの話しを聞き直したが、結局は意思疎通は叶わないと思われた。


「スミマセン、休診の札が掛かってたと思うんですが」


 更に奥にあった扉から現れたのは、眼鏡をかけ赤い髪を結えた青年であった。話しを聞けば祖父の手伝いをしていたとの事で、とりあえず聞いてみることにした。


「そうだったんですか!スミマセン知り合いが此方で治療を受けていると聞いていたので」


「えっと、それはもしかして太郎さんでしょうか?」


 どうやら青年は太郎の事を知って居るらしかったが、何故かちょっと距離を取られた為、何かしでかした事に違いは無さそうである。


「彼は昨日まで祖父の助手のジェーンにしつこく求愛してたんですが、ジェーンが今朝彼を暗黒の狭間に捨てて来るって」


 太郎は何をしたのか、そして暗黒の狭間とは何処なのだと思いつつアニスは、此処にはもう太郎が居ないのでは居る意味がないので病院を出る事にした。


 青年の話によると、ジェーンと言う女性はあまりこの町から出ない性格らしい為、探せば太郎はすぐに見つかるのでは?との事だった。


「うーん?とりあえずニコとブートンにでも聞いてみようかしら」


 太郎なら捨てられても自力で何とかするだろうと思い、ニコとブートンなら太郎が行きそうな場所を知っているのではと考えた。


 馬車は街の外に出す様に指示し、馬車に乗せていた冒険者の様な脱走用の衣服をスカートの下に隠しコッソリと抜け出した。


 当てならあった。太郎と話しをしていた時に、いつも町の広場でニコとブートンが自然に集まる幼馴染なのだと語っていたのを覚えていた。


 街の外れは林になって居る為、はしたないとは思いつつ出来るだけ早く着替えると、礼装は脱ぎ捨てたまま町の中に入っていった。


 裏通りを通りながら、街の大通りを覗きつつ進む。太郎達が居るかも知れない事と、従者達が追って来ていない事の確認の意味もあった。


「城下町くらい人が多いから、見つけるのに苦労しそう」


 田舎町の中心地ではあったが、元々採掘場で賑わった町でもある。住み着いた人々は減りはしたが、今でも流通の拠点として充分に役に立っている事もあり、定住者は少なくはなかった。


 広場のすぐそばに有る裏通りまでやってくると、すぐさま広場の方を確認したがやはり見当たらなかった為、近場にいた通行人に声をかけた。


「あの、この辺りでいつも遊んでいる三人組を知りませんか?」


「あぁ、それなら丁度広場の反対側にいたよ。でも今日は二人しか居なかったけどな」


 お礼を言ってから、すぐさま広場の反対側に向かう。辺りに従者達が居ないかを確認しつつ、広場中央の噴水を横切る様にして渡った先に二人は確かにそこに居た。


「ニコ!ブートン!久しぶり」


 一週間しか経って居なかったが、あの後アニスは城に強制的に帰され、さらには溜まっていた公務の数々との戦いで実に一週間まるまる外にすら出られずにいたのだった。


「姫様だ、今度パーティに行ったら美味いもの沢山ご馳走様してくれるんだよね」


「アニス!城に良い男いたら紹介してくれる約束忘れないでね!」


 ニコとブートンはアニスに会うなり自分達の報酬の話を始める。ダイヤホークを退治した際にアニスは何でも出来る事は叶えてくれると約束していた事もあり、かなり執念深かった。


「そ、その話は後日に日を改めまして。実は此処に来たのは太郎さまを探していまして」


 事のあらましを話したが、ニコとブートンもどうやら初耳だったらしく、二人とも太郎の行きそうな場所が何処だったか思い出そうと黙り込んでいた。


「心当たりが無ければ、城の者達を使ってこの町の隅々まで捜索させますのでご心配には及びませんよ?」


「違うんだよ姫様。たぶんリーダーは今は町の中には居ないんじゃないかな?勿論、憶測ですが」


「どうして、そう思うのですか?やはり心当たりが」


「違うのよアニス。太郎が居たら基本的に女性を追いかけるか、追いかけられる様な事してるから」


 つまり居れば騒がしい為、すぐにでも分かるのだと二人はアニスに話した。ジェーンと言う女性から逃げる為、町の外に逃げたと考えた方が自然なのだと言う答えに達した。


 アニスだけでは町の外は危険だとニコとブートンがついて来る事になり、三人で町の外に出た時だった。ブートンが突然思い出したと二人を呼び止めた。


「思い出したよ。リーダーが戦い終わった時、門の先を見たとか何とか」


 門と言う言葉に心当たりがあった二人は、その言葉で思い当たる場所があるらしく、アニスを連れて町の側面を進みながら、その場所を目指した。


「太郎様はどうして、あんなにお強いのにあんな性格何でしょう?」


 アニスの今更の発言に、ニコとブートンは少し可笑そうに歩きながら答えてくれた。


「太郎は昔から強かったよ。でもあんまり人付き合いは上手い方じゃなかったの」


「だよね。リーダー昔はちょっと怖かったし、でもはみ出し者の僕やニコとは普通だったね」


「それは太郎のとかそう言うものの類いじゃない?子どもの頃はよく言ってたけど、大きくなってからは聞かなくなった」


「リーダーはあんまり根本は変わってないよ。誰にでも優しいし、けど今のリーダーと違って昔は人との関わり方が上手く無かったから、怖い人にしか見えなかったし」


 気さくと言うよりは積極的の様な太郎の行動は、生まれつきのものでは無かった。人との距離の取り方を太郎なりに培ったものだとニコ達は語った。


「だからさ、幼馴染としては無理してるのも解るからやっぱり手を貸したくなるよね」


「まぁ、リーダーはやり過ぎるところもあるから僕達がフォローしないと、ダイヤホークの時みたいに簡単に死地へ向かう人だから」


 そんな話しをしているうちに、目的地の前まで到着していた。ことごとくこの場所に縁がある為、いい加減に離れたい気もしないでも無かったが、三人とも太郎は此処にいる様な気がしていた。


「此処は、、、、、、、、採掘場?」


「そう、この中で私達は〝門〝を見たわ」


 明確な確信も報告も見つからなかったが、二人は此処に違いないと断言した為、アニスは採掘場に入ろうとしたが、二人に入り口で待っている方が良いと止められ、仕方なく待つ事にした。


 下手をすれば二、三日出て来れないかも知れない様なダンジョン化した採掘場だったが、一度冒険した場所であり行った事のある場所ならそこまで迷うことはないだろうとの考えで待っていた。


「、、、、、、、、あ、帰ってきた」


 採掘場の入り口を、辛うじて切断せずに済んだ足のギブスで気怠げな足取りのまま太郎は外に出ると、ニコ達がいた事とそこにアニスが居た為、少し面食らったがすぐにいつもの太郎に戻った。


「何で皆居るの?アニスは勿論、俺を手厚く介護してくれる為に来てくれたんだよね。って事でオムツからお願いします」


「まだセクハラする元気がある様なのでセルフでお願いしますね。太郎様☆」


 アニスは太郎に対してのいなし方を覚えたのだった。それを見た太郎は、どこか安心した様な表情を浮かべると二人に中で分かった事を伝えた。


「中の門は異世界に繋がっていた。と言う話しをアニスから聞いてたのは知ってるな」


 遥か昔。ダイヤホークに苦戦を強いられていた人々は伝承による勇者に助けを求めた。しかし、勇者召喚の儀での度重なる失敗で勇者が召喚されることは等々無かった。


 しかし、その失敗の副作用として異世界の異物が採掘場内に発掘物として現れる様になり、その中の一つが火薬だったらしい。


「俺が見た門と形は似ていた。でも、そもそもアレには扉の境目すらなく扉かどうかすら解らないし、どうやって使われて居たのかも分からなかった」


「姫様に聞いたらどうですか?リーダー」


「聞いたよ、城にはそれらしい資料はもうないって。そこでだ、やっと冒険者らしく旅に出ようと思うんだが?目的は勿論、あの異世界に行く方法を探すんだ」


 太郎はニコとブートンにそう告げる。二人は元々そのつもりだったと了承すると、アニスも旅に出たいと申し出てきた。


「やっぱり冒険と言えば姫でしょ、だってお忍びで世直し行脚するならご隠居が必要だし」


 アニスは色々なものに毒されていた。しかし、太郎は意外にもアニスの同行を引き留めてきた。


「アニス良く考えてくれ。そんな事をすればアニスの国はどうなる?姫様が居なく、、、、」


「嫌!行く!」


 断固たる決意であった。まさに鉄の意志、しかし太郎も引き下がりはしなかった。いや、引き下がることは出来なかった。


「だって!アニス居なくなったら十中八九俺が捕まるじゃん!」


 太郎の言葉に一同固まった。太郎がそう言う目で世間に見られている自覚と、太郎がど正論を言った事、さらに実際にそうなるであろう予測に口籠る他なかった。
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