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異界の門

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 避けろ避けろ避けろ避けろ避けろ避けろ避けろ避けろ避けろ避けろ避けろ避けろ避けろ避けろ避けろ避けろ避けろ避けろ避けろ避けろ。


 ブレスの角度、魔力の集束具合、ダイヤホークの頭の微細な動き、巨躯の位置、大気の流れ、マナの流れ、ありとあらゆるものの情報を取り入れながら命を賭した回避が行われた。


ーーーーーーーー光の集束と共に砲台ダイヤホークは規格外のエネルギー体を放出させた。


 刹那。稲光りの如く辺りを白く染め上げると、山が一瞬のうちに平地へと変わっていく。まるで山が突然、無くなったのかと思われる程の瞬き。


 太郎は顔を引き攣らせながら、自身の直ぐそばに爆薬を投げつけ、閃光がやってくるほんの一秒にも満た無い程の感覚で、爆風を使い身体を自ら吹き飛ばし、ブレスを回避した。



「あっがぁぁぁ、、、、はぁ、、、、はぁそ、れた」


 太郎がギリギリまで動かなかったのは、ひとえに自分の街の進行方向、アニスの国の進行方向、近場に住んでいる集落等を考え、狙いを自身にしっかりと向けさせる為にあり、早く避ければブレスの被害が広がると考えた為である。


 しかし、太郎の神業的な回避の代償は小さくはなかった。爆風での全身打撲のみならず、太郎の左腕の肩より先は既に飛し存在しなかった。


 腕は二本しかない。つまりもし次が回避出来てもその次はない。腕が無ければ攻撃もでき無い為、全てを諦めるか足掻けるだけ足掻いて逃げ回るのが関の山である。



「、、、、、!い、、、!!ぎっ、、、、、まだ」


 太郎はまだ何も諦めた様子はなかった。ただ、何かを待っているようにアニスの走った方向を確認した後に肩の血を止める為、腕を脱いだ上着で縛り付けた。


 ブレスを放ったダイヤホークは、魔力を激しく消耗したせいか、固まったまま頭部から煙を上げて動けないでいた。


 いつ動き出すかは分からなかったが、今は太郎自身の出血を抑える事で手一杯である。少しでも動けば出血が激しく、戦闘での終わりよりも怪我の具合の方が心配であった。


「やっ、、、、、、ぱり。ヒーラ、、、、くらいは欲しい、、、、、な」


 持っていた薬草をありったけ傷口に塗りつけたが、どこまで効果があるのかは分からなかったが、痛む腕の痺れくらいは取れた気がした。


 マナは抑えたまま森の中に逃げ込む。もしすぐに、ダイヤホークが動き出せば呆気なく森ごと焼き払われ、太郎は何処でやられたのかも分からないまま終わりを迎える事になる。


 逃げたのは賭けに過ぎなかった。太郎自身がすでに限界をはるかに越えた状態には違いなく、思考がリスクを想像するまでに至らない状態になってしまっていた。


「と、、、、、にかく、、、、、逃げないと」


 逃げても大丈夫な向きだけは理解していた為、ゆっくり移動を始めようとしたその時であった。太郎のすぐ後ろから轟音が鳴り響き、木々が吹き飛んで行くのが見えると、すぐさま振り返った。


「ヤバイ、、、、、、、、もう、、!、、起きたのか」


 ただ、ダイヤホークは魔力自体のリロードを未だ行えないでいる為か、辺り構わずに暴れているのが実情であり、すぐに此方がどうこうなる様な事態には陥ってはなかった。


 荒い呼吸を整える。残った火薬弾は二発、回避に使うにしても足止めに使うにしても、心許ない事に変わりはなかった。


 巨躯をくねらせるダイヤホークに近づくのは危険極まりない状態で、あたり構わず破壊し続けている。今のうちに一発お見舞いしてやろうかと、隙を伺っているうちにダイヤホークの動きが変わる。


 突然、電池の切れた玩具のように固まったまま動かなくなり、ダイヤホークの全身から煙が上がる。時間が稼げると考えたのも束の間、自分の考えの甘さを理解する。


 見る見るうちにダイヤホークの身体は、破損箇所の自己修復を始めた。暴れたのは自己修復する為、辺りの危険性が無いと確認する為に行った行為だったのだと今更になって気がつく。


 大したダメージは与えていない。しかし、完全に回復すれば今度は此方に向かわず街に向かう可能性も否めない。攻撃のチャンスではあったが、今手を出すべきか拱いていると。


「何だあの鳥は!リンド、サロ、サポートを!」


 これだけの巨躯が騒ぎを起こせば何かしらやってくる事は予想出来た。しかし、太郎達は移動しながら此処までやって来た為、運良く誰にも出会わなかっただけである。


 しかし、同じ場所に暫く留まればたまたま近場にいた誰かがやって来る、いつかが突然やって来てしまった。


「クソ、、、、、、間に合わ、、、、、、ない」


 魔力攻撃をすれば、それだけダイヤホークが回復してしまう。冒険者達は魔物との戦いに長けているが故に、正攻法をとるのが一般的であった。


 つまりは、遠距離攻撃である魔力攻撃からの物理攻撃部隊が、足元や背中から攻撃を行うのがセオリーである。それを始める前に今太郎が出来ることは一つしか無かった。


「に、、、、逃げろぉぉぉおお!!」


 火薬弾をダイヤホークに投げつける。攻撃と共に自分太郎の事を広い森の中で認識させる為には、この方法しかないと思い至ったのだった。


 しかし、この作戦は裏目となってしまった。太郎の満身創痍の姿を見てサポート役の二人が近づいて来てしまい、先陣を切った冒険者はダイヤホークに怒りを露わにして立ち向かって行った。


「だ、、、、駄目だ、止めてくれ」


「大丈夫!すぐに治癒ヒールをかけます。腕は元には戻りませんが、傷口を塞ぐことは可能です。サロ、防御壁を」


「わかってるよリンド。もう張ってる」


 リンドと呼ばれた長い金髪の僧侶プリーストと、水色の魔法使いウィザードの二人は、慣れた手つきで介抱するところを見ると、中堅クラスの冒険者である事は見てとれた。しかし。


「違うんだ、あの冒険者を、、、、、、止めてくれ」


 太郎は三人の身を案じていたが、三人の冒険者達は非常事態に慣れていた為か、太郎の言葉をただの心配と捉えられてしまった。


「、、、、、、、、違、、、違うんだ」


 その時だった。先行して行った冒険者のリーダーらしき人物は、突然聞き覚えのある叫び声と共にダイヤホークとは逆方向に吹き飛んだ。


「邪魔じゃ、このクソがぁあぁぁぁ!!!」


 ニコの飛び蹴りが炸裂すると同時に、冒険者は吹き飛びダイヤホークに向かって放った魔弾の残弾をブートンがフライパンで叩き潰してしまった。


「、、、、、、、、遅いじゃねぇか二人とも」


 太郎の方を見た二人は、太郎がまだ生きているのを確認すると、すぐさまダイヤホークに対峙する。魔力壁では無く、二人は魔力抵抗レジストのかかった盾を使い太郎の前に立った。


「貴方達!なんでユーリを蹴り飛ばしたのよ!」


「ユーリ?あぁ、あの冒険者マヌケね。感謝なさい!あんな馬鹿でも一応助けてあげたんだから」


 リンドとニコはまるで噛み合わない会話をしていると、空から太郎には身に覚えのある魔力の感じを探知し此処にいる者達に叫んだ。


「魔弾が、、、、、、、、、空から降り注ぐぞ!!」


 魔弾の雨が突然再び降り注ぎだした。魔力回復にはまだ時間がかかるかと思われたが、さっきの三人組の魔力行使のせいか、思ったよりも早くリロードは終わったのだった。


「、、、、、、、、大丈夫!遅くなった甲斐はあったよ太郎リーダー


 ブートンは盾を太郎に渡しつつ、自分のフライパンを巨大化させ、その下に隠れつつ魔弾の雨をフライパンの中に溜めていった。


 何の話かと思った束の間。すぐさまブートンの話した意味を理解する。背後から魔弾の雨に入り混じるように火薬弾の矢が放たれ、ダイヤホークの半身を爆破させていった。


「皆来てくれたんだ。街を守りたいのは僕達だけじゃないからね」


 ブートンの話によると太郎の所に向かっている途中、別の冒険者達に出くわし避難を促したが、逃げるよりも一緒に戦いたいと言い、他の冒険者にも応援を頼んだ方が良いとの結論に至ったそうだ。


 そこで街に先に立ち寄り、住人達の避難を促しつつ戦闘の参加を募り冒険者を集めている内に、時間が掛かったのだとブートンは語った。


「それにアレを上級魔法使い達に作って貰ってたからね」


 指差した物は火薬弾だった。避難を促していた最中にアニス達と合流したらしい。アニスにダイヤホークに有効な爆薬の作成方法を聞くと、材料と魔法使い達を集め火薬弾を作成しつつ複製魔法で倍に増やし、集めた冒険者達に渡し、準備を万全にやって来たのだと語った。


「全部、太郎リーダーが時間稼いでくれたおかげだよ!見てみろよ、あんなに大きかったダイヤホークが」


 ダイヤホークの全身は穴だらけになっていた。百人は居るであろう冒険者達は火薬弾を撃ち込んでは、後方に居る魔法使いから火薬弾の複製品を受け取り放つを繰り返していた。


「畳み掛けろ!再生させる暇を与えるな!」


 先陣を切っていた冒険者の一人はそう叫ぶと、怒号のような返事と共に更なる無数の火薬弾の矢が降り注いでいた。爆撃の最中、太郎達は隠れる様に冒険者達の後ろに回った。


 ニコとブートンは盾とフライパンを傘に移動して来たが、ブートンのフライパンが満ち満ち始めた為、太郎がそれを指摘するとブートンは自信ありげに答えた。


「魔力を結晶化してるから大丈夫。後で宝石としても回収出来て一石二鳥だから」


 そんな話が出来るほどの余裕をブートンとニコはもたらしてくれていた。爆撃の音が遠のく位置で太郎は傷口の治療を再度行い、今度は簡易ではあったが一通りの治療を終えようやく安堵したその時だった。


 あの頭蓋を破る様な咆哮のような念波が響き渡り、一瞬にして爆撃の音が消えたかと思うと、再び耳をつんざく音波が響き渡り戦闘どころでは無くなってしまった。


 火薬弾の応酬が止まり、念波が響き渡った瞬間から、すぐさま事態は急変する事となった。ダイヤホークは念波を止める様子が無いまま、辺りを薙ぐように羽根の真空波で切り裂いた。


 たった一凪の真空波は冒険者達の統率をバラバラにし、優勢だった攻勢をひっくり返すには十分な切っ掛けとなった。 


「、、、、、、、、行こう。出来ることが一つでも有るなら」


 太郎は二人にそう語りかけた。逃げた方が良いのかもしれない。しかし、自分以外の人達が命をかけて戦っているにも関わらず、自分も一度は命を賭けた戦場を逃げ出す事は出来なかった。


 ブートンとニコは先にダイヤホークに向かって行く。冒険者達の救出を太郎が請け負い二人に時間を稼いでもらっている間に体制を立て直す作戦を立てていた。


「皆さん、大丈夫ですか?治癒が必要な方から先に避難してください。戦闘可能な方は今のうちに体制の立て直しを」


「既にそれは済んでいる!それよりこの火薬弾を纏める手伝いをしてくれ!」


 半数以上は戦闘の立て直しを行なっている最中であった。その他の冒険者は既に避難しており、またその所為での問題も起こっていた。指揮をとっていた冒険者を手伝いながら話を聞く。


「避難をした殆どがバックアップの魔法使い達だ。しかもあの真空波で火薬弾も殆どが吹き飛んだ」


 つまり残弾に限りが出来、しかも手持ちの残弾も残り少ないと言う話であった。更に話しを聞けば、火薬弾の雨を続けるよりも、残弾を考えれば集めて破壊力を上げる方が、まだ良いのではと言う話になり火薬弾を纏めていたらしい。


「勝算は?何て野暮だったな。でも見込みは有るんだろ?」


「あぁ、ダイヤホークの外殻は少しずつ削る事が出来ていた。それとあれは鳥の形では有るが火龍の仲間かもしれん」


 話しを聞けば、火薬弾で爆破した破片の一部を体に吸収していたとの事だった。火龍は石炭やマグマを食べると聞いた事があると冒険者は話した。


 今にして思えば、炭坑で目覚めたダイヤホークがしばらく現れなかったのも、食事を取って居たのではと思えば合点もいった。そして、燃える石を食べ続けている体の外殻がダイヤなのも自然な事なのかも知れない。


「口の無いダイヤホークは体外から吸収しながらエネルギーを摂取し、更に体外から魔力マナまで吸収しやがる。つまりは全身が口の代わりって訳だな」


「かもな。仮説に過ぎないがもし火龍であれば、弱点は明らかとなるだろ?つまりは逆鱗」


 短時間での観察眼のそれは、やはり太郎達とは違う手練れベテランの冒険者である事は容易に分かった。また、弱点が有効であれば火龍に違い無く、生き残る道がひらけると握る手に力が篭もった。


「一刻も早く火薬弾を仕上げましょう」


 ニコとブートンが時間を稼いでいる今のうちに完成を急いだ。しかし、太郎一人で凌いでいたのはまさに神の時間に過ぎない。二人が何処まで凌げるのかは誰にも分からなかった。


 冒険者としての心構えがあったとしても、無謀と勇気を履き違える輩はいくらでも居る。しかし冒険者としての心構えを解さない、太郎達の未熟なパーティは無謀も勇気も持ち合わせて居ないからこそ出来る攻防がそこにあった。


「ブートン!!フライパン薄くなってる、何とかしてよ!!」


「だったら、そっちの盾で防げば良いだろ!そろそろ限界なんだよ」


 フライパンと盾が交互に守りを堅める。魔弾は雨ほどでは無かったが、二人を狙って断続的にマシンガンの如く襲いかかって来た。そして、なりふりも周りへの被害も気にしないからこそ、二人は周りにいた冒険者達を巻き込みながら逃げ回っていた。


 それは一瞬の出来事であった。元々、薄氷の上を歩く様な危うさだった二人は、太郎の様に刹那の時を凌ぎきる事は出来なかった。


「マズイ、ニコッ!!そっちに避けちゃ駄目だ!!」


 ニコは盾を持って飛び出した。しかし、ずっとマシンガンの様な魔弾が飛んで来ていたはずだったが、突然魔弾の砲撃が放たれニコの盾が瞬時に砕け散った。


 この砲撃が放たれる直前。突然の爆破音と共にニコの身体が跳ね上がる様にして宙を舞い、その下を魔弾の砲撃が貫いていった。


「や、、!?、、、!ばい、、、、、死にそう」


 ニコを抱きかかえて居たのは太郎であった。脂汗と顔を歪ませたままの太郎は、片足を焦げ付かせ煙を上げたまま、ぶら下がっているのが見えた。


太郎あんた足が、、、、、、」


 太郎だけがあの砲撃に反応できた。それは偶然では無く太郎だけが二度目の砲撃だったからである。しかし、ニコを助ける代償は安くは無く、片足を爆破の犠牲にしての救出であった。


「火薬弾の束が出来た!そこの二人を救出、、、、、、、、」


 太郎とニコを退けようとリーダー格の冒険者が言うや否や、太郎は火薬弾の最後の一発をニコを庇いながら近場の地面に投げつけた。


「ま、、、、だ、、、、、、死んで、、、、られねぇんだよ!!」


 再び足を犠牲にした爆風での回避。しかし太郎一人ではなくニコを抱えて居た為、思ったよりも飛距離がでなかった。だからこそ、太郎はこれが自分達に出来る最後の仕事と思い、唯一動いた右腕で爆風の勢いそのままにニコを投げ飛ばし、足りない飛距離を補ったのだった。


 その時だった。背中から今までとは比べ物にならない程の衝撃と轟音。地面が鳴り響き衝撃波が辺りを破壊しながら、爆撃の光が辺りを包み込んだ。


ーーーーーーーーその光の中、太郎は生死の境の中で確かにそれを見た。


 巨大な扉の先。石の道に巨大なガラスの建物、鉄の馬が走り見たこともない様な恰好をした人々が行き交い、穏やかな世界は太郎には鮮烈な印象を残してホワイトアウトしていった。
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