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恐れ知らずの挽歌
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「、、、、、、、、ちょっとカッコつけ過ぎたぁあああぁぁああ!!?」
ダイヤホークはあたり構わず光のブレスを吐き、森を焼きながら猛進を続けていた。ブレスを掻い潜りながら奇跡的に逃げ果せている太郎だったが、一撃必殺のブレスが何度もやってくる緊張感は尋常では無かった。
逃げ足だけは自信のあった太郎だったが、長時間の緊張感の中で蓄積される疲労感に耐え忍ぶには些か長過ぎた。
「死ぬ!死んでしまう!まだ童貞卒業どころか彼女も出来た事ないのに。嫌ダァあぁぁぁ!死にたくないぃぃいぃぃ!」
まさに死に物狂いであった。足はとうに限界を超えて乳酸の塊と化し、疲労感だけでなく痛みまで出る始末であったが、足を止めるわけにはいかない。
汗で全身が濡れ、全身が痛みと共に骨が軋む音まで聞こえ出す。耳鳴りが止まず荒い呼吸のまま酸素を取り込もうと必死に息を吸いこんでいた。
「はっはっ、、、も、、、勘弁してくれ。うおぉぉぉおぉぉぉ!!」
全身の疲労のピークを見計らったかのように、ブレスがやってくると水を掛けられたかの様に意識を呼び覚まされ、何とか凌ぐを繰り返すと洞窟を見つけた。
「中、、、、、中に、、、、、、」
洞窟に逃げる様に転がり込もうとした。しかし、飛び込む直前に太郎の視界に近未来視が突然飛び込んで来た。
洞窟に入った瞬間。ダイヤホークは一度旋回したかと思うと、穴の入り口からブレスを吐き逃げ場のないまま太郎はこの世界から失われる。
それが近未来視であると理解する間などなかったが、入れば一撃必殺の元に自身が消滅すると感じ取り洞窟の側の茂みに飛び込んだ。
ダイヤホークは近未来視で見た様に旋回を行うと、太郎が飛び込んだのだと思い込んでいた様で、ブレスを吐き出し辺りに地揺れを起こすほどの衝撃が広がった。
肩を揺らしていたほどの息を殺しながら、動くマンション程の大きさのダイヤで作られた様な鷹は、どうやって目覚め鷹の中に入って居たのだろうと考える隙すら与えてくれない。
目。眼らしきものは見当たらない為、見えているのかどうかも解らなかったが、頭らしきものはあるので、身を隠しながら呼吸する胸の鼓動さえも抑えつけたまま隠密に徹した。
ブレスを吐いた後。ダイヤホークは生死を確認しているかの様に洞窟の前で犬のお座りの様に佇んでいた。その姿がまるで耳を澄ましている様に見え、太郎は思わず呼吸を止めた。
ーーーーーー心音が聞こえる。目を瞑り呼吸に意識を集中し、息が漏れない様に努めた。
動けば死。草木に衣服が擦れれば死。汗を落とせば死。息を吐けば死。息を吸えば死。心音を鳴らせば死。瞬きをすれば死。
どんな些細な変化さえ直接的な死に繋がる。動きっぱなしの後の微動だに出来ない静止静寂の間は、太郎にとっては地獄の中間地点に過ぎなかった。
ダイヤホークから突然、咆哮の様な念波が広がる。脳を掻き混ぜた様な吐き気と痛みのオンパレードに我慢の限界まで来ていた。
思わず声を上げそうになるのを堪えて両手で押さえつける。涙と鼻水が流れたが、拭う所作すら警戒して出来ないでいる。
世界が何度も暗転する。意思とは裏腹に意識を何度も失いかけ、絶望感の中でただ怯える事しか出来ない様に感じていた。
何も出来ないでいた。何も動かせないでいた。何もなしえないでいた。何も得られないでいた。だが、何も守れないでいるのだけは我慢ならなかった。
今、見つかれば死んでしまうかもしれない。死ねば誰も守れない、だから絶対にここでは死ねない。しかし、このまま逃げ果せたとして、ダイヤホークに勝つ術などない。
ーーーーーーだったら目覚めの鷹を壊してしまうか。
持っている限り追われ続ける。壊して良いものか分からなかったが、薄っすらとそんな事すら考えてしまう程の窮地には変わりなかった。
元より特別な才能や技術、魔法の類も持ち合わせていない大量生産されたような冒険者の一人に過ぎない。太郎は何故こんな事になってしまったのかを思い返しながら、大きく息を吸い込んだ。
刹那、ダイヤホークの頭が此方に向く。顔という概念があるのか無いのか分からないダイヤで出来た頭部から魔法陣が浮かび上がりブレスを吐く体勢に入ったが、逃げる体力が無く絶対絶命と言う一言が脳裏によぎる。
「全く、人の話も聞かず無茶をしないで下さい」
声が聞こえると同時に爆発音が響き渡り、そちらを見るとアニスと護衛達が何か見たこともない兵器を手にして、それをダイヤホークに向かって投げ付けると、再び爆発音が響き渡った。
「太郎!!早く此方に、攻撃は有効ですが数に限りがありますので」
アニスが叫ぶと太郎はふらつきながらアニス達の元へ辿り着こうとしたが、ダイヤホークもダメージを負いながら巨躯のクビを鞭の様に振り翳し太郎が近づくのを阻止する。
「残弾が少ない姫様。これ以上は逃走分の弾薬が無くなってしまいます」
「救出の為に来たんですよ。今全力を尽くさないでいつ尽くすと言うのですか!!」
魔弾で有れば余力はあったが、ダイヤホークへの魔力行使は、自殺行為に等しい程の致命の一撃となる。魔力を吸収するだけで無くその力が自らに降りかかる為である。
出し惜しみを捨て、持って来ていたダイナマイトをダイヤホークに投げつけると、もがきながら念波を撒き散らしては身体をくの字に曲げながらもアニス達に襲い掛からんとしていた。
「アニス!!魔力を遮断しろ。コイツはマナを感知しながら襲ってくるぞ!」
そう叫んだのは太郎だった。逃走の最中にずっと考えていた事があった。ダイヤホークは目は勿論見えてはいなかったが、耳もどうやら聴こえない事を見つけていた。
ではどうやって太郎を認識しながら追いかけて来たのか?始めは嗅覚か聴覚が優れているのかと思われたが、匂いを認識する為の器官は見当たらず、逃走中に汗だくになったにも関わらず隠れただけで太郎を見失ったダイヤホークは嗅覚が優れているとは言い難い。
また、聴覚も同じようにあれ程神経を使って心音まで聴かれないように気を付けていたが、息を吸った途端此方には向いたは良いがハッキリとした場所までは分からなかったのであろう、ブレスと言う名の広域攻撃を放ったのだ。
つまり、悪くは無いが特別に聴覚が優れているとは言い難かった。
残るはマナだったが、正直確信は持てなかった。何故なら太郎自身が大した魔力も持たない筈であったが、ダイヤホークは執拗に追いかけて来た為、魔力以外の何かだと考えていた為である。
しかし、あてはハズレ続けやはり魔力感知の力が働いているのかも知れないと考えた時、そもそもダイヤホークが何を追いかけていたのかを思い出した。
ずっと抱えていた事で、ようやく気づける程の微弱な魔力。それをダイヤホークが追いかけて来たのだと思えば合点はいった。魔力には匂いの様に一つ一つ違いがある為、追いかけて来れたのだと推測出来たのだった。
ーーーーーー此方に向かって再びブレスを吐かれた。
微弱な魔力を正確に捉える事は至難の業である。しかし、太郎が目覚めの鷹を持っている限り基本的には太郎に向かってやってくる。しかし。
「駄目だ魔力を消して逃げろ!コイツ、アニス達の魔力を覚えたみたいだ。頭が完全にそっちを向いてる」
ずっと太郎一辺倒だったダイヤホークの動きが変わる。アニス達に突然刃が向いたかと思うと同時に、ブレスばかり撃ってきていたはずのダイヤホークが雨の様な魔弾を降らせた。
魔弾の雨を防ぎながら、太郎はようやくアニス達と合流を遂げたが、身動きを取れる状態でも無く隠れながら魔弾が落ち着くのを待った。
「ダイヤホークは魔力を吸収するんだよな。アニス」
「ええ。それがどうかなされましたか?太郎様」
太郎は何かを再確認する様に魔弾の雨を見上げる。暫く考えた後、ずっと口を閉じたままだったハーフエルフの女性と顎髭の男と、レイリンと呼ばれた者が話しかけて来た。
「とにかくその像を返せ。我々が持って離れる隙に姫様を逃してくれ!」
「駄目よキョウ。貴方達は確かに護衛だけど、誰一人欠けさせる気もありません!」
キョウと呼ばれたハーフエルフの女性にアニスはそう言うと、ずっと魔弾の雨を魔力壁で退けてくれていた男二人も言ってきた。
「我々の命。姫様を守れるなら喜んで死地へ赴きましょう」
「そうだぜ、俺達三人は姫様の剣であり盾だ。今こそ我等にご命令を」
安全策の話である。合理的に考えればその通りであったが、ダイヤホークは目覚めの鷹を持っていないアニス達に攻撃をしかけた所である。
この先の戦いは目覚めの鷹を持っていなくとも危険が伴う可能性がある。像を渡しても上手くいかない可能性がある以上、太郎は渡す事は出来ないと考えていた。
「それより今は、この魔力壁を出来るだけ早く外す必要があると思う」
「バカ言うな!今これ外したらどうなるか誰でもわかる事だろうが!」
太郎の話に顎髭が返したが、太郎は話を続けた。此方が魔力を使っていないにも関わらず、魔弾と言う魔力カウンターを発動させて来た事に疑問を感じていた。
「つまり、魔力吸収の範囲が広いんじゃ無いかと思う。攻撃を受けて吸収するとかそんなレベルじゃなく、もしかしたらこの辺り一帯から吸収してるんじゃないかと」
太郎が逃げていた最中は、魔弾なんて飛んでこなかった。移動していた事と太郎自身が魔力行使しなかった事。そして、辺りに他に人が居なかった為だととも仮説を説明した。
「魔力が存在するだけで無尽蔵の魔力供給を受け続けるなら、それだけで脅威どころか反則レベルの能力だろ」
太郎はダメ押しに都市伝説級の存在であるならば、それくらいの力が有れば倒すことも難しくなる。つまりわざわざ封印何て面倒な手段を取らざるを得ない理由としては十分な理由なのでは無いかと太郎は告げる。
「だったら、どうしろって言うんだ!魔力壁は解けない、離れる事も困難、ブレスに魔弾の雨!逃げる隙なんて何処にあるって言うんだ!」
「隙なら絶対に出来る!あと少し、その時は来る」
顎髭と太郎の言い合いの最中、魔弾の雨の数が増えてくる。このまま押し潰すつもりの攻撃だと感じていたが、太郎達はまだ身動きが取れないでいた。しかし。
「マズイ!ブレスと魔弾両方同時に撃てるのか」
ダイヤホークの魔弾の雨が止まぬ中、ブレスを放つ為の魔法陣展開を始め、アニス達は魔力壁の範囲を広げられるかの算段を話し合っていたが、太郎はアニスに突然質問する。
「あの魔力を使わない爆破の道具はあとどれくらい残っている?初めに助けてくれた時に使ってくれていた物だ」
「それならばキョウ火薬弾の残弾は?」
「三発になります。レイリンとハンは使い切りましたので」
キョウがそう報告すると、青白い顔のままの太郎は火薬弾を受け取ると同時に、アニスに見つからない様に、小さな紙をキョウに手渡した。
「太郎様。その火薬弾をどうするおつもりで?」
「コレを使って、ダイヤホークの足元に穴を開けるんだ。この下には坑道の地下道が通っている。だから燃える石にも引火させて爆破させようと思う」
その為にアニスはキョウが魔力壁を張り二人で安全地帯まで移動し、いま魔力壁を張ったままのレイリンとハンは太郎と共にダイヤホークに攻撃を仕掛けるのだと説明した。
「時間はない、ブレスを放つまえに今すぐこの作戦を開始する」
太郎の鶴の一声と共に、アニスとキョウは魔弾の雨から逃れる様に走り出した。残った男三人はダイヤホークの頭が此方に向いているのを確認し、顎髭が聞いてきた。
「そんな上手く行くもんかね?大体この火薬じゃ、、、、、、、」
「分かってるよ。だから、お前達もアニスを頼む」
太郎の本当の作戦はただの突貫とダイヤホークの引き付けに過ぎない。いわゆる、アニスを逃す為の方便でしかなかった。キョウに渡した手紙にはただ一言〝逃げろ〝とだけ書いて意思疎通を計ったのだった。
「そうだったのか、分かった。お前の心意気無駄にはしねぇ!!」
「、、、、、、、、また、会おう」
ハンとレイリンがそう言うと、魔力壁を張り続けるのも限界だったのか、今にも崩れそうなままダイヤホークと反対方向に死に物狂いで駆けて行った。
ダイヤホークと一人対峙する。太郎には覚悟が芽生えていた。それは、自分の生命を使い切らずどうやってギリギリで踏み留まる事が出来るかの、算段を算出し生き残る為の覚悟であった。
「この先、生き残るのはお前か俺か、どっちの運がより強いか決めようか」
ダイヤホークはあたり構わず光のブレスを吐き、森を焼きながら猛進を続けていた。ブレスを掻い潜りながら奇跡的に逃げ果せている太郎だったが、一撃必殺のブレスが何度もやってくる緊張感は尋常では無かった。
逃げ足だけは自信のあった太郎だったが、長時間の緊張感の中で蓄積される疲労感に耐え忍ぶには些か長過ぎた。
「死ぬ!死んでしまう!まだ童貞卒業どころか彼女も出来た事ないのに。嫌ダァあぁぁぁ!死にたくないぃぃいぃぃ!」
まさに死に物狂いであった。足はとうに限界を超えて乳酸の塊と化し、疲労感だけでなく痛みまで出る始末であったが、足を止めるわけにはいかない。
汗で全身が濡れ、全身が痛みと共に骨が軋む音まで聞こえ出す。耳鳴りが止まず荒い呼吸のまま酸素を取り込もうと必死に息を吸いこんでいた。
「はっはっ、、、も、、、勘弁してくれ。うおぉぉぉおぉぉぉ!!」
全身の疲労のピークを見計らったかのように、ブレスがやってくると水を掛けられたかの様に意識を呼び覚まされ、何とか凌ぐを繰り返すと洞窟を見つけた。
「中、、、、、中に、、、、、、」
洞窟に逃げる様に転がり込もうとした。しかし、飛び込む直前に太郎の視界に近未来視が突然飛び込んで来た。
洞窟に入った瞬間。ダイヤホークは一度旋回したかと思うと、穴の入り口からブレスを吐き逃げ場のないまま太郎はこの世界から失われる。
それが近未来視であると理解する間などなかったが、入れば一撃必殺の元に自身が消滅すると感じ取り洞窟の側の茂みに飛び込んだ。
ダイヤホークは近未来視で見た様に旋回を行うと、太郎が飛び込んだのだと思い込んでいた様で、ブレスを吐き出し辺りに地揺れを起こすほどの衝撃が広がった。
肩を揺らしていたほどの息を殺しながら、動くマンション程の大きさのダイヤで作られた様な鷹は、どうやって目覚め鷹の中に入って居たのだろうと考える隙すら与えてくれない。
目。眼らしきものは見当たらない為、見えているのかどうかも解らなかったが、頭らしきものはあるので、身を隠しながら呼吸する胸の鼓動さえも抑えつけたまま隠密に徹した。
ブレスを吐いた後。ダイヤホークは生死を確認しているかの様に洞窟の前で犬のお座りの様に佇んでいた。その姿がまるで耳を澄ましている様に見え、太郎は思わず呼吸を止めた。
ーーーーーー心音が聞こえる。目を瞑り呼吸に意識を集中し、息が漏れない様に努めた。
動けば死。草木に衣服が擦れれば死。汗を落とせば死。息を吐けば死。息を吸えば死。心音を鳴らせば死。瞬きをすれば死。
どんな些細な変化さえ直接的な死に繋がる。動きっぱなしの後の微動だに出来ない静止静寂の間は、太郎にとっては地獄の中間地点に過ぎなかった。
ダイヤホークから突然、咆哮の様な念波が広がる。脳を掻き混ぜた様な吐き気と痛みのオンパレードに我慢の限界まで来ていた。
思わず声を上げそうになるのを堪えて両手で押さえつける。涙と鼻水が流れたが、拭う所作すら警戒して出来ないでいる。
世界が何度も暗転する。意思とは裏腹に意識を何度も失いかけ、絶望感の中でただ怯える事しか出来ない様に感じていた。
何も出来ないでいた。何も動かせないでいた。何もなしえないでいた。何も得られないでいた。だが、何も守れないでいるのだけは我慢ならなかった。
今、見つかれば死んでしまうかもしれない。死ねば誰も守れない、だから絶対にここでは死ねない。しかし、このまま逃げ果せたとして、ダイヤホークに勝つ術などない。
ーーーーーーだったら目覚めの鷹を壊してしまうか。
持っている限り追われ続ける。壊して良いものか分からなかったが、薄っすらとそんな事すら考えてしまう程の窮地には変わりなかった。
元より特別な才能や技術、魔法の類も持ち合わせていない大量生産されたような冒険者の一人に過ぎない。太郎は何故こんな事になってしまったのかを思い返しながら、大きく息を吸い込んだ。
刹那、ダイヤホークの頭が此方に向く。顔という概念があるのか無いのか分からないダイヤで出来た頭部から魔法陣が浮かび上がりブレスを吐く体勢に入ったが、逃げる体力が無く絶対絶命と言う一言が脳裏によぎる。
「全く、人の話も聞かず無茶をしないで下さい」
声が聞こえると同時に爆発音が響き渡り、そちらを見るとアニスと護衛達が何か見たこともない兵器を手にして、それをダイヤホークに向かって投げ付けると、再び爆発音が響き渡った。
「太郎!!早く此方に、攻撃は有効ですが数に限りがありますので」
アニスが叫ぶと太郎はふらつきながらアニス達の元へ辿り着こうとしたが、ダイヤホークもダメージを負いながら巨躯のクビを鞭の様に振り翳し太郎が近づくのを阻止する。
「残弾が少ない姫様。これ以上は逃走分の弾薬が無くなってしまいます」
「救出の為に来たんですよ。今全力を尽くさないでいつ尽くすと言うのですか!!」
魔弾で有れば余力はあったが、ダイヤホークへの魔力行使は、自殺行為に等しい程の致命の一撃となる。魔力を吸収するだけで無くその力が自らに降りかかる為である。
出し惜しみを捨て、持って来ていたダイナマイトをダイヤホークに投げつけると、もがきながら念波を撒き散らしては身体をくの字に曲げながらもアニス達に襲い掛からんとしていた。
「アニス!!魔力を遮断しろ。コイツはマナを感知しながら襲ってくるぞ!」
そう叫んだのは太郎だった。逃走の最中にずっと考えていた事があった。ダイヤホークは目は勿論見えてはいなかったが、耳もどうやら聴こえない事を見つけていた。
ではどうやって太郎を認識しながら追いかけて来たのか?始めは嗅覚か聴覚が優れているのかと思われたが、匂いを認識する為の器官は見当たらず、逃走中に汗だくになったにも関わらず隠れただけで太郎を見失ったダイヤホークは嗅覚が優れているとは言い難い。
また、聴覚も同じようにあれ程神経を使って心音まで聴かれないように気を付けていたが、息を吸った途端此方には向いたは良いがハッキリとした場所までは分からなかったのであろう、ブレスと言う名の広域攻撃を放ったのだ。
つまり、悪くは無いが特別に聴覚が優れているとは言い難かった。
残るはマナだったが、正直確信は持てなかった。何故なら太郎自身が大した魔力も持たない筈であったが、ダイヤホークは執拗に追いかけて来た為、魔力以外の何かだと考えていた為である。
しかし、あてはハズレ続けやはり魔力感知の力が働いているのかも知れないと考えた時、そもそもダイヤホークが何を追いかけていたのかを思い出した。
ずっと抱えていた事で、ようやく気づける程の微弱な魔力。それをダイヤホークが追いかけて来たのだと思えば合点はいった。魔力には匂いの様に一つ一つ違いがある為、追いかけて来れたのだと推測出来たのだった。
ーーーーーー此方に向かって再びブレスを吐かれた。
微弱な魔力を正確に捉える事は至難の業である。しかし、太郎が目覚めの鷹を持っている限り基本的には太郎に向かってやってくる。しかし。
「駄目だ魔力を消して逃げろ!コイツ、アニス達の魔力を覚えたみたいだ。頭が完全にそっちを向いてる」
ずっと太郎一辺倒だったダイヤホークの動きが変わる。アニス達に突然刃が向いたかと思うと同時に、ブレスばかり撃ってきていたはずのダイヤホークが雨の様な魔弾を降らせた。
魔弾の雨を防ぎながら、太郎はようやくアニス達と合流を遂げたが、身動きを取れる状態でも無く隠れながら魔弾が落ち着くのを待った。
「ダイヤホークは魔力を吸収するんだよな。アニス」
「ええ。それがどうかなされましたか?太郎様」
太郎は何かを再確認する様に魔弾の雨を見上げる。暫く考えた後、ずっと口を閉じたままだったハーフエルフの女性と顎髭の男と、レイリンと呼ばれた者が話しかけて来た。
「とにかくその像を返せ。我々が持って離れる隙に姫様を逃してくれ!」
「駄目よキョウ。貴方達は確かに護衛だけど、誰一人欠けさせる気もありません!」
キョウと呼ばれたハーフエルフの女性にアニスはそう言うと、ずっと魔弾の雨を魔力壁で退けてくれていた男二人も言ってきた。
「我々の命。姫様を守れるなら喜んで死地へ赴きましょう」
「そうだぜ、俺達三人は姫様の剣であり盾だ。今こそ我等にご命令を」
安全策の話である。合理的に考えればその通りであったが、ダイヤホークは目覚めの鷹を持っていないアニス達に攻撃をしかけた所である。
この先の戦いは目覚めの鷹を持っていなくとも危険が伴う可能性がある。像を渡しても上手くいかない可能性がある以上、太郎は渡す事は出来ないと考えていた。
「それより今は、この魔力壁を出来るだけ早く外す必要があると思う」
「バカ言うな!今これ外したらどうなるか誰でもわかる事だろうが!」
太郎の話に顎髭が返したが、太郎は話を続けた。此方が魔力を使っていないにも関わらず、魔弾と言う魔力カウンターを発動させて来た事に疑問を感じていた。
「つまり、魔力吸収の範囲が広いんじゃ無いかと思う。攻撃を受けて吸収するとかそんなレベルじゃなく、もしかしたらこの辺り一帯から吸収してるんじゃないかと」
太郎が逃げていた最中は、魔弾なんて飛んでこなかった。移動していた事と太郎自身が魔力行使しなかった事。そして、辺りに他に人が居なかった為だととも仮説を説明した。
「魔力が存在するだけで無尽蔵の魔力供給を受け続けるなら、それだけで脅威どころか反則レベルの能力だろ」
太郎はダメ押しに都市伝説級の存在であるならば、それくらいの力が有れば倒すことも難しくなる。つまりわざわざ封印何て面倒な手段を取らざるを得ない理由としては十分な理由なのでは無いかと太郎は告げる。
「だったら、どうしろって言うんだ!魔力壁は解けない、離れる事も困難、ブレスに魔弾の雨!逃げる隙なんて何処にあるって言うんだ!」
「隙なら絶対に出来る!あと少し、その時は来る」
顎髭と太郎の言い合いの最中、魔弾の雨の数が増えてくる。このまま押し潰すつもりの攻撃だと感じていたが、太郎達はまだ身動きが取れないでいた。しかし。
「マズイ!ブレスと魔弾両方同時に撃てるのか」
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「あの魔力を使わない爆破の道具はあとどれくらい残っている?初めに助けてくれた時に使ってくれていた物だ」
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「コレを使って、ダイヤホークの足元に穴を開けるんだ。この下には坑道の地下道が通っている。だから燃える石にも引火させて爆破させようと思う」
その為にアニスはキョウが魔力壁を張り二人で安全地帯まで移動し、いま魔力壁を張ったままのレイリンとハンは太郎と共にダイヤホークに攻撃を仕掛けるのだと説明した。
「時間はない、ブレスを放つまえに今すぐこの作戦を開始する」
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「そんな上手く行くもんかね?大体この火薬じゃ、、、、、、、」
「分かってるよ。だから、お前達もアニスを頼む」
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「そうだったのか、分かった。お前の心意気無駄にはしねぇ!!」
「、、、、、、、、また、会おう」
ハンとレイリンがそう言うと、魔力壁を張り続けるのも限界だったのか、今にも崩れそうなままダイヤホークと反対方向に死に物狂いで駆けて行った。
ダイヤホークと一人対峙する。太郎には覚悟が芽生えていた。それは、自分の生命を使い切らずどうやってギリギリで踏み留まる事が出来るかの、算段を算出し生き残る為の覚悟であった。
「この先、生き残るのはお前か俺か、どっちの運がより強いか決めようか」
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