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★白狐☆

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姫ご乱心!

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 次の日から、不審者探しと情報を集める日々が始まった。目撃情報の多い洞窟や採掘場を見回りながら、ギルドでの情報も集めた。


「今日も収穫無しか。それにしてもあの二人、全然戻って来ないな」


「仕方ないじゃない。太郎もブートンもまともにお使いも出来ないのに、二手に別れたりするから」


 シスターリリィとニコがそんな話をしながらと洞窟ダンジョンを進むと行き止まりに辿り着いた。これで何個目か分からなくなった洞窟の最深部。


 此処にも噂の不審者は現れず、空振りに終わり肩を落として洞窟を二人して出ると、いつも広場前で集まる手筈のブートン神妙な面持ちで現れた。


「、、、、、、、太郎がマズイ事になった」


 普段おチャラけてばかりのブートンが何故か真剣な眼差しで、洞窟の入り口に立っていた。何か言いたげな眼差しだったが、ブートンはとにかくついて来て欲しいと言い、街まで三人で戻る事にした。


 何も話さず、太郎の身に大変な事態が起こっているのだと二人は考え、自然と早足になって街の外れに唯一ある小さな池の近くにやって来ると、ブートンは音を立てないように促しゆっくりと池に近づいた。


「何、太郎どうなちゃったの?」


「僕は信じたく無い。だから、皆にも確認して欲しいんだ」


 ニコの問いにそう答えたブートンは、奥歯を噛み締め意を決したように草を少しだけ掻き分け、中を覗く様に二人に促した。


 中を先に覗いたニコは表情が固まったまま動けないでいた。信じられない、いや信じたくたないと両手で耳を押さえながら首を振った。


「嘘よ、、、、、、、こんな事。信じられないわ」


 ニコに続きシスターリリィが中を覗くと、池の側にある大岩の上に太郎が確かに居た。しかし、その隣には檸檬色の髪に海を映したような目を持つ冒険者の様な服の美少女とお弁当を食べていた。


「太郎。はい、あーんして」


「あーん」


 バカップルである。シスターリリィの目の前にはバカップルの姿があった。それだけならば大した事では無かったのだろう。ただ、その相手が太郎でなければの話である。


「嘘よ!あんな、人間の自堕落部分集めたような人間にか、か、か、か、かっのじょにゃんて、出来るはじゅない」


「ニコ。後半噛んでなに言ってるのか分からないよ。で、ブートン何してるの」


「ふははは。元リーダーに彼女が出来たんだ、おめでとうごじゃいまじゅる」


 シスターリリィ以外はもはや会話もままならない状態となり、パーティは何もしていないにも関わらず全滅寸前であった。


「ちょっと!うちの雑用係たぶらかして何しようっての貴方!」


 シスターリリィが飛び出すと、太郎と美少女に向かってそう叫んだ。面食らったまま動かない太郎と、お弁当のミートボールを太郎に食べさせんとフォークを差し出したまま美少女も固まっていた。


「俺は雑用係じゃねぇ!リーダーだ」


「元リーダーだろ!今はオレがリーダーなんだからオレの言う事聞けよ」


「待って!私の事で喧嘩しないで!」


 色々立て込んでいた。側から見れば痴話喧嘩の三角関係の様に見えない事もない状況であったが、後からやって来たニコとブートンが更に状況を悪化させる。


「その男は存在がセクシャルハラスメントよ!触れられるだけで妊娠する様な獣なのよ」


「そう!元リーダーだけ先に彼女が出来るなんて、絶対に認めはせん!認めはせんぞぉぉぉ!」


 ニコとブートンは血の涙を流しながら、ただただ太郎に先を越された事に憤りを隠しもしなかった。しかし、そんな言葉に対し太郎は以外にも冷静であった。


「いや、彼女じゃねーし。それにあってそんなに経ってないから」


 その瞬間。誰もが憎しみというタガが外れ、辺りには平和と呼ばれる世界が瞬時に広がった。しかし、その平和も次の一言で戦火へと変わる。


「このたろうは優しく勇気のある方です!そんな言い方あんまりです」


 太郎は満更でもない顔だったが、他の三人はもう彼女は駄目だという表情のまま、頭を抱えたまま現実逃避を始めた。


ーーーーーーーーその時突然、魔弾が飛び交った。


 散弾銃の如く魔弾が森の中から飛び出すと、ニコとブートンが太郎達を取り囲む様に壁になり、シスターリリィは鎧を纏ったまま、魔弾が飛んできた方向へ走って行った。


「太郎!女の子は無事?っか何で突然攻撃うけてるの!」


「話は後だ、この子を守ってくれ。エマ、ブートン」


 シスターリリィの後を追う様に太郎が同じ方向に走り出した。なにが起こっているのかも分からないまま、ニコとブートンと美少女は取り残されてしまった。


「誰なの?貴方は、何で狙われてるの?」


「それは、、、、、、」


「あ!君パレードで見たことある。お姫様でしょ?山向こうの国のお城の」


 ブートンが気が付きそう言うと、少し困った様に〝そうかも知れません〝と笑うと、立ち上がり巻き込んだ事を謝りながら追手のことを話し始めた。


「実はこの辺りに眠ると言われている古代兵器の中に、私の国に必要なものが眠っていると聞き此処までやって来ました。追手はそれを阻止しようとしている者達です」


 その必要な物を探している際に、危険も省みずその探し物に協力してくれると太郎に言って貰い、今に至ると言う。


ーーーーーーーーーその同時刻。


 魔弾を追跡しに向かったシスターリリィは、森の中で三人の何者かに襲撃を受けていた。追跡していたはずが、いつの間にか追われる側になりつつあった。


 せめぎ合いの中、間合いをどうにか詰めようとシスターリリィは必死であったが、3対1の戦力差を埋めるにはあまりにも不利であった。


「隠れてばかりいないで、とっとと出て来たらどうなんだ!そんなにオレが怖いのか!」


 安い挑発であった。しかし、三人もいればその安い挑発に乗って来る者も居ると思い、かけた言葉であったが、策は功を奏する。


「ビビッて何かいねぇ!俺達は金貰って殺しやってんだ、お前らみたいな素人にビビるわけ無いだろうが!」


 飛び出して来たのは青い仮面をつけた魔道士であった。振り翳して来た杖の先から緋色の散弾が飛び散るが、シスターリリィは弾に飛び込む様にして、回し蹴りを相手の側頭部に踵を入れた。


「いっっでぁあぁぁぁあぁ!!」


 仮面が吹き飛んだ。素顔が曝け出されたまま白目を向き吹き飛んでいる最中に、仮面の何者かは転がる様にしながらも立ち上がる。


「だから、素人の蹴りくらいでどうにかなると思うなよ聖女さんよ」


 顎髭を生やした、いかにもな男は拳を鳴らしながら近寄ってくる。ダメージが見えず警戒していると、背後から魔弾が当たりシスターリリィは膝をついた。


「まぁ、多勢に無勢ですから。でも我々の仕事の邪魔しないで頂けると助かるんですが」


 女性の声だった。フード姿の女性の元に顎髭の男ともう一人のフード姿の集まり、シスターリリィの出方を伺いながら警戒の手を緩めないまま距離をとる。


「、、、、、、やっぱり。腰抜け共め、オレが怖くて近づけないんだろ」


「口ばかり達者な聖女さんだ。こっちも時間がある訳じゃないんだ。そろそろ、黙って貰おうか」


 顎髭の男が、地面に手を付くと地面の土が体を纏い鎧の様に形作られ、両手には土から作られた手斧を両手に生成していた。


「どっちの鎧の硬度が強いか、我慢比べといこうじゃないか」


 二人の鎧がぶつかり合う。力勝負では男女で体力差があるものの、シスターリリィは毎日の様に日課くんれんを受けていた為、力負けも体力負けもしなかった。


 しかし、再びシスターリリィの背中に魔弾を撃ち込まれ、今度は出血を伴いながら熱量のせいか煙が上がっていた。


「キッタネェナ!背中ばっかり狙いやがってチキン野郎共が!」


「一対一と言った覚えもないからね。それにアタシは野郎じゃないし、レイリンとっとと磔なさい」


「御意」


 フードを被ったレイリンと呼ばれた者は、背中に魔弾を受けて膝をついたままのシスターリリィに向かってダーツの矢の様なものをシスターリリィの影に投げつけると、体の自由を奪った。


「そこまでよ!貴方達、いい加減にしなさい。やっていい事と悪い事くらい分かるでしょう」


 そこには守るべきはずの姫様が腕組みをして仁王立ちしていた。追手であるはずの三人は傅き頭を下げたまま口を開いた。


「姫、ようやくお戻りになられる気になりましたか。皆お帰りを心待ちにしておりますのですぐにお戻りください」


「いーや!無理不可能だから、何度も言ってるけど〝目覚めの鷹〝を手に入れるまでは帰らないから」


 姫様と三人が対峙している間に、シスターリリィがやってきた。どう言う状況で今まで戦っていた相手が、助けるはずの姫様に諌められているのかと疑問に思い聞いてみた。


「知り合いなんですか?追手だって」


「ごめんなさい。彼女らは私の護衛だったんですが連れもどそうとする為、逃げ回っていたんですが此処までするとは思ってもいなかったので」 


「姫様。貴方は一国の姫である事をもう少し自覚して下さい。たとえ姫のご友人であったとしても、不審な動きをするだけで実力行使せざるを得ませんので」


 リーダーらしき女性がフードを取ると、夏空を移した様な癖っ毛に、尖った耳が特徴的なエルフ、もしくはハーフエルフと呼ばれる希少種めずらしい種族の女性はこちらに向かって一礼してきた。


「此度の攻撃の数々。仕事であったとは言え申し訳なかった」


「事情が事情なだけに理解はできてますので結構ですよ。まぁ出来れば回復魔術ヒールか回復アイテムさえ頂ければ。でも流石に、姫様相手に魔弾撃ち込むのはどうかと思うけど」


「王からの命令です〝足をへし折ってでも連れて帰れ〝との事でしたので」


 なかなか暴力的な王様であった。しかし、そこまでして連れ戻さないと行けないと言う事は、目覚めの鷹と言う兵器がかなりの危険物である可能性は高いと考えられた。


「ねぇ、目覚めの鷹って一体何なんですか?姫様が単身で求め、王様は関わる事すら忌避する程の兵器なんでしょ?」


「それ、私達にも聞かせてくれるわよね」


 シスターリリィが姫様に尋ねた瞬間。後から追いついて来たニコとブートン、それに何故か先に出たはずの太郎は下半身を巨大ナマズに食べられたまま運ばれて来た。


「そんな話より、俺のナマズとってくれぇぇぇ!!」


 太郎はいつも通りの空気へと戻っていた。しかし、姫様が太郎をどうしても助けないと話したくないと言い出した為、パーティと姫の護衛達は渋々太郎を助けてから、ようやく話し始めた。
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