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★白狐☆

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お願いします、治癒してください!

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「、、、、、、、、好きです」


「ごめん。オレ女だから」


 ニコの初恋は三十秒で散った。街に戻ったシスターリリィは街の女子達を虜にしながら移動もままならなくなっていた。


「よっしゃああ!ニコめ!ザマァ」


「元リーダーも始めは女子だってテンション上がってたじゃん」


 ニコの失恋、太郎の降格、ブートンの裏切り。新パーティは始まる前からある意味終わりを告げている様でもあった。


 騒がしいのが嫌だとの事で、新リーダーを筆頭に街の裏通りを通りながら、遠回りしてギルドを目指した。


「そう言えば、新リーダーは武道家なんですか?」


 ブートンはリリィに聞いてみる。ちなみに太郎は身体的に、ニコは精神的に打ちのめされてしまった為、リリィから離れる様にして歩いていた。


「いや、僧侶だけど。ジジィから聞いてるだろ?シスターだって」


「まさかぁ!だってあんなにお強かったじゃないですか」


「あぁ、あれは魔力鍛錬だ。ギルド証明書見せてやる」


 出してきたギルド証明書には確かに職業僧侶と書かれていた。ちなみに、リリィのギルドランクはⅤ(5)である。冒険者としても格上であった。


「仕事上、クエストの奉仕活動と上級の癒しの魔法ヒーリングを覚える為にレベルを上げたんだよ」


「あの鍛錬は何を鍛えてたんです?と言うか武道家にしか、あの時は見えませんでしたよ」


「あれは、防御結界プロテクトの応用で全身に鎧の様に結界を纏ったまま戦うんだけど、私達は魔法拳まほうけんって呼んでいる」


 あの教会独自の鍛錬法らしいが、レベルに見合わない程の魔力コントロール技術を体得出来るらしい。また実戦的にも使える為、僧侶の弱点である物理攻撃力のアップと、防御力アップも兼ねたものとなっている。


 そうこうしていると、ようやくギルド前まで到着した。シスターリリィだけは通い慣れた道の様で、勝手口の様な場所から太郎を置いてギルドの中に入った。


 ギルド裏ではあったが、どうやら狭いだけの普通の入り口であり、奥へ進むと食堂側の裏手から入って来たのだと分かった。


「新リーダーはギルドに何の用で来たんですか?」


 まだ何も聞かされていなかったニコとブートンは、シスターリリィに聞いてみると〝もう少ししたら解る〝とだけ言い残し、二人を置いてギルド受付嬢の元へ行ってしまった。


 暫く待つと、戻って来たシスターリリィは太郎が初めて持ってきたクエストの依頼状と同じ様な紙を片手に戻ると、二人にその依頼状を見せながら説明を始めた。


「今回、本当は中堅クラスのクエストだからルーキーにはまだ早いかも知れないけど、ギリギリ付き添いの出来るランクをオレが持ってたから、突発クエストと呼ばれる特殊なクエストを受けようと思って。ついでにあのクソオヤジの宿題も終わって一石二鳥」


「あ、そう言う事ですね」


 クエストの依頼書を見ると不審者の確保と引き渡しが書かれていた。確かにコレならばあのマッスル老人の修行と奉仕活動、生活費確保が、一度に処理できてしまう。


 依頼書には目新しい情報は無かった。採掘場のほかにも別の町の洞窟や、旧シェルターなどにも現れると書いてあった。


「穴ばっかりだな。穴マニアかな、アナグマの悪霊に取り憑かれたアナーキーな女子アナという可能性も。ないか」


 ブートンは、ボケ担当不在の代わりにボケてみたが、イマイチしっくりこない上に何か羞恥心が半端なかった為、二度とやらないと心に誓った。


「どうかした?腑に落ちない事でもあるの?」


「そうですね。此処を出て太郎と一緒に話しますねとして」


 シスターリリィにそう話したニコ達は、再び食堂側の出入り口から出た。しかし、外で待っているはずの太郎が辺りに見当たらず、どこに行ったのかと表通りをニコが見に行ったのだが、死んだ魚の目で見つけたと言い戻って来た。


 何かあったのだと、シスターリリィとブートンは慌てて表通りを見に行くと、確かに太郎は居たのだが、何故か街の治安部隊に捕まっている所であった。


「違う!俺はギルド出禁だから外から仲間の様子を覗こうとしただけで」


「だから、ギルド受付嬢から執拗にストーカーがギルドに乗り込もうとしてるって通報があったから詳しい話を聞くから任意同行求めてるんだろ」


 太郎が何を言っても不審者極まりなかった。野次馬達の中からは〝アイツが最近出没してる不審者ではないか〝などと言われる始末で、三人は出るに出られず太郎がただ連れて行かれるのを見送るほか無かった。


 太郎の引き渡しは野次馬が居なくなってから治安部隊の本部行くことにし、シスターリリィ達はいつもの広場の裏手で話す事にした。


「で、さっきの話の続き聞かせてもらえる?」


「そうですね。端的に言うとその依頼自体が変と言うか胡散臭いと言うか」


 ニコは依頼書自体におかしな点は無いと語るが、不審者が出没し目撃情報等は沢山あるが、そもそも捕まえるような事は何もしておらず、何故依頼書が出たのかが不信でならないとの事だった。


「確かに今はギルドが動く必要はないな。ならギルドには不審者に心当たりがあるとか、書けない様な理由があるとかかもよ」


「だったら隠し事しているのはギルド自体になる。ギルド依頼書に書けない様な理由ならなおさら」


「オレ達の関わる様な問題じゃないのかも、何にせよ冒険者はクエストをクリアして報酬を頂く以上の事なんて出来ないから」


 本当にそれで良いのかとニコは眉間にシワを寄せたが、今のリーダーは彼女である。一緒にパーティをやって行くのならばと、今回は納得する事にした。


「じゃ、元リーダーでも迎えに行きますか」


 先程まで二人の言い争いを傍聴するだけだったブートンはそう言い、宥める様に胸ポケットから飴を取り出し二人に手渡した。ブートンのポケットは食料庫のようである。


 治安部隊の本部は街の南東の外れにあった。学校の様な作りの建物は、その大きさから町外れの要塞と呼ばれ、時折子どもが探検がてら侵入するようなアットホームな一面も持ち合わせる。


「スミマセン、うちのパーティの不良債権引き取りに来ました」


「酷い言われようだね。で、誰の事」


 治安部隊の腕章をつけた気さくそうな男性に促され、太郎を引き取りに来たことを話すと〝もうちょっとだけ待って貰えるかな?〝と言われた。


 なんでも、太郎自身に誓約書等の書類を書かせていたが、思った以上に時間がかかっているのだと話した。言われた通りロビーで待つこと三十分、ようやく太郎は現れた。


「何でだよ!何で服を着なきゃいけないんだよ!」


「だから。君のやってることは犯罪だから!」


 太郎は何故か全裸だった。それを治安部隊の男性職員三人がかりでパンツを履かせようとしたが、太郎は我が物顔で館内を走り回っていた。


「頼む!あの変態早く引きとってくれ」


 治安部隊の人に言われると、ニコとシスターリリィが一緒になって追いかけ始めたが、やはり追いつける者はいなかった。


「見たか!コレが俺の新たなるスキル変態紳士つかまらない極み。全ての状況において逃走率70%だ!」


 傍迷惑なスキルである。しかし、誰も捕まえられない為、強力なスキルであることには変わりが無かった。ただ、太郎の性格を、よく理解していない者にとってはの話である。


「旧リーダー!あそこに熟女アイドルのプリティぷりんが!」


「オラァァ!!俺と付き合って下さいぃぃ!」


 太郎は熟女好きであった。そして、居るはずのないアイドルを探している間に、ニコに踵落としを肩に入れられ崩れ落ちると同時に、シスターリリィに拳で吹き飛ばされた。


「今だ!捕獲っっっ!!」


 辺りにいた治安部隊職員総出て太郎を捕まえる事に成功した。無理やりパンツを履かせると、太郎は首輪をつけられた獣の様に大人しくなった。


 太郎を引き取り、ようやく治安部隊の本部から脱出すると、顔が腫れ上がったままの太郎を引きずりながらいつもの広場にやってきた。


「ってか、何で元リーダーは裸になったの?」


「あのおっさん達。盗撮やら何か盗んだやら言い掛かりつけて来たから全部脱いでやったまでよ!脱いだら脱いだで服着ろとか何なんだよ」


 太郎おまえが何なんだよ。と一同思ったが、話が長くなる為敢えて誰も聞かなかった。太郎には新しいクエストの不審者の捕獲引き渡しの詳細を話すと、何故か浮かない顔だった。


「新しいクエストは良いけど、俺の怪我治癒魔法ヒールかけてくれない?」


 しかし、唯一の治癒魔法持ちであるシスターリリィは太郎の提案を却下する。ニコとブートンは薬草を切らしていた為、今は魔法しか治癒方法が無かった。


「太郎に治癒かけるの何か嫌だな。ちょっと弱ってる方が調教、、、、じゃなくお仕置き?でもなく操作しやすいから」


「貴方!言ってること無茶苦茶ですよ」


 シスターリリィは太郎に厳しかった。と言うより毛嫌いされていた。聖職者として相入れないのだと語っていたが、ただ関わり合いになりたく無い様にも見えた。


「お願いします、治癒して下さい!お仕置きは強めにっっっっ!!」


 治して欲しいのか、お仕置きして欲しいのかよく分からない状態のまま、その日は此処で解散する事となった。
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