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取説(真説)と残機ゼロ
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ーーーーーーーーこれは、ただの一人の女性の転生してから死ぬまでの記憶である。
彼女は突然、転生を遂げると訳も分からないまま唐突に異世界人に追われて捕まり、奴隷としての生活が始まった。
唯一持っていたのは、転生を遂げた時に手に入れた本一冊だけであった。しかし、それが何なのかも知らなかったが手放してはいけない事だけは理解していた。
異世界の勝手も解らず、お前は何をやらせても出来ないと捉えられた地で、奴隷にさせられたが三日と経たず売り飛ばされた。
奴隷市場に売られてからは地獄の日々は加速度を増した。変わる買い手と奴隷市場の堂々巡り、しかし最後はどうしようもないと娼婦小屋に押し込まれたのだった。
気が狂いそうな毎日。しかし、ある日突然に糸は切れてしまった。本当に気が狂い客の腹を食いちぎると、辺りにいた人間を噛み殺しながら娼婦小屋を飛び出した。
「、、、、、、、、助けてやろうか」
足に鉄球が繋がれていた為、抱えながら逃げては身を隠していた最中、声をかけて来た者がいた。
彼は悪魔だった。人の形をしながら左右不均等な角が頭から生え、不気味な容姿をしていたが異世界に来てから初めて人らしい扱いをされ崩れ落ちるように泣き崩れた。
悪魔は言葉通り足の鎖を千切り、私に安全な衣食住を提供してくれた。その代わりに魔術と武器を使った戦闘のやり方を習い、悪魔の手伝いをする様になっていった。
その間、悪魔は私の持っていた冒険の書を見て本当の使い方と意味を教えてくれた。人々の言伝の、冒険の書を使っていたのを見ただけの話ではない本当の意味を悪魔は知っていた。
「これは神魔協定ニンゲンの書。元は神と悪魔の人間界不可侵協定の際に人間に授けた契約の書」
「大層な本。でもただの生き返りの書なんでしょ?」
「それはただの一つの効果に過ぎない。人に人智を超えた力を授ける事で、神と悪魔のどちらの軍門に人間が靡くかを見定める為のものだ」
「、、、、、、、、でも、それっておかしい。神も悪魔も人間なんて必要としているように思えないし、何故それが不可侵協定の証となるのか」
「当たり前だ、人間が欲しいのではなく人間界そのものが目的だからな」
「結局は神も悪魔も同じ側面のものでしか無いのね」
冒険の書。神と悪魔の創造した物であったが、結果としては人類にとっては最強にも等しい副産物となった。
しかし、それを人の身で使う事に有限が生じるのだと悪魔は語っていた。生き返るだけでも膨大な力が生じ、冒険の書にはそれを制御し辻褄を合わせる力があると教わった。
「赤い石が黒くなれば使えなくなる。その石は賢者の石と呼ばれる奇跡を起こすアーティファクトだが、その力は使用者の生命に起因する」
「つまり、命をエネルギーに変える装置みたいなもの?」
「端的に言えばそうだ、力には代償が必要となる。それが奇跡ともなれば人間に差し出せるものは生命以外はないだろう」
蘇ったところで命は消費されている。生き返った代償が無いはずも無かったが、それでは本末転倒とも思えたが、良く考えればこれもおかしな話に他ならなかった。
「生き返るにも回数がある。もし他の奇跡を使うならば生き返りでは無く〝やり直し〝が良いかもしれんな」
この世界に来る以前に戻れれば、元の世界で此方に来ないような行動をとり、転生回避を行うことで全てを取り戻せる可能性もあるかも知れないと教えて貰った。
しかし、そんな日々も長くは続かなかった。私を匿ってくれていた悪魔はいつもの様に仕事に行くと行って家を出たが、悪魔はその日帰って来なかった。
一日帰らない日は無く、あっても前もって話してくれていた為、何かあったのだと思ったが私にはたった一つの約束があった為、探しに行くことは出来なかった。
それはあの悪魔と交わしたたった一つの約束。もし、自分が帰らなかった場合は一日で旅支度を整え此処を出る様に言われていた。
「う、、、、うっ、、、、、うえがぁ」
声を殺して泣く。匿われた場所は悪魔の居住区ではあったが他の魔物もいる為、声は立てるなと言われていた。もし見つかれば、自分がただの餌に成り代わる様な場所らしい。
連れて来られた時には目隠しされ、着けば隠れ家の様な今の場所からは出ることが無かった為、外がどうなっているのかなど知る由もなかった。
魔物や悪魔は眠らない。しかし、外界に狩りに行く時は別である。集団行動自体は習慣が無かったが、競争本能というもので互いのヒエラルキーを決めるのは好きな様だった。
お陰で全てでは無いものの、大多数が居なくなる時間帯が時折あった為、その時間を見て隠れ家を逃げ出す事にした。
しかし、別の見方をすれば外には魔物達がウヨウヨしているのである。リスクとしてはどちらを選んでも高い事に変わりはなかった。
逃げ出した日。魔物の気配を感じ取りながら外に出ると、そこは集落になっており何とか両手で数えられる位の建物しかなかった。
思った以上に小さな集落であったが、中にどれだけの魔物が住んでいるのかは分からない為、足早に此処を立ち去ろうとした。
だが、そううまく行くはずはなかった。考えていた通り、魔物達が辺りを練り歩いているのに出くわすと、身を潜めながらやり過ごそうと隠れる。
「しかし、アイツもやっぱり最後はダメだったな」
「だから言ったのに、俺達には難しいから別の仕事を選べって忠告しておいたのにな」
二体の悪魔が刺股の様な槍を片手に、話しながら何かを探していた。此方に近づくかもしれないと、後退りしながらゆっくりと後退していく。
その場を離れようとしたその時、私は突然全身がそれを拒む様に後退する足を止める。
「大体カタツノの奴、意地張って地上侵略の危険な仕事ばっかりとってたからな」
「あぁ、何かニンゲンの食い物が気に入ったらしくてな。何であんなもん食うんだろ?俺達には飯なんて要らないのにな」
カタツノ。私を助けてくれた悪魔の名前だった。私のために食料調達してくれていたのは知っていたが、悪魔にとってそれがどれほどのリスクだったのかは知らなかった。
「まぁアイツも強くて良い奴だったが、最後は結局ニンゲンに負けたからな」
「でも、そのニンゲンは五大英雄の一人だったらしいぜ。名誉の死だろ、魔王様も嘆いてらっしゃった相手に一矢報いたらしいし」
私はもう話を聞いていられなかった。しかし、逃げ出す事も出来ず自分の手を噛んで声を殺しながら悪魔達が何処かに行くのを耐え忍んだ。
何時間動けずにいたのか分からなかった。雨が降ってくると、魔物達が戻って行くのが見えたが固まったまま、まだ動けずにいた。
「、、、、、、、、居場所なんて無い」
一人呟く。地上に戻って何処に行けと言うのか、知り合いと呼べる者一人居ない異世界の地に戻った所で、またあの地獄の様な日々に逆戻りするかもしれない。
しかし、此処に留まればいずれ魔物に出くわし食われるのが関の山である。カタツノの死に報いるためには生きる他選択肢はなかった。
「会いに行こう」
悪魔に弔いが必要なのか、そもそも遺体があるのかも分からなかったが、カタツノに会いたい一心で私は情報を集め始めた。
地上に戻ると、初めて冒険者の真似事を始めた。魔物を狩り自身のレベルを上げながら、捉えた魔物からカタツノのやられた場所の情報を集めた。
町に行けば、武器と防具を鍛えながら五大英雄の情報を集め、カタツノの仇が誰なのかを調べる日々が続いていた。
どれだけの月日が流れたのかは分からなかったが、気がつけば冒険者としては手練れと呼ばれる様になり、武具も情報も集まると意を決してカタツノの最後の地を目指した。
浮遊大陸の最北の地。五大英雄の一人の剣聖の剣王と呼ばれる、英雄の住む町の外れでカタツノは剣王との一騎討ちに倒れたらしい。
剣聖の剣王を探すのは簡単なはずである。カタツノの最後の地にいけば、すぐ側にある町に行くだけで簡単に見つかるはずである。
長旅の終着点としては、些か難易度の高い目的地であったが、今の強さならば問題なく到達出来ると信じて突き進んだが、壁とはいつも高く聳え立つものである。
「、、、、、、遠い」
久しく声を出していなかった為か、声は掠れ誰に聞かせる事もなく一人呟くと、その高さに見上げるばかりであった。
すでに辿り着いたと言っても過言では無い状態ではあったが、ずっとどうするべきか思いつかないまま訪れた地で手を拱いていた。
浮遊大陸と言われるだけあり大陸が浮遊している訳で、どうやったら浮遊大陸に行けるのか分からずにいた。
勿論、一通りのことは試した後である。浮遊魔術を使えば距離は足らず、飛空で近づけば乱気流に巻き込まれ、大砲で撃ち出す妙案ですらやってはみたものの、上手くは行かなかった。
手の施しようの無い中、浮遊大陸に行くための唯一の正攻法が頭をよぎる。浮遊大陸に行くためには莫大な秘宝が必要であった。
通行費の様なものである。それを払えば浮遊大陸までの長いエレベーターの様な固定型浮遊装置に乗ることが出来たが、今の全財産を持ってしても交通費にはほど遠い料金であった。
「奪うか、、、、、、、、でも勝てるかどうかはわからない」
浮遊装置には神なる魔力。神通力なるもので稼働し、魔力とは異なる力で動く装甲人形が装置を囲む様にサークル状に配置され、客以外を排除する仕組みとなっていた。
「やはり、あの許可証があれば。しかし」
許可証には個人の魔力を覚えさせる仕組みとなっており他者の物を奪っても意味は無い。また、秘宝との交換所は腕一本入れて許可証と秘宝を交換するだけの穴があるだけの、コンクリートの箱の様な建物である。
打つ手としては秘宝を誰かから奪うか、浮遊大陸に行き来出来るような、金持ちの用心棒になる他は無い様に思えた。
「お困りかな?お嬢さん」
浮遊装置の少し離れた所から隠れながらどうするべきかを考えていた為、突然話しかけられた事に面食らいながら振り返ると、そこには杖を片手に孫娘の様な女児を連れた老人がそこに立っていた。
「いえ、、、、、、大丈夫です」
何が大丈夫なのか。自分で言っていて何を口走っているのかと思いつつ。反射的に出た言葉に自身で戸惑っていると目の前の老人が噴き出す様に笑い、それを咎める様に女児がしかめっ面のまま老人の服の裾を何度も引いていた。
「す、すまんね。そんなつもりじゃ。ただ、あんなに悩んで唸っていたので何事かと思い、つい声を掛けたんだが」
どうやら、顔と態度がチグハグだったのがおかしかった様で、戸惑った姿に思わず吹き出したそうだ。悩みが無いならこれで失礼と立ち去ろうとしたその時。
「あの!突然で申し訳有りませんがもし浮遊大陸に行くなら私を雇って貰えないでしょうか?」
唐突な申し出に今度は老人が面食らう。しかし、何故か何も聞かず私の申し出を了承してくれた。
此処にいると言う事は、浮遊大陸に向かう途中か降りて来たかの二択である。だからこそ目の前の老人も声を掛けて来たのだと後から気づいた。
「しかし、雇うとはどう言う事かな」
「はい。旅の護衛として短い期間にはなると思いますが、浮遊大陸について行かせて貰うだけで何もしない訳には行かないので」
「なるほど、義理は通したいと」
老人は考えあぐねて居ると、女児が再び裾を引っ張ると〝やれやれ〝と言った感じで、まるで重い腰を上げるかの様に答えた。
「正直。ボディガードにはちと華奢に見えるが孫の頼みだから聞くとしよう。勿論、最前線の盾役としてじゃが」
お客様ではなく、従業員となればそれ相応の扱いとなるのは覚悟の上だった。すぐさま、その場で手渡されたのは秘宝のカケラであった。
「従者はカケラで通ることが出来る。孫と扱いは同じじゃな」
初耳だったが、この老人は何度も通っているらしく自分の知らない事を色々教えて貰った。浮遊装置が起動する間、老人は孫との旅のことを、自分は復讐の話を省きながら冒険者になってからの経緯を話した。
ドーム型の浮遊装置は、薄い魔力の壁に包まれスノードームの様に光の反射を受けると虹色に光る。
手渡された許可証は小さな切符の様にも見えたが、小さな魔術符になっている様で唯一の入り口の橋を渡っている最中に作動し、客とそうで無い者を選別していた。
近づくにつれ、どの道此処からしか入れない事に今更ながら気づいた。あまりにも浮遊装置が巨大であった為それに気づかなかった。
左右どちらを見ても地面が無かった。浮遊装置自体が元より浮かんでいた事に気づき、その下が装置よりも一回り大きな底も見えぬ程の大穴になっていた為である。
巨大な浮遊装置に入ると、円形状のホールの様になっており壁も天井もない為、床だけが煌びやかなタイル模様になっていた。
乗り込んだ人数は二百人程で、皆一様に貴族らしき人がほとんどであった。装甲人形は装置のはじに並んで円の中心を向き客を見張って居る様に見えた。
「そうそう、此処では一切の魔力は禁止だからね。命が惜しいならね」
「はい。しかし、使うとどうなるんでしょうかね?」
「まぁ。それは、、、、、、、、」
そんな話をして居ると、浮遊装置が〝ゴウンッ!!〝と一揺れしたのち、ゆっくりと動き出した。エレベーターの様な浮遊感がなくじわじわと上がって行く様で、大陸に辿り着くまで時間がかかることは分かった。
半日をかけようやく浮遊大陸が見えた頃騒ぎは起こる。客の中から悲鳴が上がると今度は爆発する衝撃と轟音が鳴り響いた。
「クソッ!誰かが魔術を使った。出来るだけ離れるんじゃ」
老人がそう叫んだ瞬間に言葉始まっていた。装甲人形が一斉に動き出したかと思うと、大木の様な大きさの槌が振るわれ客ごと延しイカのように床のシミへと変わった。
「何で、お客までこんな酷い事に」
「たとえ客であっても、トラブルを持ち込む者は不穏分子と見なされ犯罪者と同じ扱いを受ける」
「それはあまりにも酷い気もする」
「しかし、外界からトラブルのある者は一様に浮遊大陸に足を踏み入れられない様にしているからこそ守られて居る事もあるでの」
政を例にとり老人は話してくれた。もし、何も悪い事をしていない政治家であっても、その周りが誠実とは限らない。また、それを見抜けぬ様な間抜けにも同罪と処すのが決まりであると。
「まぁ、そう言った輩が誠実さを見せるパフォーマンスにされたり、別の利用をする者も少なくない。まぁやましい事がある人間はそもそも入るなと言う場所じゃ」
そう言いながら降りたった一行は、すぐさま立ち尽くす事となった。目の前に聳え立つ木々は一本で家が建つほどの太さだったが、それが壁の様に客を拒んでいる様にも見えた。
「これは、、、、、、、凄まじいな。中に入る気にもならない」
「その方が身の為じゃ。一度あそこに踏み入れれば手練れの冒険者でも一週間は出て来れんからの」
踏み入れば、ほぼ出られないと暗に言っている様なものであった。まるでツアー旅行の如く降り立った乗客は、一列に森を避ける様に浮遊大陸の淵を歩いて進んでいた。
行き先は既に決まっているらしく、老人と少女の跡をついて行きながら、大陸の淵を覗く。下界を見下ろせるかと思ったが雲よりも高く霧がかっていた為、下は見えなかった。
着いていく事一時間程で気がついた。自分達が歩いて居る場所だけが、踏み固められ自然に道になっており、それが遥か先まで伸びて居るのを見つけてしまう。ガッカリしながらさらに歩き続けた。
「ようやく見えてきた。あそこに小さく見えるのがそうじゃな」
老人が指差した先、確かに小さく見える明かりに辺りにいた人々も安堵の息を漏らすと、もう一踏ん張りと歩みを早めつつ町までの道を急いだ。
近づくにつれ、町と呼ぶより村と呼んだ方がしっくりくる事がわかった。木造りの家が立ち並び、赤髪薄着の人々の暮らす集落であった。
「×☆◇○☆××★⊃※」
「★⊃~◇◉□」
聞いた事もない現地の言葉が飛び交っていた。私には何一つ理解できなかったが、老人と女児は片言で会話して居るのが見え、驚いて居ると手招きされた。
「コッチに宿を借りる事が出来た。他の連中は知らんみたいだが、この辺りの夜は明るすぎる。寝ずの魔物がウロウロしとるからな」
宿に向かいながら二人に話を聞くと、孫娘の為の語学研修もかねて此処に立ち寄ったのだと話していた。
一際大きな木造建築の建物に行くと、フロントの様な場所で立ち止まりチェックインを済まそうとした為、老人に声を掛けた。
「あの!宿の支払いは自分でします。自分の部屋を用意して頂くだけでも感謝ですので」
「しかしのぅ。此処での支払いは金銭でも宝石でもないからの。流通しとらんから、これ以外は取引は難しいんじゃ」
老人の手渡したものは、大きめの瓶に詰まった飴玉だった。浮遊大陸では大体の物が地産地消されるが、甘味だけは数が少なく希少な資源とされているのだと教えて貰った。
「さて、明日からより厳しい旅路となる。故郷はより北にあるからな、環境もさる事ながら魔物の強さも跳ね上がるからの。どうじゃ?此処らで装備を整えると言うのは」
「今の装備では不安でしょうか?」
「十中八九死ぬな。簡易の胸当て程度じゃ心臓だけ残して喰らわれるのがオチじゃ、偶然にして同じ目的地までの護衛がやられては此方にも火の粉が降り掛かりかねん。プレートアーマー位は着ないと死にに行く様なもんじゃ」
そう言いながら、老人は自分の着ている鎖帷子を見せ孫娘には常に多重防御壁の護符を持たせていると話した。
一夜明け。老人達と合流すると村人に見送られながら街を出るとすぐさま魔物に出くわす事となった。
「下がっとれ、コイツは逃げられん」
現れたのは下界では見た事もない生き物だった。巨大なカマキリの様な魔物には甲殻類の鎧を纏い、毒の鱗粉を撒き散らしていた。
突然の跳躍。しかし、老人は同時に飛び上がるとカマキリの鎌を隠し持っていた細身の刀で切り落とし、そのまま着地と同時に頭部を切り落とした。
一瞬の出来事に空いた口が塞がらないでいると、毒の鱗粉があるため早々に立ち去るように言われ、三人で元の道に進んでいく途中で教えて貰った。
「此処は標高が高い。体力の消耗が下界とは段違いじゃ。魔物とてそれは同じの様での、必然的に瞬発力が上がり早さの早いものが多い。知らぬ者はあの通りじゃ」
白骨化した冒険者らしき者の頭部だけが道の脇に転がっていた。老人がプレートアーマーを薦めた理由がよく分かった。あの速さについていけなければ結果、盾にすらならないのである。
道中。三度の魔物の襲撃にあったが、老人が結果的に全て退けながら先陣を切る形となっていた。これでは役目が果たせないと焦りが出始める中、次なる目的地に到着していた。
亜人街ガナン。リザードマンを中心とし、人型の獣人や妖精も住まう安全地帯は、多重結界と屈強な人狼の門番によって守られていた。
「此処も小さな町だがドワーフが住まうんでな、装備も揃える事ができる」
そう言いながら先に宿を探していた。とにかく、夜も迫っていた為寝る場所の確保に努め、ようやく見つけた宿で立ち往生を食らうことになった。
「何だってこんなに高いんだ!これじゃ、先に進む事も出来やしない!浮遊大陸はお宝の山だって言うから着いて来たのに」
店に入るなり、カウンター前のパーティーが揉めていた。どうやら同じタイミングで浮遊大陸に上がって来た冒険者の様で、ボロボロの三人は部屋にも入らず喧嘩をしていた。
甲冑を纏った戦士らしき男性。衣服が乱れたままの女性の僧侶。グッタリとへたり込んだままの小柄な魔法使いの獣人達は、戦い命からがら此処まで逃げ出して来た様に見えた。
「大体、何だって言い出しっぺのリーダーがやられちまうんだ。俺達はこれからどうすれば、、、、、、、」
「そうよ!此処なら希少な鉱物も手付かずのお宝も多いって言ってたのに」
話が終わりそうも無かった為、老人が先陣を切って宿のカウンターの係りに話しかけた。もしかすると、宿の空き部屋がもう無いのかもしれないと内心焦っていた。
「あの、宿はとれますかな?三人ですが」
「はぁ、あるにはあるんですが」
困り顔のカウンター係は、顔の晴れない表情のまま揉めている三人を横目に、渋々であったが言葉を返した。
「其方のお客様がどうするかで無くなります」
「つまり、空室は一つだと」
「はい」
これは困ったと老人も孫娘を見ながら、とりあえず冒険者のパーティーから離れる様に壁際に移った。向こうも此方の話が聞こえてか、少し気まずそうにも見える。
「あの、でしたらこう言う提案はどうでしょうか?」
思わず切り出した私の言葉に一同の注目が集まった。まさか自分でもこんなに上手くいくとは思っても居なかった為、少し驚きながら宿を確保できた。
「おはようございます。ルイネさん」
隣に寝ていた昨晩の女性僧侶に声を掛けた。まだ眠たげな表情のまま起き上がると、法衣を脱いでいた為か雰囲気がまるで違って見えていた。
「ん、、、、、、、はよ」
起き上がったと同時に毛布がのけられると、二人の間から老人の孫娘が現れ、まだ眠っている姿が見てとれた。
昨晩。冒険者達と私達は同じ宿の同じ部屋に泊まる事にした。冒険者達は宿代が半分になり、私達は宿を確保出来た。利害の一致とは言え、了承して貰えたのは幸運であった。
部屋は特別広くは無かったが、女性陣はベッドを使い男性陣と獣人はその部屋の反対側で集まって寝ていた。
夜の間、交流会の如く二つのパーティーは話に花が咲き仲が良くなっていた。その際、冒険者達はもう少し先にある町まで行き、そこからダンジョンに入る予定だったと話していた。
「爺さん達。良かったら途中まで一緒にいかねぇか?旅は道連れって言うし。何より仲間を失って、そいつが金銭のほとんど管理してたから」
「旅費も半分になるからのぅ。まぁ途中までならな」
戦士の提案で次なる町、ジリンまで一緒に向かう事となった。ガナンで装備と旅支度を整え、六人のパーティーで次なる街を目指し進み出す事となった。
浮遊大陸の縁側を大回りしながら森林区を避けて進む。やはり、中を通るのはリスクが高く、大陸の外側を大回りする他なかった。
「しかし、魔物の出現率が高すぎる。前は此処まで酷くなかったんじゃが」
「俺達も聞いていた以上に魔物との遭遇が多かった所為で、持っていた装備では足りなかった。それにアイツも」
戦士は悔やむ様に下を向いた。通常、魔物にやられた仲間は教会に遺体を運び蘇生を行うが、此処の魔物はリーダーを連れ去ってしまったと言う。
「食われでもしていたら、もう蘇生も出来ない。何とか助けたいが」
森の方を見る。とてもじゃないが今のパーティーで中を進む事など到底出来ない凶悪な魔物が無数に潜んでいる事は、一同誰もが分かっていたのだった。
出会った魔物を撃退しつつ、次なる町ジリンを目指す。冒険道具は前の町が充実していたので、まだまだ余力があった。唯一の今の問題としては、一人がついて来れていない事である。
「嬢ちゃん。プレートアーマー半分外さんか?言い出しっぺのワシが言うのもなんじゃが」
「、、、、、、、、いえ。仕事ですので」
重量の増加と慣れない甲冑の所為で、パーティーから遅れを取りながら、何とか食らい付いていた。しかし、戦闘の際には的役をキッチリこなし、その間に他の者が攻撃を仕掛ける構図が出来上がっていた。
三日目までは平地でのキャンプ。それ以降、一週間程は岩場の洞窟等でのキャンプを行い、食糧が尽き始めていた。
何ぶん大所帯である為、食料の減りは思った以上に早く森に入るのは最終手段であったが、それを行うに至るまで三日と掛からなかった。
「出来るだけ奥に行かず、食料を見つけ出したらすぐに引き返そう」
「あと、皆離れないように。はぐれたら助けられられないと思って」
戦士の男と女性僧侶のルイネがそう言うと、一気に緊張感が増した。老人と孫娘は始め留守番を頼んだが、待つのは嫌だと無理も無茶もしないと確認し合い渋々女児が連れ合う事となった。
しかし、食料を探すはずが森に入るとそれ所では無くなってしまった。食べられそうな物を探しつつ、森の入り口が何とか見える場所を伝いながら歩き続けていると突然、話し声が聞こえて来た。
初めに気づいたのは獣人の魔法使いだった。口に手を当て話すなと言う合図を受け取った一同はそっと集まり聞き耳を立てていた。
「だから。俺達と手を組んだならこれ位はして貰わないと」
「無理に決まってるだろ!こんな所で使えば魔物が暴走してしまう」
「だから使うんだよ。さっさとやれ!」
ふと獣人達に目をやると、口を抑えつつ喜んでいる様な悲しんでいる様な表情のまま、ルイネが呟く様に声を発した。
「、、、、、、、、、、フーマ」
叱責されている側の者に向かい戦士の男が呟いた。どうやら知り合いである事は見てとれたが、ただの知り合いにしては三人の表情は焦りとも驚愕とも取れる様な複雑な面持ちであった。
「あれは、リーダーだ」
女性僧侶がそう呟くとすぐに理解する。魔物に連れ去られた筈の男が生きて目の前にいるのである。信じられない気持ちと、本当に本物なのかと疑心が生まれるのは当然の反応でもあった。
何をするのかと一同が見守っていると、フーマと呼ばれた男と、何かを指示していた男の目の前にあったのは、人が入れる位の大きさの穴だった。
「さっさとファイヤーボール打てよ!」
どうやら穴にファイヤーボールを打ち込む様に指示しているのが見えた。それをフーマが拒んでいる様子だったが、とうとう無理矢理フーマの魔術を使って穴に放とうとした瞬間。
「マズイ!あの穴はいかん!止めさせんと」
老人が何かに気づくと、そう叫び此方の存在に気づかれる。が、それも仕方のない事でどれだけ性急であっても早すぎる事はない事態であった事に違いはなかった。
「あの穴は人喰い蟻グランドアンツの巣!!もし刺激してしまえば、辺りの生き物は食われ根絶やしにされるぞ」
戦士とルイネはすでに駆け出していた。後に続き私が追いかけ、老人は孫娘を抱き抱えたまま安全な木の上に避難させていた。
「グランス、ルイネ!!俺に構わず離れろ!!」
「テメェがトロトロしてるから見つかっちまったじゃねぇか!!もういい、貴様ももう用済みだ」
フーマの目の前にいた男は、懐から黒い球を取り出すと躊躇一つなくそれを穴に投げつけた。強烈な破裂音とともに閃光が走り地響きが起こった。
「もう逃げるしかねぇ!じいさん共々此処から逃げろ!フーマも早くコッチに、、、、、、、!?」
戦士グランスがそう叫んだが、フーマは目の前の男にしがみつき、逃げない様に押さえ付けていた。フーマは此方を見てニヤリと笑い自分の首を見せた。
「魂壊契約の儀だ。もう俺は助からない、お前らだけ逃げろ!!」
魂壊契約の儀。それは強制的な上下関係を強いる束縛の儀式であり契約である。契約を破れば名の通り魂を破壊されてしまう。フーマが何故こうなってしまったのかが分からぬまま全ては終わる事となる。
フーマは目から血の涙を流しながらも何処か自分を再び取り戻したかの様な表情のまま、取り押さえた男に魔術で地面に磔続けていた。
「、、、、、、、、、、すまん。皆、絶対に振り向くんじゃないぞ!」
老人の言葉を皮切りに、全員が背を向けて走り出した。しかし、ルイネとグランスはずっとパーティーを組んだ仲である。振り向かずにはいられなかった。
穴から無数の巨大な蟻。グランドアンツがフーマを飲み込む様に群がっている姿が最後の光景となった。
だが、悲しんでいる間も無くグランドアンツが迫って来ていた。振り向かずとも木々を薙ぎ倒し、カチカチと歯を鳴らしながら無数の足音を轟かせていた。
全員で逃げ回っていると、自分達とは逆進行方向に光の柱が生まれる。甘い臭気が漂うと森の一部分に張り巡らされたのは、魔力結界にも似たものであった。
「聖域外魔術か。しかし誰が、規模も見た事のないほどの領域じゃ」
聖域外魔術。魔術行使において誰しもが辿り着くことの出来ない、言わば規格外にして禁術とされるものであった。
しかし、それがパーティーを助けたのも事実であり、実際に助けが無ければ全滅していたことも否めずにいた。
「帰っていく。グランドアンツ達が、、、、、、、、」
自分達だけでなく、既に蟻達は自分達の巣穴に帰っていくのが見えた。暫くすると、馬のいななきとともに蹄鉄が地面を叩きながら幾重も連ねやってくる音が聞こえて来た。
「諸君。蟻は我々〝白星騎士団〝が退けた!!其方の方々は運が良い、近場の町までお送りしましょう」
馬に跨ったままの十人の騎士達。その中央に一際大きく星形の造形をかたどった兜を被った隊長らしき男がそう言うと、とにかく此処を離れたかったので、一同は着いて行く事にした。
「、、、、、、、、都合が良すぎる」
「ワシもそう思うが、今は様子を見るとしよう」
私は老人にだけ声をかけたが、そう返って来た為雇い主に従う事にした。一番近くの街の街道は蟻達がいた為、さらに大回りをしつつ大所帯は辺りにガチャガチャとした騒音を鳴らしながら進んだ。
一時間もせぬうちに小さな町にたどり着いた。素朴な作りの街並みは何処か安堵をもたらしたが住人の少なさが少し気がかった。
「もしグランドアンツが出たと思うとゾッとしますね」
「ガハハハ!!そう、この町は危なかった。しかし、我々に救われたのだ」
白星騎士団は送り届けだけすれば何処かに帰るのかと思われたが、どうやら此処に駐留するらしい。馬を預けると、町の中を我が物顔で闊歩し始めた。
しかし、異変というならば町中に入った事で、この騎士団に対しての違和感と不信感が募る出来事が立て続けに起こった。
「不遜不遜!!町の住人は我々のお陰で安全が保たれていることも知らず、無礼な者達ばかりか」
白星騎士団が通ると、ただでさえ少ない住人達が次々と家の中に入って行った。中には此方を伺いながら睨みつけるものまでいた。
「では皆さん。我々は此方ですのでお宿でゆっくり休まれるがいい」
そう言うと、白星騎士団はウエスタン風のバーに入っていった。一同はとにかく疲れた為、宿の中に入ると小太り髭の宿の主人は怪訝そうに尋ねて来た。
「アンタ達。白星騎士団の方々ですかぇ?」
「いいえ、ご主人。我々は旅の者です」
老人はそう答えると、簡略して彼等といた経緯を話した。他の者は何故そんな話を丁寧にするのかと不思議そうに立っていたが、唯一、私と老人だけは相手の様子が汲み取ていた。
「それは失礼しました。では、お宿の方を用意させていただきますね」
部屋に着くと皆限界だった様子ですぐに横になると動かなくなっていた。そんな中、こっそりと老人が部屋を出た為、私も後を追う事にした。
暫く外を歩いていると、着いて来ている事に気づいていた様で手招きをされた。建物に隠れる様にして覗いていた先は、やはり白星騎士団のいるバーだった。
「ワシは少し此処の住人達に話を聞きに行こうと思うが、お前さんはどうする?」
「お手伝いします」
「そうか。ならまず、その音の出る鎧は置いて来てくれるかな?」
プレートアーマーに着慣れすぎたせいか、五月蝿い事に気づかなくなっていた。慌てて部屋に戻り皆が眠りについているのを横目に甲冑を部屋に置いて再び部屋を出た。
老人と合流すると、隠れる様にしてバーの裏手に回る。ゴミが積まれた横で鼻を押さえながら身を隠して騒がしい店内に聞き耳をたてた。
「今回も我々が町を守った!尊い犠牲者は出たが、それもまた白星騎士団が一際、名を轟かせる為には必要な事に変わりはなかった」
「何言ってるんですか。コザを犠牲にしたのは隊長のくせに」
「あ奴が上手くやらんからだろう?わざわざ、爆弾のスイッチを押させる役まで用意したと言うのに」
ゲラゲラと仲間の死を悼む訳でもなく、ただ間の悪い奴だと笑い者にする姿からまともではない事はすぐに分かった。
また、フーマの死にも白星騎士団が関わっているのが分かり、老人が一人で来ようとした理由もわかった。もしグランスやルイネがいれば怒りを抑えられたか分からないからである。
私を制止させる様に腕を伸ばした老人だったが、私もまだ冷静であると伝えるとすぐに話しかけられた。
「あ奴らを取っ捕まえる前に何故こんな馬鹿な事をしたのか、元凶を調べて元を断たねばならん。とにかく今は泳がせる事は了承しておくれ」
まるで心を見透かされたかの様な言葉に面食らっていると、白星騎士団の連中は泥酔状態のままバーをでた。そのまま、フラフラとしながら場所を移動し始めた。
ひと気の無くなったバーを片付けている主人らしき男が、店を片付けながら溜息をついているのが分かった為、話を聞こうと老人が言い私が頷くのを見るとすぐさま中に入った。
「すまんのぅ、もう店仕舞いじゃったか」
「なんだ爺さんこんな夜更けに。見ての通り、あの連中が荒らした片付けで今日は終わりだな」
「それはご苦労様ですな。しかし、彼等はいつもああなんですか?酷いことしますのぅ」
「滅多な事いうんじゃねぇぜ。アレでもマッシブスピリッツからやって来たお偉いさん方。しかしまぁ金払いが良い以外は、ほとんど盗賊と変わらんがな」
苦笑いと共に再び掃除に戻った。これ以上此処にいては仕事の邪魔になる為、老人と共に店を出た。その瞬間、背中から声が聞こえてきた。
「もし白星騎士団の事を知りたいなら町の外れの橋の下に住んでるチョビと言う男から聞いてくれ」
それは店主の声であったが、まるで自分は何も言っていないと知らぬ存ぜぬのスタイルで、立ち止まらない様に会釈して立ち去った。
次の日、教えて貰った場所に向かった一行。朝から町外れの橋までやってくると、橋の下に回り込み小さな小屋を見つけると入り口の前までやって来た。
「待ちな、そっから先はオイラの土地だぜ。入るなら入場料だ」
小屋の隙間から覗きこんだ何者かにそう言われ、渋々財布を取り出したグランスは値段を聞く前に財布ごと奪われてしまう。
暫くすると、グランスの財布はただの入れ物と化して戻ってきた。涙目で立ち尽くしたグランスの肩を次々に叩いて励ましながら、小屋の中に入って行った。
「いらっしゃい。何が知りたい?此処がそう言う場所だって知って来たんだろ?」
目の前には薄汚れた格好の少年が篝火を焚きながら話しかけて来た。しかし、何故か町の住人の様な大らかな雰囲気はなく、まるで森の獣と対峙している様でもあった。
「貴方がチョビさんですか?私はルイネと申します。あの、白」
「あぁ、あれらは使いっ走りのコマにすぎない。アイツらの真実が知りたければ昨日の森をさらに奥へと進むがいい」
まるで昨日の出来事を見ていたかの様な口振りだったが、これ以上は料金外だとチョビは小屋から全員を追い出した。しかし、その際に老人と目があった瞬間に丁寧な会釈をするのが見えた。
私にはそれが旧知の仲に見えたが、本人たちが話さない限り、これ以上の詮索はしない事にした。
「またあの場所に行かなきゃ行けないのか。嫌だなぁ」
ルイネが漏らすとグランスも同様に表情が曇っていた。此方としてもあまり近づきたくはない場所で、さらに森の奥に進む事を考えると足がすくみそうになった。
「大丈夫。何とかなるわい」
まるでパーティーの心を見透かしたかの様な老人の言葉は、慰めや開き直り以上の効果を発揮した。すくんだ足は前を向き全員で昨日の場所に向かった。
グランドアンツの穴を見つけ、少し離れた場所に遺品の一つもみつからなかったが、気持ちばかりのフーマのお墓を作ると、皆手を合わせていたその時だった。
「おい、早くしろ!もう来ちまうだろ。それに今日はカシラも出るって言ってたからな」
「カシラ出るなら早く戻らねぇとヤバいだろ」
たまたま屈んでいた一同に気もつかないまま、森の奥に進んで行った破落戸共を見つけ、互いに目配せすると距離を取りながら追いかけ始めた。
森の中には魔物も出るが、問題はそれだけではない。人が踏み入ると同じ様な景色が続く為、方向感覚も狂いやすかったが前を進む破落戸達は迷う事なく真っ直ぐに進んでいた。
「何か道具があるか特殊な能力。あるいは土地勘のある地元の民であるのかもしれないな」
ルイネがそう話す。距離が開いている為、会話したところで聞こえない事もあり、自由に話は出来るが距離がギリギリまで離れている為、少しでも前の破落戸から離れ過ぎれば見失う事が気掛かりではあった。
「しかし、どれも違うかもしれんのう。何か持っている風でも能力がある様にも行使しているようにも見えん。土地勘はあるかも知れんがそもそも地元の人間は森には入らんし」
老人も気になっていた為、自分の考えを述べる。だったらどうやっているのかと聞かれても、答える術は持ち合わせていないのもまた事実であった。
二十分あまり駆けた先に、ようやく開けた土地が見えた。薄暗かった森ではなく少し先には光が漏れ、段のようになった壁がそびえていた。
「穴、、、、、、洞窟」
洞窟に入って行った破落戸を中まで追いかけるか、出て来るのを待つか話し合っていると再び動きがあった。
「あれって白星騎士団にいた奴らじゃないのか?」
鎧を着ていなかった為、すぐには気が付かなかったが、グランスの言う通り白星騎士団にいた者達が洞窟にやって来た。
「頼もう!リーダー殿と取り次いでくれ」
「何だ、アンタらなら直接入って話をしてくれ」
どうやら、此処にいるらしき破落戸と白星騎士団の連中は顔見知りであることが分かり、今踏み込むべきかを話し合っていた、その時だった。
中で騒ぎが起こった。何やら揉めている事だけは感じ取れたが、聞き取るには至らず何を話しているかまでは分からなかった。
「いい加減にしろ!!グランドアンツの巣だって無限にある訳じゃない、実験だか何だか知らんがお前達がやれば良いじゃないか」
激昂した様な口振りの女の声が聞こえて来た。しかし、それに反して相手の話し声は静かに思い口振りで返していた。
「お分かりいただきたい。我々王都に使える身の者としてこの魔術の完成を我らが王も首を長くしてお待ち願っている」
白星騎士団らしき男の声は、至ってクレバーであり感情の起伏も見て取れぬ様な声色と立ち姿で洞窟の中から現れた。
「副団長だか何だか知らんが、うちのモンが犠牲者になって事に変わりはないだろ!」
「あぁ、それなら此方の団員だって亡くなっている。あと、二回は試して貰う約束ですよね。それに報酬はすでに支払っている」
「割に合わないって言ってるんだよ!金なら返してやるからとっとと帰れっっっっ!」
投げつけた貨幣が飛び散り、辺りをマーブル模様に染めた瞬間、剣戟が飛び交う。破落戸のカシラと副団長は互いの刃を重ねると、反発し合う水と油の様に互いの陣を譲ろうとはしない。
カシラはカットラスを肩に掛け、副団長は曰くありげなロングソードを構えた。破断は即ち命の取り合いに直結する。
元より、合わない者同士だったのだろうと勘繰ってしまう程の睨み合いは、次の一閃によりその力の差が目に見える形で現れた。
ーーーーーー金切り音が響くと火花を上げながら二本の刃は何度も叩き合う。
僅か三分にも満たない鍔迫り合いは、破落戸のカシラが肩口を押さえながらうずくまる事で、ようやく収束を迎えた。
副団長はうずくまったままの破落戸のカシラに、刃を振り下ろさんとロングソードを再び構え直した。このまま、カシラを失った破落戸達は解散し、それでこの話は終わるものかと思われたが、この戦いに割って出るものが現れた。
振り下ろされたロングソードは空を切り、代わりに起こった砂埃と地面を滑る音が鳴り響くと、破落戸のカシラは砂埃の向こうに誰かに抱えられたまま回避を行う。
「勝負はついた。命くらいは残してやれ」
砂埃が晴れると、カシラを横たわらせた隣に立っていたのは、今まで一緒に傍観をしていた老人であった。すでに切っ先を静かに留めながら互いに刃を構えていた。
「お前さん、なかなかやりおるわい。名を聞こうか」
白星騎士団の副団長は、老人の姿を見てかなり表情が曇っていた。素人目には、五分に映る戦いも本人達にしか分からない何かがあるのかも知れないと思っていると。
「まさか〝五大英雄剣聖の剣王クロバ〝殿に名を聞かれるとは恐悦至極。私は白星騎士団副団長スパークと言う者です」
目の前が真っ白になる様であった。カタツノの仇が目の前におり、それに気づかず今まで旅をしていた自分の愚かさと間抜けさに。
しかし、呆けている間も無く次の剣戟が鳴り響き、先程までとは違った重く剣技と呼ぶには無骨な迄の剣筋に、スパークの戦い方が変わっていった。しかし、剣圧ですら敵わないのか、転がる様に後退を見せたスパークは鎧をものともせずに起き上がる。
「なる程のぅ。それがお前さん本来の戦い方か」
「命の取り合いで作法通りでは、身は持ちませんからね。生き残る為なら何でも使い何でも磨く」
スパークは言い終わると同時に転がった際に握っていた砂をクロバに投げつけた。嫌々しく片手を瞑ってしまい思わずクロバは後ろに飛び退いた。
しかし、そうする事が目的であったと言わんばかりの卑下た笑みを浮かべたスパークは、勝ちを確信していた様でクロバに全身全霊の一撃を切り掛かかったが、その表情が歪む、。
「避けた。いや居なかった」
更なる攻撃の刃を入れんと横凪にロングソードを凪いだスパークだったが、それも空を斬り振りきった腕を返す間も無く、クロバの刃が喉元に突き付けられていた。
「もう良いじゃろ。ワシも殺生は好かん」
「戯言を。何千何万斬ればその域に辿り着く」
まるで狂犬を飼い慣らす調教師の様であったが、クロバはその刃を鞘に納めた。刹那、好奇とみたスパークは、ロングソードに魔力を込めると剣を振ることもなく刀身の先端から魔弾を放った。
魔弾はピストルほどの速度では無いにしろ、目視で捉えられるギリギリであり、見えた所で常人には身動き一つ取れぬまま魔弾の餌食になるはずであった。
「残念ながらもう思考よりも肉体が動くタチでな。弾は早くとも弾道の読めるものは全て切り捨てる」
クロバは魔弾を真っ二つに裂いた。弾道上に刃を構え刀身に魔力を込めると、身動き一つ取る事なく手首の返しのみでスパークの渾身の一撃を凌いだのだった。
そう話した瞬間、スパークの剣先が此方に向いていた。始めはただスパークが剣を持ち替えただけの様に思えたが、指差す様に立ち上がってもその切っ先がブレることはなかった。
「そこに何人か居るだろ?此処から私が魔弾を放てば幾ら速かろうと救えない者もいるはず」
「ワシの仲間はそこまで弱くないわい。それに救えないようなら剣聖は看板を仕舞うしかないのぅ」
「そうですね。その何人か犠牲になるかもしれない中に、貴方の大切な人は何人居るかにもよりますし」
「だから、犠牲など出さ」
魔弾は放たれていた。クロバの宣言通り誰も傷つく事はなかった。身を挺して魔弾に飛び込んだクロバ本人ただ一人を除いては。見れば瀕死である事は一目瞭然であった。
「止めなさい!これ以上するなら私達が相手よ」
飛び出したルイネが、そう言ってスパークに静止を求めた。だが、此処にいた誰もが分かっていた。スパークと言う男は、クロバ以外は誰も相手に出来ないほどの強者である事を。
「まだだ!まだ死んでやる事なんて出来ない!!」
叫びと同時に飛び出した私の剣が、スパークに向かって振り下ろされた。しかし、いとも簡単に避けられるとスパークの魔力を帯びたロングソードが此方の体ごと吹き飛ばした。
「遅い。何もかも」
プレートアーマーでなければ一閃で首が切り下ろされていた。しかし、今首はこうして繋がっているのである。次の手を考えなければ勝てる微でしかない希望すら掴み損ねてしまう。
「そんなものか、大した事ないんだな」
私からの安い挑発であった。しかし、実際には脳震盪に全身打撲で鎧の中は酷い有様であった。向こうからやって来てくれるのを期待しての挑発は功を制す。
「いいだろう。すぐさまその無骨な鎧ごと叩き潰してやろう」
瞬足を誇るかの様な機動力だったが、此方も同じ轍は二度は踏まない。足の速さにカラクリがある事は見て取れていた。早く動くだけなら此方には模造する自信があった。
「脚の強化を真似た。いや、同じかそれ以上だと?そんな事がある筈が」
スパークの動きに突如ついて来た事に驚愕を隠しきれずにいた。居るはずの無い敵が突如現れたかの様な状況にしばし面食らっていると、見た事のある剣筋の一閃まで繰り出して来た。
それは奥の手であった。この力はいずれ出会うであろう剣聖への討伐のための力。そして、瀬戸際でなければ使用など出来もしない対価を払っていたのだった。
「私の冒険の書、今ある命はくれてやる。私の目の前の敵を道連れに終わらせてくれぇぇぇぇ!!」
全ての命を賭けた。私の持てるもの全てをかけて、仇である剣聖ではなくスパークに向けて命を力に変換し共に消失したのだった。
唯一の心残りと言えばカタツノの仇が取れなかっだ事だが、私はもう復讐の事などどうでも良くなっていた。
ただ、冒険者としての生活の中で出会い仲間と共に旅をした事は、自分の中で愛着となり私をもう一度人間に戻してくれていた。
こうして、藤吉ユルリの一度目にして最初で最後の転生が、冒険の書により彼女の命と引き換えに執り行われた。
奇しくも。元の世界に戻るのではなく、彼女が最後に抱いた冒険者としての楽しかった思いと共に、もう一度今度は復讐ではなく初めから本当の冒険者としての夢を叶えるために。
彼女は突然、転生を遂げると訳も分からないまま唐突に異世界人に追われて捕まり、奴隷としての生活が始まった。
唯一持っていたのは、転生を遂げた時に手に入れた本一冊だけであった。しかし、それが何なのかも知らなかったが手放してはいけない事だけは理解していた。
異世界の勝手も解らず、お前は何をやらせても出来ないと捉えられた地で、奴隷にさせられたが三日と経たず売り飛ばされた。
奴隷市場に売られてからは地獄の日々は加速度を増した。変わる買い手と奴隷市場の堂々巡り、しかし最後はどうしようもないと娼婦小屋に押し込まれたのだった。
気が狂いそうな毎日。しかし、ある日突然に糸は切れてしまった。本当に気が狂い客の腹を食いちぎると、辺りにいた人間を噛み殺しながら娼婦小屋を飛び出した。
「、、、、、、、、助けてやろうか」
足に鉄球が繋がれていた為、抱えながら逃げては身を隠していた最中、声をかけて来た者がいた。
彼は悪魔だった。人の形をしながら左右不均等な角が頭から生え、不気味な容姿をしていたが異世界に来てから初めて人らしい扱いをされ崩れ落ちるように泣き崩れた。
悪魔は言葉通り足の鎖を千切り、私に安全な衣食住を提供してくれた。その代わりに魔術と武器を使った戦闘のやり方を習い、悪魔の手伝いをする様になっていった。
その間、悪魔は私の持っていた冒険の書を見て本当の使い方と意味を教えてくれた。人々の言伝の、冒険の書を使っていたのを見ただけの話ではない本当の意味を悪魔は知っていた。
「これは神魔協定ニンゲンの書。元は神と悪魔の人間界不可侵協定の際に人間に授けた契約の書」
「大層な本。でもただの生き返りの書なんでしょ?」
「それはただの一つの効果に過ぎない。人に人智を超えた力を授ける事で、神と悪魔のどちらの軍門に人間が靡くかを見定める為のものだ」
「、、、、、、、、でも、それっておかしい。神も悪魔も人間なんて必要としているように思えないし、何故それが不可侵協定の証となるのか」
「当たり前だ、人間が欲しいのではなく人間界そのものが目的だからな」
「結局は神も悪魔も同じ側面のものでしか無いのね」
冒険の書。神と悪魔の創造した物であったが、結果としては人類にとっては最強にも等しい副産物となった。
しかし、それを人の身で使う事に有限が生じるのだと悪魔は語っていた。生き返るだけでも膨大な力が生じ、冒険の書にはそれを制御し辻褄を合わせる力があると教わった。
「赤い石が黒くなれば使えなくなる。その石は賢者の石と呼ばれる奇跡を起こすアーティファクトだが、その力は使用者の生命に起因する」
「つまり、命をエネルギーに変える装置みたいなもの?」
「端的に言えばそうだ、力には代償が必要となる。それが奇跡ともなれば人間に差し出せるものは生命以外はないだろう」
蘇ったところで命は消費されている。生き返った代償が無いはずも無かったが、それでは本末転倒とも思えたが、良く考えればこれもおかしな話に他ならなかった。
「生き返るにも回数がある。もし他の奇跡を使うならば生き返りでは無く〝やり直し〝が良いかもしれんな」
この世界に来る以前に戻れれば、元の世界で此方に来ないような行動をとり、転生回避を行うことで全てを取り戻せる可能性もあるかも知れないと教えて貰った。
しかし、そんな日々も長くは続かなかった。私を匿ってくれていた悪魔はいつもの様に仕事に行くと行って家を出たが、悪魔はその日帰って来なかった。
一日帰らない日は無く、あっても前もって話してくれていた為、何かあったのだと思ったが私にはたった一つの約束があった為、探しに行くことは出来なかった。
それはあの悪魔と交わしたたった一つの約束。もし、自分が帰らなかった場合は一日で旅支度を整え此処を出る様に言われていた。
「う、、、、うっ、、、、、うえがぁ」
声を殺して泣く。匿われた場所は悪魔の居住区ではあったが他の魔物もいる為、声は立てるなと言われていた。もし見つかれば、自分がただの餌に成り代わる様な場所らしい。
連れて来られた時には目隠しされ、着けば隠れ家の様な今の場所からは出ることが無かった為、外がどうなっているのかなど知る由もなかった。
魔物や悪魔は眠らない。しかし、外界に狩りに行く時は別である。集団行動自体は習慣が無かったが、競争本能というもので互いのヒエラルキーを決めるのは好きな様だった。
お陰で全てでは無いものの、大多数が居なくなる時間帯が時折あった為、その時間を見て隠れ家を逃げ出す事にした。
しかし、別の見方をすれば外には魔物達がウヨウヨしているのである。リスクとしてはどちらを選んでも高い事に変わりはなかった。
逃げ出した日。魔物の気配を感じ取りながら外に出ると、そこは集落になっており何とか両手で数えられる位の建物しかなかった。
思った以上に小さな集落であったが、中にどれだけの魔物が住んでいるのかは分からない為、足早に此処を立ち去ろうとした。
だが、そううまく行くはずはなかった。考えていた通り、魔物達が辺りを練り歩いているのに出くわすと、身を潜めながらやり過ごそうと隠れる。
「しかし、アイツもやっぱり最後はダメだったな」
「だから言ったのに、俺達には難しいから別の仕事を選べって忠告しておいたのにな」
二体の悪魔が刺股の様な槍を片手に、話しながら何かを探していた。此方に近づくかもしれないと、後退りしながらゆっくりと後退していく。
その場を離れようとしたその時、私は突然全身がそれを拒む様に後退する足を止める。
「大体カタツノの奴、意地張って地上侵略の危険な仕事ばっかりとってたからな」
「あぁ、何かニンゲンの食い物が気に入ったらしくてな。何であんなもん食うんだろ?俺達には飯なんて要らないのにな」
カタツノ。私を助けてくれた悪魔の名前だった。私のために食料調達してくれていたのは知っていたが、悪魔にとってそれがどれほどのリスクだったのかは知らなかった。
「まぁアイツも強くて良い奴だったが、最後は結局ニンゲンに負けたからな」
「でも、そのニンゲンは五大英雄の一人だったらしいぜ。名誉の死だろ、魔王様も嘆いてらっしゃった相手に一矢報いたらしいし」
私はもう話を聞いていられなかった。しかし、逃げ出す事も出来ず自分の手を噛んで声を殺しながら悪魔達が何処かに行くのを耐え忍んだ。
何時間動けずにいたのか分からなかった。雨が降ってくると、魔物達が戻って行くのが見えたが固まったまま、まだ動けずにいた。
「、、、、、、、、居場所なんて無い」
一人呟く。地上に戻って何処に行けと言うのか、知り合いと呼べる者一人居ない異世界の地に戻った所で、またあの地獄の様な日々に逆戻りするかもしれない。
しかし、此処に留まればいずれ魔物に出くわし食われるのが関の山である。カタツノの死に報いるためには生きる他選択肢はなかった。
「会いに行こう」
悪魔に弔いが必要なのか、そもそも遺体があるのかも分からなかったが、カタツノに会いたい一心で私は情報を集め始めた。
地上に戻ると、初めて冒険者の真似事を始めた。魔物を狩り自身のレベルを上げながら、捉えた魔物からカタツノのやられた場所の情報を集めた。
町に行けば、武器と防具を鍛えながら五大英雄の情報を集め、カタツノの仇が誰なのかを調べる日々が続いていた。
どれだけの月日が流れたのかは分からなかったが、気がつけば冒険者としては手練れと呼ばれる様になり、武具も情報も集まると意を決してカタツノの最後の地を目指した。
浮遊大陸の最北の地。五大英雄の一人の剣聖の剣王と呼ばれる、英雄の住む町の外れでカタツノは剣王との一騎討ちに倒れたらしい。
剣聖の剣王を探すのは簡単なはずである。カタツノの最後の地にいけば、すぐ側にある町に行くだけで簡単に見つかるはずである。
長旅の終着点としては、些か難易度の高い目的地であったが、今の強さならば問題なく到達出来ると信じて突き進んだが、壁とはいつも高く聳え立つものである。
「、、、、、、遠い」
久しく声を出していなかった為か、声は掠れ誰に聞かせる事もなく一人呟くと、その高さに見上げるばかりであった。
すでに辿り着いたと言っても過言では無い状態ではあったが、ずっとどうするべきか思いつかないまま訪れた地で手を拱いていた。
浮遊大陸と言われるだけあり大陸が浮遊している訳で、どうやったら浮遊大陸に行けるのか分からずにいた。
勿論、一通りのことは試した後である。浮遊魔術を使えば距離は足らず、飛空で近づけば乱気流に巻き込まれ、大砲で撃ち出す妙案ですらやってはみたものの、上手くは行かなかった。
手の施しようの無い中、浮遊大陸に行くための唯一の正攻法が頭をよぎる。浮遊大陸に行くためには莫大な秘宝が必要であった。
通行費の様なものである。それを払えば浮遊大陸までの長いエレベーターの様な固定型浮遊装置に乗ることが出来たが、今の全財産を持ってしても交通費にはほど遠い料金であった。
「奪うか、、、、、、、、でも勝てるかどうかはわからない」
浮遊装置には神なる魔力。神通力なるもので稼働し、魔力とは異なる力で動く装甲人形が装置を囲む様にサークル状に配置され、客以外を排除する仕組みとなっていた。
「やはり、あの許可証があれば。しかし」
許可証には個人の魔力を覚えさせる仕組みとなっており他者の物を奪っても意味は無い。また、秘宝との交換所は腕一本入れて許可証と秘宝を交換するだけの穴があるだけの、コンクリートの箱の様な建物である。
打つ手としては秘宝を誰かから奪うか、浮遊大陸に行き来出来るような、金持ちの用心棒になる他は無い様に思えた。
「お困りかな?お嬢さん」
浮遊装置の少し離れた所から隠れながらどうするべきかを考えていた為、突然話しかけられた事に面食らいながら振り返ると、そこには杖を片手に孫娘の様な女児を連れた老人がそこに立っていた。
「いえ、、、、、、大丈夫です」
何が大丈夫なのか。自分で言っていて何を口走っているのかと思いつつ。反射的に出た言葉に自身で戸惑っていると目の前の老人が噴き出す様に笑い、それを咎める様に女児がしかめっ面のまま老人の服の裾を何度も引いていた。
「す、すまんね。そんなつもりじゃ。ただ、あんなに悩んで唸っていたので何事かと思い、つい声を掛けたんだが」
どうやら、顔と態度がチグハグだったのがおかしかった様で、戸惑った姿に思わず吹き出したそうだ。悩みが無いならこれで失礼と立ち去ろうとしたその時。
「あの!突然で申し訳有りませんがもし浮遊大陸に行くなら私を雇って貰えないでしょうか?」
唐突な申し出に今度は老人が面食らう。しかし、何故か何も聞かず私の申し出を了承してくれた。
此処にいると言う事は、浮遊大陸に向かう途中か降りて来たかの二択である。だからこそ目の前の老人も声を掛けて来たのだと後から気づいた。
「しかし、雇うとはどう言う事かな」
「はい。旅の護衛として短い期間にはなると思いますが、浮遊大陸について行かせて貰うだけで何もしない訳には行かないので」
「なるほど、義理は通したいと」
老人は考えあぐねて居ると、女児が再び裾を引っ張ると〝やれやれ〝と言った感じで、まるで重い腰を上げるかの様に答えた。
「正直。ボディガードにはちと華奢に見えるが孫の頼みだから聞くとしよう。勿論、最前線の盾役としてじゃが」
お客様ではなく、従業員となればそれ相応の扱いとなるのは覚悟の上だった。すぐさま、その場で手渡されたのは秘宝のカケラであった。
「従者はカケラで通ることが出来る。孫と扱いは同じじゃな」
初耳だったが、この老人は何度も通っているらしく自分の知らない事を色々教えて貰った。浮遊装置が起動する間、老人は孫との旅のことを、自分は復讐の話を省きながら冒険者になってからの経緯を話した。
ドーム型の浮遊装置は、薄い魔力の壁に包まれスノードームの様に光の反射を受けると虹色に光る。
手渡された許可証は小さな切符の様にも見えたが、小さな魔術符になっている様で唯一の入り口の橋を渡っている最中に作動し、客とそうで無い者を選別していた。
近づくにつれ、どの道此処からしか入れない事に今更ながら気づいた。あまりにも浮遊装置が巨大であった為それに気づかなかった。
左右どちらを見ても地面が無かった。浮遊装置自体が元より浮かんでいた事に気づき、その下が装置よりも一回り大きな底も見えぬ程の大穴になっていた為である。
巨大な浮遊装置に入ると、円形状のホールの様になっており壁も天井もない為、床だけが煌びやかなタイル模様になっていた。
乗り込んだ人数は二百人程で、皆一様に貴族らしき人がほとんどであった。装甲人形は装置のはじに並んで円の中心を向き客を見張って居る様に見えた。
「そうそう、此処では一切の魔力は禁止だからね。命が惜しいならね」
「はい。しかし、使うとどうなるんでしょうかね?」
「まぁ。それは、、、、、、、、」
そんな話をして居ると、浮遊装置が〝ゴウンッ!!〝と一揺れしたのち、ゆっくりと動き出した。エレベーターの様な浮遊感がなくじわじわと上がって行く様で、大陸に辿り着くまで時間がかかることは分かった。
半日をかけようやく浮遊大陸が見えた頃騒ぎは起こる。客の中から悲鳴が上がると今度は爆発する衝撃と轟音が鳴り響いた。
「クソッ!誰かが魔術を使った。出来るだけ離れるんじゃ」
老人がそう叫んだ瞬間に言葉始まっていた。装甲人形が一斉に動き出したかと思うと、大木の様な大きさの槌が振るわれ客ごと延しイカのように床のシミへと変わった。
「何で、お客までこんな酷い事に」
「たとえ客であっても、トラブルを持ち込む者は不穏分子と見なされ犯罪者と同じ扱いを受ける」
「それはあまりにも酷い気もする」
「しかし、外界からトラブルのある者は一様に浮遊大陸に足を踏み入れられない様にしているからこそ守られて居る事もあるでの」
政を例にとり老人は話してくれた。もし、何も悪い事をしていない政治家であっても、その周りが誠実とは限らない。また、それを見抜けぬ様な間抜けにも同罪と処すのが決まりであると。
「まぁ、そう言った輩が誠実さを見せるパフォーマンスにされたり、別の利用をする者も少なくない。まぁやましい事がある人間はそもそも入るなと言う場所じゃ」
そう言いながら降りたった一行は、すぐさま立ち尽くす事となった。目の前に聳え立つ木々は一本で家が建つほどの太さだったが、それが壁の様に客を拒んでいる様にも見えた。
「これは、、、、、、、凄まじいな。中に入る気にもならない」
「その方が身の為じゃ。一度あそこに踏み入れれば手練れの冒険者でも一週間は出て来れんからの」
踏み入れば、ほぼ出られないと暗に言っている様なものであった。まるでツアー旅行の如く降り立った乗客は、一列に森を避ける様に浮遊大陸の淵を歩いて進んでいた。
行き先は既に決まっているらしく、老人と少女の跡をついて行きながら、大陸の淵を覗く。下界を見下ろせるかと思ったが雲よりも高く霧がかっていた為、下は見えなかった。
着いていく事一時間程で気がついた。自分達が歩いて居る場所だけが、踏み固められ自然に道になっており、それが遥か先まで伸びて居るのを見つけてしまう。ガッカリしながらさらに歩き続けた。
「ようやく見えてきた。あそこに小さく見えるのがそうじゃな」
老人が指差した先、確かに小さく見える明かりに辺りにいた人々も安堵の息を漏らすと、もう一踏ん張りと歩みを早めつつ町までの道を急いだ。
近づくにつれ、町と呼ぶより村と呼んだ方がしっくりくる事がわかった。木造りの家が立ち並び、赤髪薄着の人々の暮らす集落であった。
「×☆◇○☆××★⊃※」
「★⊃~◇◉□」
聞いた事もない現地の言葉が飛び交っていた。私には何一つ理解できなかったが、老人と女児は片言で会話して居るのが見え、驚いて居ると手招きされた。
「コッチに宿を借りる事が出来た。他の連中は知らんみたいだが、この辺りの夜は明るすぎる。寝ずの魔物がウロウロしとるからな」
宿に向かいながら二人に話を聞くと、孫娘の為の語学研修もかねて此処に立ち寄ったのだと話していた。
一際大きな木造建築の建物に行くと、フロントの様な場所で立ち止まりチェックインを済まそうとした為、老人に声を掛けた。
「あの!宿の支払いは自分でします。自分の部屋を用意して頂くだけでも感謝ですので」
「しかしのぅ。此処での支払いは金銭でも宝石でもないからの。流通しとらんから、これ以外は取引は難しいんじゃ」
老人の手渡したものは、大きめの瓶に詰まった飴玉だった。浮遊大陸では大体の物が地産地消されるが、甘味だけは数が少なく希少な資源とされているのだと教えて貰った。
「さて、明日からより厳しい旅路となる。故郷はより北にあるからな、環境もさる事ながら魔物の強さも跳ね上がるからの。どうじゃ?此処らで装備を整えると言うのは」
「今の装備では不安でしょうか?」
「十中八九死ぬな。簡易の胸当て程度じゃ心臓だけ残して喰らわれるのがオチじゃ、偶然にして同じ目的地までの護衛がやられては此方にも火の粉が降り掛かりかねん。プレートアーマー位は着ないと死にに行く様なもんじゃ」
そう言いながら、老人は自分の着ている鎖帷子を見せ孫娘には常に多重防御壁の護符を持たせていると話した。
一夜明け。老人達と合流すると村人に見送られながら街を出るとすぐさま魔物に出くわす事となった。
「下がっとれ、コイツは逃げられん」
現れたのは下界では見た事もない生き物だった。巨大なカマキリの様な魔物には甲殻類の鎧を纏い、毒の鱗粉を撒き散らしていた。
突然の跳躍。しかし、老人は同時に飛び上がるとカマキリの鎌を隠し持っていた細身の刀で切り落とし、そのまま着地と同時に頭部を切り落とした。
一瞬の出来事に空いた口が塞がらないでいると、毒の鱗粉があるため早々に立ち去るように言われ、三人で元の道に進んでいく途中で教えて貰った。
「此処は標高が高い。体力の消耗が下界とは段違いじゃ。魔物とてそれは同じの様での、必然的に瞬発力が上がり早さの早いものが多い。知らぬ者はあの通りじゃ」
白骨化した冒険者らしき者の頭部だけが道の脇に転がっていた。老人がプレートアーマーを薦めた理由がよく分かった。あの速さについていけなければ結果、盾にすらならないのである。
道中。三度の魔物の襲撃にあったが、老人が結果的に全て退けながら先陣を切る形となっていた。これでは役目が果たせないと焦りが出始める中、次なる目的地に到着していた。
亜人街ガナン。リザードマンを中心とし、人型の獣人や妖精も住まう安全地帯は、多重結界と屈強な人狼の門番によって守られていた。
「此処も小さな町だがドワーフが住まうんでな、装備も揃える事ができる」
そう言いながら先に宿を探していた。とにかく、夜も迫っていた為寝る場所の確保に努め、ようやく見つけた宿で立ち往生を食らうことになった。
「何だってこんなに高いんだ!これじゃ、先に進む事も出来やしない!浮遊大陸はお宝の山だって言うから着いて来たのに」
店に入るなり、カウンター前のパーティーが揉めていた。どうやら同じタイミングで浮遊大陸に上がって来た冒険者の様で、ボロボロの三人は部屋にも入らず喧嘩をしていた。
甲冑を纏った戦士らしき男性。衣服が乱れたままの女性の僧侶。グッタリとへたり込んだままの小柄な魔法使いの獣人達は、戦い命からがら此処まで逃げ出して来た様に見えた。
「大体、何だって言い出しっぺのリーダーがやられちまうんだ。俺達はこれからどうすれば、、、、、、、」
「そうよ!此処なら希少な鉱物も手付かずのお宝も多いって言ってたのに」
話が終わりそうも無かった為、老人が先陣を切って宿のカウンターの係りに話しかけた。もしかすると、宿の空き部屋がもう無いのかもしれないと内心焦っていた。
「あの、宿はとれますかな?三人ですが」
「はぁ、あるにはあるんですが」
困り顔のカウンター係は、顔の晴れない表情のまま揉めている三人を横目に、渋々であったが言葉を返した。
「其方のお客様がどうするかで無くなります」
「つまり、空室は一つだと」
「はい」
これは困ったと老人も孫娘を見ながら、とりあえず冒険者のパーティーから離れる様に壁際に移った。向こうも此方の話が聞こえてか、少し気まずそうにも見える。
「あの、でしたらこう言う提案はどうでしょうか?」
思わず切り出した私の言葉に一同の注目が集まった。まさか自分でもこんなに上手くいくとは思っても居なかった為、少し驚きながら宿を確保できた。
「おはようございます。ルイネさん」
隣に寝ていた昨晩の女性僧侶に声を掛けた。まだ眠たげな表情のまま起き上がると、法衣を脱いでいた為か雰囲気がまるで違って見えていた。
「ん、、、、、、、はよ」
起き上がったと同時に毛布がのけられると、二人の間から老人の孫娘が現れ、まだ眠っている姿が見てとれた。
昨晩。冒険者達と私達は同じ宿の同じ部屋に泊まる事にした。冒険者達は宿代が半分になり、私達は宿を確保出来た。利害の一致とは言え、了承して貰えたのは幸運であった。
部屋は特別広くは無かったが、女性陣はベッドを使い男性陣と獣人はその部屋の反対側で集まって寝ていた。
夜の間、交流会の如く二つのパーティーは話に花が咲き仲が良くなっていた。その際、冒険者達はもう少し先にある町まで行き、そこからダンジョンに入る予定だったと話していた。
「爺さん達。良かったら途中まで一緒にいかねぇか?旅は道連れって言うし。何より仲間を失って、そいつが金銭のほとんど管理してたから」
「旅費も半分になるからのぅ。まぁ途中までならな」
戦士の提案で次なる町、ジリンまで一緒に向かう事となった。ガナンで装備と旅支度を整え、六人のパーティーで次なる街を目指し進み出す事となった。
浮遊大陸の縁側を大回りしながら森林区を避けて進む。やはり、中を通るのはリスクが高く、大陸の外側を大回りする他なかった。
「しかし、魔物の出現率が高すぎる。前は此処まで酷くなかったんじゃが」
「俺達も聞いていた以上に魔物との遭遇が多かった所為で、持っていた装備では足りなかった。それにアイツも」
戦士は悔やむ様に下を向いた。通常、魔物にやられた仲間は教会に遺体を運び蘇生を行うが、此処の魔物はリーダーを連れ去ってしまったと言う。
「食われでもしていたら、もう蘇生も出来ない。何とか助けたいが」
森の方を見る。とてもじゃないが今のパーティーで中を進む事など到底出来ない凶悪な魔物が無数に潜んでいる事は、一同誰もが分かっていたのだった。
出会った魔物を撃退しつつ、次なる町ジリンを目指す。冒険道具は前の町が充実していたので、まだまだ余力があった。唯一の今の問題としては、一人がついて来れていない事である。
「嬢ちゃん。プレートアーマー半分外さんか?言い出しっぺのワシが言うのもなんじゃが」
「、、、、、、、、いえ。仕事ですので」
重量の増加と慣れない甲冑の所為で、パーティーから遅れを取りながら、何とか食らい付いていた。しかし、戦闘の際には的役をキッチリこなし、その間に他の者が攻撃を仕掛ける構図が出来上がっていた。
三日目までは平地でのキャンプ。それ以降、一週間程は岩場の洞窟等でのキャンプを行い、食糧が尽き始めていた。
何ぶん大所帯である為、食料の減りは思った以上に早く森に入るのは最終手段であったが、それを行うに至るまで三日と掛からなかった。
「出来るだけ奥に行かず、食料を見つけ出したらすぐに引き返そう」
「あと、皆離れないように。はぐれたら助けられられないと思って」
戦士の男と女性僧侶のルイネがそう言うと、一気に緊張感が増した。老人と孫娘は始め留守番を頼んだが、待つのは嫌だと無理も無茶もしないと確認し合い渋々女児が連れ合う事となった。
しかし、食料を探すはずが森に入るとそれ所では無くなってしまった。食べられそうな物を探しつつ、森の入り口が何とか見える場所を伝いながら歩き続けていると突然、話し声が聞こえて来た。
初めに気づいたのは獣人の魔法使いだった。口に手を当て話すなと言う合図を受け取った一同はそっと集まり聞き耳を立てていた。
「だから。俺達と手を組んだならこれ位はして貰わないと」
「無理に決まってるだろ!こんな所で使えば魔物が暴走してしまう」
「だから使うんだよ。さっさとやれ!」
ふと獣人達に目をやると、口を抑えつつ喜んでいる様な悲しんでいる様な表情のまま、ルイネが呟く様に声を発した。
「、、、、、、、、、、フーマ」
叱責されている側の者に向かい戦士の男が呟いた。どうやら知り合いである事は見てとれたが、ただの知り合いにしては三人の表情は焦りとも驚愕とも取れる様な複雑な面持ちであった。
「あれは、リーダーだ」
女性僧侶がそう呟くとすぐに理解する。魔物に連れ去られた筈の男が生きて目の前にいるのである。信じられない気持ちと、本当に本物なのかと疑心が生まれるのは当然の反応でもあった。
何をするのかと一同が見守っていると、フーマと呼ばれた男と、何かを指示していた男の目の前にあったのは、人が入れる位の大きさの穴だった。
「さっさとファイヤーボール打てよ!」
どうやら穴にファイヤーボールを打ち込む様に指示しているのが見えた。それをフーマが拒んでいる様子だったが、とうとう無理矢理フーマの魔術を使って穴に放とうとした瞬間。
「マズイ!あの穴はいかん!止めさせんと」
老人が何かに気づくと、そう叫び此方の存在に気づかれる。が、それも仕方のない事でどれだけ性急であっても早すぎる事はない事態であった事に違いはなかった。
「あの穴は人喰い蟻グランドアンツの巣!!もし刺激してしまえば、辺りの生き物は食われ根絶やしにされるぞ」
戦士とルイネはすでに駆け出していた。後に続き私が追いかけ、老人は孫娘を抱き抱えたまま安全な木の上に避難させていた。
「グランス、ルイネ!!俺に構わず離れろ!!」
「テメェがトロトロしてるから見つかっちまったじゃねぇか!!もういい、貴様ももう用済みだ」
フーマの目の前にいた男は、懐から黒い球を取り出すと躊躇一つなくそれを穴に投げつけた。強烈な破裂音とともに閃光が走り地響きが起こった。
「もう逃げるしかねぇ!じいさん共々此処から逃げろ!フーマも早くコッチに、、、、、、、!?」
戦士グランスがそう叫んだが、フーマは目の前の男にしがみつき、逃げない様に押さえ付けていた。フーマは此方を見てニヤリと笑い自分の首を見せた。
「魂壊契約の儀だ。もう俺は助からない、お前らだけ逃げろ!!」
魂壊契約の儀。それは強制的な上下関係を強いる束縛の儀式であり契約である。契約を破れば名の通り魂を破壊されてしまう。フーマが何故こうなってしまったのかが分からぬまま全ては終わる事となる。
フーマは目から血の涙を流しながらも何処か自分を再び取り戻したかの様な表情のまま、取り押さえた男に魔術で地面に磔続けていた。
「、、、、、、、、、、すまん。皆、絶対に振り向くんじゃないぞ!」
老人の言葉を皮切りに、全員が背を向けて走り出した。しかし、ルイネとグランスはずっとパーティーを組んだ仲である。振り向かずにはいられなかった。
穴から無数の巨大な蟻。グランドアンツがフーマを飲み込む様に群がっている姿が最後の光景となった。
だが、悲しんでいる間も無くグランドアンツが迫って来ていた。振り向かずとも木々を薙ぎ倒し、カチカチと歯を鳴らしながら無数の足音を轟かせていた。
全員で逃げ回っていると、自分達とは逆進行方向に光の柱が生まれる。甘い臭気が漂うと森の一部分に張り巡らされたのは、魔力結界にも似たものであった。
「聖域外魔術か。しかし誰が、規模も見た事のないほどの領域じゃ」
聖域外魔術。魔術行使において誰しもが辿り着くことの出来ない、言わば規格外にして禁術とされるものであった。
しかし、それがパーティーを助けたのも事実であり、実際に助けが無ければ全滅していたことも否めずにいた。
「帰っていく。グランドアンツ達が、、、、、、、、」
自分達だけでなく、既に蟻達は自分達の巣穴に帰っていくのが見えた。暫くすると、馬のいななきとともに蹄鉄が地面を叩きながら幾重も連ねやってくる音が聞こえて来た。
「諸君。蟻は我々〝白星騎士団〝が退けた!!其方の方々は運が良い、近場の町までお送りしましょう」
馬に跨ったままの十人の騎士達。その中央に一際大きく星形の造形をかたどった兜を被った隊長らしき男がそう言うと、とにかく此処を離れたかったので、一同は着いて行く事にした。
「、、、、、、、、都合が良すぎる」
「ワシもそう思うが、今は様子を見るとしよう」
私は老人にだけ声をかけたが、そう返って来た為雇い主に従う事にした。一番近くの街の街道は蟻達がいた為、さらに大回りをしつつ大所帯は辺りにガチャガチャとした騒音を鳴らしながら進んだ。
一時間もせぬうちに小さな町にたどり着いた。素朴な作りの街並みは何処か安堵をもたらしたが住人の少なさが少し気がかった。
「もしグランドアンツが出たと思うとゾッとしますね」
「ガハハハ!!そう、この町は危なかった。しかし、我々に救われたのだ」
白星騎士団は送り届けだけすれば何処かに帰るのかと思われたが、どうやら此処に駐留するらしい。馬を預けると、町の中を我が物顔で闊歩し始めた。
しかし、異変というならば町中に入った事で、この騎士団に対しての違和感と不信感が募る出来事が立て続けに起こった。
「不遜不遜!!町の住人は我々のお陰で安全が保たれていることも知らず、無礼な者達ばかりか」
白星騎士団が通ると、ただでさえ少ない住人達が次々と家の中に入って行った。中には此方を伺いながら睨みつけるものまでいた。
「では皆さん。我々は此方ですのでお宿でゆっくり休まれるがいい」
そう言うと、白星騎士団はウエスタン風のバーに入っていった。一同はとにかく疲れた為、宿の中に入ると小太り髭の宿の主人は怪訝そうに尋ねて来た。
「アンタ達。白星騎士団の方々ですかぇ?」
「いいえ、ご主人。我々は旅の者です」
老人はそう答えると、簡略して彼等といた経緯を話した。他の者は何故そんな話を丁寧にするのかと不思議そうに立っていたが、唯一、私と老人だけは相手の様子が汲み取ていた。
「それは失礼しました。では、お宿の方を用意させていただきますね」
部屋に着くと皆限界だった様子ですぐに横になると動かなくなっていた。そんな中、こっそりと老人が部屋を出た為、私も後を追う事にした。
暫く外を歩いていると、着いて来ている事に気づいていた様で手招きをされた。建物に隠れる様にして覗いていた先は、やはり白星騎士団のいるバーだった。
「ワシは少し此処の住人達に話を聞きに行こうと思うが、お前さんはどうする?」
「お手伝いします」
「そうか。ならまず、その音の出る鎧は置いて来てくれるかな?」
プレートアーマーに着慣れすぎたせいか、五月蝿い事に気づかなくなっていた。慌てて部屋に戻り皆が眠りについているのを横目に甲冑を部屋に置いて再び部屋を出た。
老人と合流すると、隠れる様にしてバーの裏手に回る。ゴミが積まれた横で鼻を押さえながら身を隠して騒がしい店内に聞き耳をたてた。
「今回も我々が町を守った!尊い犠牲者は出たが、それもまた白星騎士団が一際、名を轟かせる為には必要な事に変わりはなかった」
「何言ってるんですか。コザを犠牲にしたのは隊長のくせに」
「あ奴が上手くやらんからだろう?わざわざ、爆弾のスイッチを押させる役まで用意したと言うのに」
ゲラゲラと仲間の死を悼む訳でもなく、ただ間の悪い奴だと笑い者にする姿からまともではない事はすぐに分かった。
また、フーマの死にも白星騎士団が関わっているのが分かり、老人が一人で来ようとした理由もわかった。もしグランスやルイネがいれば怒りを抑えられたか分からないからである。
私を制止させる様に腕を伸ばした老人だったが、私もまだ冷静であると伝えるとすぐに話しかけられた。
「あ奴らを取っ捕まえる前に何故こんな馬鹿な事をしたのか、元凶を調べて元を断たねばならん。とにかく今は泳がせる事は了承しておくれ」
まるで心を見透かされたかの様な言葉に面食らっていると、白星騎士団の連中は泥酔状態のままバーをでた。そのまま、フラフラとしながら場所を移動し始めた。
ひと気の無くなったバーを片付けている主人らしき男が、店を片付けながら溜息をついているのが分かった為、話を聞こうと老人が言い私が頷くのを見るとすぐさま中に入った。
「すまんのぅ、もう店仕舞いじゃったか」
「なんだ爺さんこんな夜更けに。見ての通り、あの連中が荒らした片付けで今日は終わりだな」
「それはご苦労様ですな。しかし、彼等はいつもああなんですか?酷いことしますのぅ」
「滅多な事いうんじゃねぇぜ。アレでもマッシブスピリッツからやって来たお偉いさん方。しかしまぁ金払いが良い以外は、ほとんど盗賊と変わらんがな」
苦笑いと共に再び掃除に戻った。これ以上此処にいては仕事の邪魔になる為、老人と共に店を出た。その瞬間、背中から声が聞こえてきた。
「もし白星騎士団の事を知りたいなら町の外れの橋の下に住んでるチョビと言う男から聞いてくれ」
それは店主の声であったが、まるで自分は何も言っていないと知らぬ存ぜぬのスタイルで、立ち止まらない様に会釈して立ち去った。
次の日、教えて貰った場所に向かった一行。朝から町外れの橋までやってくると、橋の下に回り込み小さな小屋を見つけると入り口の前までやって来た。
「待ちな、そっから先はオイラの土地だぜ。入るなら入場料だ」
小屋の隙間から覗きこんだ何者かにそう言われ、渋々財布を取り出したグランスは値段を聞く前に財布ごと奪われてしまう。
暫くすると、グランスの財布はただの入れ物と化して戻ってきた。涙目で立ち尽くしたグランスの肩を次々に叩いて励ましながら、小屋の中に入って行った。
「いらっしゃい。何が知りたい?此処がそう言う場所だって知って来たんだろ?」
目の前には薄汚れた格好の少年が篝火を焚きながら話しかけて来た。しかし、何故か町の住人の様な大らかな雰囲気はなく、まるで森の獣と対峙している様でもあった。
「貴方がチョビさんですか?私はルイネと申します。あの、白」
「あぁ、あれらは使いっ走りのコマにすぎない。アイツらの真実が知りたければ昨日の森をさらに奥へと進むがいい」
まるで昨日の出来事を見ていたかの様な口振りだったが、これ以上は料金外だとチョビは小屋から全員を追い出した。しかし、その際に老人と目があった瞬間に丁寧な会釈をするのが見えた。
私にはそれが旧知の仲に見えたが、本人たちが話さない限り、これ以上の詮索はしない事にした。
「またあの場所に行かなきゃ行けないのか。嫌だなぁ」
ルイネが漏らすとグランスも同様に表情が曇っていた。此方としてもあまり近づきたくはない場所で、さらに森の奥に進む事を考えると足がすくみそうになった。
「大丈夫。何とかなるわい」
まるでパーティーの心を見透かしたかの様な老人の言葉は、慰めや開き直り以上の効果を発揮した。すくんだ足は前を向き全員で昨日の場所に向かった。
グランドアンツの穴を見つけ、少し離れた場所に遺品の一つもみつからなかったが、気持ちばかりのフーマのお墓を作ると、皆手を合わせていたその時だった。
「おい、早くしろ!もう来ちまうだろ。それに今日はカシラも出るって言ってたからな」
「カシラ出るなら早く戻らねぇとヤバいだろ」
たまたま屈んでいた一同に気もつかないまま、森の奥に進んで行った破落戸共を見つけ、互いに目配せすると距離を取りながら追いかけ始めた。
森の中には魔物も出るが、問題はそれだけではない。人が踏み入ると同じ様な景色が続く為、方向感覚も狂いやすかったが前を進む破落戸達は迷う事なく真っ直ぐに進んでいた。
「何か道具があるか特殊な能力。あるいは土地勘のある地元の民であるのかもしれないな」
ルイネがそう話す。距離が開いている為、会話したところで聞こえない事もあり、自由に話は出来るが距離がギリギリまで離れている為、少しでも前の破落戸から離れ過ぎれば見失う事が気掛かりではあった。
「しかし、どれも違うかもしれんのう。何か持っている風でも能力がある様にも行使しているようにも見えん。土地勘はあるかも知れんがそもそも地元の人間は森には入らんし」
老人も気になっていた為、自分の考えを述べる。だったらどうやっているのかと聞かれても、答える術は持ち合わせていないのもまた事実であった。
二十分あまり駆けた先に、ようやく開けた土地が見えた。薄暗かった森ではなく少し先には光が漏れ、段のようになった壁がそびえていた。
「穴、、、、、、洞窟」
洞窟に入って行った破落戸を中まで追いかけるか、出て来るのを待つか話し合っていると再び動きがあった。
「あれって白星騎士団にいた奴らじゃないのか?」
鎧を着ていなかった為、すぐには気が付かなかったが、グランスの言う通り白星騎士団にいた者達が洞窟にやって来た。
「頼もう!リーダー殿と取り次いでくれ」
「何だ、アンタらなら直接入って話をしてくれ」
どうやら、此処にいるらしき破落戸と白星騎士団の連中は顔見知りであることが分かり、今踏み込むべきかを話し合っていた、その時だった。
中で騒ぎが起こった。何やら揉めている事だけは感じ取れたが、聞き取るには至らず何を話しているかまでは分からなかった。
「いい加減にしろ!!グランドアンツの巣だって無限にある訳じゃない、実験だか何だか知らんがお前達がやれば良いじゃないか」
激昂した様な口振りの女の声が聞こえて来た。しかし、それに反して相手の話し声は静かに思い口振りで返していた。
「お分かりいただきたい。我々王都に使える身の者としてこの魔術の完成を我らが王も首を長くしてお待ち願っている」
白星騎士団らしき男の声は、至ってクレバーであり感情の起伏も見て取れぬ様な声色と立ち姿で洞窟の中から現れた。
「副団長だか何だか知らんが、うちのモンが犠牲者になって事に変わりはないだろ!」
「あぁ、それなら此方の団員だって亡くなっている。あと、二回は試して貰う約束ですよね。それに報酬はすでに支払っている」
「割に合わないって言ってるんだよ!金なら返してやるからとっとと帰れっっっっ!」
投げつけた貨幣が飛び散り、辺りをマーブル模様に染めた瞬間、剣戟が飛び交う。破落戸のカシラと副団長は互いの刃を重ねると、反発し合う水と油の様に互いの陣を譲ろうとはしない。
カシラはカットラスを肩に掛け、副団長は曰くありげなロングソードを構えた。破断は即ち命の取り合いに直結する。
元より、合わない者同士だったのだろうと勘繰ってしまう程の睨み合いは、次の一閃によりその力の差が目に見える形で現れた。
ーーーーーー金切り音が響くと火花を上げながら二本の刃は何度も叩き合う。
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副団長はうずくまったままの破落戸のカシラに、刃を振り下ろさんとロングソードを再び構え直した。このまま、カシラを失った破落戸達は解散し、それでこの話は終わるものかと思われたが、この戦いに割って出るものが現れた。
振り下ろされたロングソードは空を切り、代わりに起こった砂埃と地面を滑る音が鳴り響くと、破落戸のカシラは砂埃の向こうに誰かに抱えられたまま回避を行う。
「勝負はついた。命くらいは残してやれ」
砂埃が晴れると、カシラを横たわらせた隣に立っていたのは、今まで一緒に傍観をしていた老人であった。すでに切っ先を静かに留めながら互いに刃を構えていた。
「お前さん、なかなかやりおるわい。名を聞こうか」
白星騎士団の副団長は、老人の姿を見てかなり表情が曇っていた。素人目には、五分に映る戦いも本人達にしか分からない何かがあるのかも知れないと思っていると。
「まさか〝五大英雄剣聖の剣王クロバ〝殿に名を聞かれるとは恐悦至極。私は白星騎士団副団長スパークと言う者です」
目の前が真っ白になる様であった。カタツノの仇が目の前におり、それに気づかず今まで旅をしていた自分の愚かさと間抜けさに。
しかし、呆けている間も無く次の剣戟が鳴り響き、先程までとは違った重く剣技と呼ぶには無骨な迄の剣筋に、スパークの戦い方が変わっていった。しかし、剣圧ですら敵わないのか、転がる様に後退を見せたスパークは鎧をものともせずに起き上がる。
「なる程のぅ。それがお前さん本来の戦い方か」
「命の取り合いで作法通りでは、身は持ちませんからね。生き残る為なら何でも使い何でも磨く」
スパークは言い終わると同時に転がった際に握っていた砂をクロバに投げつけた。嫌々しく片手を瞑ってしまい思わずクロバは後ろに飛び退いた。
しかし、そうする事が目的であったと言わんばかりの卑下た笑みを浮かべたスパークは、勝ちを確信していた様でクロバに全身全霊の一撃を切り掛かかったが、その表情が歪む、。
「避けた。いや居なかった」
更なる攻撃の刃を入れんと横凪にロングソードを凪いだスパークだったが、それも空を斬り振りきった腕を返す間も無く、クロバの刃が喉元に突き付けられていた。
「もう良いじゃろ。ワシも殺生は好かん」
「戯言を。何千何万斬ればその域に辿り着く」
まるで狂犬を飼い慣らす調教師の様であったが、クロバはその刃を鞘に納めた。刹那、好奇とみたスパークは、ロングソードに魔力を込めると剣を振ることもなく刀身の先端から魔弾を放った。
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そう話した瞬間、スパークの剣先が此方に向いていた。始めはただスパークが剣を持ち替えただけの様に思えたが、指差す様に立ち上がってもその切っ先がブレることはなかった。
「そこに何人か居るだろ?此処から私が魔弾を放てば幾ら速かろうと救えない者もいるはず」
「ワシの仲間はそこまで弱くないわい。それに救えないようなら剣聖は看板を仕舞うしかないのぅ」
「そうですね。その何人か犠牲になるかもしれない中に、貴方の大切な人は何人居るかにもよりますし」
「だから、犠牲など出さ」
魔弾は放たれていた。クロバの宣言通り誰も傷つく事はなかった。身を挺して魔弾に飛び込んだクロバ本人ただ一人を除いては。見れば瀕死である事は一目瞭然であった。
「止めなさい!これ以上するなら私達が相手よ」
飛び出したルイネが、そう言ってスパークに静止を求めた。だが、此処にいた誰もが分かっていた。スパークと言う男は、クロバ以外は誰も相手に出来ないほどの強者である事を。
「まだだ!まだ死んでやる事なんて出来ない!!」
叫びと同時に飛び出した私の剣が、スパークに向かって振り下ろされた。しかし、いとも簡単に避けられるとスパークの魔力を帯びたロングソードが此方の体ごと吹き飛ばした。
「遅い。何もかも」
プレートアーマーでなければ一閃で首が切り下ろされていた。しかし、今首はこうして繋がっているのである。次の手を考えなければ勝てる微でしかない希望すら掴み損ねてしまう。
「そんなものか、大した事ないんだな」
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「いいだろう。すぐさまその無骨な鎧ごと叩き潰してやろう」
瞬足を誇るかの様な機動力だったが、此方も同じ轍は二度は踏まない。足の速さにカラクリがある事は見て取れていた。早く動くだけなら此方には模造する自信があった。
「脚の強化を真似た。いや、同じかそれ以上だと?そんな事がある筈が」
スパークの動きに突如ついて来た事に驚愕を隠しきれずにいた。居るはずの無い敵が突如現れたかの様な状況にしばし面食らっていると、見た事のある剣筋の一閃まで繰り出して来た。
それは奥の手であった。この力はいずれ出会うであろう剣聖への討伐のための力。そして、瀬戸際でなければ使用など出来もしない対価を払っていたのだった。
「私の冒険の書、今ある命はくれてやる。私の目の前の敵を道連れに終わらせてくれぇぇぇぇ!!」
全ての命を賭けた。私の持てるもの全てをかけて、仇である剣聖ではなくスパークに向けて命を力に変換し共に消失したのだった。
唯一の心残りと言えばカタツノの仇が取れなかっだ事だが、私はもう復讐の事などどうでも良くなっていた。
ただ、冒険者としての生活の中で出会い仲間と共に旅をした事は、自分の中で愛着となり私をもう一度人間に戻してくれていた。
こうして、藤吉ユルリの一度目にして最初で最後の転生が、冒険の書により彼女の命と引き換えに執り行われた。
奇しくも。元の世界に戻るのではなく、彼女が最後に抱いた冒険者としての楽しかった思いと共に、もう一度今度は復讐ではなく初めから本当の冒険者としての夢を叶えるために。
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https://www.alphapolis.co.jp/novel/467203436/87638231
※※ この作品は、「カクヨム」「ノベルアップ+」にも掲載しています。
※※ 「小説家になろう」にも掲載予定です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
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